第13話 異常者の格差
今日の投稿もテスト前日です。
あれ?なんで毎度のごとくテストと数学ばっか書いてんだ?この前書き。
2012/04/21改訂終了
夜。寮という特性上10時を過ぎると部屋同士の交流は途切れ、辺りは沈黙に包まれる。そんな中、寮監に気付かれないよう、足音と気配を消しつつも屋上への階段を登っていく。そして辿り着いた先には、電子ロックで千錠された扉。暗闇で本来なら何も見えない程の空間にあるそれを、自身の指紋を押しつけることで難なく開錠する。そして扉を開けると、そこには銀に輝く月と、様々な色で自己主張する星々、そして―――
「おいリーン、おせーぞ」
「もう待ちくたびれマシタヨ」
「あー、書類に埋もれてましたからね……お疲れ様です」
―――その鍵の掛かっていた筈の屋上に胡坐をかいているコウと、体育座りのリトス、そして正座のアルト。それぞれの座り方で明らかに性格が読める。
「ったく、アル以外はクレームかい。特にリト、君ねぇ、僕に普段仕事押し付けてる癖によくそんなこと言えるね」
「いえいえ、それ程でも」
「ほめてねぇ、皮肉だって気付けよ」
どこまでも面の皮が厚い奴だと改めて実感していると、ヘラリと笑いながら修正が来る。
「大丈夫です。今日は仕事終わらせて来ましたから」
「え、マジ?」
ひらひらと手を振るリトスに本気で驚く。なにせこいつは一月に一度真面に働けばいい方だ。大概は城で女二佐と追いかけっこしてるし。捕まってなければどっかで本読んでるか陛下と駄弁ってるし。
「ああ、今日はな。さっき一山30分位で片付けてたぞ」
ひ、一山か……そうだった、コイツが本気で仕事やると一日で城の仕事終わるんだった。普段からそうだったらホントに良かったのに……
「……えーと、ところでリーン君?何で僕はこんな所に呼び出されたのでしょうか?」
「ああ、そーだった。コウ、リト、アルは如何?」
困り顔で問いかけてきたアルに、改めてレベルの調査を始める。アイツにアルを推薦する為の、最終チェックのようなものだ。
「先程見た限りでは十分軍でやっていけるレベルデスネ」
「それで聖痕持ちだろ?十分ハイスペックだな」
やはり高官に選ばれた位だ。ちゃんとアルの実力を分かっている。
「にしても一国に一人居ればいい確率の能力者が二人、しかも同い年にとはなぁ」
「まぁこの国一番小さな国20個分はありますケドネ」
「お陰で貴族の数が多くて困ってるけどね」
まったくもってどんな偶然だ?当人の僕でも信じられん。
「取りあえずアル君、一回‘力’を発動してみてくれないか?」
「あ、はい」
コウに促されてアルが目を開く。紫の眼の中に浮かぶのは、人にある筈のない異質な紋章。
「目、デスカ」
「‘リーン’以外の聖痕持ちは初めてだが、皆妙な形した痕だな」
いや、初めて以前にそもそもこれを持ってるのと知り合いな事の方が凄いだろう。
「ま、力の確認はできマシタ。アル君の力はある意味リーン君並の脅威デスカラ―――曹位程にはなれるデショウ。アル君は土属性でしたし、空戦は無理ですから陸曹デスカネ」
風属性以外は基本飛べないから妥当な所だし、僕並、と言うのは認める。確かに心理崩壊も絶対防御とかと同じくらいの脅威になりえるだろう。まかり間違っても戦争に持ち出しちゃいけないような力だし。
「そ、曹位ですか!?」
ところが理解してないのが此処に一人。気付いてないのか?もし戦争起こしたら敵高官を精神的にいたぶって頭を潰せるような力なのに。頭を抱えながら、本人の自覚を促してみる事にした。
「あのね、アル?一つ言っとくけど、僕等は人間としての異常者なんだからね?突然変異とかじゃ説明つかない位の……まぁ、Sランクオーバーとどっちの方が異常かってゆーとどっちもどっちだけど」
……あれ?今の説明じゃ一番異常なの僕じゃん。どっちもあるし。そもそも、Sランクオーバーの数より聖痕持ちの方が数多いんだよな、実は。
「今、自滅しましたネ」
「うっさい」
ポソリと上げ足を取るリトスに一発肘で脇腹を攻撃すると、面白いように蹲った。どうやらクリーンヒットしたらしい。ハッ、ザマア。
「え、いやでも40代でも一士で終わる方が多いって聞いたことがあるんですけど……」
一士は16階級中下から4番。割と有象無象に近い雑用と言ってもいい官職だが、それでも4人家族位養える程度の給料は出る。まぁ、仮にも軍人なんだし、命がけの時もあるのだから当然っちゃ当然だ。因みに曹官は下から5番、つまり一士の一つ上。要するに傍から見れば、年齢考えろやコラ、という位には高い任命になるのは事実。
「まぁそれは本当だけど。でもさ、逆に実力があるのに実力や経験が無い人と同じってのもおかしいでしょ?」
「……そう、ですね。でも僕は普通の基準とは違う筈じゃ……」
それでも躊躇うアルの様子に僕等は嘆息する。妙に自己主張が無いアルに、復活したリトスが呆れたような声で説得を試みる。
「だから高いんデスヨ。私もコウも軍に入れられたのは15の時、魔力量がAAデシタ。年齢考えたら研修生レベル、まぁ精々士官レベルですけど、私は魔力の多さと、質の高さから曹長に任命されマシタネ。でも、これって不当に思えますカ?後に、Sランクに選ばれる才能を持った人物デスヨ?」
「っ、そ、それは……」
言葉に詰まったアルに、更に畳みかけるように僕はリトスの言葉を引き継いだ。
「僕はもっとだよ、アル。入軍は6歳、魔力はAAA。任命は准尉。まだギリギリでSランクじゃなかったのに准尉だよ?ほんとの子供が。でも、それがこの、強さは力っていう考え方の世界じゃなにもおかしくは無い。なら、僕等のこの‘チカラ’もそれに準ずるよね?」
恐らくアルは、生まれ持った資質で他人を蹴落とすような真似になるのを避けようとしているんだろう。それは僕やコウやリト、真の強者達から見ればとても優しい、でも甘すぎる言葉だ。
僕等は人を見下してる気は全く無い。なのに才能、というのは無情だ。周りが出来ない事を、僕等は量で、質で、意思で軽々と越えてしまう。
勿論僕等だって出来ないことは沢山ある。
でも同時に、人より出来ることが一杯あって。
ある人はそれを見てこう思う。アイツは凄い。自分たちが苦労してやっている事を易々とやってしまうのだから。アイツは天才だ、と。
そう思われるのは嫌だ。だって、僕等だって四苦八苦しながらやってて、それでもなんとか成功したことかもしれないから。僕等だって、偶々できたかもしれないんだから。
でも、そう思われるのはまだマシで。本当に嫌なのは、出来てしまった自分自身。
ある人は僕等の才を見て思う。なんで自分には出来ないのにアイツには出来るんだと。自分たちとは違うと証明してるつもりかと。
僕等がいくら取り繕ってもそんな負の感情にはマイナスしか与えない。謙遜?それは嫌味になる。自慢?それも結果は同じ。否定?それは謙遜と同じに聞こえる。沈黙?それは認めた事になる。
そうしてドツボに嵌っていく。なら、僕等が傷つかずに取れる手はたった二つだけ。人から恨まれたくないなら、疎まれなくないならその更に高みへ、畏怖の対象となる事か、力を振りかざし、恐怖で周りを抑えるか。そして前者を選んだのが、今のSランクオーバー達だ。
だから、他人に気づかうなんて感情は、とうの昔に忘れる事にした。大きな、大きすぎた力は、とうの昔に隠す事にした。
「………………………」
黙って俯いてしまったアルに、少しだけほっとする自分が居る。もしも、アルが力を振りかざしたら、なんて考えはいらないようだ。
「アル、理解はできても感情が追いついて無いんでしょ?なら、納得するまでは悩んでもいい。けど、選ばれた者である以上は、力をより活かす義務がある。だから、言われた官位にはついてもらうよ」
「……分かり、ました。その官位、拝命させて頂きます」
悩みながらも、そう答えてくれてのでこの話はお開きにするか。
「ん、なら取り敢えずは良し。じゃあ二人とも、アイツに報告よろしく」
暗くなった空気を一転させる為にも明るい声をだして伝えると、二人に渋い顔をされてしまった。
「いや、俺達じゃなくてお前が報告した方がアイツも喜ぶと思うぞ?」
「最近連絡数が少ないって呟いてマシタシ」
はあ?アイツは一体何を言い出したんだ?連絡数少ないって、事件が無い事指してんだからいい事じゃん。
「あのバカ、何言ってんの?良い事でしょ、僕が連絡しないのは」
「アイツ?あのバカ?」
まるで誰なのか分からない呼称に首を傾げたアルに僕等はビシリと固まる。……アレ?よく考えなくてもヤバくね?
今更ながらにそのことに気づき、チラリとリトスを見上げると、あらぬ方向を見ながらも答えてくれた。
「あ~、エインセル・A・ヴィレット……と言えば分かりますカ?」
そして今度はアルの方が固まる番だった。目を驚愕に見開き、唇は震えている。
「ま、ま、まさか……国王、陛下……じゃ……」
「あってるぞ、それで」
うん、良く考えなくても国王をアイツ呼ばわりはマズかったか。仲間内だとついつい考えずに行動してしまう。そもそもこの国じゃ『ヘーカ』は前王の悪政を壊し、たった数年で国を豊かにしたヒーローって設定だったな。アレを見てるとそうは見えないんだけど。
「……陛下をアイツ呼ばわりですか……」
虚ろに遠い目をして空笑いするアルに僕等は慌てて弁解を示す。
「いや、ほら俺達アイ―――じゃなくて、陛下とは友人みたいなものっていうかだな―――」
「ええと、陛下から言うとリーン君は可愛くない弟らしいデスシ」
「ちょっと待てリト。弟ってなんだよ。あんなのが兄なんて僕は嫌だかんな」
ンな事誰が言った―――ってあのバカか。ってか可愛くないって、男が可愛い言われても嬉しくないやい。
「……あー、気にしてたら限がなさそうなのでもういいです……」
「ん、まぁ人生何事も諦めが肝心だよ。あとハイ、これ」
パーカーのポケットに入れていたものを引っ張り出し、アルに手渡す。
「なんですか?これ」
アルがしげしげと眺めるのは、紅い玉に白い羽がついたネックレス。月の光が当たり、石が光って見える。
「あれ、まだ渡してなかったのか」
「だってこれ、作んの大変なんだよ」
お陰で今も少々疲れている。結構細かい作業やったからなぁ。
「作るって、これはリーン君が?」
「うん、僕の血と羽と魔力で出来た緊急通信用媒体」
「……ぅえ、血?」
紅い玉が純粋な血で固められてるものだと理解したのだろう。血は魔力の媒体に最適だからな……その所為で殺人が絶えないんだけど。
「丁度いいし、少し解析してみたら?」
「えーと、……はい」
一瞬躊躇ったが頷き、本日何度目か分からない発動をする。実際の解析を初めて見る二人は、興味深々に眺めた。
「ってうわ、凄いですね。こんな小さい石に幾つも魔法が保存してある―――あ、こっちは重症時に発動するように設定されてる回復魔法―――リーン君風属性なのによくこんな高度な水属性の魔法かけられますね―――うわ、これは魔術妨害範囲でも感化されないようになってる―――あれ、でもこっちは羽が動力なんですね―――あ、防御も羽ですか。細かすぎて全然理解できないんですけど―――ああ、これは、って緊急脱出用の移動魔法!?技術レベル最高峰の術じゃ―――」
苦労して入れ込んだものが次々に看破されていく光景に、リトスもコウも唖然とする。目を輝かせて調べていくが、やってる事は凶悪かも。と感心していると、ふと気づいた。
あれ?そーいや血から僕のデータまで―――
「っ!?」
いきなり真っ青になったアルに、ヤバいと思った時には遅かった。床に片手をつき、もう片方の手で口元を押さえて蹲る。
「っアル君!?どうした!?」
咄嗟に動いたコウが声を掛けるが、意味は無いだろう。
「っごめんアル、マズったな……多分、僕の魔力値を無意識で探っちゃって、疑似的に魔力酔い起こしてるんだ」
アルが僕が此処にいるという認識をしたのと、術一つ一つに入ってる濃い魔力で中てられたのだろう。
「魔力酔い?って、ああ、車酔いみたいな感覚に陥るんだったか?」
「ええ、確かにリーン君の魔力を認識してしまったらそうなっても仕方が無いデショウ。大丈夫デスカ?アル君」
心配で覗き込む僕等に、肩で息をして苦しそうな様子のアルが漸く動いた。
「あ……大、丈夫です……」
顔色は青く、目には混乱が映るが、一応自我ははっきりしているらしい。だが、僕の顔を見ると何故だか戸惑いの表情に変わる。
「どうした?」
「いえ……その……僕では、到底敵わないな、と」
ああ、まぁあの魔力量に敵ってしまっても困るんだけど、一種の格の差を魅せ付けられた状態になったからか。
「アル君、この化け物並になりたいなんて考えないで下さいネ?」
尚更心配そうに言うリトスに、少々イラッとくるものがある。
「どーいう事だよ」
「どういう事って、そりゃお前、リトスの倍近くの魔力量だぞ?化け物と呼ばずに何と呼ぶんだよ」
なっ、呆れたような顔をするなコウ!そして呆然とするなアル!!
「は……?リトス少将の、倍?」
「ええ、一昨年のデータだと、数値にすると私が27330、まぁ、平均の約13倍デスネ。で、リーン君は4年前で51740。平均の25倍デス」
「え?……平均の25倍―――って、はああああああああああ!?」
訳が分からないという表情をした数瞬後、理解してから大絶叫が響く。
「……データ上だと、今の君が8490だから、僕はアルの6倍かな?」
平均値が2060だから、実はアルも平均の4倍以上は持ってるんだけど……ま、桁が違うし慰めにはならないかな……?
「……改めて、次元が違うという事を再認識しました」
アル、君は何処を見てるんだ?なんか凄い虚ろなんだけど?
「……成程、なら納得の……いや、寧ろ逆に……」
「アル君?」
何やらブツブツと呟き続けるアルに、冷や汗を流しながらリトスが声をかけると、ハッとしたように現実に戻ってくる。
「す、すみません」
「ああいや……無理もない。今日はこの辺でお開きにしよう。仕事内容の詳細はまた今度、リーンから訊いてくれ」
本格的にヤバそうなアルの様子に、休ませた方が良いと判断したのだろうコウがそう言って、この話は終わりになった。……アル、ホントーに大丈夫か?またなんか言ってるよ……?
これで一応は第一章完結?です。次からは城内編?うんまぁ、ネーミング違うけど内容はそうなります。
感想や評価、お待ちしています。誤字脱字、文法のおかしい所はぜひ教えて下さい。