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極低温麻酔とガラスの境界

俺たちはコンタージェンのガラス化した傷跡を後にした。南米の息詰まるような熱気と、俺たちの変異した生物学バイオロジーの湿った怒りは、砕氷船と化した俺たちの船が大西洋を北東に向かって切り裂いて進むにつれて、ゆっくりと、はるかに陰湿な何かへと取って代わられていった。


ヴァレリアはドレッドノート・トラックを修理しただけではなかった。海岸に放棄されていた企業の巡洋艦の船体と融合させたのだ。加硫ゴムの履帯キャタピラは格納され、下向きの磁気リパルサー・モーターに置き換えられた。これにより、荒れ狂う波の数メートル上を滑空できるようになった。俺たちは灰色の海を切り裂く、浮遊するメスだった。


だが、海の水は変化していた。


「外気温、マイナス30度まで低下」分厚い企業ポリマー製のサーマルコートにくるまりながら、ヴァレリアが報告した。暖房の効いたキャビンの中で、彼女の白い息が濃い雲を作っている。「リパルサーが海の密度と格闘してるよ、アーサー。水が……『重く』なってる」


「気象現象じゃない」強化された丸窓から暗い海を見つめながら、俺は呟いた。「大陸のオーラだ。ヨーロッパの冬は、凍った水でできているわけじゃない。結晶化したエントロピーでできている。大陸を仮死状態に保つために設計された、魔法の極低温クライオジェニクスなんだ」


黒水晶ブラック・クリスタルの腕が、俺の理論を証明していた。大西洋の中央子午線を越えて以来、義手は不穏な形で目覚めていた。病的な紫色の輝きを放つために、もはや起動する必要すらなくなっていた。ついに家への帰り道を嗅ぎつけた猟犬のように、水晶はゆっくりとした同期したリズムで脈打っていた。


その共鳴は攻撃的なものではない。服従の共鳴だ。ヨーロッパの王族を形作った原初の呪文が、この腕を呼んでいるのだ。


一方、肝臓の寄生体は惨めな状態だった。


【 熱アラート。代謝低下。バイオマスは存在しません 】


かつては肉の忌まわしき者たちの前で咆哮を上げていた有機的な実体は、今や縮こまり、血の鋼鉄ブラッドスチールの隙間から忍び込む不自然な寒さによって鎮静化されていた。寒さは変異の天敵だ。南米が急速に拡大するガン(癌)であるのに対し、ヨーロッパは死体安置所の死体だった。


後部座席から苛立った唸り声を上げ、グリッスルが重いブーツで即席のエーテル・ヒーターを叩いた。オークの緑色の肌は青白く、ほとんど灰色になっていた。彼女の温血の生理機能は、リヴァイアサンの骨を移植された脚の血行を維持するのに苦労していた。


「先生、すぐに何かを切り刻まないと、アタイの関節が固まっちまうよ。この寒さは噛みついてくるんじゃない。アタイらの神経を眠らせるんだ」


「血の巡りを止めないようにな、将軍。斧を研いでおけ。痺れは、凍傷による切断の最初の症状だ」ケブラーのタクティカルベストの上に羽織った白衣を整えながら警告した。


膝の上に音波の杖を置き、結跏趺坐けっかふざで座っていたルナが、ゆっくりと目を開けた。彼女の唇はわずかに紫色になっていたが、キャビンの物理的な寒さのせいではなく、外から聞こえてくる音の感情的な反射によるものだった。


「音楽が変わったわ、アーサー」エンパスの声は、何かに憑りつかれたような、今にも壊れそうな囁きだった。「深海の海には、飢えがあった。鋼鉄の天使たちがいたコンタージェンには、数学的な沈黙があった。でもここは……ここには合唱コーラスがあるわ。絶え間ない鎮魂歌レクイエム。叫び声の途中で凍りついた、何百万もの声の嘆きが」


俺は人間の手を強く握りしめた。


「最終接近だ」と宣言した。


ドレッドノートのレーダーがビープ音を鳴らし、ヨーロッパの大陸棚に到達したことを示した。しかし、窓の外に見えたものは、ビーチでも、沿岸都市の廃墟でも、錆びた港でもなかった。


それは『城壁』だった。


黒い氷と紫色の水晶でできた巨大な障壁が荒れ狂う海からそびえ立ち、ギザギザの顎の歯のように灰色の空を引き裂いていた。陸地は見えない。イベリア半島全体が、海面から何十メートルも突き出た魔法の氷河に飲み込まれ、難攻不落の絶壁を形成していたのだ。


その半透明の氷の中に、まるで黒い琥珀に閉じ込められた昆虫のように囚われていたのは、ヨーロッパの古い軍艦、化石化した海獣、そして凍った水面を突き破ろうとする尖塔を持つゴシック建築の建物の、巨大な影だった。


「垂直な氷の塊に、どうやってドッキングするんだい?」ヴァレリアはリパルサーの出力を下げ、水晶の壁の基部から50メートルのところで慎重に機体をホバリングさせた。


「ドッキングはしない。患者に挿管インテュベーションを行う」


ドレッドノートの側面の出口ドアへと歩いた。ハッチを開けた時にキャビンに流れ込んだ寒気はあまりにも暴力的で、俺の眉毛は一瞬で霜で覆われた。


縁に立つと、突き刺すような風が俺を後ろに押しやろうとする。黒水晶の壁は俺たちの目の前にあり、俺の義手とまったく同じ周波数で脈打っていた。


魔法の腕を掲げた。俺が宿している論理的感染であるバベルのコードは、あの魔法と同じものの改変された副産物だ。元の鍵穴にまだ鍵が合うかどうか、試す時だった。


水晶の手のひらを氷河の壁に向けたが、破壊デストラクションはチャネリングしなかった。認識レコグニションをチャネリングしたのだ。心臓に再び繋がろうとする動脈のふりをして、腕のマナのシグネチャを送信した。


城壁が応えた。


一千の脊椎が一斉に鳴るような耳をつんざく轟音が、荒れ狂う海に響き渡った。目の前の氷が、完璧な幾何学模様を描いてひび割れ始める。黒水晶のプレートが両側にスライドし、凍てついた大陸の暗闇へと真っ直ぐに続く、ぽっかりと口を開けた傷口である、鋭く狭い峡谷を開いたのだ。


「気道は確保された!」キャビンに向かって叫んだ。「ヴァレリア! 峡谷へ進め!」


エンジニアはスロットル・レバーを押し込んだ。俺たちの機体は重い水の上を滑るように進み、魔法の城壁の巨大な裂け目を通り抜けた。


中に入ると荒れ狂う海は消え、滑らかに磨かれた氷の床へと変わった。両側からそびえ立つ紫色の壁に日の光は飲み込まれ、陰鬱な燐光りんこうだけが道を照らしていた。


気温がさらに下がる。空気はオゾン、古い埃、そして保存された乾いた血の匂いがした。


境界線を越えたのだ。南米、熱を帯びた変異、堕ちた神々、そして軌道のカオスは遠く離れた。旧世界オールド・ワールドは、それ自身の宇宙的な死後硬直リゴール・モルティスの中に完璧に保存された手術室だった。


極低温クライオジェニック室へようこそ」峡谷の突き当たりで俺たちを待ち受ける、結晶の暗闇を見つめながら呟いた。「第零号患者ペイシェント・ゼロがお待ちかねだ。奴がまだ息をしているうちに、検死オートプシーをしに来たぞ」

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