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肉のファイアウォール


塩水は開いた傷口に入ると染みるが、反物質によって作られた黒い氷は、ただ死を麻痺させるだけだ。


俺たちはグアナバラ湾の海水を咳き込みながら、レヴィアタニアの波止場にたどり着いた。街全体が統制されたパニック状態にあった。蒸気サイレンが吠え、ルナの『引き波の声』と混ざり合う。それはスピーカーから発せられる低く吐き気を催す周波数で、三半規管や鼓膜を持つあらゆるものの方向感覚を失わせるように設計されていた。


問題は、敵にはそのどちらも存在しないということだ。


「アーサー!」ルナが駆け寄ってきて、ヴァレリアが海から上がるのを手伝った。「音楽が効かない! あいつら、リズムを乱すための心臓の鼓動すら持ってないのよ!」


俺は背後の湾を振り返った。


脱出エクソダス艦隊』は、もはやただ停泊しているだけではなかった。『最後の吐息』や他の船は、黒水晶ブラック・クリスタルを通じて船体を融合させていた。早送りで成長する氷河のように、暗く堅固な橋が水上に形成され、艦隊と俺たちの島の「肋骨海岸」を直接繋ぎつつあった。


そして、その橋の上を行進してくるのが、笛吹きパイパーの歩兵たちだった。


空洞ホロウ』。


水晶の疫病に感染した何千ものヨーロッパ兵たち。彼らは走らない。雄叫びも上げない。完璧なユニゾンで行進し、致命的なメトロノームのような正確さでブーツを氷に打ち付けていた。


暗青色の水晶に半分侵食された彼らの顔には、憎悪の表情はなく、ただデータを処理しているだけだった。


「あいつら、力ずくでアタイらのファイルをダウンロードしに来てるね」グリッスルが髪の毛の水を絞り、背中から大鉈を引き抜いた。「防衛陣形!」


レヴィアタニアの防衛隊――カニのミュータント、銛で武装した元『高潮ハイタイド』の狂信者、そしてペトロポリスの青銅の歩哨センチネルというあり得ない寄せ集め――が、骨の波止場にバリケードを築いた。


最初の衝突は、魔法に対する物理学の惨劇だった。


味方の蒸気砲が火を噴いた。鉛と石の弾丸がホロウの最前線に直撃する。


何人かが倒れ、水晶が砕け散った。しかし、倒れた者は即座に踏みつけられ、足元の黒い氷に「吸収」され、バイオマスとして瞬時にリサイクルされた。


そして、笛吹き男の精鋭部隊が反撃に出た。


スターリング提督の近衛兵たちが、磁場封じ込めライフルを構える。


火薬の閃光はなかった。ただ、絶対的な闇の細いビームが放たれただけだ。


反物質のビームが触れた場所では、物質が存在しなくなった。身長3メートルの青銅の歩哨は胸から上が消去デリートされ、音もなく崩れ落ちた。鯨の骨で作られたバリケードの一部が消え失せ、あり得ないほど滑らかな切断面を残した。


「下がれ! 射線に立つな!」俺は叫び、グリッスルをリヴァイアサンの巨大な歯の陰に引きずり込んだ。


「これじゃ戦えないよ、先生!」ヴァレリアが息を切らし、ショットガンを確認しながら武器の無力さを悟った。「こっちが撃てば、奴らはリサイクルされる。奴らが撃てば、こっちは宇宙から削除されちゃう!」


俺の中の寄生体が振動した。笛吹き男の集合精神が、周囲の環境をデジタル信号で飽和させている。


【 戦況分析:敵は黒水晶をベースとしたローカル・エリア・ネットワーク(LAN)で稼働中 】

【 各兵士はネットワークのノードである。彼らに自由意志はない。彼らはPING(通信確認)に過ぎない 】


「奴らはネットワークだ」海岸に迫る氷の橋を睨みつけながら俺は呟いた。「笛吹き男は俺たちを殺したいわけじゃない。リヴァイアサンにケーブルを繋いで、島を『フォーマット』し、熱を持ったサーバーとして使いたいんだ」


「奴らがこっちのハードウェアにプラグインしたいなら、ウイルスをくれてやろう」


俺は足元の地面を見た。俺たちはリヴァイアサンの石化した歯茎の上に立っている。


「ヴァレリア、この巨大生物の末梢神経系には、まだ魔法の伝導性があるか?」


ヴァレリアは目を丸くした。エンジニアとしての彼女の頭脳が、俺の医学的な論理に追いついたのだ。


「肉は石化してるけど、巨大な神経の中のマナの経路はまだ銅線みたいに機能するよ。街の照明をつけるのにも使ってるし!」


「その通りだ。島全体が、死肉でできたマザーボードなんだ」俺はヴァレリアが設置したあり合わせの電力ケーブルの一つに走り、骨のコンセントからそれを引き抜いて、青みがかった太い『深淵の神経』を露出させた。「ルナ、ここに来てくれ!」


ルナが滑るように近づいてきた。ほんの数メートル先では、反物質のビームが波止場の一部を消去している。


「どうすればいい? 死体にファンクでも歌うの?」


「そんなところだ!」右手のグローブを外した。寄生体が俺の手を黒いキチン質と接種針で覆う。「笛吹き男は『秩序』で動いている。0と1。静寂と同期。だが俺たちは『混沌』だ。肉、痛み、バグ、そしてノイズだ」


「俺の神経系をリヴァイアサンの神経系にプラグインする。俺がモデムになる。君はその杖を俺の胸に当てて、出せる限り最も混沌として、不協和音で、生物学的に『汚い』音を歌ってくれ」


「奴らが踏みしめている地面に、魔法のDDoS(分散型サービス拒否)攻撃を直接ぶち込む。肉のファイアウォールだ」


「アーサー、もし私の全力の叫びをあなたの体内に入れたら、内臓がパテになっちゃうわよ!」彼女は躊躇した。


「寄生体が再生してくれる。だが島は再生しない。やれ!」


俺はリヴァイアサンの巨大神経に直接素手を突き立てた。


接続は一瞬で、吐き気を催すものだった。島ほどの大きさの「幽霊」を感じた。信号を待つ死んだ接続の広大な広がり。


【 インターフェース確立 】

【 混沌としたデータパケットのアップロードを待機中 】


ルナは破れたシャツ越しに、杖の水晶の先端を俺の胸骨に直接当てた。彼女は深呼吸をし、目を閉じ、内に秘めていたあらゆる苛立ち、恐怖、人間の汚泥を解き放った。


それは音符ではなかった。純粋な生物学的ノイズの金切り声だった。


音が体内に侵入する。


肺が潰れ、肋骨が砕けそうに振動するのを感じた。寄生体は苦痛にうめき声を上げたが、その役割を果たした。音響エネルギーを魔法的電磁パルス(PEM)に変換し、俺の腕を通して島の神経へと直接押し流したのだ。


レヴィアタニアの街の地面が、地中の稲妻のように広がる赤と紫の光の脈で輝いた。


パルスは島の境界を駆け抜け、黒水晶の橋が海岸に接しているポイントに直接激突した。


その反応は、システム衝突のスペクタクルだった。


ルナの有機的な「ノイズ」がリヴァイアサンの死体によって増幅され、笛吹き男の完璧にクリーンなネットワークに侵入した。


スイス時計の歯車に泥を投げ込むようなものだった。


氷の橋にヒビが入る。


島へ行進していたホロウたちが急停止した。完璧な同期が終わった。彼らの顔の水晶が、青と赤の間で激しく点滅する。


頭に手を当て、悲鳴を上げ始める者もいた。それが彼らの発した最初の音だった。ネットワークからのフィードバックで、有機的な脳が焼き切れているのだ。


そのままシャットダウンし、地面に硬直して倒れる者もいた。


兵士との神経接続に依存している反物質ライフルもロックされた。


「ファイアウォールが上がったよ!」海岸で敵の進軍が崩壊するのを見て、ヴァレリアが歓声を上げた。


「グリッスル! 掃除クリーンアップだ!」俺は血を吐きながら膝をつき、神経との接続を切断してどうにか声を絞り出した。


オークに二度言う必要はなかった。敵が気絶し、反物質が停止した今、純粋な暴力が再び戦場の女王となった。グリッスルとレヴィアタニアの防衛隊はひび割れた橋を前進し、システムが「再起動リブート」する前に麻痺したホロウたちを粉砕していった。


遠く『最後の吐息』の甲板で、スターリング提督の姿が後退した。


橋の黒水晶は前進を止め、生物学的なノイズによって接続を断たれ、端から溶け始めた。


奴らを撃退したのだ。第一波は失敗に終わった。


ルナが俺の隣にへたり込み、しわがれた声で喘いでいた。


「うまくいった……。ハッキングしてやったわ」


「時間を稼いだだけだ」ヴァレリアの助けを借りて立ち上がりながら俺は訂正した。自分たちのトラックに轢かれたかのように、全身が痛む。「奴らのルーターをフリーズさせた。だが中央サーバーは——」俺は旗艦を指差した。「——まだ無傷だ」


音響ショックから回復しつつある寄生体が、暗い報告を送ってきた。


【 警告:敵は機械学習マシンラーニングプロトコルを所持している 】

【 「ノイズ」戦術は二度は通用しない。敵システムは約48時間以内に免疫パッチを開発する見込み 】


「笛吹き男は適応する」俺は顎の血を拭った。「2日後には、音響魔法と神経攻撃に対する絶縁コーティングを施した黒い氷が戻ってくる。そして次は、行進なんてしない。遠くから島全体を蒸発させるだろう」


「じゃあ、どうするんだい?」青い水晶の粉まみれになったグリッスルが戻ってきた。「奴らの船に乗り込んで、メインの電源ケーブルでもぶった切るかい?」


「船と笛吹き男のところにたどり着くには、反物質の海を渡らなきゃならない。力ずくだけじゃ無理だ」


街の廃墟と、周囲のあり合わせのテクノロジーを見回した。


「笛吹き男が終末世界におけるAIの頂点なら……奴と同じ言語を話し、かつ俺たちの味方として戦ってくれる『知能インテリジェンス』が必要だ」


「アーサー、地球上にもうAIなんて存在しないわよ」ヴァレリアが首を横に振った。「『ゼロの日』に、次元の裂け目からのパルスがすべてを焼き切ったんだから」


「すべてじゃない」親父の録音テープの会話を思い出した。「エリオ・ヴェラスには同僚がいた。崩壊前に人類のインターネットのバックアップを取ろうとした、サンパウロのライバル科学者だ。噂では、彼は何かを救うことに成功したらしい」


「遠足に出かけることになりそうだな。『コードの中の幽霊ファントム』を見つけなきゃならない」

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