腐敗したエデンからの脱出と多臓器不全
人間の死は静かな出来事だ。だが、生きている都市の死は耳をつんざくほどうるさい。
母親と生態系を繋ぐマナのへその緒を切り離したとき、『起源』は単にシャットダウンしたわけではなかった。都市は巨大なアナフィラキシーショックを起こしたのだ。
周囲の遺伝子制御室が溶け始めた。光るグラフを投影していた半透明の膜の壁が茶色に変色し、縮んで裂け、膿と酸性の胆汁の雨を降らせる。
エリオ・ヴェラスは膝をつき、自身の黒い血に溺れていた。彼の中の『アルファ貪食者』は、宿主が魔法的な飢餓で死にかけていることを悟り、親父を内側から消化し始めたのだ。完璧な磁器の甲殻が、無用の破片となって砕け散っていく。
「アーサー……」かつては汚れ一つなかったが、今や急速に広がる潰瘍に覆われた震える手を伸ばし、彼は喘いだ。「助けてくれ……お前は医者だろう……」
俺はミスリルのメスを握りしめ、彼の前に立ち止まった。黒水晶の腕が、無関心な冷たさで脈打っている。
奴を解剖してやりたかった。その声帯を切り裂いてやりたかった。母さんが20年間感じていた苦痛のほんの一部でも、奴に味わわせてやりたかった。
だが、塔が崩れ落ちた。
黙示録的な規模の揺れが構造物を揺るがした。エリオの下の有機的な床が、濡れた紙のように裂けた。今や弛緩して死んだ中央の括約筋が、暗い縦穴へと口を開く。
エリオ・ヴェラスは暗闇へと落下し、壊死していく彼自身の創造物の内臓に飲み込まれ、塔の胃液に消化されながら悲鳴を上げた。
復讐を味わう暇はなかった。俺のブーツの下の床も崩れ始めたのだ。
【 構造的完全性アラート:崩壊の危機 】
【 推奨される逃走ルート:重力 】
「初めて、お前に完全に同意するよ」寄生体に向かって呟いた。
部屋のドーム屋根が崩落した。天井が母さんの死んだ台座に激突したまさにその瞬間、俺は中央の縦穴へと飛び込んだ。
落下は速く、混沌としていた。登ってきたチューブは腐肉のペーストへと溶解しつつある。水晶の腕を使って壁を削り、黒い氷で摩擦を生み出して、着地の衝撃で足を骨折しないようにした。
はるか下、生物学的なアトリウムの1階では、すでに外壁が破られていた。
ドレッドノート・トラックが、骨と軟骨の瓦礫の真ん中に停まっていた。ヴァレリアがエーテル・エンジンを吹かし、酸の水たまりの上で履帯を回転させている。
トラックの装甲屋根に轟音とともに着地し、俺の体重で合金をへこませた。
「乗っていくかい、先生?」外部スピーカーからグリッスルの声が響いた。彼女は銃座にいて、天井から降ってくる瓦礫の雨を撃ち落としている。
「ここから出すんだ、ヴァレリア! 街全体が壊死してる!」上部ハッチを開け、キャビンの中に飛び込みながら叫んだ。
中の死臭は空気清浄機で遮断されていたが、窓からの景色は地獄絵図だった。
ヴァレリアがギアを入れ、ドレッドノートは『起源』の大通りを駆け抜けた。
かつて「呼吸」していた建物は、今や穴の開いた風船のように萎んでいる。真皮の道路が裂け、硫酸と沸騰する血の間欠泉が噴き出していた。
街路で生き延びていた庭師や欠陥クローンたちは、俺たちを攻撃してこなかった。脳死状態に陥ったばかりの都市の神経ネットワークに接続されたままの彼らは、地面で身悶えしていた。断末魔の狂乱の中で、自らの木製のマスクや腕を引き剥がしている。
「どこに向かえばいいの?!」空から降ってきた『牛型智天使』の死体――その昆虫の羽は溶けかけていた――を避けるためにハンドルを急旋回させながら、ヴァレリアが叫んだ。
「肉の城壁だ!」ひび割れたフロントガラス越しに指差した。「そこが唯一の出口だ!」
遠くで、エリオのエデンを囲む高さ10メートルの巨大な城壁が、最後の突然変異を起こしていた。柔軟性を保つマナを失った筋肉は、瞬時に死後硬直を起こし、石灰化しつつあった。それは巨大な骨のダムへと変貌しようとしていた。
「アーサー、あの厚さの硬い骨じゃ、トラックの破城槌は貫通しないよ! フロントガラスの虫みたいに押し潰されちゃう!」ヴァレリアは生唾を飲み込んだが、アクセルから足を離さなかった。
「骨にはぶつけない。減圧チャンネルを作るんだ!」後部座席を見た。「ルナ! 城壁の微小な亀裂を見つけてくれ。筋繊維が交差している場所だ」
「グリッスル! ハープーンに濃縮エーテルの弾を装填しろ。拡散はなしだ。外科的な一撃を頼む」
ルナは杖をトラックの音波パネルに接続した。外の視覚的なカオスを無視して目を閉じ、低く一定の音を歌う。レーダーが点滅した。
「見つけた! 右舷30度、地上から3メートル! あそこの密度が15%低くなってる!」
「ヴァレリア、その座標に突っ込め!」シートベルトを握りしめた。「グリッスル、俺が『今だ』と言ったら撃て」
トラックは時速140キロに達した。腐った肉の地面が側面に鞭打つ。
骨の壁が迫ってくる。赤い空と地平線を覆い隠すほどに大きくなった。
80メートル。50メートル。
「準備完了……」グリッスルが銃座の照準器に目を貼り付けて唸った。
20メートル。
「今だ!」
グリッスルが撃った。炎を上げるエーテルの円筒が瞬時に空間を横切り、ルナが特定した弱点に突き刺さる。
熱爆発は城壁を破壊しなかったが、石灰化した骨髄を過熱し、半径5メートルを脆くした。
その1ミリ秒後、ドレッドノートが激突した。
ブラッドスチールの破城槌が、過熱された骨に命中する。
ガシャァァァァァァァン!
衝撃で、俺たちは全員シートベルトに激しく叩きつけられた。トラックがうめき声を上げ、キチン質の装甲板が軋み、エンジンがむせ返る。
だが、物理法則は暴力の前に屈した。
骨と炭化した骨髄の破片の嵐に包まれながら城壁を引き裂き、俺たちは反対側の宙へと放り出された。
車両は腐植土の渓谷を飛び越え、変異したセラードの赤い草地の上に激しく着地した。
横滑りしながら着地し、土埃と草の雲を巻き上げ、ついにブレーキが10トンの鋼鉄の怪物をねじ伏せた。
キャビンに静寂が訪れた。冷えていくエンジンの音と、俺たちの荒い息遣いだけが聞こえる。
全員が、粉々になったリアガラスから後ろを振り返った。
都市『起源』は自己崩壊しつつあった。今しがた突き破った城壁が、深淵の穴へと崩れ落ちる。周囲の異常発達した密林の巨大植物が急速に乾燥し始め、それらを支えていた「心臓」が腐敗するにつれて、赤い草は灰色に変色し、灰となって崩れていった。
「やった……」ヴァレリアがハンドルに額を押し当て、震えるため息を吐いた。「脱出できたよ」
すすや他人の血で顔を汚したグリッスルが、銃座から降りてきた。
「上で何があったんだい、先生? 親父さんは見つかったのかい?」
黒水晶の腕を見た。まだ羊水と血で汚れている。左目のデジタル・インターフェースはシャットダウンしていた。肝臓の寄生体は静かに、勝利を消化している。
「患者は手術を生き延びられなかった」いつもの皮肉なトーンを消した、かすれた声で言った。「街が奴を飲み込んだ。生態系が破綻したんだ」
ルナが人間のほうの肩に触れた。エンパスである彼女には、言葉の裏に隠されたものを読み取ることができた。
「そこで他に何を見つけたの、アーサー?」
目を閉じた。最後の息を引き取る母の穏やかな顔が、脳裏に浮かんだ。怪物のような機械に囚われていた、俺の人間性の錨。
「シフトの終わりを見つけたよ」目を開け、粉々になっていく灰色の草を見つめながら答えた。「ジェネシスは終わった」
そこに勝利はなかった。ただ、俺たちをここまで運んできた残酷な生存があっただけだ。
「アクセルを踏め、ヴァレリア。海岸に戻ろう。ブラジル中央部には、傷を癒やすための時間が必要だ」




