戦術的血栓とガラスの海
アララス山脈の頂上からの眺めは、かつては絵葉書のようだった。今では、末期患者のレントゲン写真のように見えた。
死骸の大陸――石化した骨と肉でできた俺たちの島――は、激しい包囲攻撃を受けていた。音のない反物質のビームが夜空を切り裂き、『脱出艦隊』から放たれている。黒い光が触れた場所では、レヴィアタニアのバリケードが単に存在しなくなった。爆発はない。ただの「消去」だ。
黒水晶の橋は今や、巡洋艦『最後の吐息』と「肋骨海岸」を直接繋ぐ氷河のハイウェイとなっていた。何千もの『空洞』が完璧な同期で行進している。それは俺たちの故郷の心臓に冷たい毒を直接注入する動脈だった。
「防衛状況は」
ドレッドノートのキャビンに俺の声が響いた。その音は金属的で、ノイズ交じりだった。左目は蛍光グリーンに明滅し、戦術ベクターマップを脳に直接投影している。
「前線は崩壊したよ」ヴァレリアが指の関節が白くなるほど操縦桿を握りしめた。「カニ戦車部隊はリヴァイアサンの歯の防衛線まで後退してる。ペトロポリスの蒸気砲じゃ、敵の船まで射程が届かない!」
「奴らが病気だ。なら俺たちは血栓になる」俺は言った。『バベルのコード』の論理が俺の恐怖を麻酔し、純粋な戦争の数学へと変換していく。「ヴァレリア。氷の橋への直通ルートだ。最大迎撃速度」
「アーサー、橋は兵士で埋め尽くされてるし、反物質の砲塔だらけよ!」俺の冷酷さに怯えながらルナが割って入った。「半分も行かないうちにトラックごと蒸発させられちゃうわ!」
「されない。俺にはパターンが見える」
嘘ではなかった。肝臓のウイルスは俺を殺しつつあったが、同時に笛吹き男の集合精神の周波数へのアクセスを俺に与えていた。反物質砲塔の照準線が、発射の数秒前に形成されるのが見えるのだ。拡張された視界の中で交差する、赤いレーザーの糸だ。
【 敵の射撃軌道を計算中 】
【 誤差範囲:2% 】
「俺の操縦指示に従え、ヴァレリア。ミリ秒単位でな」
トラックのダッシュボードに触れた。寄生体はウイルスとの絶望的な休戦状態に入り、俺の汚染された神経とドレッドノートのシステムを接続した。
トラックは黒鋼の流星のように山脈を駆け下り、ブラジル大通りの瓦礫のスロープを飛び越え、黒水晶の橋の根元に直接着地した。
履帯の下で氷がひび割れる。
「グリッスル。歩兵を掃除しろ」俺は命じた。
「喜んで、ブルースクリーン先生!」グリッスルが上部ハッチを蹴り開け、改造ハープーン砲の銃座についた。彼女が撃つのは徹甲弾ではない。超高温のエーテル・シリンダーだ。
橋を前進する。
ホロウたちが一斉に振り返った。何百もの磁場封じ込めライフルが俺たちに向けられる。
「右、30度! 2秒!」俺は叫んだ。
ヴァレリアが操縦桿を引く。ドレッドノートが氷上でドリフトした。その1ミリ秒後、3本の反物質ビームが俺たちのいた空間を消去し、虚ろな羽音を立てて冷たい空気を切り裂いた。
「左! アクセル!」
黒いガラスの海を縫うように進む。グリッスルが砲撃し、水晶の兵士の列を青い破片と凍った肉片へと爆破していく。ルナは装甲の隙間から杖を突き出し、短い音波パルスを放って敵の足元の氷の床を粉砕し、何十人もの兵士を暗い湾の水へと叩き落としていた。
俺たちは海の真ん中で、魔法の橋の上を運転し、物質を消去する光線を避けていた。人生で最も狂った外科手術だった。
「200メートル先に重砲塔!」デジタルの視界がクリティカルな赤色に点滅した。笛吹き男が俺たちのパターンに気づいたのだ。巡洋艦の主砲塔が、俺たちのエンジンブロックに直接狙いを定めている。
「あれは避けられないよ、アーサー! 拡散範囲が広すぎる!」ついにエンジニアとしての冷静さを崩し、ヴァレリアがパニックに陥って叫んだ。
「ルナ」部分的にサイバネティック化した顔を彼女に向けた。首の黒い血管が脈打っている。「水晶の共鳴周波数だ。目の前の橋を壊せ。今すぐ」
「でも、海に落ちちゃうわよ!」
「やれ」
ルナはためらわなかった。進行方向の氷の床に直接杖を向け、壊滅的な音波の叫びを放った。
ガシャァァァン!
黒水晶の橋が砕け散り、幅10メートルの裂け目ができた。
ドレッドノートが穴へと真っ逆さまに落ちる。
落下したまさにその瞬間、巨大な反物質のビームが俺たちの頭上を通過し、1秒前まで俺たちが占めていた空間を蒸発させた。
冷たい海面に激突する。
熱ショックは残酷だった。サスペンションが軋み、装甲の隙間から水が浸入し始める。
「流体力学スラスター! アスファルトの潜水艦、アクティブモード!」ダッシュボードでコントロールを起動した。
履帯が止まる。後部のエーテル・エンジンが水中で回転した。トラックは機械のサメのように跳躍し、すぐ先の氷の穴から浮上した。旗艦『最後の吐息』の船体まで、すでに50メートルを切っている。
「防衛線を突破したよ!」ずぶ濡れになりながら、グリッスルがヒステリックに笑い声を上げて歓喜した。
しかし、その船は垂直な鋼鉄の壁と、難攻不落の氷だった。「駐車」する場所などない。
「ヴァレリア、最大出力! 船体にぶつけろ!」俺の手は震えていた。『バベルのコード』の感染レベルは92%に達している。生物学的な視界(右目)がぼやけ始めていた。俺は分刻みで人間性を失いつつあった。
ドレッドノートは最後の水面を飛び越え、巡洋艦の側面に正面衝突した。
ブラッドスチール(血の鋼鉄)の破城槌が古い金属と黒い氷を貫き、10トンのダニのようにトラックを船体に食い込ませる。
金属的なうめき声を上げてエンジンが死んだ。
キャビンの照明が点滅し、そして消えた。
「アクセス確保」俺はシートベルトを外しながら言った。白衣からミスリルのメスを取り出す。
「アーサー、私たちも行くわ!」ルナが俺の腕を掴んだ。彼女の手は温かかった。俺の手は死体のようだっただろう。
「ダメだ。『バベルのコード』は範囲ウイルスだ。俺がコアにこれをダウンロードしたとき、爆発ゾーンに君たちがいれば、ヴァレリアの脳内インプラントもルナの杖も完全にワイプ(初期化)される可能性がある」俺は彼女たちを見た。微笑もうとしたが、顔の人間側の半分しか言うことを聞かなかった。「トラックを死守してくれ。後方を頼む。もし10分経っても俺が戻らなかったら……大砲で破城槌を切り離して、海に落ちろ」
「絶対戻ってくるんだよ、このイカレ医者」グリッスルが気遣うように俺の肩を叩いた。「じゃなきゃ、アタイがそこまで迎えに行って、フライパンで殴り飛ばしてやるからね」
前部ハッチのハンドルを回した(それは今や、敵船の内部に開いた裂け目へと通じていた)。
『最後の吐息』のメインコリドーの、凍りついた金属の床に足を踏み入れる。
空気が即座に変わった。戦争の喧騒は消え去り、分厚い鉛と氷の壁に阻まれて聞こえない。
内部を支配していたのは、笛吹き男のデジタルな静寂だった。
だが、無人というわけではなかった。
中央サーバー・ルームへと続く廊下を塞いでいたのは、彼だった。
スターリング提督。
半分が人間、半分が水晶。彼は海軍の儀礼剣を握っていたが、その刃は鋼ではなく、凝縮されたダークエネルギーでできていた。
『ファイアウォールは落ちたぞ、アーサー・ヴェラス』私が運んでいるウイルスそのものを介して、彼の声が私の脳に直接響き渡った。『同化は避けられない。トロイの木馬を渡せ。そうすれば、痛みのない平和を与えよう』
寄生体がそれに応えるように咆哮し、俺の空いている方の手に黒いキチン質の爪を形成した。
俺のデジタルの目が、反物質の剣をロックオンした。
「俺はシステムのバグ(エラー)だ、スターリング」片手にメス、もう片手に爪を構え、戦闘態勢に入りながら答えた。「お前のファイルをぶっ壊し(コラプト)に来たんだよ」




