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最適化  作者: 遠野 圭
3/4

第3話|最適化


 マッチが減ったことに、

 私はすぐ気づいた。


 数を数えなくても分かる。

 表示される相手が、

 明らかに少ない。


 だが、

 それは失敗ではない。


 減るという現象は、

 整理の結果として起こる。


     *


 私は、設定を見直した。


 間違い探しではない。

 精度の調整だ。


 年齢はそのまま。

 学歴も変えない。

 収入条件も、現実的だ。


 むしろ、

 ここを下げる理由がない。


 理由のない変更は、

 ノイズになる。


     *


 代わりに、

 自分のプロフィールを整え直す。


 文章をさらに短くする。

 感情語を削る。


 「楽しい」

 「嬉しい」


 そういう言葉を消す。

 目的は明確だ。


 結婚。


 曖昧さは、

 時間を奪う。


 時間を奪うものは、

 表示に値しない。


     *


 写真も変える。


 少し前のものにする。

 加工はしない。


 若く見せる必要はない。

 “保たれている”ことが

 伝わればいい。


 そう判断した。


 判断に、

 迷いはなかった。


     *


 プロフィールを保存する。

 画面が更新される。


 何も起きない。

 更新されたという痕跡だけが、

 残る。


     *


 翌日も、

 翌々日も、

 通知は少ない。


 ゼロではない。

 だが、

 明らかに届かない時間が増えた。


 何も起きない時間は、

 説明を要求しない。


     *


 私は、

 「今は調整期間だ」と考えた。


 市場が反応するまで、

 少し間がある。


 事業でも、

 そうだった。


 反応がないことと、

 評価がないことは、

 同じではない。

 そう信じていた。


     *


 だが、

 表示される相手の傾向が変わる。


 年齢が、

 条件の上限に近い。


 肩書きも、

 微妙に現実的だ。


 悪くはない。

 だが、

 “想定していた層”ではない。


 想定という言葉だけが、

 取り残される。


     *


 条件は、

 変えていない。


 なのに、

 結果が変わる。


 条件が、

 参照されていないように見える。


     *


 私は、

 再び調整する。


 写真の順番を入れ替える。

 一枚、外す。


 笑っていない写真を、

 一番上にする。


 弱さは見せない。


 見せなければ、

 判断されない。


     *


 マッチは、

 さらに減る。

 減ったというより、

 静かになる。

 音がしないことに、

 慣れ始めている自分がいる。


     *


 私は、

 アプリの仕様を読む。


 表示ロジック。

 推奨条件。


 どれも、

 表向きは公平だ。


 排除については、

 一言も書かれていない。


     *


 「アクティブなユーザーを優先表示」


 その一文に、

 目が止まる。


 私は、

 十分アクティブだ。


 ログインもしている。

 更新もしている。


 存在している証拠は、

 すべて満たしている。


     *


 だが、

 反応は薄い。


 反応が薄いということは、

 “選ばれていない”ということだ。


     *


 選ばれていない?


 その言葉が、

 一瞬、頭をよぎる。


 すぐに消す。


 私は、

 選ぶ側だ。


 選ばれる前提で

 ここにいる。


     *


 メッセージを見返す。


 自分の言葉は、

 簡潔で、的確だ。


 無駄がない。


 だが、

 どこにも引っかからない。


 引っかからないものは、

 存在しないのと同じだ。


     *


 私は、

 さらに削る。


 趣味の説明を消す。

 仕事の成功談を減らす。


 「重く見えるかもしれない」


 そう判断した。

 重さは、

 表示の邪魔になる。


     *


 削って、

 残ったものを見る。


 条件。

 目的。

 安定。


 どれも正しい。

 正しさしか、

 残っていない。


     *


 正しいはずなのに、

 表示されない。


 表示されないという事実だけが、

 表示されている。


     *


 画面をスクロールする。


 数人分で、

 終わる。


 以前は、

 無限に続いていた。


 終わりがあることに、

 誰も驚かない。


     *


 私は、

 少しだけ苛立つ。


 だが、

 それを失敗とは呼ばない。

 最適化の途中だ。


     *


 最適化は、

 一時的に不便になる。


 その先に、

 完成がある。


 私は、

 そういう過程を、

 何度も乗り越えてきた。


 何度も、

 何かを削ってきた。


     *


 だから、

 まだ問題はない。


 私は、

 自分を磨いている。


 そう信じていた。


 削っているものが、

 最初から

 存在しなかったものとして

 扱われ始めていることを、

 考えないまま。

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