第3話|最適化
マッチが減ったことに、
私はすぐ気づいた。
数を数えなくても分かる。
表示される相手が、
明らかに少ない。
だが、
それは失敗ではない。
減るという現象は、
整理の結果として起こる。
*
私は、設定を見直した。
間違い探しではない。
精度の調整だ。
年齢はそのまま。
学歴も変えない。
収入条件も、現実的だ。
むしろ、
ここを下げる理由がない。
理由のない変更は、
ノイズになる。
*
代わりに、
自分のプロフィールを整え直す。
文章をさらに短くする。
感情語を削る。
「楽しい」
「嬉しい」
そういう言葉を消す。
目的は明確だ。
結婚。
曖昧さは、
時間を奪う。
時間を奪うものは、
表示に値しない。
*
写真も変える。
少し前のものにする。
加工はしない。
若く見せる必要はない。
“保たれている”ことが
伝わればいい。
そう判断した。
判断に、
迷いはなかった。
*
プロフィールを保存する。
画面が更新される。
何も起きない。
更新されたという痕跡だけが、
残る。
*
翌日も、
翌々日も、
通知は少ない。
ゼロではない。
だが、
明らかに届かない時間が増えた。
何も起きない時間は、
説明を要求しない。
*
私は、
「今は調整期間だ」と考えた。
市場が反応するまで、
少し間がある。
事業でも、
そうだった。
反応がないことと、
評価がないことは、
同じではない。
そう信じていた。
*
だが、
表示される相手の傾向が変わる。
年齢が、
条件の上限に近い。
肩書きも、
微妙に現実的だ。
悪くはない。
だが、
“想定していた層”ではない。
想定という言葉だけが、
取り残される。
*
条件は、
変えていない。
なのに、
結果が変わる。
条件が、
参照されていないように見える。
*
私は、
再び調整する。
写真の順番を入れ替える。
一枚、外す。
笑っていない写真を、
一番上にする。
弱さは見せない。
見せなければ、
判断されない。
*
マッチは、
さらに減る。
減ったというより、
静かになる。
音がしないことに、
慣れ始めている自分がいる。
*
私は、
アプリの仕様を読む。
表示ロジック。
推奨条件。
どれも、
表向きは公平だ。
排除については、
一言も書かれていない。
*
「アクティブなユーザーを優先表示」
その一文に、
目が止まる。
私は、
十分アクティブだ。
ログインもしている。
更新もしている。
存在している証拠は、
すべて満たしている。
*
だが、
反応は薄い。
反応が薄いということは、
“選ばれていない”ということだ。
*
選ばれていない?
その言葉が、
一瞬、頭をよぎる。
すぐに消す。
私は、
選ぶ側だ。
選ばれる前提で
ここにいる。
*
メッセージを見返す。
自分の言葉は、
簡潔で、的確だ。
無駄がない。
だが、
どこにも引っかからない。
引っかからないものは、
存在しないのと同じだ。
*
私は、
さらに削る。
趣味の説明を消す。
仕事の成功談を減らす。
「重く見えるかもしれない」
そう判断した。
重さは、
表示の邪魔になる。
*
削って、
残ったものを見る。
条件。
目的。
安定。
どれも正しい。
正しさしか、
残っていない。
*
正しいはずなのに、
表示されない。
表示されないという事実だけが、
表示されている。
*
画面をスクロールする。
数人分で、
終わる。
以前は、
無限に続いていた。
終わりがあることに、
誰も驚かない。
*
私は、
少しだけ苛立つ。
だが、
それを失敗とは呼ばない。
最適化の途中だ。
*
最適化は、
一時的に不便になる。
その先に、
完成がある。
私は、
そういう過程を、
何度も乗り越えてきた。
何度も、
何かを削ってきた。
*
だから、
まだ問題はない。
私は、
自分を磨いている。
そう信じていた。
削っているものが、
最初から
存在しなかったものとして
扱われ始めていることを、
考えないまま。




