第14話 才覚の結果
テストが最悪的でした。やっぱり今回もテストに関係ある前書きなんですよねぇ……
それでは、第二章に入ります。説明ばっかですけど。
2012/04/21改訂終了
5月。東の島に昔あった国では皐月と呼ぶ季節らしい、とメイが自慢げに話していたが、あそこの暦変わってるからそれ6月の事指してるんだよ?と言ったら拗ねてしまった。
まぁ、春の終わりであり、暖かい空気が流れるこの季節、僕は嫌いじゃない。なにより漸く(女の子から逃げ回る)忙しさから解放された気分が清々しい。
「リーン君、なんかここ数日機嫌良いですね」
「だって4月の終わりとか、毎年の事だけど追いかけっこの嵐だもん」
朗らかに笑うアルに渋い顔で返すと、あははと乾いた笑い声が返ってくる。
「まぁ、大貴族の次期当主候補の誕生日ですから」
4月27日。特になにがあった訳でもないその日は、僕の誕生日とされていた。されていた、というのは、当然記憶を失って誕生日も覚えていなかった僕に父さんが、「じゃあ4月にするか。暖かいし。日にちは27日位かな」と、朗らかに訳の分からない事を言ったのが原因で、僕の本当の誕生日と合ってる確率は半端無く低い。
そしてここに入ってからというもの、やけに女の子に追いかけられる日でもあり、おちおち部屋で寝ることすら出来ないので、大概はアルかメイの部屋に居候してたりする。
「誕生日、祝ってくれるのは嬉しいんだけど、人には限度ってものがあると思うんだ」
「……まぁ、確かに」
アルが反論せずに頷いてしまった僕の誕生日は、多分祝いの日とは言えんだろう。部屋はやたら豪華なプレゼント、やけに金ぴかな手紙、いつもの書類で埋まり、侵入する女の子―――というか、行き遅れた女教師もいたよな―――とにかく、部屋が狭くて敵わなかったので、諦めてローゼンフォールの屋敷に丸ごと送っておいた。―――あ、間違っても女の子達は送ってないよ?代わりに部屋の外に放り投げといたけどさ。
「あの大量の手紙、何が書いてあったんですか?」
手紙は殆ど貴族の(僕から見れば下っ端)当主だの分家だのからの「うちの娘は如何でしょう」メール状態。プレゼントはやたらと肥えた女の人の写真付き。実際の贈り物の中身は大概指輪。……指輪って、普通男が送るもんだと思うんだ……
「じゃあ一枚暗唱してあげるよ。えーと……‘拝啓 リーンフォース・Y・X・ローゼンフォール嫡男様。この度は13歳の御生誕、誠におめでとうございます(じゃあ態度で表せ。物はいらん)。私どもとしても、貴方様の生誕には誠にお喜び申しあげます(僕自身が喜んでねーよ)。この春の暖かさ溢れる日にお生まれになった貴方様は、さぞかし素晴らしい御当主になられるでしょう(あんたよりはね。このぎとぎと豚てっぺんハゲ当主)。この老体の身としては、その日を心待ちにしております(老体だと解ってんならとっとと隠居しろ)。直接挨拶が出来なく(来なくていい。しなくていい)、心苦しく思いますが、どうかその寛大な御心でお許しをお願いします(むしろ来られたらいい迷惑だからすっこんでてくれてありがとう)。私どもと―――」
「あー、もういいです……聞いてて疲れました」
内心でツッコミ所満載な手紙を改めて思いだしながら暗唱していくと、途中でアルからのストップがかかってしまう。
「えー、これまだ口上の挨拶だから、あと5万字位あるんだけど」
「……リーン君、すいません。変な事思い出させて……中等部・高等部のお姉さまから追いかけられていただけでなく、ここまで酷いことになってたとは知りませんでした」
にっこり笑いつつも事実を突きつけると、油汗を滲ませて謝罪をしてくる。まぁ、無難な選択だな。
「ん。まぁこれは僕だけじゃなくてメイもだし。それに、アル?もし陸曹から始めた、なんてバレたら、君もこうなるよ?」
「……スイマセン。今から軍入り拒否できますか?」
「わーーーー!?止めて!お願いだからヤメテ!?あとちょっとで任命式なんだから!」
そう、今日はアルの任命式。話していた部屋は僕の自室(正確には城の来賓用の部屋を使ってる)。そもそもそんなど偉いところで何故あんな会話をしていたかというのは、数時間前に遡ってしまう。
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「……アル、昨日ちゃんと寝た?」
「……いえ。こんな重大イベントの前に寝れる程の度胸は持ってなくて……」
朝、小鳥が囀る気持ちのいい休日に、一人目に隈を作ってどんよりした空気を纏っているアルにかけた第一声は、心配のそれだった。しかも勿論否定された。
「あー、こんなことになるとは思ってたけどさ。昨日の夜に強制睡眠系の術かけといた方がよかったかな?」
「あ……いや流石にそれは。僕睡眠というか、脳への干渉系魔法にはかなりの耐性がついてますから」
「へ?なんで?」
本来あまり普及していない系統の筈なんだけどな?精々が医療用だ。
「……まぁ、世の中知らない方が良い事もありますよ」
いきなり哀愁が漂いはじめたアルに、速攻で訊かない方がいいと判断した僕の脳は、その話を流すことにした。
「分かった、訊かないでおくよ。で、これからの予定なんだけど」
まだ朝食も食べないうちに僕の部屋へ呼び出した理由は、今までおおざっぱにしか説明してなかった任命式、別名任命の儀の詳細を知らせるためだ。
「まず、前にも言ったとおり今日の出発は9時。通行手段に関しては、僕が車出すから」
「……はい?リーン君が、運転?」
一番最初の説明でつまずいたか。いやまぁ、これに関しても予想はついてたんだけど。
「道路交通法に記載されている運転手の制限は?」
「え?えーと、16歳以上と……あ、軍関係者ですか」
いつだったか、先生がテストに出すぞーとか言ってた問題だったからアルでもすんなり思い出せたようだ。因みに、肝心のテストにはでなかった。ウチの学校には間々あることだけど。
「そ。僕も昔は下っ端―――うん。今よりは下の筈。まぁ、准尉の頃は結構Sランクのメンツに足代わりに使われてたからね。ちょっと魔力を特殊な方法で練れば実体付きの幻覚とかいけるし。それでどうにか成人位に化けて運転してたんだけど」
「は!?実体付きのって、最早変身とか、成長とか、そーいう部類に入りません!?てかふつー無理ですよね!!確か実体に色を付けるには全属性の配合と1000分の1単位の細かい数値分けが―――!」
流石にあの成績なだけはある。何故出来ないかまで事細かに言えるとは。場違いだが少々本気で感動した。これなら事務仕事も楽になる……っ!
「いや、実はその点はウチの国では解明されて、ちゃんと色も付けられるようになってるんだよ。ま、一般人が知らないのは軍事機密ってのに引っかかるからなんだけど」
「え、それマジですか?」
内心の感度を顔に出さないように説明すると、アルが目を丸くする。それ程、この発明は凄い事なのだがあまりにも細かい作業と、媒体に血液が必要なので、悪用される可能性が高く、今のところは機密にされている。
「マジ。で、話を戻すけど、城に到着後、僕もアルも第一正装に着替えて、陛下の時間が空き次第簡略した儀式。正式なものは春の軍事学院生卒業時だけだから、大々的なのは出来ないんだ」
「いや、逆にそんな大きなものはちょっと……」
それもそうか。一人のためにそんな大きいのやってたら目立ってしょうがない。
「ところで、良かったの?ご両親呼ばなくて」
一応簡略された物とはいえ、親族位は儀式を見る事が出来る。特にアルのようなまだ成人していない者は、軍に入る事に両親の了承が必要なので、せっかくの晴れ姿、と見に来る野次馬は少なくないのだが……
「ああ、その点は大丈夫です。そもそも仕事でなかなか国に帰ってきませんし」
「確か発掘だっけ?遺跡の」
「はい。妹もそれについて行ってますけど」
遺跡、というのはこの世界で重要なものの一つだ。古代の遺跡には、今では使える者のいなくなったような魔法が記された物が大量に眠っている。が、同時になかなかその調査は進まない。理由は、今では分からなくなった魔法による、お前の血は何色だ!と言いたくなるような凶悪なトラップの数々が阻むから。簡単なものはタライが降ってくる、なんて超古典的なモノから、面倒なのはいざ発動すると、肝脳塗地に人を貶めるものや、千辛万苦に貶めるものなんかがあって、千荊万棘という言葉が実によく合うような状態。なので遺跡の発掘、及び調査は世界一危ない仕事の一つだったりする。それなのにその仕事でやっていける、というのは、相応の能力があるという意味で、国から補助金も出る位凄いことだ。
「ま、確かにそれじゃなかなか帰って来れないよねぇ。仕方ないか」
「僕としては、少々来られると面倒なんでむしろ喜ばしいんですけど」
やれやれと首を振るアルに、苦笑して諌めた。
「折角の両親、そんな風に扱ってあげるなよ。……気持ちは分からんでもないんだけど」
一度だけ会った事のある、アルの両親―――というかお母さんは、なんというか、大変キャラが濃い人だった。正直、母親を知らない僕には、母のイメージがかなりぶち壊された。
「あー、なんというか、ぶっ飛んでますからねぇ……」
いつも思うが、子供って母親に似ないものなのか?メイのとこもあんまり似てるとは言えないし。
「さて、じゃあ次の話に行こう。次は軍でのお仕事について」
真面目な話に切り替わると、アルの表情も真面目なものに変わる。それを一瞥して、話を進めた。
「アルの仕事する部署は一応『特別特殊部隊』って名前がついてるとこ。僕もここに配属されてる。けど、基本的に幽霊部署扱いね」
そもそも部隊室が無い時点でまともな部署としては機能してないし。
「幽霊部署?」
「ここの部隊は、人によってバラバラの仕事を受けてるんだ。例えば教導隊への派遣教師。これはコウがそれに当たるかな。あとはリトスの通常時の事務仕事。これも一応は派遣扱いなんだ。それとアリア―――Sランクオーバーの女性が研究所で、ソラ―――こっちはAAの男。今年の夏からここに通う事になってる16歳が城内警護。こんな感じで皆違う。ただし、ここに配属されるにはある条件が必要」
「強い力、ですか?」
こちらの意図をちゃんと掴んでくれるところが有り難い。ここまで頭の回転が速いと、話が進みやすい。
「そ。普通の部隊じゃ、オーバーフォースになるような人たちに取り敢えず所属を繕わせるだけの意味ない部隊なんだよ。ここは。だからここに所属してる人の殆どは自分は無所属だって言うし」
あれは所属と言う名だけなので、実質上そう言っても大差がないのだ。ある程度軍に居る人はそれを解ってるので、無所属と名乗ればあそこの人物だと理解もしてくれるし。
「はぁ……なんというか、ある意味あるんですか?」
「無いからこの夏には新たな部隊作ってそこに併合って形になるよ。だからアルがあそこの所属になってるのは、約2カ月程度だね」
さらに所属する意味が分からん、という顔をするのを流して、改めて仕事内容に入る事にした。
「で、君の仕事は主にこの学園の守り役。と、書類仕事が少し。それと急いで解析が必要なものは君に来るかもね」
「え、書類って、書き方知りませんよ!?」
顔が引き攣っているのは仕方がない。なにせ、一学生に国の仕事をさせる事自体がそもそもおかしいんだから。
「大丈夫。慣れるまでは僕が見るって。因みに、メインの守り役についてなんだけど、最近襲撃してくる敵は平均Bランク位が多いから、そこそこ気を付けないと、アルでも危ないからね?」
ここに侵入してくる時点である程度は戦闘慣れしてる奴ばっかだ。いくらアルが強くても、最近剣を握っていなかったらしい鈍った体じゃ多少の不安要素はある。もっとも、危ない時は僕も出るが。
「はい、気を付けます」
「ん、素直で宜しい。じゃ、取り敢えずはこの位かな」
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そう、この時はこの程度で説明を切っておいた。本来は、陛下の前での動きなんかも事細かに教える物なんだけど、今回は聖痕持ちなんていう、寧ろこっちが「お願いします入ってください」と言わなきゃいけないような相手だし、何よりも―――
「黙ってた方が、後々絶対面白いだろーなぁ」
「リーン君?何か言った?」
朝食の席でポツリと呟くと聞こえていたらしい。ネリアさんがパンを口に運ぶ手を止め、怪訝そうに顔をしかめる。
「あ、いや、なんでもない。あ、ネリアさん、僕今日ちょっと出かけるから」
誤魔化すようにそういって朝食にありつく僕に、その場にいたネリアさんとスゥさん、そしてソルトが首を傾げた。因みにメイはまだ寝てる。
「どこに行く気だ?」
ソルトのその質問には、ニヤリと口角をあげて答えた。恐らく、何か企んでるのは分かるだろう。
「ちょっと、久しぶりに友人を訪ねようと思ってね」
そう、どこぞに君臨してる若き国王を訪ねに、ね。
次こそ王様!と、思うものの果たして出せるのか……