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合成化学療法とプラセボ効果

黒水晶ブラック・クリスタルの腕から放射される痛みは有機的なものではなかったが、俺の人間としての脳にはその違いが分からなかった。主任監査官の合成酵素が義手の凍てついたマナと反応し、オゾンと溶けたプラスチックの匂いがする化学熱傷を引き起こしていた。


旧行政局のロビーで粉砕された会議テーブルの瓦礫につまずきながら、俺は後退した。


「あなた方の生物学は時代遅れ(オブソリート)です、ドクター」彼が身につけている首輪の音響真空フィールドによってくぐもった、主任監査官の合成音声が空間に響いた。プラチナのバトンがロボットのような正確さで彼の手の中で回転している。「パンゲア・コンソーシアムは、あなたの寄生体パラサイトの遺伝子配列を特定しました。我々は『治療法キュア』を設計したのです。あなた方は、根絶を待つだけの病気にすぎない」


グリッスルが咆哮した。骨の大鉈を奪われ――今やそれは床に広がる白い泡の水たまりと化していた――オークは降下ポッドの瓦礫からねじ曲がった鋼管を引き抜いた。


彼女は汚れ一つないスーツを着た男に突進した。


監査官はかわさなかった。踵を返し、プラチナのバトンでグリッスルの膝に直接、速く鋭い一撃を見舞った。


バキッ。


オークは轟音とともに倒れ込み、痛みに吠えながら脚を抱え込んだ。その一撃は単なる腕力によるものではない。バトンは酵素でコーティングされていたのだ。プラチナが触れた場所で、グリッスルの緑色の皮膚と高密度の筋肉が水ぶくれになり、溶け始めた。


「奴から離れろ!」俺は叫んだ。「あいつは生きた溶剤ソルベントだ! 物理的な接触は致命傷になるぞ!」


ヴァレリアがプラズマライフルを構え、発砲した。3本の超高温の青いビームが空気を引き裂き、敵の胸へと向かう。


監査官は目が眩むような速さでバトンを動かした。酵素の汗を浴びた外科用プラチナが、到達する前にプラズマを霧散させ、熱エネルギーを彼の細身の体の周囲に無害な光輪として散らした。


「あなた方の武器の特許は我々のものです。あなた方の魔法は、我々の研究室で解剖済みです」不透明な青い目をした男は、骨の粉塵を踏みしめながら俺の方へ歩いてきた。「市場マーケットは閉鎖されましたよ、アーサー・ヴェラス」


肝臓の寄生体が苦痛とパニックで身悶えした。俺の中に棲み、水晶の神々を喰らい、核の冬を生き延びたエイリアンの実体が、研究室の会計士に怯えきっていた。


【 クリティカル・アラート:細胞の劣化が切迫しています 】

【 戦術提案:逃亡。この生物は『解毒剤アンチドート』です 】


「黙れ」俺は自分自身の臓物に向かって呟いた。左目が明滅し、デジタル・インターフェースが弱点を見つけようとしている。


「アーサー!」カバーの後ろから、エンジニア・ゴーグルで監査官を分析しながらヴァレリアが叫んだ。「あいつの酵素の汗は代謝によって生成されてるけど、あの首輪で安定化されてるんだ! ルナの音響真空を作ってるのと同じ首輪だよ! もしあいつが首輪を失えば、酵素は結合力を失う! あいつ自身の化学物質で溶けちまうはずだ!」


監査官はほんの一瞬だけ立ち止まり、不透明な目をヴァレリアに向けた。


「正確な診断ですね、エンジニア殿。しかし、無意味です」


彼はプラチナのバトンの一つをダーツのように投げた。武器がヴァレリアに向かって飛んでいく。


考える間もなかった。医療的な反射リフレックスで動いた。


射線上に身を投げ出し、右手でバトンをインターセプトした。俺の、人間の手で。


プラチナが手のひらに突き刺さり、肉と筋肉を引き裂き、骨に達して止まった。


目の前が真っ白になるほどの痛みだった。酵素が即座に俺の血の中で泡立ち始め、DNAの鎖を破壊しようとする。寄生体が脳内で吠え、変異した白血球の波を傷口へと送ったが、それらは合成の「治療法」に触れた瞬間に死滅した。


膝をつき、手のひらを貫くバトンを握りしめながら息を喘がせた。


だが、俺は笑った。赤く、血にまみれた笑顔で。


「お前の酵素は……」床に唾を吐き出す。「……ミュータントを殺すために設計されている。共生関係シンビオシスを破壊するために。俺のもう片方の腕のヨーロッパの魔法を無効化するために」


監査官は首を傾げた。俺が服従しないことに混乱しているようだった。彼は武器を回収するために歩み寄ってきた。


「その通りです。そして今、それはあなたを殺しつつある」


変異ミューテーションを殺しているだけだ」俺は彼の中に虹彩のない目を見つめた。「だが、プラセボ効果を忘れてるぜ。俺はまだ90%人間なんだよ、このクソ官僚め。そして人間の肉が死ぬのには、時間がかかるんだ」


傷ついた手で、手のひらを貫通しているプラチナのバトンをしっかりと握りしめ、地面に向かって引っ張った。自分の体重を利用して武器を固定し、結果として、それを回収しようとする監査官の動きを封じたのだ。


彼は決定的な1秒間、俺に縛り付けられた。


「ヴァレリア! 頸動脈けいどうみゃくだ!」俺は吠えた。


ヴァレリアはためらわなかった。彼女はプラズマライフルを撃たなかった。それを『投げつけた』のだ。


重い武器が宙を舞い、監査官の顔面に直接激突した。衝撃で彼は溶けはしなかったが、よろめいて後退し、喉とサイバネティックな首輪が露出した。


グリッスルが、脚を溶かされながらも鋭い骨の破片を投げつけ、それが首輪の電子デバイスに突き刺さった。男の首から青い火花が爆発する。音響真空が、甲高い破裂音とともに機能停止した。


「今だ、ルナ!」


柱に寄りかかっていたルナが肺を膨らませた。彼女はシールドやハーモニーを作るために歌ったのではない。監査官の頭蓋骨へ直接向かう完璧な円錐状に焦点を絞った、原始的な怒りの叫びを放ったのだ。


周波数を打ち消す首輪を失い、音波が削岩機ジャックハンマーのような威力で彼を直撃した。


彼の合成鼓膜が破裂する。不透明な青い瞳が、ガラスのように砕け散った。


彼は頭を抱えながら後ろに倒れ込んだ。自身の生物学の温度と結合を安定させる首輪を失い、彼の体は崩壊を始めた。彼を保護していた酵素の「汗」が制御不能な反応を起こし始め、ケブラーのスーツと彼自身の合成肉を腐食させていく。


主任監査官は石灰化した骨の床でのたうち回り、特許取得済みの化学物質が彼を外側から内側へと溶解していく中、ゴボゴボという音を立てた。数秒後には、白いヘドロの水たまりと、無傷の銀色のアタッシュケースだけが残された。


くぐもったうめき声とともに、手からプラチナのバトンを引き抜いた。敵の酵素の抑制効果から解放された寄生体が即座に傷口へと駆けつけ、俺が出血多量で死ぬ前に黒い軟骨で血管を塞いだ。


粉々になった柱に寄りかかり、深呼吸をする。アドレナリンが引き始め、代わりに冷たい疲労感が押し寄せてきた。


ヴァレリアがグリッスルの元へ走り、オークの溶けた脚にエーテルと治癒ハーブの湿布を当てた。


かつてコンソーシアムの執行者だった白い水たまりまで歩いていく。銀色のアタッシュケースを拾い上げた。生体認証の鍵はついていない。機械式だ。黒水晶の腕で留め金をこじ開けた。


中には、無菌の封じ込めフォームに綺麗に並べられた……武器はなかった。そこにあったのは、白熱する赤い液体で満たされた数十本のガラスの小瓶バイアルだった。そして、点滅するデータスクリーン。


スクリーンを手に取り、見出しを読んだ。


【 プロジェクト:血の配当ブラッド・ディビデンド。フェーズ3 】

【 目標:レヴィアタニアの蒸気ネットワークへの独占ウイルス(モノポリー・ウイルス)の挿入 】


「ヴァレリア」俺は乾いた声で呼んだ。「奴らはただ街を占領したり、レジスタンスを殺したりしたかったわけじゃない」


彼女に小瓶を見せた。


「これは特許取得済みの遺伝子病原体だ。奴らはウチの島のボイラーに感染させるつもりだったんだよ。ウチの街の蒸気を吸った者は全員、コンソーシアムだけが製造している免疫抑制剤に依存する体になる。奴らは俺たちを殺したかったわけじゃない。俺たちを『慢性的な顧客クライアント』に変えたかったんだ」


破壊された行政局のロビーに静寂が落ちた。それはグリッスルの痛みにうめく声と、湾での爆発音によってのみ破られていた。


医療には非常に汚い側面があるが、黙示録の資本主義はそれをさらに病的なものにすることに成功していた。


天井の骨にポッドが開けた穴を見上げた。コンソーシアムの巡洋艦はまだ上にいる。揺さぶられ、シールドは機能不全を起こしているが、依然として危険だ。


そして今、俺は奴らのビジネスモデルに対する『治療法キュア』を手に入れた。


「診断は下った。化学療法は失敗だ」銀色のアタッシュケースを握りしめる。「取締役会ボード・オブ・ディレクターズに往診に行く時間だ」


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