即興細工(ガンビアハ)の証券取引所
かつてマラカナン・スタジアムは、ワールドカップ決勝、ロックコンサート、野外ミサの舞台だった。今日、ここは南半球最大の終末後闇市である。
楕円形のコンクリート構造はまだ立っていたが、苔とネオンカラーの落書きに覆われていた。多くの人々にとって聖地であった芝生のピッチは、今や深さ十メートルの暗い内海となり、何百ものボート、筏、自家製潜水艦が停泊していた。
スタンド席に観客はいなかった。露店があった。何千もの店が階段状にせり上がり、放射能汚染された新鮮な魚から旧時代のコンピュータ・メモリモジュールまで、あらゆるものを売っている。
ヴァレリアは、部分的に水没した選手用トンネルの入り口を通って水陸両用トラックを操縦した。
「ここはバレーパーキング代が高いよ」
彼女は警告した。入り口の交通整理をしている《シオマネキ男》のグループを見ながらだ。彼らは左手がハサミになっており、オレンジ色の駐車係ベストを着ていた。
「現金じゃ払わない」
俺は道中に合成した《海藻抗生物質》の箱を取り出して言った。
「公衆衛生で支払う」
トラックはスタジアム中央の「プール」に入った。騒音は耳をつんざくほどだった。
売り子たちの叫び声、ボートのエンジン音、四枚の翼を持つ変異カモメの鳴き声、そしてVIPボックスから流れてくるファンクとテクノ・マジックの混ざった音楽。
俺たちはペットボトルと鯨の骨で作られた筏の横に停泊した。
カニ男の一人がハサミでボディを叩いた。カチッカチッ。
「停泊料:真珠50個、または機能する手足一本だ」
彼の声は泡立っていた。
俺は窓を開け、薬の箱を投げた。
「その甲羅の真菌感染症を三日で治す薬だ。使わなきゃ来週にはハサミが落ちるぞ」
ミュータントは箱を受け取り、臭いを嗅いだ。飛び出た目が輝く。
「VIPスペースへどうぞ、ドクター。スリには気をつけな。連中はタコだ。文字通りの意味でな」
俺たちはトラックを降りた。
スタンド席の市場は感覚の迷宮だった。軽油の臭いが、イカのフライと黒魔術のインセンスの香りと混ざり合っている。
「パーツが必要なんだ」
錆びた飛行機のタービンを売っている店を見て、ヴァレリアが目を輝かせた。
「トラックの浄水器が限界だよ。マナフィルターを交換しないと、明日は泥を飲むことになる」
「あたいは食い物を探してくる」
グリッスルが空気を嗅いだ。
「燻製サメの臭いがする。それと……オレガノ?」
「警戒を怠るな」
俺は注意した。
「ルナ、一緒に来い。貴賓エリアへ上がる。《高潮教会》についての情報が必要だ」
俺たちはアクセスランプを歩いた。奇妙な店を通り過ぎる。
『ネクロマンサーの串焼き屋』:まだ微かに動いている肉の串焼きを売っている。スローガンは「噛み返してくるほど新鮮」。
『人魚の薬局』:禿げ治療から水中呼吸(副作用:股間に鱗が生える)まで約束する色とりどりの液体瓶。
『テック・マクンバ』:バッテリーに霊を封じ込めて動く壊れたiPhoneを売る男。
アーサー(寄生体)は魅了され、かつ嫌悪していた。
【 経済分析:カオス。価値は即時的希少性に基づいている 】
【 警告:住民の30%が未分類の寄生変異を示している 】
「動物園だな」
俺の死までの時間をカウントダウンする時計を売りつけようとしてくるドワーフを避けながらコメントした(あと40年と表示されていたので、楽観的だと思った)。
ボックス席の階層に到着した。
ここでは魚の臭いは消え、高価な香水と魔法空調の空気に変わっていた。自家製レーザーライフルで武装した衛兵が入入り口を塞いでいる。
かつての大統領用ボックス席の前で止まった。ドアのプレートにはこうある。
『マダム・オイスターのオフィス』
「誰ですか?」
ルナが囁いた。
「南大西洋最大の情報屋だ」
俺は白衣を正した。
「牡蠣たちが彼女に話すから、海で起きることはすべて聞こえていると言われている」
ドアの前の衛兵――コンクリートとサンゴでできたゴーレム――が石の腕を組んだ。
「予約は?」
「デバウアーの王を殺した外科医が来たと伝えろ。それと、彼女が『石灰化による消化不良』に苦しんでいることも知っているとな」
ゴーレムが躊躇した。中から、ビロードのようで危険な女性の声が響いた。
「通しなさい、ロッキー。興味があるわ」
中に入った。
豪華な部屋だった。赤いベルベットで装飾され、壁には発光魚が泳ぐ巨大な水槽がある。
革の安楽椅子に座っていたのは、マダム・オイスターだった。
巨大な女性だ。肌は真珠のように青白い。彼女に足はなく、体は玉座の役割を果たす巨大な貝殻で終わっていた。長いパイプをふかしている。
数人の召使い(金の首輪をつけた奴隷化された人間だ)が彼女を扇いでいた。
「アーサー・ヴェラス」
彼女は煙を吐いた。煙は頭蓋骨の形になった。
「潮よりも早く噂が届いているわ。アマゾンを燃やした男が、私の裏庭に足を濡らしに来たと」
「取引に来た、マダム」
俺は単刀直入に言った。
「高潮教会に探知されずに南ゾーンへ入る方法を知りたい」
マダム・オイスターが笑った。体が震え、苦痛の表情が顔をよぎる。彼女は腹部に手をやった。そこは皮膚が張り詰め、硬くなっているように見えた。
「教会ね……」
彼女は息を整えた。
「あいつらは狂信者よ。『提督教皇』がクラーケンを支配している。誰も救世主の灯台エリアには入れない。エビの心拍さえ検知する生体ソナーを持ってるわ」
「弱点はあるはずだ」
俺は食い下がった。
「どんなシステムにもある」
「知っているかもしれないわね」
彼女は意地悪く微笑んだ。
「でも情報は高いわよ。何を持ってるの? 金? マナ? エイリアンのテクノロジー?」
「手術だ」
俺は彼女の腹を指差した。
「《真珠過形成》だな。内臓の周りで防御用の真珠を過剰生産している。内側から石灰化してるんだ。ガラスを飲み込んだみたいに痛むだろ? 取り除かなきゃ、一ヶ月以内に美しくて死んだ彫像になるぞ」
彼女の笑顔が消えた。
「私の主治医たちは手術不可能だと言ったわ。殻を開ければ、出血多量で死ぬと」
「アンタの医者は肉屋だ。俺はバイオハッカーだよ」
俺はメスを抜いた。寄生体が俺の手を黒いキチン質で覆う。
「共生体の磁気を使って、切開せずに真珠を摘出できる。毛穴を通して振動させながら外に出すんだ」
マダム・オイスターは俺を見た。痛みは明らかだった。
「もし私を殺したら、衛兵たちがあなたとそこの歌姫をカニの餌にするわよ」
「交渉成立だ」
処置は二十分続いた。
グロテスクで、魅惑的だった。
寄生体を使って局所的な磁気共鳴フィールドを作り出す。
彼女の腹部に手をかざす。基本的にはカルシウムとマナの塊である真珠が反応した。
ゆっくりと皮膚まで誘導する。マダム・オイスターが冷や汗をかきながら叫ぶ。
「ルナ、音響麻酔だ!」
俺は命じた。
ルナが柔らかい音を歌い、女性の神経を麻痺させる。
ポポポポッ。
小さく完璧な白い球体がマダムの皮膚から飛び出し、召使いが持つ銀の洗面器に落ちていく。
数百個あった。魔法の宝石の財産だ。
終わったとき、マダム・オイスターは深く息を吸った。数年ぶりに痛みなく。
彼女は真珠で一杯の洗面器を見た。
「支払いはそれでいいわ」
彼女は洗面器を俺の方へ蹴った。
「私はその石ころが大嫌いなの」
「情報が欲しい」
俺は手を拭った。
彼女は安堵して背をもたせかけた。
「高潮教会は方舟を作っている。だが燃料が必要なの。奴らは《リヴァイアサンの油》を使っている」
「ペトロブラス(国営石油会社)時代の古いパイプラインがあるわ。グアナバラ湾からキリスト像の地下基地まで繋がってる。奴らはそのチューブを使って、精製された海獣の血液をポンプで送ってるのよ」
彼女はデジタルマップを投げて寄越した。
「チューブは小型潜水艦が通れるくらいの幅がある。あるいは、改造された水陸両用トラックならね」
「でも気をつけて、ドクター。パイプラインは《石油人魚》の縄張りを通ってる。あいつらは歌わない。叫ぶのよ。それに、ピッチ(松脂)と憎悪でできてる」
俺は地図と、一掴みの真珠を受け取った(現金はいつだって良いものだ)。
「リヴァイアサンの油か……」
俺は呟いた。
「救済の方舟を作ってるんじゃないな。戦艦を作ってるんだ」
「さっさと行きなさい」
マダム・オイスターは新しいタバコに火をつけた。
「それともし救世主の灯台を倒すなら……像の首を持ってきてちょうだい。私の庭に飾るのに丁度いいわ」
俺たちはトラックに戻った。
ヴァレリアはパーツを手に入れていた(ジェットスキーのエンジンと笑顔で交換したらしい)。グリッスルは食料を手に入れていた(暴力による脅迫で交換したらしい)。
「計画が決まった」
俺は地図をダッシュボードに投げた。
「石油の下水から侵入する」
「最悪」
ヴァレリアが顔をしかめた。
「トラックが何年もガソリン臭くなるよ」
「死体臭くなるよりマシです」
ルナが言い返し、後部座席に乗り込んだ。
エンジンを始動する。トラックが水上で旋回し、マラカナンを出る。
日が沈みかけており、汚れた水をオレンジ色に染めている。
南ゾーンへの道は地下、そして水中だ。
交渉フェーズは終わった。ここからは閉所恐怖症フェーズの始まりだ。
「フォグランプを準備しろ」
俺は命じた。
「世界の終わりの後、ペトロブラスのパイプの中に何が住み着いたのか、拝みに行こうぜ」




