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ブラックホールの出産

重力は不変の法則だ。だが《クラス・アルファ》のエーテル・デバウアーが目覚めるとき、物理法則は辞表を提出して逃げ出す。


リアクター室は外に向かって爆発したのではない。内側に向かって爆縮インプロージョンしたのだ。


金属の残骸、ミゲルの鎧の破片、そして環境光さえもが、機械の外殻に開いた裂け目へと吸い込まれていく。


「光を見るな!」


俺は防爆扉に向かって走りながら、手でルナの目を覆って叫んだ。


「あれは光じゃない! チェレンコフ放射だ! 奴が現実を引き裂いているんだ!」


【 システム警報:クリティカル・エラー 】

【 原初的恐怖により、寄生体は静止ステイシスモードへ移行します 】

【 ユーザー、以後は自力で生存せよ 】


『腰抜けが!』


俺は自分の内臓生物を罵った。キチン質の鎧が崩れ、皮膚の下へと戻っていくのを感じる。今や俺は、破れたスーツを着て神と競争するただの人間だった。


ヴァレリアが焼けた肩を押さえながら、足を引きずって先行していた。


「階段が!」


彼女が指差した。


「歪んでる!」


金属製の螺旋階段が、粘土細工のコルク抜きのようにねじれていた。「王」の重力が構造物を下へと引っ張っているのだ。


「ルナ!」


俺は呼んだ。


「推進力が必要だ!」


「飛べません!」


彼女は歪んだ階段につまずきながら叫んだ。


「飛ぶうんじゃない! 跳ねるんだ! バトンを音響ピストンとして使え! 真下に向けて最大出力で撃て!」


ルナは理解した。彼女はヴァレリアを抱きしめ、俺は彼女の腰にしがみついた。


彼女は崩壊しつつある金属の床にバトンを向けた。


「BASS BOOST(低音ブースト)!」


ブォォォン!


衝撃波が俺たちを上へと弾き飛ばし、一度に二十段分の階段を跳躍させた。黒い液体を流しているバイオポリマーの壁に激突し、換気ダクトの中のピンポン玉のように跳ね回りながら上昇を続ける。


背後の縦穴の闇の中で、リアクターが崩壊した。


手のようなもの……あれを手と呼べるならだが……が出現した。遠い星々が点在する《虚空ヴォイド》でできていた。それが数秒前まで俺たちがいたキャットウォークを掴んだ。金属はひしゃげなかった。ただ存在しなくなった。削除デリートされたのだ。


上昇する。


空気が薄くなる。外の世界の音が漏れ聞こえ始めた。悲鳴だ。


俺たちは大聖堂の身廊しんろうに飛び出した。


カオスは決定的だった。


白い大理石の床は、暗い湖に張った薄氷のようにひび割れていた。光の柱は消え、黒い煙と紫の稲妻を噴き上げる間欠泉に変わっていた。


ソヴレニティのエリートたち――将軍、政治家、社交界の名士たち――がパニックになって逃げ惑っている。


だが大聖堂の扉は閉ざされていた。


侵入ブリーチを封じ込めるため、セキュリティシステムが完全封鎖ロックダウンに入ったのだ。


「閉じ込められた!」


ヴァレリアが叫び、通用口のパネルをハッキングしようとしたが、システムは焼き切れていた。


祭壇では、皇帝教皇アウレリウスがまだ浮遊する玉座に座っていた。


彼は逃げなかった。床の大穴を、穏やかで空っぽな微笑みで見つめていた。


「父上が到着された」


非常用スピーカーで増幅された彼の声が言った。


「餌の準備はできている」


玉座の下の床が爆発した。


皇帝は、不可能な幾何学で構成された花のような巨大なあぎとに丸呑みにされた。彼は悲鳴を上げなかった。ただ……消費された。


「それ」が穴から這い出し始めた。


定まった形はない。複数の手足を持ち、深宇宙への窓のような目を持ち、空気中の水蒸気を瞬時に凍らせる冷気を纏った、固形の闇の雲。


祭壇近くの人々が浮き上がり始めた。怪物の重力に引かれているのだ。彼らは叫び声を上げながら光の粒子へと分解され、怪物の皮膚に吸収されていった。


「アーサーさん!」


ルナが俺の腕を揺さぶった。


「死んじゃいます!」


俺は周囲を見回した。窓。防弾ステンドグラス。


あれが唯一のチャンスだ。だが、ミサイルにも耐える強度で作られている。


「グリッスル!」


俺は無線機に向かって叫んだ。干渉を突き抜けて信号が届くことを祈りながら。


「グリッスル、聞こえてるなら、大聖堂の北セクターに至急の宅配便を頼む! 今すぐだ!」


沈黙とノイズ。


そして、世界で最も美しい音が聞こえた。


マナ噴射式V8ディーゼルエンジンの咆哮だ。


ガシャアアアン!


聖歌隊席のすぐ後ろ、大聖堂の側壁が内側へ向かって爆発した。


アルマジロの甲羅の破城槌ラムで改造された俺たちの装甲トラックが、ステンドグラスを突き破って飛び込み、ガラスと石の雨の中で木製の長椅子の上に着地した。


リアドアが蹴り開けられた。


グリッスルが、どこからかもぎ取ってきた回転式機関銃ガトリングガンを構えて立っていた。


「タクシーが来たよ、お姫様たち! 乗りな!」


俺たちは中央通路を走り、助けを求めてすがりついてくる貴族たちを避けた。


「乗せてくれ! 私は財務大臣だぞ! 金なら払う!」


男が俺の足にしがみついて叫んだ。


俺は慈悲なく彼の顔を蹴り飛ばした。


「金は紙屑だ、大臣。新しい通貨は『速度』だよ」


俺たちはトラックの荷台に飛び込んだ。ヴァレリアが運転席に走り、グリッスルを助手席に押しやる。


「バック! バック! バックだ!」


俺は車体を叩いて叫んだ。


デバウアーの「王」が動きを察知した。真空の触手が群衆を無視し、逃げようとする唯一のテクノロジーの源である俺たちに向かってしなった。


ヴァレリアがリバースに入れた。磨かれた大理石の上でタイヤが悲鳴を上げる。


トラックが後ろ向きに急発進し、入ってきたのと同じ穴から飛び出した。


触手は俺たちがいた場所の床を直撃し、地下まで岩盤を粉砕した。


トラックは大聖堂の外の広場に着地し、サスペンションをひしゃげさせた。


ヴァレリアがハンドルを切り、装飾用の噴水を避けて省庁広場エスプラナダへ向けて加速した。


俺はリアドアの隙間から見た。


ソヴレニティの究極の象徴であるブラジリア大聖堂が、膨張していた。


白い壁が風船のように引き伸ばされる。紫の光が亀裂から漏れ出す。


カッ……ボォォン。


構造が限界を迎えた。大聖堂は崩れ落ちたのではない。内側から粉砕されたのだ。


教会のあった場所に、今は空に届く闇の柱が立ち上がっていた。


都市を守っていた《光のドーム》が明滅し、消えた。


ユートピアは裸になった。


そしてその中心にいる怪物は、俺たちが見たどの怪獣(Kaiju)よりも巨大だった。摩天楼ほどの高さがあり、周囲の世界から「色」を吸い取っているように見えた。


「バリアが消えた!」


窓の外を見てルナが叫んだ。


都市を囲むスラム街で、人々が光が消えるのを見た。そして怪物を見た。


だが彼らは逃げなかった。


侵入を開始したのだ。


三十年の抑圧が、大聖堂と共に爆発した。


「世界の終わりだね」


燃える地平線を見つめながら、グリッスルが呟いた。


「いいや」


俺はリアドアを閉めてロックし、答えた。


「嘘が終わっただけだ」


俺はトラックの床に座り込んだ。隣ではヴァレリアが肩に治療用フォームスプレーを吹き付けている。


王の直接的な放射線から離れたことで、寄生体が目覚め始めた。


【 敵データ分析:15%完了 】

【 予備的結論:ターゲットは生物学的存在ではない。概念的存在である 】

【 殺害には、概念を殺す兵器が必要 】


「最高だ」


俺は振動するトラックの壁に頭をもたせかけて溜息をついた。


形而上学メタフィジカル的な武器が必要だってさ。それを売ってるコンビニを知ってる奴はいるか?」


トラックは大通りを引き裂くように走り、背後で成長する影から逃げていく。


ブラジリアは陥落しつつある。ソヴレニティは死んだ。


だが俺たちは生きている。地図も、データも、戦う意志もある。


「どこへ行くんだい、ボス?」


運転席からヴァレリアが叫んだ。


俺は北を見た。都市の向こう側。アマゾンの方角だ。あれと戦える何かを隠せるほど濃密なバイオマスがある唯一の場所。


「ジャングルだ」


俺は答えた。


「文明が失敗したなら、野生が何を提供してくれるか見に行こうぜ」


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