第12話 愉快な野菜
ああ、学校が始まってしまう―――って言っても、学校があっても無くても更新速度があまり変わらないことに気が付きました。ヤベ……
2012/04/10改訂終了
どうしよう、嗚呼どうしよう、どうしよう(5・7・5)
思わずそんな句を詠みたくなる今日この頃。それもこれも全部テラの言葉の所為だな。うん。
「人にしては強い力って~?」
ネリアさんもスゥさんも興味深々なご様子で。メイとソルトもどーいう事だと顔に書いてあるし、その後ろでアルがあーあと言わんばかりに頭を押さえてる。あ、コウは明後日の方みてるしリトスは―――剣の整備?いやいや、今必要じゃねぇだろソレ。まぁ要するにだ、誰も手助けはしてくんないと。ふざけんな。
「リーン君?説明が欲しいんだけど?」
ああ、焦らないで下さいネリアさん。そして何か言ってよアル。
「えーと、力ってのは―――」
「力っていうのは?」
はぁ、こーいう時は全部アレだな。
「―――呪い」
「へ?」
「右目の呪いだよ」
今一番やりたくなかったけど、嘘でも本当でも無いよ作戦だね。
「の、呪い~?」
「そ、何時から掛かったっていうのはわかんないけど、気付いたら呪われてたんだよね。世界最大規模の呪いが。あ、因みに開かないと影響はないから大丈夫だよ?ほら、普段眼帯で抑えてるし」
僕の右目には常に眼帯がついてる。まあ右目が呪われてるってのは間違いじゃないし、開かなきゃ影響がないってのも本当。……もっとも、これがある時点で僕には影響してるんだけど。人生狂わせる位の極上の影響が。
「……それ、本当か?」
「大マジだよ、ソルト。大丈夫、生活には影響ないし、君等に呪いが降りかかることも絶対にない。唯其処に存在するだけ」
と言っても怖いかもしんないけどねー。近くに呪われた奴が居たら。でも、たとえ皆が離れてもアルも関わってるお仕事をばらす訳にもいかないのが機密事項。どうせ僕はしがない中間管理職だし。そう、そう自分に言い聞かせ続ける。僕だって人並の感性は持ってるのだから、正直突き放したりする行為はしたく無かったけど―――
「なーんだ、お前に影響無いのか。ならいーや」
「……え?いやいや、そこで納得していいの?」
突然メイが言ったあっけらかんとした台詞に思わず目を点にする。
「良いんじゃないかしら?学校入って来た時に呪われてるって宣言してたの皆覚えてるし、それでも近くに居たんだし」
……いやまあ、確かに転校した時に「右目の眼帯は呪いを抑える為なので外そうとしないで下さい」とは言ったけど……
「え?そんな事言ってたのか?」
「ああ、そういえばソルト君は中学からだったからね~。リーン君が転校してきたの小3だし~」
「へぇ、知らんかった。ま、いいけどよ」
いやだから―――
「リーン君、言っときますけど今のご時世、先王が娯楽で魔導士に民間人襲わせたついでに呪わせてみたとかいうケースも結構ありますよ?ぶっちゃけ、極上の呪いでもあー、可哀そうだねー位にしか思えません」
「って、アルまでそんなこと言う!?」
まさかの身内から来た証言に逆に驚く。別に呪い持ちが6年前に急増したことは知っているが、民間からそんな思われ方されてるとは思ってなかった。
「第一、6年前の恐怖でそこら辺麻痺してるしな」
ソルトも首を竦めながらそう言ってくる。何だかまさかの受け入れるどころかそれがフツーみたいな発言に力が抜ける。軽く覚悟してたんだけどな……
「……さいですか。ま、強い力っていうのは、強い呪いの事。理解できましたかー?」
『はーい』
学校の先生のような物言いをすると、みんなノッてくれた。うん、ここでスルーが一番悲しいパターンだし、嬉しいねぇ。
「(全く……友人選びにおいては一流ですよネ。彼)」
「(だな。まぁ偶に変な奴も居るけど……)」
「なら今晩は腕によりを掛けたtomatomaとhousou-kun料理でーす」
「「……え、今何つった?」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、と。皆、ちょーっと下がっててね。特にメイとリト」
「は?オレ達?」
「何か共通点ありましたッケ?」
不審そうな皆とは裏腹に、僕は真っ先に自室中至る所に保存の魔法と結界をかけておいてから、箱へとそろりと手を伸ばす。
「食べ物に随分と警戒してない~?」
「幾らなんでも、野菜ですよね?」
厳重警備状態にした理由がわかってない皆は揃って首を傾げる。アルは片目を開けて興味深そうに箱を覗き込み、リトスはしゃがんだ勢いで灰色のアホ毛がひょんと揺れる。コウは野生の勘か?顔色悪いな。
「だからyasaiだって」
そして箱の蓋を開けると、そこには想像道理の物が数個。
「……苗?」
眉を顰めるソルトの声で、皆がどういう事だと箱に顔を寄せる。
「うん、苗だよ?yasaiの」
入っているのは幾つかのトマトっぽい物の苗とホウレンソウっぽい物。ごくごく至って普通な植物に見えるそれに、メイが手を伸ばす。
「なーんだ、唯のな―――」
「トマ……トマトマ!」
バララララララッ!
『って、何だこりゃああああ!?』
メイを発見した瞬間、突然飛んできたのは……内臓?
「気持ち悪っ!?ってかグロッ!!何ですかこれ!?」
いや、一瞬内臓に見えたけど、コレ顔着いたトマトだ。ただし子供が描いたようなどこか不気味でファンシー?な無表情。しかも何か喋ってる。ひたすらトマトマ言ってる!でも本体は苗。
「っ、安心しろ!一瞬幻覚で人の内臓ばら撒かれてるみたいに見えるが唯の顔がついたトマトだ!」
「コウ先生ッ!顔が着いてる時点で唯のトマトじゃないですよね!?」
御尤もです、ネリアさん。つーか、話には聞いてたけど、ホントに美味しいんだよな?コレ。少なくとも人の臓物とか見るだけで食欲無くなる。そして何やら赤い汁が飛び散って―――
「ホォォォォォォゥソーーーー!!」
「うわわわ~!?何かホウレンソウっぽいのも出てきた~!?」
しかもこいつにも顔がついてる!足もついてる!何かチョロチョロ動いてるっ!?タコか!?いやホウレンソウだけど。
「っリーン!危ない!」
叫び声にはっとして横を向くと、三匹のホウレンソウが―――!
「風斬裂!」
思わず反射的に無詠唱で術を飛ばしてから気付いてしまった。これ中級魔法!
「すげーな中級の、しかも風系統を無詠唱とか」
地水火風の四大精霊魔法と言われるそれらは、コントロールのし易さが違う。一番使い易いのは土。その辺にあるしイメージがし易い。火と水はまあ同じくらい。が、固体としてのイメージが出来ない風は難易度が格段に上がる。その為風属性っていう人は半端無く少ないのだが、何分僕が風属性。咄嗟に使ったのはしょうがないことだ。
「って、呑気に言ってないでソルト君後ろ!」
「へ?って、うわぁ!?」
飛び蹴りをしてくるホウレンソウに急いで飛び退くソルト。武器の扱いは素人だけど、運動神経は悪くない。そして飛んでるホウレンソウ―――housou-kunに僕はチャンスと、右手の物を一つ振りかぶった。
「セイッ!」
ザックリと茎の部分と葉の部分を三体同時に持っていた包丁で切り落とすと、ぱったりとまな板の上に落ちて動かなくなった。
「これでこっちは終了!で、tomatomaの方は―――」
くるりと振り返るとそこには、血だらけ、もといトマトだらけのアホ毛が二つヒョコンと跳ねていた。
「リーン君!ナンですかコレ!?」
「オレ達ばっか襲って、のわわっ!?」
違った。トマトの汁で紅くそまった、リトスとメイが仲良くぴょんと跳ねてトマトの攻撃を避けていた。
「あーあー、二人とも悲惨だなぁ」
「あの二人が一手に引き受けてくれるからこっちとしては楽ですね」
コウが溜息をつく横でアルも苦笑、その更に横ではお偉いさんを助けるべきか保身を図るか迷ってアワアワ言ってるスゥさんとネリアさん。そしてべたべたになっていく僕の部屋。
「って、助けなくていいんですか!?」
「ダイジョーブだよ。今、終わらせるからっ!」
右手に持っていた包丁を左手に持ち替えて振るい、リトスとメイの中間に上段斬りの要領でザックリと一薙ぎ。
「うわっ!?」
「ちょ、危ないデスヨリーン君!」
数本リトスの灰色の髪も一緒に切れるが、それを華麗に避けて見せてから八等分に空中で切ったtomatomaを予め持っていたボウルに入れる。
「おー」
パチパチと拍手をする皆に大道芸の人のようにお辞儀をしてから、悲惨な事になった部屋の結界を指を鳴らして解く。するとそこらにこびり付いていたアカイ物は何事もなかったかのようにクリーム色の壁へと変わった。
「流石リーン」
「どーも。それより、コレ調理してる間に髪洗ってくれば?メイ」
すっかりトマトだらけになってしまっているメイにそう促すと、リトスが渋い顔をした。
「あのー、そもそも何であのトマトは私達を襲って来たんデスカ?」
「んー?あの野菜の習性?は、アホ毛に対する攻撃だからねー。だから最初に忠告したじゃん」
『は?アホ毛?』
一同がナニソレ、と言わんばかりに目を点にするのに対し、博識なリトスは納得はしてないが理解はした、という顔で頷いた。
「そーいう事デスカ……」
がっくりと肩を落とす様子に、コウがポンと落ちた肩を叩く。まるで諦めろ、と言うように。
「とりあえず、リトもこれで頭ふいとけ。汁が床に垂れてる」
お湯で軽く濡らしたタオルを投げつけ、それと同時にじゃ、とメイも部屋から出ていく。やれやれと首を振ってから、その場に居る全員に、こう宣言した。
「じゃ、料理手伝って貰うから。コウとリトスが泣いて食べるような夕飯にするよー!」
その時既に元帥と少将が泣きそうになってたのは、勿論言うまでもない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さあさあ、残さずにキッチリ全部汁一滴も残さずに風味も感触も舌触りも食感も十分に味わって食べてね」
にこにこと笑いながらそう進めた僕の先には、久しぶりに腕を振るった夕食の品。ただしコウの前にあるモノはひたすら赤でリトスの前のはひたすら緑。クリスマスとか言わないでよ?一応今は春なんですから。
「……偶に思うんだけどさ、リーンって、意外にドS?」
『意外じゃなくて思いっきりドSです』
ソルトの問いに付き合いがそこそこある内部組が一斉に訂正する。それに僕は怒るでもなく、あえて更に爆弾発言をしてみた。
「そんなこと言われてもねぇ。まぁドSと言われても精々某お偉いさんを真冬の川に突き落としたトコを横で見て笑ってたくらいだから」
「十分ドSよ……それより某、お偉いさんって……」
「誰?」
言葉に詰まったネリアさんの言葉を引き継いだメイを一瞥してから、ぐぬぬ、と目の前の食材を親の仇のように睨む二人に声をかけた。
「二人とも、覚えてる?」
ニヤリと笑って尋ねると、同時に顔を上げてああ、と声を上げた。
「そりゃ、まぁ、な」
「何せ、落ちたのがあのハノーバー元子爵ですカラ」
『はい!?』
ハノーバーといえば、今でこそ伯爵家だが、先代は高納税や領民をいたぶったり殺したり、と悪の方向で有名な家だ。今は偉い人にはへこへこするよーな奴が当主だけど。
「あ、因みに突き落としたの陛下ね」
『はぁぁぁぁぁ!?』
くくくと笑いつつももう一つ爆弾を落とすと、皆良いようにノッてくれる。少し楽しくなってきたので、少々情報を開示してみよう。
「僕が6歳の時かな?偶々父さんと城に出向く機会があったんだけど、なんか陛下―――当時は王子か。まぁなんか不機嫌でねー」
王子が不機嫌なんて、本来なら周りがどうにか機嫌を直そうとするんだけど、何分今の陛下は当時王位継承権が低かったため、あまり重要視されてなかった。その為逆に触らぬ神になんとやら、という感じの空気だったのを覚えている。
「父さんが理由を訊いたら、ハノーバー子爵が民を貶めて―――川に突き落として溺れさせて笑ってた、って拗ねてて」
あの当時、王ですらも民=玩具の思考だった中、あの王子は明らかに異常で、でも真っ当だった。
「それ訊いて、思わず僕が、『それなら、されて嫌なことはしないように同じ目に合わせてみたらどう』って様な事言っちゃって」
「って、陛下と喋ったことあんのか!?」
目を見開いて叫んソルトに、そりゃあるさ、と返しておく。
「メイだってあるでしょ?」
「いやまぁ、無いこた無いが―――でもそんなには無いぞ?」
その発言だけで十分だ。取り敢えず、僕が喋った事があるってのをおかしい話じゃなく出来ればよし。つーかぶっちゃけ、陛下なんて軍務の関係上ほぼ毎日話してる、なんてことは言っちゃいけないだろう。
「ま、そしたらさ、そりゃいいって感じで王子が目を輝かせてねー、マジで?って思った次の瞬間、偶々川の横を通ってた子爵の足元に魔力を気付かれないよう固形化させて」
今でもそのシーンは印象強く残っている。当時、今の僕と同い年だった彼が神々しいとも言える銀髪をたなびかせながらいたずらっ子のように笑って魔力を練り上げてたシーンを。
「案の定こけて川にバシャン。子爵のお付きは焦りまくるし、王子はすっごい清々しい顔してガッツポーズしてるし。仕舞には震えながら上がってきた子爵のヅラが川に流されてさー。いやー、あの時は流石に父さんに隠れて大爆笑したよー。父さんも後々吹いてたし」
『って、原因お前か!』
ビシッとこっちを指差したメンツににこやかにうんと頷く。いやー、今思い出しても笑える。
「以上、僕の笑い話でしたー。で、これ以上話してると料理冷めるし、食べちゃお」
そう宣言すると、嫌そーな顔をして二人程ポツリと呟いた。
「「……この流れでそこに行くか/行きますカ?」」
「僕は行かせる。じゃ、頂きます」
そもそも、20超えたいい大人が好き嫌いで泣きそうになるってのもどうなんだか。
その後、僕の部屋に二体の死体が出来上がったのだが、その時には既に全員がスルースキルを覚えていた、というのは余談だろうか?
サブ設定。アルトもリトスもSキャラ。この先リーンと連携でメイやコウをいじっていく、というストーリーがあります。まぁ、そこまでたどり着くのがいつになるやら……
あ、絶対に投げ出しはしませんのでご安心を。絶対にラスト書きたいです。はい。