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深淵の眼科学

救世主キリスト像は空洞だ。鉄筋コンクリートの構造の上に滑石ソープストーンの外殻を被せているに過ぎない。


だが今、その殻は静脈で満たされていた。


ヴァレリアとグリッスルが心臓部の踊り場で防衛線を張っている間、俺とルナは像の首へと続く螺旋階段を駆け上がっていた。


背後で、金属に弾ける静電気の音が響く。


「《御眼ザ・サイト》を冒涜させるものか!」


守護者が叫び、トライデントから放電した。


「ヴァレリア! ファラデーケージだ!」


俺は振り返らずに叫んだ。


携帯用発電機が起動する音と、電磁力場が雷撃を吸収する低い唸り声が聞こえた。


「さっさと行きな、ドクター!」


ヴァレリアがショットガンを撃ちながら咆哮した。


「このハイヒール履いたウナギ女、速いよ!」


俺たちは登った。


像の内部は熱く、湿っていた。コンクリートの壁が、粘着質の赤みがかった液体を汗のように流している。


結露ではない。《硝子体液しょうしたいえき》だ。


像全体が巨大な感覚器官に変質しつつあるのだ。


「アーサーさん」


すぐ後ろでルナが息を切らした。階段のスペースは狭い。


「耳に圧力を感じます。まるで海に潜ってるみたい。登ってるのに」


「マナ密度だ」


俺は測定器を確認して説明した。


「頭上の『灯台』が魔法的大気を圧縮している。深海をシミュレートするために高圧ゾーンを作り出しているんだ。空から来る『何か』に、ここがホームだと感じさせるためにな」


首のレベルに到達した。


階段は、カメラの絞り(アイリス)に似た円形のハッチで終わっていた。


それは脈動し、生物的なリズムで開閉している。


「生きてます」


ルナが後ずさった。


「筋肉の括約筋スフィンスターだ」


俺はメスと、《濃縮筋弛緩剤》(フグ毒だ)の瓶を取り出した。


「強制的に拡張させるぞ」


液体をハッチの縁に注いだ。筋肉組織が痙攣し、紫色に変色して弛緩し、通路が開いた。


中から漂ってきた臭いは耐え難いものだった。腐った潮風と濃縮ヨウ素の臭いだ。


頭部へと登った。


本来なら、キリスト像の頭部は空っぽのメンテナンススペースであるはずだった。


だがそこは、肉の部屋だった。


壁は脈動する灰色の脳組織で覆われ、首を通って下へと続く光ファイバーケーブル(下の「方舟」への神経系だ)に接続されていた。


そして中央、像の目が位置すべき場所を占拠していたのは、《眼》だった。


機械ではない。直径二メートルの巨大な生物学的眼球が、羊水タンクの中に浮かんでいる。


まぶたはない。瞳孔は爬虫類か原始的なサメのように垂直に割れている。


それは強烈な赤い光を放ち、半透明化した滑石を透過して、外の湾を照らしていた。


【 器官分析:深淵のクラーケンの眼 】

【 状態:移植および魔法的増幅 】

【 機能:サイキック信号プロジェクター 】


「海の怪物の目を引っこ抜いて、イエス様の頭に入れたんですか」


ルナが信じられないという顔で言った。


「独創的ですね……そして冒涜的です」


「機能的ではある」


俺はタンクへ歩み寄った。眼が回転して俺を睨んだ。瞳孔が収縮する。


頭に鋭い痛みが走った。人間のものではない、ソナーのクリック音とエコーで構成された声が、脳内に侵入してきた。


『ダレ……ダ……?』


『潮ガ……満チル……』


眼はただ見ているだけではなかった。半径百キロ以内の水中に住むすべてのものに、俺の位置情報を送信していたのだ。


「ルナ」


俺は手袋を外して言った。


「こいつを失明させてくれ」


「どうやって? 突き刺しますか?」


「ダメだ。刺せば房水ぼうすいが漏れ出して、消化酸で部屋が水浸しになる」


「光を使え」


「深淵のクラーケンの眼は、深海の完全な暗闇に適応している。光に対して過敏だ」


リュックから軍用マグネシウム・フレア(照明弾)を取り出した。


「こいつを中で焚けば、網膜を過負荷にできる。『視覚的心臓発作』を起こさせるんだ」


「だが奴は防衛しようとするだろう。精神攻撃を仕掛けてくるはずだ。俺が視神経の内部にフレアを挿入するための切開を行う間、脳を守るための対抗周波数カウンター・フリークエンシーを歌ってくれ」


「花火を使った眼科手術ですね」


ルナがバトンを強く握りしめた。


「オーケー。準備完了です」


「今だ!」


俺はフレアに点火した。


3000度で燃焼する盲目的な白色光が、肉の部屋を照らし出した。


眼は即座に反応した。瞳孔が閉じたが、十分な速さではなかった。


クリーチャーが精神的に絶叫した。


『痛イ! 光! 焼ケル!』


精神圧で鼻血が出るのを感じた。寄生体が骨のヘルメットを形成し、俺の大脳皮質を保護する。


俺は突っ込んだ。


右手にミスリルのメス、左手にフレアを持ち、タンクへと跳躍する。


眼が赤いマナ光線を放とうとした。


「音響シールド!」


ルナが叫び、振動バリアを作り出して光線を天井へと逸らした。


俺はゼラチン質の眼球の上に着地した。ブーツが膜を焼く。


「ハイ、チーズ!」


俺は叫んだ。


メスを視神経の側面に突き立て、スリットを開く。


燃え盛るマグネシウム・フレアを眼球内部にねじ込んだ。


俺は後ろに飛び退き、ルナの横に着地した。


「目を覆え!」


フラッシュ。


眼が内側から輝いた。強烈な白色光が瞳孔から、強膜から、血管から漏れ出す。


器官が沸騰した。


湿った破裂音がした。ポォン。


眼は白いゼラチンと煙の雨となって爆発した。


外の灯台の赤い光が即座に消えた。


リオデジャネイロが闇に沈んだ。


遥か下、像の基部で、守護者セイレーンの叫びがエレベーターシャフトに響き渡った。


『イヤァァァァ! 監視ヴィジルが破られた!』


像の床が激しく揺れた。


「何が起きたんですか?」


ルナがドレスについた眼の粘液を拭いながら聞いた。


「接続が切れたんだ」


俺は燻る眼の残骸を見た。


「だが信号が突然止まった。これは警告になる」


突然、ヴァレリアからの無線が耳元で弾けた。


『アーサー! そこから出な! 今すぐ!』


「どうした、ヴァレリア? セイレーンを殺したか?」


『あいつは逃げたよ! シャフトに飛び込んだ! そうじゃないんだ……』


ヴァレリアの声は恐怖に満ちていた。


『湾の水が……引いていく』


俺は像の眼があった開口部へと走り、下を見た。


ヴァレリアの言う通りだった。


グアナバラ湾が干上がろうとしていた。水が海岸から吸い取られ、沈没船や骨が散乱する泥の海底が露出していく。


逆津波だ。


「自然の津波じゃない」


空気が冷たくなるのを感じて言った。


「何かが水を吸い込んで(・ ・ ・ ・ ・)いる」


水平線の彼方、海と空が出会う場所で、水の山が隆起し始めた。


波ではない。


フォルムだ。


骨の方舟がおもちゃのボートに見えるほどのクリーチャー。


月のように輝く鱗と、雲に届く触手を持っていた。


「リヴァイアサンだ」


俺は囁いた。


「奴は道を見つけるために灯台を必要としていたんじゃない。ディナーの準備ができた時を知るために必要だったんだ」


俺たちが破壊した眼は「こっちへ来い」というビーコンではなかった。「少し待て」というビーコンだったのだ。


封じ込めの信号だ。高潮教会は儀式によって怪物を眠らせていたのだ。


眼を破壊したことで……俺たちは目覚まし時計を鳴らしてしまった。


逆説的神学リバース・セオロジーなんて大っ嫌いだ」


俺は悪態をついた。


「ルナ、降りるぞ。急げ」


「戦うんですか?」


彼女は青ざめて聞いた。


「いいや。逃げるんだ」


俺は階段を駆け下り始めた。


「ヴァレリア! トラックを出せ! 方舟なんてどうでもいい! 教会も忘れろ! あの500メートルの波が海岸を打つ前に、街を出るぞ!」


リオデジャネイロは多くのものを生き延びてきた。だが今、海の神が家賃を取り立てに来ている。


そして俺たちは、店子たなこを追い出したばかりだった。



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