第9話 通常の営み
前回よりも短めになってしまいました……もっとギャグの才能が欲しいと思う今日この頃です。
2012/04/02改訂終了
どーも、今日は。リーンです。そしてピンチです。
こんな唐突な文を考えてしまったのは、恐らく目の前のギラギラと輝く何十もの目が原因だろう。軽く恐怖に慄く僕の前に広がってる光景とは―――
「ねえ、リーン君?事情説明してくれるかしら?」
「どーいう事か、一から教えてね?」
「や、やだなあ……そんな僕が隠してたみたいな台詞……」
「ほお、隠していた訳ではない、と」
「あ、当たり前じゃん。ただ話す機会が無かっただけで……」
「じゃあ丁度いい機会だし、何でSランクオーバーと仲良さげに話してたの?」
―――そう、コウとリトスが僕と知り合いだという事に対して怒っているクラスメイト達の図だ。
事の発端はさっきまでの会話。そして素振り50回を渋々(高速で)終わらせたメンバーが問い詰めにやってきたという訳だ。
……言える訳がない。「彼らは同僚です。あ、僕実は空佐やってるんだ。ビックリした?」なんて、言える訳がない……ッ。
「あー、大丈夫デスカ?リーン君」
「まあ、なんとか、ね」
さて、全員の素振りが終わってしまった。皆丁度いいくらいに温まって、尚且つ僕を追いかけ回すのに十分な体力は残ってる……諦めて(嘘でも真実でもない)説明をした方が良さそうだ。だんだんと練習場内の魔力が高まってきてるし……
「全く、もう……二人とローゼンフォール前当主は仲が良かったので、僕も小さい頃から知り合いでした。これで満足?」
正確には、僕がSランクオーバーだと解って、知り合いの二人に父さんが会わせたのが始まりだけど。
「……それだけ?」
案外単純で拍子抜けしたらしい。皆ポカンとしている。
筆頭になっていたネリアさん(本名コーネリア・デリスト。ウチのクラスの委員長。吊目と青い髪が特徴)が、確認してくるが、嘘ではないし―――いや、それだけではないから嘘か―――とりあえず肯定として頷いておく。
「当たり前じゃん。それとも何?まさか僕がこの二人の部下だとでも思ったの?」
最後の締めとして、呆れた表情を作ってみる。すると全員が拍子抜けしたようになーんだ、と呟いた。詰まらなさそうなその顔に、内心ニヤリと笑う。ハッ、チョロイね。
そしてその様子に苦笑いするのが三人程。何やら後ろでぼそぼそ言っている。
「す、凄いですね、リーン君。一切嘘はついてないですよ……」
「多分、彼軍にいなければ詐欺師として大活躍してたんじゃないでショウカ?」
「寧ろ前世が詐欺師じゃねーの?」
恐らく周りには聞こえてないだろうが、僕には残念な事に聞こえている。こんな所で何を言ってるんだと少々怒り、そこでにっこり微笑んで三人へ振り向いた。
「リト、そーいえば僕の所じゃ処理しきれない書類があるんだ。任せたからね?」
リトスが絶望した顔をして此方を凝視する。因みにこれは小声で言っておいた。そして次は皆に聞こえる程度に大きくした声で標的をコウに変える。
「あ、そうそう、コウには今度僕が直々に、トマトのトマトによるトマトだけの特別レシピで超豪華なフルコース作ってあげるね?」
その瞬間、コウが顔を真っ青にして首を振り始めた。周りの生徒達は唐突に顔色が変わったコウに何事かと黙ったまま観察を始める。
「あはは、そんなに首を振ってくれるなんてうれしーな。大丈夫。生トマトのサラダにトマトスープ、コウの大好きなトマトパンを主食として出してあげるね?あ、リトはそれのホウレンソウバージョンで」
コウの顔色が更に悪くなっていく様子に、より笑みを深くして言葉を続ける。ついでにリトスにも追加しておいてあげたのは、きっと僕が優しいからだね、うん。
「……鬼」
「……悪魔」
ようやく口を開いたと思ったらそれか。好き嫌いで恐怖するとか子供かお前らは。やれやれと首を振りながら、二人の反撃に応えるべく、望みどおりの言葉を言ってあげた。
「分かったよ、そんな事言われちゃったら流石に傷つくじゃないか」
メイやソルト、果てはネリアさんまでもが恐怖の眼で見てくる以上どうしようも無い。……ただ、アルは何でそんなにも楽しそうなんだろうね?このドSが。
「そ、そうか。そうだよな。リーンだってそこまで非道じゃ―――」
少し嬉しそうな様子に、うん、と頷いて笑う。人が嬉しそうだと、こっちも嬉しくなるよね?だから―――
「大丈夫、一週間朝昼晩全食にに増やしてあげるからさ」
『こいつ鬼畜だ!?』
なぜか全員に叫ばれてしまった。むう。
「もう、コウとリトスの所為で皆に叫ばれたじゃないか」
「「誰の所為だッ!誰のッ!」」
疲れた様子で叫ぶ二人に首を傾げる。別に僕はなにもしていない筈だ。ただ夕飯をどう?って誘っただけで。
「二人の所為でしょ?ほらほら、それより授業進めないと」
かれこれ十五分ほどこんなコントをやってたんだし、そろそろやらないと。(エンスの命である以上)一応はお仕事なんだし。
「事を騒がせておいてよく言えますヨネ……まあいいデス……いや良くないですケド……」
何やら落ち込んだ様子のリトスに、コウが肩をポンと叩いてから、漸く授業へと戻す。
「あー、悪かったな、放置して。とりあえず、さっきの情報に追加すると、俺らがコイツと知り合ったのはコイツが5歳の時だから、かなり昔だぞ?」
「あの頃は小っちゃくて可愛かったんですけどネー」
「ま、冷めてたけどな」
「そこ、五月蠅い」
余計な事を言い出した二人の言葉を止めると、肩を竦めてきた。何か言いたそうな顔をしているが、絶対赤っ恥をさらされる事間違い無しなので黙殺する。
(ホント、‘昔’は可愛かったんですケド、ネ)
ったく、要らんことばっか思いだして……
「とまあ、落ち着いた所で、今日の授業だ。前回の授業で模擬戦をやろうとしたらしいが、それを参考に今回は『魔道式本格模擬戦闘』をみてもらう。軍でもたまにやるしな」
「最終目標にしてはハイレベルになりそうですけど、そのつもりで見てて下さいネ?では、アル君とリーン君はお願いします」
げ、今回はメイじゃなくてアル?また面倒な……
「えー、先生達でではないんですかー?」
不満げなメイの表情も無理はないか。確かに一般人―――と、メイは言えないが、まあそうそう見れる物ではないだろう。Sランクオーバー同士のぶつかり合いなんて。
「あのなあ……基本的に俺達―――というかオーバーAAには封印具がつくから、現状ではそんなに強くないぞ?」
「ワタシ達はSからAAまで2ランク落とされてマスシ」
そう説明を受けると、今度は封印具という言葉に目を輝かせる。……まあ、封印具=強い、が世界の常識だからなぁ……にしてもいいなぁ、たかが2ランクなんて……5ランク落とすと痛くて苦しいだけなのに……
「2ランクも!?」
「スゲー」
「いーなー」
おい最後の君!?どこがいいんだ!?なんならノシつけて送ってやる!
「あー……いや、そんなにいいモンでも無いデスヨ?」
僕が何度も倒れているのを見ているため、リトスは苦笑して彼等を落ち着ける。実は僕の体が弱い事の原因7割は強すぎる封印加工の所為。残りは……アレだ。過労。書類仕事に忙殺され、一日の平均睡眠時間は4、5時間あればいい方。……だから成長できないんだけどさ。
「という訳だ。俺らは見本にならん戦い方ばっかだし、無理だからな。つー訳でアル君、リーン、頼んだぞ」
最初のお仕事がこれですか……しゃーない。
「アル、全力で来てね」
溜息をつきつつも本気を促せば、アルは逆に茶目っ気たっぷりで、でも真面目な願いを言ってくる。
「はは、じゃあリーン君は手加減して下さいよ?」
「それこそ勿論、だよ」
なお、この台詞は「勿論手加減するよ?」だったのに、クラスメイト達に「まさか」の意味で取られていた事を知るのは、この戦いが終わった後だったとさ……はぁ……
次はバトルシーン!今度こそちゃんとした?戦いを描きたいです……なんでいつも妨害が入るんだろう?