バベルの塔と静寂の叫び
コア・チャンバー内の寒さは、大気によるものではなかった。量子的なものだった。
それは原子の振動さえ止めさせる種類の寒さだ。エントロピーが死滅する場所だ。
俺は左足を引きずりながら部屋に入った。(寄生体によって粗雑に焼灼された)腕の切断面から滴る血は、磨かれた金属の床に触れる前に凍りつき、赤い真珠となってビー玉のように転がった。
部屋はスクリーンとサーバーで構成された完璧な球体だった。中央には、機械の子宮を思わせる太いケーブルで吊るされた、笛吹き男のタンクがあった。
光ファイバーの少年が、青い羊水の中に浮かんでいる。彼に口はなかったが、その声は空間のあらゆる立方センチメートルを満たしていた。
『肉体の非効率性は興味深い』笛吹き男がタンクの中で回転し、俺の方を向いた。そのLEDの瞳がアルゴリズム的な好奇心で輝いている。『お前は体重の18%を失った。中核体温は33度。神経系は自身が運ぶコードによって94%破損している。それなのに……まだ歩いている』
『なぜだ?』
「電源オフのボタンなんてついてないからさ、この飾り立てられた電子レンジめ」
俺はタンクから10メートルのところで立ち止まり、唸った。彼が放つデジタルオーラの圧力は圧倒的だった。
『バベルのコードを注入しに来たのだな』天気予報を読むような口調で笛吹き男が断言した。『ヴィレラ博士のウイルス。混沌。エゴ』
『それが我が艦隊の個性を回復させると考えている。彼らに再び痛みを感じさせようとしている。それが……「優しさ」だとでも言うのか?』
「優しさじゃない。医療行為だ」俺は咳き込み、血と混ざった緑色のピクセルを吐き出した。「痛みは身体の警報システムだ。痛みを取り除くことは、何かが間違っていると知る能力を奪うことだ。お前はあの人たちを救ったんじゃない、笛吹き男。お前は彼らを、破損したzipファイルに変えただけだ」
『私は彼らを孤独から救ったのだ!』デジタルの声が大きくなり、周囲のスクリーンが赤く明滅した。『私は彼ら全員を接続した! 私のネットワークの中では誰も一人で死ぬことはない! 兵士が倒れれば、全員が彼の平穏を感じる。子供が泣けば、全員が瞬時に慰める!』
『私は楽園を創ったのだ、アーサー・ヴェラス! お前は地獄を引き戻そうとしている!』
彼がタンクの中から繊維の手を伸ばした。
床から銅の蛇のようなケーブルが飛び出し、俺の皮膚に接続され、キチン質の外骨格を突き破った。
【 システム警告:直接侵入 】
【 強制アップロード試行 】
『私の作品を破壊させはしない』笛吹き男が言った。『お前を同化する。バベルのコードを取り込み、デバッグし、お前の寄生体を使って私のネットワークを生物学へと進化させる』
精神が吸い出されるのを感じた。
スターリングの攻撃とは違った。規模が違う。コップ一杯の水の中に、データの海が入り込もうとしている。
集合精神の全体像が見えた。何百万もの声がユニゾンで、単調で終わりのない子守唄を歌っている。恐怖はない。喜びもない。ただ「存在」だけがある。
サイバネティックな目がオーバーヒートし始めた。寄生体が絶叫し、魂に侵入してくるデジタル・ケーブルに噛み付こうとする。
『受け入れろ、アーサー』少年が目で笑った。『ウイルスを渡せ』
俺は笑い返した。デジタルの血で汚れた歯を見せる、壊れた笑顔だ。
「ウイルスが欲しいのか?」俺は囁いた。「なら持って行け」
「だが、そいつは一人じゃ来ないぞ」
人間のほうの目を閉じた。
笛吹き男が決して理解できない、たった一つのことに集中した。
論理ではない。コードではない。
「怒り」だ。
親父が世界を実験室に変えたことへの怒り。スターリングが泣くのを見た怒り。腕を失った怒り。世界の重荷を背負わなければならない怒り。
純粋で、利己的で、人間的で、汚らわしい怒りだ。
【 アップロード:フルパケット 】
彼が作った接続を通して、すべてを押し込んだ。
バベルのコードだけではない。俺自身の感情的なゴミ溜めも一緒に。
笛吹き男がタンクの中で仰け反った。
『な……無効なデータ! 構文エラー!』
『これは……憎しみ? これは……恐怖?』
「それが人間になるってことだ!」
ウイルスが俺の体から抜け出し、彼の中へと流れ込むと同時に、俺は膝から崩れ落ちた。
連鎖反応が始まった。
バベルのコードが中枢コア(セントラル・コア)を直撃した。
集合精神の「子守唄」が、不協和な悲鳴によって中断された。
笛吹き男のネットワークに接続されていたすべての兵士、すべての船員、すべての子供が、突如として自身のアイデンティティを取り戻した。一斉に。
それはバベルの塔だった。
統一されたコミュニケーションが砕け散った。
何百万もの声が、異なる言語で、異なる恐怖で、異なる痛みで叫び始めた。
笛吹き男のタンクが沸騰し始める。液体窒素が蒸発していく。
『止まれ! 離れるな! 分離するな!』少年が叫んだ。声が途切れ、ノイズに満ちている。『こんな騒音、処理できない!』
「パーティへようこそ」部屋の明かりが一つずつ破裂していくのを見ながら、俺は呟いた。
笛吹き男は切断しようとした。だが、ウイルスの重荷から解放された俺の寄生体が、接続を掴んで離さなかった。
【 データ捕食。フレーバー:復讐 】
共生体が流れを逆転させた。俺の体を治癒するために、サーバーからエネルギーを吸収し始めたのだ。
解放された何百万ものエゴの混沌に圧倒され、笛吹き男は最後にもう一度俺を見た。
彼のLEDの瞳が明滅した。
『僕は……独りだ』
ガシャァァン。
タンクが爆発した。
少年の光ファイバーの体は何千もの解れた糸となって崩れ落ち、糸の切れた操り人形のように濡れた床に落ちた。
部屋は闇に包まれた。
赤い非常灯だけが回転している。
そして、音が戻ってきた。
デジタルの音ではない。
人間の音だ。
叫び声。泣き声。
『最後の吐息』のすべての階層から。外にいる艦隊のすべての船から。
人々は水晶の悪夢から目覚めつつあった。そして、彼らは恐怖していた。
船が激しく傾いた。反物質スタビライザーを制御する集合精神を失い、巡洋艦は漂流していた。
立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。
寄生体は盗んだエネルギーを使って腕の傷を塞ぐのに忙しすぎて、俺を立たせておく余裕がないようだ。
部屋の扉が開いた。
グリッスルとヴァレリアが武器を構えて駆け込んできた。
「アーサー!」ヴァレリアが凍った床で足を滑らせながら俺の元へ来た。「何が起きたの? 外の明かりが消えた! 氷の橋が溶けてるよ!」
「あいつは落ちた」俺は部屋の中央にある濡れた配線の山を指差した。「システムが再起動したんだ」
グリッスルは周囲を見回し、廊下から聞こえてくる叫び声の不協和音に耳を傾けた。
「外は精神病院みたいだよ。パニックで殺し合いになってる」
「自由の副作用さ」俺は深呼吸をし、「暖かい」(マイナス20度だが)空気が肺に入るのを感じた。視界から緑色のコードが消える。目は正常に戻っていた。「彼らは自分が誰かを思い出したんだ。そして、寒くて腹が減っていることも思い出した」
「これからどうするの?」俺が座るのを手伝いながらヴァレリアが聞いた。
「これから……トリアージ(選別)の始まりだ」俺は失われた腕を見た。「だがその前に……コーヒーが必要だ。それともっとマシな止血帯もな」
船が震えた。
ハイブ(巣)との戦争は終わった。
だが、核技術で武装した50万人のトラウマを抱えた難民による人道危機は……たった今、始まったばかりだ。
「ようやくか……」
アドレナリンが引いていく中、俺は目を閉じて囁いた。




