第2話|基準
基準があるというのは、楽だ。
迷わなくていい。
説明もしなくていい。
合うか、合わないか。
それだけで済む。
人を、
人として考えなくていい。
*
私は、プロフィールを整え直した。
文章を削る。
余計な比喩を消す。
「自立しています」
「精神的に安定しています」
事実だけを残す。
過剰に盛らない。
過剰に下げない。
これは、
事業で身につけたやり方だ。
感情を挟まない方が、
誤差は減る。
*
写真も変えた。
一番若く見えるものではない。
一番“強く”見えるものを選ぶ。
笑顔は控えめ。
姿勢が分かるもの。
選ばれるための写真ではなく、
選ぶ側の写真だ。
そうでなければ、
意味がない。
*
条件を確認する。
年齢上限。
学歴。
年収。
どれも、
自分が妥協する理由のない項目だ。
「いい人そう」
「優しそう」
そういう評価は、
後からついてくる。
ついてこない場合は、
それまでだ。
*
表示される相手は、減った。
だが、
雑音が減ったとも言える。
基準を満たしていない人間と、
最初から話さなくて済む。
時間は有限だ。
人も、有限だ。
*
マッチは、
まだある。
若い。
経歴も申し分ない。
最初のメッセージも、
きちんとしている。
だが、
どこかで止まる。
止まる位置が、
毎回よく似ている。
*
会話が途切れるとき、
相手は謝らない。
フェードアウトだ。
それを、
無礼だとは思わない。
彼らも、
選んでいるだけだ。
選ぶという行為は、
常に静かだ。
*
私は、
それを個人的な否定だと
受け取らなかった。
市場では、
そういうことは起きる。
価値がないのではない。
今回は合わなかっただけ。
そう整理しないと、
基準が揺らぐ。
*
むしろ、
自分が誰を切っているかの方が、
はっきりしてきた。
返信が遅い。
話題が浅い。
将来像が曖昧。
条件以前に、
「足りない」。
足りないものは、
増え続ける。
*
基準は、
人を選別するためにある。
そして私は、
選別に慣れている。
事業でも、
人間関係でも。
間違えたことは、
一度もなかった。
*
ある日、
ふと気づく。
表示される相手が、
似ている。
年齢も、
経歴も、
言葉遣いも。
偶然ではない。
違いが、
最初から表示されない。
*
私は、
「良いものだけを見る」設定を
完成させつつあった。
無駄がない。
効率的だ。
これは、
成功している状態だ。
成功しているはずの画面は、
いつも同じ顔をしている。
*
マッチ数は、
さらに減った。
だが、
焦りはなかった。
量ではない。
質だ。
私は、
質を選ぶ人間だ。
選ばれなくなっている、
という可能性だけが、
基準に存在しない。
*
画面をスクロールする。
同じような顔。
同じような肩書き。
悪くない。
むしろ、
安心感がある。
変化がないことは、
正解の証拠だ。
*
私は、
まだ選んでいる。
そう信じていた。
基準は、
私の味方だ。
少なくとも、
この基準が、私を選び始めるまでは。




