地理的転移(メタスタシス)
ブラジリア陥落の衝撃波は、音波ではなかった。精神波だった。
百キロ離れた国道BR-060号線の路肩にいても、俺はまだ口の中に銅の味を感じていた。世界のマナが引き裂かれた味だ。
俺たちは放棄されたガソリンスタンドにトラックを停めた。「文明への最後の休憩所」と書かれた看板は、今や悪趣味なジョークにしか見えなかった。
俺はトラックの熱いボンネットに座り、南の地平線を観察していた。
かつてソヴレニティの黄金のドームが輝いていた場所には、成層圏を突き抜ける黒と紫の煙の柱があった。首都周辺の空の色が変わっていた。青でも曇りでもない。できたての痣のような色――病的な黄色、紫、そして緑だ。
「転移だ」
俺は即席のソーラーバッテリーで動くタブレットに記録しながら呟いた。
「何て言いました?」
ルナが隣に現れた。顔は洗っていたが、隈は深い。銀色のイブニングドレスは裾が破れ、油で汚れていた。塹壕戦を生き延びたプリンセスのようだ。
「王。奴はあそこに座ってるだけじゃない。現実の組織を感染させているんだ」
俺は雲を指差した。
「あの嵐は気象じゃない。物理改変ゾーンだ。あの煙が触れるものはすべて熱力学の法則に従うのをやめ、『飢餓』の法則に従うようになる」
「人々は?」
ルナの声が震えた。
「周りのスラム街の人たちは……あそこに住んでいた何百万人もの人たちは……」
俺は即答しなかった。寄生体が論理的な冷たさで振動する。
【 死傷者推定:最初の1時間で90% 】
【 生存者は変質します。爆心地において「人間」という概念は適用されません 】
「彼らはもう奴の生態系の一部だ」
俺は努めて優しく言おうとしたが、失敗した。
「逃げるしか選択肢はなかったんだ、ルナ。すでに胃袋の中に入ってしまった人間を救うことはできない」
ヴァレリアがスタンドのコンビニから出てきた。水のガロンボトルと、十年前に賞味期限が切れたスナック菓子の袋を抱えている。グリッスルはそのすぐ後ろで、奇跡的にドライアイスが残っていたアイスクリーム用冷凍庫を引きずってきた。
「道路が詰まってるよ」
ヴァレリアが物資を荷台に投げ込みながら告げた。
「レーダーには連邦直轄区から来る何千もの車両が映ってる。エリートたちが逃げ出してるんだ」
「来させてやりな」
グリッスルがポテトチップスの袋を歯で開けた。
「パラディンの守りなしで、高級車が変異セラードでどれだけ持つか見物さ」
「俺たちは待たない」
俺はボンネットから飛び降りた。
「主要道路から外れるぞ。このまま国道(BR)にいれば、終末の大渋滞に巻き込まれる。王が領土を拡大すれば、最後尾の連中から食われることになるからな」
「どこへ行くんだい?」
ヴァレリアが聞いた。
「北は深いジャングルだ。トラックが通れる道なんてないよ」
「送電線のラインを辿る」
俺は風景を切り裂き、北へ一直線に伸びる巨大な送電鉄塔(今は使われていない)を指差した。
「鉄塔の下はメンテナンス用に整地されてる。トカンティンス州へ、そしてアマゾンへと直結する赤土の傷跡だ」
「高圧線トレイルか」
ヴァレリアが計算高い顔で頷いた。
「路面は最悪だが、真っ直ぐだね。それに料金所もない」
俺たちは未舗装路に戻った。トラックは激しく揺れたが、前進した。
周囲の風景が変わり始めた。
乾燥してねじれたセラードではない。
植生が……攻撃的だった。
木々がリアルタイムで目に見える速度で成長している。エレファントグラスが硬い土を突き破り、数分で三メートルの高さに達する。
そして色は緑ではなかった。濃い青、ほとんど黒に近い色だ。
「何が起きてるんだい?」
グリッスルが窓の外を見ながら包丁を握りしめた。
「植物が……シューシュー音を立ててるよ?」
「免疫反応だ」
俺は赤い樹液を血のように流している木を観察して説明した。
「惑星がブラジリアの傷を感じ取ったんだ。地球は王によって開けられた穴を『塞ごう』として、その地域にマナを送っている。その結果がこの無秩序な異常成長だ」
突然、ヴァレリアが急ブレーキをかけた。
「アーサー! 通行止めだ!」
前方の送電線下の道が遮断されていた。
バリケードではない。
つい五分前に発芽したと思われる《茨の森》によってだ。棘は槍ほどの大きさがあり、毒々しく光っている。
そして茨の中には、何かがうごめいていた。
ソヴレニティの高級車コンボイ――三台の黒い装甲SUV――が、蔦に捕らえられていた。
植物が装甲車をアルミ缶のように押し潰している。
「助け……」
くぐもった叫び声が聞こえた。
ソヴレニティの将軍の制服を着た男が、潰れた車から這い出そうとしていた。銀色のブリーフケースを抱えている。
一本の蔦が彼の足に巻きつき、引き戻した。
「助けるべきですか?」
ルナがバトンに手をかけて聞いた。
「待て」
俺は彼女の腕を掴んだ。
「植物を見ろ」
蔦はただ殺しているだけではなかった。吸収していた。
棘が将軍の鎧を貫く。彼の血は数秒で吸い尽くされた。だがそれだけでは終わらない。蔦は銀色のケースに入り込んだ。
ケースが光った。精製マナクリスタルがこぼれ落ちる。根がクリスタルを掴み、溶かしていく。
「魔法を食ってる」
俺は気づいた。
「自然の《封じ込め障壁》だ。自然界はブラジリアからマナを帯びたものが一切出られないように、壁を作ってるんだ」
「あたしたちは?」
ヴァレリアが聞いた。
「魔法の装備でいっぱいだよ。それにあんた……あんたは歩く電池だ」
寄生体がシューッと音を立てた。
【 警告:生物学的カモフラージュが必要。このまま進入すれば消化されます 】
「すべて切れ」
俺は命じた。
「ルナ、バトンを鉛のケースにしまえ。ヴァレリア、エンジンのマナ噴射を切れ。汚いディーゼルだけで走るんだ。グリッスル、筋力増強は使うな」
「あんたはどうするんだい、ドクター?」
俺は目を閉じ、集中した。寄生体に骨髄の奥深くへ縮こまるよう命じる。オーラをゼロにまで落とす。俺は生物学的な意味において、ただの弱々しい人間になった。
寒さと疲労が即座に襲ってくるのを感じた。
「ゆっくり通るぞ」
俺は囁いた。
「ヴァレリア、微速前進だ。吹かすなよ。攻撃性を見せるな」
トラックが進んだ。
茨のゾーンに入る。
蔦がトラックの車体を擦る。黒板を爪で引っ掻くような音がした。キィィィィィ。
それらは金属を探り、魔法の熱を探していた。
将軍の車の横を通り過ぎる。死体はすでに干からび、肥料になっていた。ブリーフケースは空だ。
「口」の中に棘がびっしり生えた太い蔦が、フロントガラスの前で止まった。それは蛇のように揺れ、ヴァレリアと俺の臭いを「嗅いだ」。
俺は息を止めた。もし寄生体が反応したら……防御しようとしたら……俺たちは死ぬ。
蔦がガラスに触れた。
待った。
魔法は感じない。冷たい金属と、燃えたディーゼルの臭いだけだ。
蔦は興味を失い、引っ込んだ。
「進め……」
俺は唇を動かさずに囁いた。
さらに五十メートル進んだ。
そして、茨の森は始まったときと同じくらい唐突に終わった。
前方の道は開けていた。
ヴァレリアが肺に溜めていた空気を吐き出した。
「普通の渋滞には二度と文句言わないよ」
システムを再起動する。寄生体は植物から隠れなければならなかった屈辱に怒っていたが、生きてはいた。
「封鎖リングを抜けたな」
俺は振り返った。茨の壁は今や乗り越えられない城壁のように見える。ブラジリアにいる者はブラジリアに留まる。外にいる者は、もう入れない。
「アマゾンへの道は開いた」
俺は北を見ながら言った。
「だが、セラードがこんな反応をしたなら……王の臭いを嗅いだアマゾンの熱帯雨林がどうなるか想像してみろ」
「ガイアが目覚めつつあるんですね」
ルナが陰鬱な詩のように言った。
「それも、機嫌が悪い状態で」
トラックが加速し、土煙を上げた。
背後では文明が死んでいた。前方では、野生が大戦の準備をしていた。
そして俺たちは、ある死体から別の死体へと移動するバクテリアに過ぎない。
「グリッスル」
俺は呼んだ。
「夕飯は何だ?」
「ポテトチップスと、溶けたアイスクリームさ」
「完璧だ。世界の終わりのチャンピオンに相応しい食事だな」




