父なる神の検死(オートプシー)と母体(マトリックス)の安楽死
ミスリルのメスはもはや十分ではなかった。生物学的な磁器の神を相手にする時、通常の道具など爪楊枝にすぎない。
エリオ・ヴェラスが消えた。
テレポートではない。純粋に最適化された筋肉の速度だ。質量の移動によって空気が弾け、次のミリ秒には、彼は俺の目の前にいた。
前腕から突き出た純白の骨の刃が完璧な弧を描いて振り下ろされ、俺の頸動脈を狙う。
左腕を上げた。黒水晶がエリオの骨と激突する。
金属的な甲高い音ではなく、部屋の半透明な壁を震わせる高周波の轟音が響いた。俺は後ろに押し出され、ブーツが有機的な床を引き裂く。
「遅いぞ、ロット42」エリオは息一つ切らしていなかった。その声は絶対的な優位性を示すメロディーだった。「お前の寄生体は、お前を治癒するためにエネルギーを消費している。私の寄生体は何も治癒する必要がない。私はダメージを受けないからな」
彼は回転し、回し蹴りを俺の肋骨に叩き込んだ。3本折れるのを感じた。血を吐き、湿った床を転がって、床をバターのように貫く次の一撃を間一髪でかわす。
「アンタの『完璧』とやらは退屈だな」俺は唸り、立ち上がりながら、人間の右手にある黒いキチン質の爪を起動した。
混沌とした残忍さで前進した。殴り、切り裂き、引き裂く。俺の攻撃が命中するたび、エリオの甲殻はただ輝くだけだった。彼の体の液体黄金の静脈が脈打ち、俺が何とかつけた傷も、部屋から送り込まれるマナを浴びて瞬時に塞がっていく。
彼は俺の右手首を掴み、途方もない力でねじり上げた。
「分からないのか? 私は閉鎖された完璧な生態系だ。お前は『水漏れ』なのだよ!」
エリオの膝が俺の胃に突き刺さった。肺から空気が逃げていく。寄生体が苦痛のうめき声を上げた。続いて、親父は俺の首を掴み、塔の有機的な窓へと投げつけた。
俺の体重で生物学的なガラスがひび割れ、はるか下方に、ヴァレリアとグリッスルの放つ青い炎が『起源』の庭師たちを焼き尽くしているのが見えた。外では彼女たちが勝っていた。だが、この上では、俺が生きたまま解剖されようとしていた。
俺は膝をつき、黒い体液を咳き込んだ。デジタルの目が不規則に点滅する。
【 システム警告:敵の再生率 100% 】
【 外部エネルギー源を検知。継続的な転送を確認 】
サイバネティックな目はエリオではなく、床に広がる赤い動脈に焦点を合わせていた。それらは単に部屋にエネルギーを供給しているだけではなかった。第零号患者――中央の繭に囚われた俺の母親――のマナを、エリオの踵へと直接送り込んでいたのだ。
彼は無敵ではない。単にコンセントに繋がっているだけだ。そしてそのコンセントこそが、ヘレナ・ヴェラスだった。
俺の血を滴らせた刃を携え、エリオがこちらへ歩いてくる。
「最後の言葉は、アーサー? 医者として、話そうとしないことを勧めるよ。深刻な内出血を起こしているからね」
水晶の腕を支えにし、無理やり立ち上がる。
「ヒポクラテスの誓いは、危害を加えるなと教えている」顎を血が伝い落ちる中、俺は呟いた。「だが、時として安楽死こそが、残された唯一の倫理的な治療法なんだ」
エリオに向かって前進する代わりに、俺は中央の繭に向かって駆け出した。
俺の意図を理解し、エリオはその完璧な目を見開いた。
「やめろ! 彼女に触れるな!」
彼は俺を阻止しようと跳躍したが、距離は俺に有利だった。
黒い根と半透明の膜でできた繭の前に立ち止まる。声なき苦痛に凍りついた母親の顔が、数センチのところにあった。
折れた肋骨よりもはるかに鋭い痛みを胸に感じた。俺は世界を治療しようと、人々を生かそうと戦いながら生涯を過ごしてきた。そして今、究極の愛の行為は、まさにその正反対のことだった。
「ごめん、母さん。シフトはもう終わりだ。休んでいいよ」
繭の基部にある根と動脈の奥深くに、黒水晶の腕を突き立てた。
治癒のためのマナは流し込まなかった。ヨーロッパの死のコードを流し込んだ。深淵の寒さ、俺に残されたウイルスの純粋なエントロピーを。
パキィッ。
生命維持装置の基部に黒い氷が広がった。赤い動脈が瞬時に凍りつき、暗いガラスへと変わる。マナの流れが唐突に止まった。
繭の中で、母親の白濁した目が最後にもう一度だけ瞬きをした。筋肉の緊張が解ける。20年間の苦痛の表情が消え、彼女の顔は穏やかになった。
ヘレナ・ヴェラスは最後の本当の息を引き取り、生物学的な機械は機能を停止した。
その後に続いた悲鳴は、母親のものではなかった。都市のものだった。
『起源』が激しく震えた。ネットワークを繋ぎ止める第零号患者を失い、塔の壁が壊死し始めた。生物発光の照明が点滅し、消える。床が腐敗し始めた。
そして、エリオ・ヴェラスが崩れ落ちた。
彼は膝をつき、自身の胸を掻き毟った。
完璧な磁器の甲殻にひびが入り始める。液体黄金の静脈が黒いヘドロへと変わった。無限のマナの供給を断たれた彼の中の「アルファ寄生体」はパニックに陥り、生き残るために宿主自身の蓄えを消費し始めたのだ。
「何をした?!」親父が叫んだ。もはや優越感はない。自身の臓器不全を感じている、死すべき定めの男の生々しい恐怖だけがあった。「お前は彼女を殺した! 新しい世界を殺したのだ!」
死んだ繭から腕を引き抜く。踵を返し、自らを神と名乗った男が自身の腐敗の中にひざまずくのを見下ろした。
「古い世界はもう死んでいたんだよ、親父」床からミスリルのメスを拾い上げ、彼に歩み寄る。「そしてアンタの新しい世界は、衛生検査を通過できなかった」
塔の基部からの巨大な爆発で、部屋が揺れた。ドレッドノート・トラックが今まさに主要構造を貫通したのだ。塔が崩れ落ちようとしていた。
エリオは骨の刃を持ち上げようとしたが、震えており、数分前に俺が吐き出したのと同じ黒い体液を咳き込んでいた。『進化の頂点』は、多臓器不全で死にかけていた。
メスを振り上げる。俺の手首にためらいはなかった。
「ヴェラス先生。患者は末期的な不全に陥った。死亡時刻を宣告する時間だ」




