概念焼却炉(インシネレーター)
トンネルは扉で終わっていなかった。断崖絶壁で終わっていた。
俺たちは黒曜石のプラットフォームの端に立ち、ポイント・ゼロの広大さを見下ろしていた。
単なる地下洞窟ではない。直径数キロメートルに及ぶ巨大な晶洞であり、壁面を覆うクリスタルが、暖かく盲目的な琥珀色の光で脈動していた。
ここの気温は高かったが、ジャングルの湿った暑さではない。原子炉の内部のような、乾燥した、滅菌性の熱だ。
「アーマーのガイガーカウンターが振り切れた」
ヴァレリアが手首を叩いた。
「壊れたか、ここの放射線が霊的なものか、どっちかね」
「両方だ」
俺はリュックから取り出したサングラスをかけながら答えた。
「俺たちは世界の子宮にいるんだ」
ジオードの中心、銀色の液体金属の湖の上に、《存在》が浮遊していた。
定まった形はない。プラズマと、炎と、眼球でできた蛇だ。無限のループを描いて身をよじり、自らの尾を食らい、再生を繰り返す体中に、何百もの目が散らばっている。
「ムボイタタ(M'boitatá)……」
ルナが畏敬と恐怖に満ちた声で囁いた。
「炎の蛇。伝説では、その目を見た者は発狂すると言われています」
「伝説じゃない」
俺は視線を逸らし、構造物の基部に焦点を合わせた。
「神経生物学だ。奴の目の光パターンは視覚野に過負荷を引き起こす。過剰な情報量でシナプスを焼き切るんだ」
アーサー(寄生体)は完全な沈黙を守っていた。俺の体の最も深い部分に縮こまり、何層もの死んだ細胞で身を隠している。
【 脅威:頂点捕食者。クラス:生物学的恒星 】
【 この存在はマナを消費しない。マナを生成する。デバウアーの王とは対極の存在 】
「その通りだ」
俺は庭師(そして親父)の計画を理解し、声に出した。
水銀の湖へと続く螺旋状の坂道を降りていく。
「アーサー! どこ行くんだい!?」
グリッスルが俺を止めようとした。
「あれは純粋な炎だよ! 蒸発しちまう!」
「王は飢餓のブラックホールだ」
俺は説明しながら降り続けた。
「奴は物質、マナ、そして概念を食う。ブラックホールを殺す唯一の方法は、奴の消化能力を超える大きさのものを、無理やり飲み込ませることだ」
「無限大の消化不良を起こさせるんだよ」
俺はボイタタを指差した。
「あれは永久核融合炉だ。無限のマナだ。もしあれのエッセンスを王に注入できれば……王は爆発する」
金属の湖の岸辺に到達した。熱は耐え難いほどだった。皮膚が即座に赤くなり始める。
炎の蛇が回転を止めた。
何百もの炎の目が俺に向けられた。
精神が焼かれ始めるのを感じた。銀河の誕生を見た。宇宙の死を見た。俺が生まれた日と、俺が死んだ日を見た。
俺は叫び、膝をつき、顔を覆った。
『小さな寄生虫め……』
声は外からではなかった。俺の血液の熱の中から聞こえた。
『虚無の臭いがする。敵の刻印を持っているな』
「俺が持っているのは……治療薬だ……」
俺は喘ぎ、自然発火しないよう体に強制命令を送りながら答えた。
『治療薬だと?』
蛇が笑い、水銀の湖が波打った。
『お前たち人間が封印を解いたのだ。お前たちが飢餓を呼んだ。そして今、炎に汚れを浄化させようというのか』
「浄化してほしいんじゃない」
俺は顔を上げ、目は閉じたまま、共生体のサーモグラフィー視覚を頼りにした。
「俺を使って(・ ・ ・)ほしいんだ」
蛇が降下し、俺の数センチ前で静止した。熱気があまりに強く、合成繊維の服が溶け、皮膚と融合していく。
『お前を使う? お前はヒビ割れたガラス瓶に過ぎん。私が中に入れば、お前の魂は蒸発するぞ』
「俺に魂はない」
俺は笑った。干からびた唇が裂けるような笑みだ。
「俺には寄生体がいる。こいつは適応が得意でな」
「親父、エリオ・ヴェラスは、俺を架け橋として設計した。俺は闇(寄生体)とも、光とも適合する。俺はグレーゾーンだ」
俺は破れたシャツを開いた。胸部で寄生体が顕現し、強化された黒いキチン質の肋骨で守られた空洞を作り出す。
「入れよ。俺という銃の弾丸になれ」
存在は躊躇した。俺の歪んだ生物学の深淵を覗き込んだ。
可能性を見たのだ。
俺は特異点だ。生と死の間、科学と魔法の間に存在する者。
『よかろう』
蛇はサイズを縮小し始め、数キロメートルあった体を、濃縮された液体炎の球体へと凝縮させた。
『だが知っておけ、ハイブリッドよ。炎は許可を求めない。燃やすのみだ。お前は私を発射するその瞬間まで、絶え間ない激痛の中で生きることになる』
「10歳の頃から激痛の中で生きてるよ」
俺は答えた。
「今さら増えたところで変わらないさ」
炎の球体、ボイタタの核が、俺の胸に飛び込んだ。
物理的な衝撃はなかった。
融合があった。
「グアアアアアアアアッ!!」
俺の喉から出た叫びは、人間のものではなかった。
文字通り血液が沸騰するのを感じた。皮膚を通して血管がオレンジ色に輝く。寄生体が俺の体から逃げ出そうとしたが、炎がそれを捕らえ、エイリアンの生物学を星の魔法と融合させた。
俺は地面に倒れ、痙攣した。
水銀の湖が蒸発した。ジオードが暗くなる。すべての光が今、俺の中にあるからだ。
ヴァレリア、ルナ、グリッスルがプラットフォームへ駆け寄ってきた。
「アーサー!」
ルナが触れようとしたが、手を火傷して後ずさった。
「体温が800度あります!」
俺はゆっくりと立ち上がった。
痛みは絶対的だった。呼吸するたびに、砕いた灼熱のガラスを吸い込んでいるようだ。
だが、生きていた。
肌は炭の灰のように灰色になっていた。目を開けると、そこには虹彩も瞳孔もなかった。二つの黄金の炎の炉があるだけだ。
そして胸には、肉を通して輝く蛇の回転する核があった。
アーサー(寄生体)は沈黙していた。服従させられたのだ。今や奴は、俺が溶けるのを防ぐための断熱材としてのみ機能していた。
「ドクター?」
グリッスルが恐る恐る包丁を握りしめて聞いた。
「中にいるのはアンタかい?」
自分の手を見る。指先から火花が散っている。
「部分的にはな」
俺の声は二重に響いた。炎が爆ぜる音のように。
「残りの部分は……燃料だ」
上を見る。洞窟の天井を見上げる。王を感じることができる。奴は近い。奴の飢えは北にあるブラックホールであり、こちらに向かってきている。
だが今、恐怖は感じなかった。
自分が解毒剤であると感じていた。
「武器は手に入れた」
俺は言った。
「あとは配達するだけだ」
「どうやって?」
ヴァレリアが聞いた。
「トラックは上に置いたままだよ。それに、溶かさずに何かに触るなんて無理だろ」
「トラックはいらない」
脚に蓄積されたエネルギーは狂気的だった。重力はもはや法則ではなく、ただの提案のように感じられた。
「俺がロケットだ」
「ルナ」
俺は彼女に向き直った。
「助けが必要だ。精神が燃えている。蛇の意識はカオスだ。お前の声が必要なんだ」
「安定化周波数を歌ってくれ。俺の精神を集中させ続けろ。もし制御を失えば、俺は爆発してアマゾンを道連れにする」
ルナは唾を飲み込んだ。彼女はバトンを握りしめ、頷いた。
「歴史上、最もハードコアな子守唄を歌ってあげます」
「ヴァレリア、グリッスル」
俺は出口を指差した。
「ジャングルから出ろ。できるだけ遠くへ逃げろ。俺が王とぶつかった時の爆発半径は、大陸規模になるぞ」
「お断りだね」
グリッスルが足を鳴らした。
「あたいらは一緒に始めたんだ。一緒に終わらせるよ」
「それにさ」
ヴァレリアがリモコンを見せて笑った。
「騎兵隊を呼んだんだよ」
「騎兵隊?」
上のトンネルから轟音が響いた。
根の音ではない。エンジンの音だ。
ジュレマ船長とその航空艦隊(沼地ガスと浮遊魔法で吊り下げられた平底船)が、バンカーの穴から降下してきていた。
『バーベキューがあるって聞いてね!』
ジュレマの声が響いた。
『ソースを持ってきたよ!』
俺は笑った。口から煙が出る。
「上等だ。戦争に行こうぜ」
俺は背中から熱マナのジェットを噴射し、浮き上がり始めた。
融合は完了した。
俺は《概念焼却炉》。
そしてデバウアーの王は、光るものすべてが食べられるわけではないと知ることになる。




