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静寂の境界線と血を流す草

ミナスジェライスは丘の海だと言われている。

彼らは間違っていた。

ミナスジェライスは「肺」の海だ。


『ドレッドノート』はマンチケイラ山脈を登り、海岸の塩気を含んだ霧を背後に残していった。俺たちの車両はもはや単なる装甲トラックではない。移動する戦争の大聖堂だった。


黒いキチン質の装甲は今や、(笛吹き男の艦隊の戦利品である)ヨーロッパの水晶板とペトロポリスの蒸気ピストンと融合していた。ヴァレリアは、この輸送車を水、空気、そして……血を浄化できる自給自足の研究所へと改造していたのだ。


俺は助手席に座り、新しい左腕のキャリブレーションを調整していた。


黒水晶の義手は静かに羽音を立てていた。皮膚はない。火山ガラスでできた半透明の骨格の中を、心臓の鼓動に合わせて脈打つ紫色の光の繊維が満たしている。


冷たかった。肩から這い上がり、肝臓の寄生体を麻酔しようとするような冷気だ。


「触覚感度、98%」水晶の指を曲げながら俺は呟いた。「神経遅延レイテンシ、ゼロ」


「綺麗だね」後部座席からルナが言った。彼女は自分の声を増幅させるマナの宝石が埋め込まれた音波の杖を磨いていた。「でも、レヴィアタニアの子供たちは怖がるわよ」


「俺は子守をするために雇われてるんじゃない。諸悪の根源を絶つために雇われてるんだ」俺は地平線を見た。「そして、その根源はすぐそこにある」


州境にある山脈の頂上に到着した。


ヴァレリアがドレッドノートにブレーキをかけた。(今や静かで効率的になった)エーテル・エンジンがアイドリング状態に入る。


「アーサー……」ヴァレリアがフロントガラスを指差した。「地図じゃ、ここから『セラード(サバナ気候帯)』が始まるはずだよ。背の低い草木、ねじれた木々、乾いた土壌……」


「古い地図はもう役に立たないよ、ヴァレリア」


目の前で、「セラード」は消滅していた。


代わりに広がっていたのは、『異常発達した密林ハイパートロフィック・ジャングル』だった。


セコイアのような太い幹を持つ巨大な木々には、色鮮やかな羽毛のような葉が生い茂っていた。草は緑色ではなく、深いワインレッドで、まるで生肉の畑のように高く波打っていた。


そして静寂……。


鳥はいない。コオロギもいない。風もない。


「エンジンを切れ」俺は命じた。「耳を澄まそう」


静寂を破ったのは、風景の「呼吸」の音だけだった。


丘陵がゆっくりと隆起し、沈み込む。


吸って。吐いて。


【 環境分析:酸素濃度が通常より40%上昇 】

【 花粉警告:幻覚性胞子を検知 】


「マスクをつけろ」生物学的フィルター付きのマスクを装着しながら言った。「ここの空気は、人を殺す前にハッピーな気分にさせるぞ」


「なんの匂いだい?」グリッスルがマスク越しに鼻をすする。「ミルクと……葬式の香水の匂いがする」


保育器インキュベーターの匂いだ」ドアのロックを解除した。「グリッスル、ヴァレリア、援護を頼む。ルナ、俺と一緒に来い。土壌のサンプルを採取する」


トラックから降りた。ブーツがふかふかした地面に沈み込む。


それは土ではなかった。『筋肉の腐植土フムス』だ。黒土と、急速に分解が進む繊維組織の混合物。


近くの木まで歩いた。幹が脈打っている。


メスを抜いた(今は水晶の手首に磁力で装着されている)。樹皮に切り込みを入れる。


樹液は出なかった。温かい血が流れ出した。


「全部、肉でできてるのね」ルナが嫌悪感に顔をしかめながら囁いた。「森全体が一つの生き物なの?」


「一つの生き物じゃない」数秒で傷が塞がっていく木を観察しながら訂正した。「免疫システムだ。親父は怪物を野放しに作ったわけじゃない。生態系そのものを作り変えたんだ」


突然、目の前の赤い草むらが開いた。


何かがやってくる。


トラックの屋根にいたグリッスルが銃座を回転させた。


「12時の方向に動く影! あれは……牛かい?」


一匹の生物が森から現れた。


カバほどの大きさがあった。頭部は牛で、磨かれた象牙の角が生えている。しかし、体は……。


体は黄金の鱗に覆われ、背中では6枚のトンボの羽が羽音を立て、重い巨体を地上50センチの高さに浮遊させていた。


生物の乳房からは輝く青い液体が滴り落ち、それが地面に触れると瞬時に花が咲いた。


【 種族:牛型智天使ボヴィン・ケルビム

【 役割:種まき、およびマナミルクのタンク 】


「綺麗……」ルナが警戒を解いた。


「触るな」俺は警告し、水晶の腕が警告の紫色に輝いた。「自然界において、鮮やかな色は『俺は毒を持ってるぞ』っていうサインだ」


その「天使の牛」は、昆虫のような複眼で俺たちを見た。鳴き声を上げた。だがその音は牛の鳴き声ではなかった。無線周波数の音だった。


『ガガッ……侵入者アリ……セクター7……ガガッ……』


「こいつは生物学的なドローンだ」俺は気づいた。「今、俺たちを通報したんだ」


地面が揺れた。


周囲の木々が動き始めた。枝が腕のように伸びてきて、俺たちを掴もうとする。


そして茂みの中から、『庭師ガーデナー』たちが現れた。


人間ではない。キメラだ。


樹皮の肌と4本の腕を持つ長身の人型生物。2本の腕は園芸用の道具(巨大なハサミや鍬)を握り、残りの2本の腕は棘を放つ有機的なライフルになっていた。


「剪定が必要ナリ!」木材が割れるような声で、彼らは一斉に叫んだ。


「防衛態勢!」俺は叫んだ。


一人の庭師がルナに向かって突進し、巨大なハサミで彼女の首を刎ねようとした。


「腐った枝は切り落とす!」


ルナが叫び声を上げると、音波のパルスが木々の「羽の葉」を爆発させた。庭師は怯んで後退する。


俺は前に出た。


メスは使わなかった。新しい腕を使った。


寄生体が水晶を通してマナを流し込む。


【 プロトコル:接触結晶化コンタクト・クリスタリゼーション


庭師の胸を殴りつけた。


水晶が奴の木材の「肌」に触れる。


効果は即座に現れた。紫色の輝きが怪物の体に広がり、柔軟なバイオマスを脆いガラスへと変えていく。


奴は凍りつき、彫像と化した。


体を反転させ、その彫像を蹴り飛ばす。


ガシャァァン。


庭師は有機ガラスの千の破片となって砕け散った。


「使えるな」腕の冷たい力を感じながら、俺は微笑んだ。「ヴァレリア、撃ちまくれ!」


ドレッドノートが火を噴いた。反物質の弾丸(今は弾薬が限られているが)が、トラックを押し潰そうとする木々を消し去っていく。グリッスルは大鉈を構えて庭師たちの真ん中に飛び込み、木と肉でできた手足や首を切り落としていった。


「数が多いよ!」赤い樹液まみれになったグリッスルが叫んだ。「地面から生えてきやがる!」


「アーサー!」無線からヴァレリアが呼んだ。「レーダーに巨大なエネルギー反応が近づいてる!」


「怪物じゃない。あれは……建造物だ」


木々が道を空け、広大な空き地が現れた。


そこにはそれがあった。


『肉の城壁』。


絡み合った筋肉と骨で作られた高さ10メートルの壁が、内陸への道を塞いでいた。


そして城壁の頂上、生きた根で作られた玉座に、一人の男が座っていた。


彼は非の打ち所のない白いスーツを着ており、ズボンの裾だけが土で汚れていた。血のようなワインが入ったグラスを片手に、古い本を読んでいる。


60歳くらいに見えたが、その目は若々しく、残酷だった。


「エリオ・ヴェラス」俺は囁いた。俺が燃やした写真と同じ顔だ。


彼は本を閉じた。微笑んだ。胃がひっくり返るような、父親の微笑みだ。


「アーサー!」彼の声に拡声器は必要なかった。森そのものが彼の言葉を反響させた。「遅かったな。夕食が冷めてしまったよ」


「新しいおもちゃを持ってきたようだな。ガラスの腕か? ペットのオーク? そして……ああ、ライバルの科学者の娘もいるね」


彼は立ち上がった。


「エデンへようこそ、我が子供たちよ。入る前に足の泥を落としてくれ。私は外部からの汚染が嫌いでね」


彼は指を鳴らした。


肉の城壁が門のように開いた。


だが、その後ろに楽園パラダイスはなかった。


そこにあったのは、純粋な生物学で作られた都市だった。呼吸する建造物。ゴミを消化する道路。


そして中央には、むき出しの心臓のように脈打つ巨大な塔がそびえ立ち、雲のへその緒で空と繋がっていた。


「入りなさい、アーサー」エリオは誘った。「本物の『進化』がどのようなものか、見に来なさい」


「それとも、外に留まって私の肉食ベゴニアの肥料になるかい?」


俺はチームを見た。


完全に包囲されている。森は奴のものだ。空気も奴のものだ。


だが、俺の手に握られたナイフは、俺のものだ。


「入ろう」俺は無線で言った。「だが、エンジンはかけたままで。引き金からは指を離すな」


「親父殿はおしゃべりをご所望だ。あいつが血を流すかどうか、確かめてやろうじゃないか」


ドレッドノートはエリオ・ヴェラスの領域へと前進した。


静寂の境界線は、すでに背後に過ぎ去っていた。


今、俺たちは獣の腹の中にいる。そしてその獣は、俺たちを「子供」と呼んでいる。



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