神聖なる原子炉の敗血症(セプシス)
地獄は熱くない。有機組織の最適な保存のために空調管理されている。
俺たちは螺旋階段をあまりにも長く降り続けていた。一段降りるごとに、頭上の大聖堂の白い大理石は姿を消し、灰色で湿った、脈動する金属へと変わっていく。壁は石ではなく、筋組織を模倣した合成物質で覆われていた。
ミサの聖歌は、低くリズミカルな唸り声に取って代わられた。ドクン、シュー。ドクン、シュー。
巨大な鉄の肺の中を歩いているようだった。
「ここのマナ濃度、有毒レベルです」
ルナが鼻をつまんで囁いた。空気はオゾンと銅の臭いがする。
「空気が帯電してるみたい」
「自然のマナじゃない」
俺は壁に指を這わせ、振動を感じながら分析した。
「《精製マナ》だ。奴らは上の生贄から生のエネルギーを抽出し、人間の意識を濾過して、純粋な力だけをコアに送り込んでるんだ」
階段の終わりに着いた。銀行の金庫のような円形の防爆扉が開いていた。
俺たちは通り抜けた。
目にした光景に、足が止まった。
俺たちは大聖堂の祭壇の真下に位置する、巨大な球形の空洞にいた。
中央の底なしの奈落の上に、《心臓》が吊り下げられていた。
生物学的な臓器ではない。魔物の肉とエイリアンのテクノロジーで作られた機械だ。
何千もの透明なチューブが天井(祭壇)から降りており、輝く黄金の液体――犠牲者たちのエッセンス――を絶えず供給している。
チューブは《心臓》に接続され、それは脈動しながら液体を《固体光》のビームに変換していた。ビームは地球の中心へと下り、そして大聖堂の軸を通って宇宙へと発射されている。
「ただ信号を送ってるだけじゃない」
キャットウォークの側面にあるモニターを見て、ヴァレリアが恐怖に声を震わせた。
「テラフォーミングしてるんだ。下に降りてるビーム……惑星のコアを変質させてる」
「巣作りをしてるんだな」
俺は補足した。
「地球を《エーテルを喰らうもの(デバウアー)》にとって居住可能な環境に変えようとしてる」
カツン。カツン。カツン。
反対側の金属製キャットウォークに、金属的な足音が響いた。
機械の影から、彼が現れた。
ミゲル。
もはや栄光ある大天使の姿ではなかった。クリチバでの爆発は、彼から人間性の半分と、美しさのすべてを奪い去っていた。
体の左側は焼け焦げた鎧が皮膚と融合している。左腕は粗雑な機械の鉤爪に置き換えられていた――建設用ゴーレムから奪ったものだろう。顔は呼吸マスクで覆われ、息をするたびにシューシューと音を立てている。
右の光の翼だけが機能していたが、ノイズ混じりに明滅している。もう片方はねじれた金属の残骸だ。
彼はホライゾン・ブレードを地面に引きずり、金属床に溝を刻んでいた。
『ドブネズミどもめ』
彼の声はもはやテレパシーではなかった。喉元のスピーカーから出る機械音だ。
『貴様らは昇天の栄光を目撃し、それを犯罪と呼んだ。貴様らは未来を見ても、そこにあるのは生検だけだ』
「ミゲル」
俺は両手を広げ、まだメスを抜いていないことを示した。
「自分の姿を見てみろ。ソヴレニティはスクラップでお前を再建したんだ。治療したんじゃない。使い続けるためにツギハギしただけだ。お前は使い捨てなんだよ」
『私は……必要とされているッ!』
彼が咆哮した。
ミゲルが突進してきた。以前のような極超音速はないが、追い詰められた獣の怒りがある。
彼はキャットウォークの隙間を飛び越え、プラズマの剣を死の弧を描いて振り下ろした。
「ヴァレリア! 制圧射撃!」
俺は叫んだ。
ヴァレリアは《錬金タングステン弾》(巡礼者からの贈り物だ)を装填した改造サブマシンガンを二丁抜いた。堕ちた天使の胸に全弾を叩き込む。
弾丸が鎧に当たり、光の閃光となって爆ぜる。ミゲルは減速すらしなかった。彼の信仰(と装甲)が衝撃を吸収している。
ルナが参戦した。
「衝撃波!」
彼女はバトンを金属の床に叩きつけた。キャットウォークが激しく振動し、ミゲルのバランスを崩そうとする。
彼はつんのめったが、機械の鉤爪で手すりを掴んで体を固定した。鋼鉄が紙のようにひしゃげる。
『サーカスの手品だな!』
彼がサイバネティックな義眼から光線を放った。
レーザーがヴァレリアの肩を貫き、肉を瞬時に焼く。彼女は叫び声を上げ、武器を落として倒れた。
「ヴァレリア!」
ルナが彼女を守るために駆け寄り、音響バリアを展開した。
ミゲルが二人に向けて止めの一撃を構える。
させるか。
寄生体が俺の全身を黒い鎧で覆う。俺はもうアーサーではない。赤い目をした闇の染みだ。
俺は跳んだ。
空中でミゲルを迎撃し、肉のミサイルとなって激突する。
俺たちはキャットウォークを転がり、至近距離で殴り合った。彼の剣が俺の甲殻を焼き、俺の骨の爪が彼の首のケーブルを引きちぎろうとする。
『貴様は疫病だ、ヴェラス!』
ミゲルがバイオニック義足で俺を蹴り飛ばし、バイオポリマーの壁に叩きつけた。
『なぜ死なんのだ!?』
俺は床に落ち、折れた肋骨が痛みを伴って再生するのを感じた。
ミゲルを見る。そして彼の背後にある《心臓》を見る。
気づいた。
太く脈動するケーブルが、ミゲルの鎧の背中とリアクターを直接繋いでいる。
「自分のマナで戦ってるんじゃない」
俺は息を呑んだ。
「あいつは『テザリング』されてる。コンセントに繋がってるんだ。リアクターからエネルギーを吸って、命と力を維持してやがる!」
アーサー(寄生体)が確認した。
【 外部エネルギー源を検知。接続されている限り、敵のマナは無限 】
「ルナ!」
俺は立ち上がり、象の首でも切り落とせそうな斬撃を避けながら叫んだ。
「奴を攻撃するな! 臍の緒を狙え!」
ミゲルは俺が気づいたことを悟った。彼は背中のケーブルを守るために後退した。
『源泉には触れさせん!』
彼が剣をキャットウォークに突き刺した。
『審判の聖域!』
《固体光》のドームが彼とリアクターを囲み、あらゆる物理攻撃を遮断した。
ドームの中で、彼は部屋全体を蒸発させる広域攻撃(AOE)のチャージを始めた。
「ヴァレリア、立てるか?」
俺は無線で聞いた。
『肩がバーベキューになっちまったけど、無事な方の手には起爆装置が握られてるよ』
弱い声で彼女が答えた。
「起爆装置?」
『あんたたちがプロレスごっこしてる間に、供給パイプの根元に《魔法C4》を仕掛けといたのさ』
ヴァレリアが咳き込みながら笑った。
『巡礼者に教わったんだ。直せないなら、爆破しろってね』
「パイプを爆破しても、奴のシールドは破れませんよ!」
ルナが叫んだ。
「いや」
俺は作戦を理解して笑った。
「だが供給は断てる」
ドームの中のミゲルを見る。彼は輝いており、爆発寸前だ。
「今だ、ヴァレリア! 燃料を切れ!」
ヴァレリアがボタンを押した。
ズドォォォン!
天井で爆薬が炸裂した。供給パイプが破断する。
黄金の液体(生贄の魂)の流れが止まり、リアクターへ届く代わりに奈落へとこぼれ落ち、液状の金の雨となった。
リアクターが咳き込んだ。
コンソールに「エラー」の赤ランプが点滅する。
ミゲルの背中のケーブルが光を失った。
周囲の光のドームが明滅し、消滅した。
ミゲルがパニックになって振り返った。
『私の……私の恩寵が……』
禁断症状は即座に訪れた。神聖な力の供給を絶たれ、彼の壊れた肉体が機能を停止し始める。サイバネティクスの重量がのしかかり、古傷が開く。
「これで奴はただの人間だ」
俺は腕の刃を起動して言った。
「ルナ、墜とせ!」
ルナがキャットウォークを走り、バトンを回転させた。
「骨砕きの周波数!」
彼女はバトンをミゲルの金属の膝に叩きつけた。振動が関節を粉砕する。
大天使が膝をついた。
俺は歩み寄った。
怒りではなく、正確さを持って。
ミゲルは剣を持ち上げようとしたが、遅く、弱々しかった。
俺は彼の手首を掴んだ。寄生体が黒い触手を伸ばし、彼の鎧に侵入してサーボモーターをロックする。
「手術終了だ、ミゲル。患者は死亡した」
俺はキチン質に覆われたもう片方の手を、彼の胸に突き刺した。
心臓をえぐり出すためではない。
そこにあるとわかっていた、ヘリックスの制御コアを引き抜くためだ。
肋骨の間で、冷たく湿ったデバイスを指が捉えた。力任せに引き抜く。
配線が千切れる。
ミゲルの目の赤い光が消えた。
彼は崩れ落ち、ただの高価な鎧を着た不具の男に戻った。
静寂が戻り、リアクターから漏れる音だけが響く。
俺はキャットウォークの端へ歩いた。燃料を失ったリアクターは減速していた。宇宙へ伸びる光のビームは細く、弱くなっている。
「信号が落ちていく」
俺は手の油と血を拭いながら言った。
「地球からの送信は止まった」
ヴァレリアがルナに支えられながら足を引きずって来た。
「勝ったのかい?」
俺はリアクターを見た。確かに止まりつつある。だが、その内部で何かが鼓動を始めた。
機械的なビートではない。生物学的な鼓動だ。
ゆっくりとした、深い鼓動。俺の骨を振動させる。
俺の中の寄生体が、絶対的な恐怖に縮こまった。
【 警告:リアクターは機械ではなかった。牢獄だ 】
【 警告:エネルギーを切断したことで、檻の鍵が開いた 】
リアクターの外殻が内側からひび割れ始めた。
星の光と無限の飢えでできた鉤爪が、金属の殻を突き破る。
俺は信号を切ったんじゃない。
信号を発していた「モノ」を起こしてしまったんだ。
「勝ってない」
俺は後ずさりながら囁いた。
「俺たちは今、王を解放しちまった」
部屋の天井が揺れた。塵が落ちてくる。
遥か上、大聖堂のパーティーは終わりだ。地面が割れようとしている。
「走れ」
俺は掠れた声で言った。
「地上へ走れ。グリッスルのトラックだ。今すぐ!」
あの殻から出てこようとしているのは、解剖できるような魔物じゃない。
あれは、すべての終わりだ。




