表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/72

戦術的血栓とガラスの海

アララス山脈の頂上からの眺めは、かつては絵葉書のようだった。今では、末期患者のレントゲン写真のように見えた。


死骸の大陸カルカッサ――石化した骨と肉でできた俺たちの島――は、激しい包囲攻撃を受けていた。音のない反物質のビームが夜空を切り裂き、『脱出エクソダス艦隊』から放たれている。黒い光が触れた場所では、レヴィアタニアのバリケードが単に存在しなくなった。爆発はない。ただの「消去」だ。


黒水晶ブラック・クリスタルの橋は今や、巡洋艦『最後の吐息』と「肋骨海岸」を直接繋ぐ氷河のハイウェイとなっていた。何千もの『空洞ホロウ』が完璧な同期で行進している。それは俺たちの故郷の心臓に冷たい毒を直接注入する動脈だった。


防衛状況ステータスは」


ドレッドノートのキャビンに俺の声が響いた。その音は金属的で、ノイズ交じりだった。左目は蛍光グリーンに明滅し、戦術ベクターマップを脳に直接投影している。


「前線は崩壊したよ」ヴァレリアが指の関節が白くなるほど操縦桿を握りしめた。「カニ戦車シリス・タンキ部隊はリヴァイアサンの歯の防衛線まで後退してる。ペトロポリスの蒸気砲じゃ、敵の船まで射程が届かない!」


「奴らが病気だ。なら俺たちは血栓コアクグロになる」俺は言った。『バベルのコード』の論理が俺の恐怖を麻酔し、純粋な戦争の数学へと変換していく。「ヴァレリア。氷の橋への直通ルートだ。最大迎撃速度」


「アーサー、橋は兵士で埋め尽くされてるし、反物質の砲塔だらけよ!」俺の冷酷さに怯えながらルナが割って入った。「半分も行かないうちにトラックごと蒸発させられちゃうわ!」


「されない。俺にはパターンが見える」


嘘ではなかった。肝臓のウイルスは俺を殺しつつあったが、同時に笛吹きパイパーの集合精神の周波数へのアクセスを俺に与えていた。反物質砲塔の照準線が、発射の数秒前に形成されるのが見えるのだ。拡張された視界の中で交差する、赤いレーザーの糸だ。


【 敵の射撃軌道を計算中 】

【 誤差範囲:2% 】


「俺の操縦指示に従え、ヴァレリア。ミリ秒単位でな」


トラックのダッシュボードに触れた。寄生体はウイルスとの絶望的な休戦状態に入り、俺の汚染された神経とドレッドノートのシステムを接続した。


トラックは黒鋼の流星のように山脈を駆け下り、ブラジル大通りの瓦礫のスロープを飛び越え、黒水晶の橋の根元に直接着地した。


履帯の下で氷がひび割れる。


「グリッスル。歩兵を掃除しろ」俺は命じた。


「喜んで、ブルースクリーン先生!」グリッスルが上部ハッチを蹴り開け、改造ハープーン砲の銃座についた。彼女が撃つのは徹甲弾ではない。超高温のエーテル・シリンダーだ。


橋を前進する。


ホロウたちが一斉に振り返った。何百もの磁場封じ込めライフルが俺たちに向けられる。


「右、30度! 2秒!」俺は叫んだ。


ヴァレリアが操縦桿を引く。ドレッドノートが氷上でドリフトした。その1ミリ秒後、3本の反物質ビームが俺たちのいた空間を消去し、虚ろな羽音を立てて冷たい空気を切り裂いた。


「左! アクセル!」


黒いガラスの海を縫うように進む。グリッスルが砲撃し、水晶の兵士の列を青い破片と凍った肉片へと爆破していく。ルナは装甲の隙間から杖を突き出し、短い音波パルスを放って敵の足元の氷の床を粉砕し、何十人もの兵士を暗い湾の水へと叩き落としていた。


俺たちは海の真ん中で、魔法の橋の上を運転し、物質を消去する光線ビームを避けていた。人生で最も狂った外科手術だった。


「200メートル先に重砲塔!」デジタルの視界がクリティカルな赤色に点滅した。笛吹き男が俺たちのパターンに気づいたのだ。巡洋艦の主砲塔が、俺たちのエンジンブロックに直接狙いを定めている。


「あれは避けられないよ、アーサー! 拡散範囲が広すぎる!」ついにエンジニアとしての冷静さを崩し、ヴァレリアがパニックに陥って叫んだ。


「ルナ」部分的にサイバネティック化した顔を彼女に向けた。首の黒い血管が脈打っている。「水晶の共鳴周波数だ。目の前の橋を壊せ。今すぐ」


「でも、海に落ちちゃうわよ!」


「やれ」


ルナはためらわなかった。進行方向の氷の床に直接杖を向け、壊滅的な音波の叫びを放った。


ガシャァァァン!


黒水晶の橋が砕け散り、幅10メートルの裂け目ができた。


ドレッドノートが穴へと真っ逆さまに落ちる。


落下したまさにその瞬間、巨大な反物質のビームが俺たちの頭上を通過し、1秒前まで俺たちが占めていた空間を蒸発させた。


冷たい海面に激突する。


熱ショックは残酷だった。サスペンションが軋み、装甲の隙間から水が浸入し始める。


「流体力学スラスター! アスファルトの潜水艦、アクティブモード!」ダッシュボードでコントロールを起動した。


履帯が止まる。後部のエーテル・エンジンが水中で回転した。トラックは機械のサメのように跳躍し、すぐ先の氷の穴から浮上した。旗艦『最後の吐息』の船体まで、すでに50メートルを切っている。


「防衛線を突破したよ!」ずぶ濡れになりながら、グリッスルがヒステリックに笑い声を上げて歓喜した。


しかし、その船は垂直な鋼鉄の壁と、難攻不落の氷だった。「駐車」する場所などない。


「ヴァレリア、最大出力! 船体にぶつけろ!」俺の手は震えていた。『バベルのコード』の感染レベルは92%に達している。生物学的な視界(右目)がぼやけ始めていた。俺は分刻みで人間性を失いつつあった。


ドレッドノートは最後の水面を飛び越え、巡洋艦の側面に正面衝突した。


ブラッドスチール(血の鋼鉄)の破城槌が古い金属と黒い氷を貫き、10トンのダニのようにトラックを船体に食い込ませる。


金属的なうめき声を上げてエンジンが死んだ。


キャビンの照明が点滅し、そして消えた。


「アクセス確保」俺はシートベルトを外しながら言った。白衣からミスリルのメスを取り出す。


「アーサー、私たちも行くわ!」ルナが俺の腕を掴んだ。彼女の手は温かかった。俺の手は死体のようだっただろう。


「ダメだ。『バベルのコード』は範囲ウイルスだ。俺がコアにこれをダウンロードしたとき、爆発ゾーンに君たちがいれば、ヴァレリアの脳内インプラントもルナの杖も完全にワイプ(初期化)される可能性がある」俺は彼女たちを見た。微笑もうとしたが、顔の人間側の半分しか言うことを聞かなかった。「トラックを死守してくれ。後方を頼む。もし10分経っても俺が戻らなかったら……大砲で破城槌を切り離して、海に落ちろ」


「絶対戻ってくるんだよ、このイカレ医者」グリッスルが気遣うように俺の肩を叩いた。「じゃなきゃ、アタイがそこまで迎えに行って、フライパンで殴り飛ばしてやるからね」


前部ハッチのハンドルを回した(それは今や、敵船の内部に開いた裂け目へと通じていた)。


『最後の吐息』のメインコリドーの、凍りついた金属の床に足を踏み入れる。


空気アトモスフィアが即座に変わった。戦争の喧騒は消え去り、分厚い鉛と氷の壁に阻まれて聞こえない。


内部を支配していたのは、笛吹き男のデジタルな静寂だった。


だが、無人というわけではなかった。


中央サーバー・ルームへと続く廊下を塞いでいたのは、彼だった。


スターリング提督。


半分が人間、半分が水晶。彼は海軍の儀礼剣を握っていたが、その刃は鋼ではなく、凝縮されたダークエネルギーでできていた。


『ファイアウォールは落ちたぞ、アーサー・ヴェラス』私が運んでいるウイルスそのものを介して、彼の声が私の脳に直接響き渡った。『同化は避けられない。トロイの木馬を渡せ。そうすれば、痛みのない平和を与えよう』


寄生体がそれに応えるように咆哮し、俺の空いている方の手に黒いキチン質の爪を形成した。


俺のデジタルの目が、反物質の剣をロックオンした。


「俺はシステムのバグ(エラー)だ、スターリング」片手にメス、もう片手に爪を構え、戦闘態勢に入りながら答えた。「お前のファイルをぶっ壊し(コラプト)に来たんだよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ