表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/72

神聖なる原子炉の敗血症(セプシス)

地獄は熱くない。有機組織の最適な保存のために空調管理されている。


俺たちは螺旋階段をあまりにも長く降り続けていた。一段降りるごとに、頭上の大聖堂の白い大理石は姿を消し、灰色で湿った、脈動する金属へと変わっていく。壁は石ではなく、筋組織を模倣した合成物質バイオポリマーで覆われていた。


ミサの聖歌は、低くリズミカルな唸り声に取って代わられた。ドクン、シュー。ドクン、シュー。


巨大な鉄の肺の中を歩いているようだった。


「ここのマナ濃度、有毒レベルです」


ルナが鼻をつまんで囁いた。空気はオゾンと銅の臭いがする。


「空気が帯電してるみたい」


「自然のマナじゃない」


俺は壁に指を這わせ、振動を感じながら分析した。


「《精製マナ》だ。奴らは上の生贄から生のエネルギーを抽出し、人間の意識を濾過して、純粋なパワーだけをコアに送り込んでるんだ」


階段の終わりに着いた。銀行の金庫のような円形の防爆扉が開いていた。


俺たちは通り抜けた。


目にした光景に、足が止まった。


俺たちは大聖堂の祭壇の真下に位置する、巨大な球形の空洞にいた。


中央の底なしの奈落の上に、《心臓ハート》が吊り下げられていた。


生物学的な臓器ではない。魔物の肉とエイリアンのテクノロジーで作られた機械だ。


何千もの透明なチューブが天井(祭壇)から降りており、輝く黄金の液体――犠牲者たちのエッセンス――を絶えず供給している。


チューブは《心臓》に接続され、それは脈動しながら液体を《固体光》のビームに変換していた。ビームは地球の中心へと下り、そして大聖堂の軸を通って宇宙へと発射されている。


「ただ信号を送ってるだけじゃない」


キャットウォークの側面にあるモニターを見て、ヴァレリアが恐怖に声を震わせた。


「テラフォーミングしてるんだ。下に降りてるビーム……惑星のコアを変質させてる」


「巣作りをしてるんだな」


俺は補足した。


「地球を《エーテルを喰らうもの(デバウアー)》にとって居住可能な環境に変えようとしてる」


カツン。カツン。カツン。


反対側の金属製キャットウォークに、金属的な足音が響いた。


機械の影から、彼が現れた。


ミゲル。


もはや栄光ある大天使の姿ではなかった。クリチバでの爆発は、彼から人間性の半分と、美しさのすべてを奪い去っていた。


体の左側は焼け焦げた鎧が皮膚と融合している。左腕は粗雑な機械の鉤爪クローに置き換えられていた――建設用ゴーレムから奪ったものだろう。顔は呼吸マスクで覆われ、息をするたびにシューシューと音を立てている。


右の光の翼だけが機能していたが、ノイズ混じりに明滅している。もう片方はねじれた金属の残骸だ。


彼はホライゾン・ブレードを地面に引きずり、金属床に溝を刻んでいた。


『ドブネズミどもめ』


彼の声はもはやテレパシーではなかった。喉元のスピーカーから出る機械音だ。


『貴様らは昇天の栄光を目撃し、それを犯罪と呼んだ。貴様らは未来を見ても、そこにあるのは生検バイオプシーだけだ』


「ミゲル」


俺は両手を広げ、まだメスを抜いていないことを示した。


「自分の姿を見てみろ。ソヴレニティはスクラップでお前を再建したんだ。治療したんじゃない。使い続けるためにツギハギしただけだ。お前は使い捨てなんだよ」


『私は……必要とされているッ!』


彼が咆哮した。


ミゲルが突進してきた。以前のような極超音速はないが、追い詰められた獣の怒りがある。


彼はキャットウォークの隙間を飛び越え、プラズマの剣を死の弧を描いて振り下ろした。


「ヴァレリア! 制圧射撃!」


俺は叫んだ。


ヴァレリアは《錬金タングステン弾》(巡礼者からの贈り物だ)を装填した改造サブマシンガンを二丁抜いた。堕ちた天使の胸に全弾を叩き込む。


弾丸が鎧に当たり、光の閃光となって爆ぜる。ミゲルは減速すらしなかった。彼の信仰(と装甲)が衝撃を吸収している。


ルナが参戦した。


衝撃波ショックウェーブ!」


彼女はバトンを金属の床に叩きつけた。キャットウォークが激しく振動し、ミゲルのバランスを崩そうとする。


彼はつんのめったが、機械の鉤爪で手すりを掴んで体を固定した。鋼鉄が紙のようにひしゃげる。


『サーカスの手品だな!』


彼がサイバネティックな義眼から光線を放った。


レーザーがヴァレリアの肩を貫き、肉を瞬時に焼く。彼女は叫び声を上げ、武器を落として倒れた。


「ヴァレリア!」


ルナが彼女を守るために駆け寄り、音響バリアを展開した。


ミゲルが二人に向けて止めの一撃を構える。


させるか。


寄生体が俺の全身を黒い鎧で覆う。俺はもうアーサーではない。赤い目をした闇の染みだ。


俺は跳んだ。


空中でミゲルを迎撃し、肉のミサイルとなって激突する。


俺たちはキャットウォークを転がり、至近距離で殴り合った。彼の剣が俺の甲殻を焼き、俺の骨の爪が彼の首のケーブルを引きちぎろうとする。


『貴様は疫病だ、ヴェラス!』


ミゲルがバイオニック義足で俺を蹴り飛ばし、バイオポリマーの壁に叩きつけた。


『なぜ死なんのだ!?』


俺は床に落ち、折れた肋骨が痛みを伴って再生するのを感じた。


ミゲルを見る。そして彼の背後にある《心臓》を見る。


気づいた。


太く脈動するケーブルが、ミゲルの鎧の背中とリアクターを直接繋いでいる。


「自分のマナで戦ってるんじゃない」


俺は息を呑んだ。


「あいつは『テザリング』されてる。コンセントに繋がってるんだ。リアクターからエネルギーを吸って、命と力を維持してやがる!」


アーサー(寄生体)が確認した。


【 外部エネルギー源を検知。接続されている限り、敵のマナは無限 】


「ルナ!」


俺は立ち上がり、象の首でも切り落とせそうな斬撃を避けながら叫んだ。


「奴を攻撃するな! へその緒を狙え!」


ミゲルは俺が気づいたことを悟った。彼は背中のケーブルを守るために後退した。


源泉ソースには触れさせん!』


彼が剣をキャットウォークに突き刺した。


『審判の聖域サンクチュアリ!』


《固体光》のドームが彼とリアクターを囲み、あらゆる物理攻撃を遮断した。


ドームの中で、彼は部屋全体を蒸発させる広域攻撃(AOE)のチャージを始めた。


「ヴァレリア、立てるか?」


俺は無線で聞いた。


『肩がバーベキューになっちまったけど、無事な方の手には起爆装置が握られてるよ』


弱い声で彼女が答えた。


「起爆装置?」


『あんたたちがプロレスごっこしてる間に、供給パイプの根元に《魔法C4》を仕掛けといたのさ』


ヴァレリアが咳き込みながら笑った。


『巡礼者に教わったんだ。直せないなら、爆破しろってね』


「パイプを爆破しても、奴のシールドは破れませんよ!」


ルナが叫んだ。


「いや」


俺は作戦を理解して笑った。


「だが供給サプライは断てる」


ドームの中のミゲルを見る。彼は輝いており、爆発寸前だ。


「今だ、ヴァレリア! 燃料を切れ!」


ヴァレリアがボタンを押した。


ズドォォォン!


天井で爆薬が炸裂した。供給パイプが破断する。


黄金の液体(生贄の魂)の流れが止まり、リアクターへ届く代わりに奈落へとこぼれ落ち、液状の金の雨となった。


リアクターが咳き込んだ。


コンソールに「エラー」の赤ランプが点滅する。


ミゲルの背中のケーブルが光を失った。


周囲の光のドームが明滅し、消滅した。


ミゲルがパニックになって振り返った。


『私の……私の恩寵グレイスが……』


禁断症状は即座に訪れた。神聖な力の供給を絶たれ、彼の壊れた肉体が機能を停止し始める。サイバネティクスの重量がのしかかり、古傷が開く。


「これで奴はただの人間モータルだ」


俺は腕の刃を起動して言った。


「ルナ、墜とせ!」


ルナがキャットウォークを走り、バトンを回転させた。


「骨砕きの周波数!」


彼女はバトンをミゲルの金属の膝に叩きつけた。振動が関節を粉砕する。


大天使が膝をついた。


俺は歩み寄った。


怒りではなく、正確さを持って。


ミゲルは剣を持ち上げようとしたが、遅く、弱々しかった。


俺は彼の手首を掴んだ。寄生体が黒い触手を伸ばし、彼の鎧に侵入してサーボモーターをロックする。


「手術終了だ、ミゲル。患者は死亡した」


俺はキチン質に覆われたもう片方の手を、彼の胸に突き刺した。


心臓をえぐり出すためではない。


そこにあるとわかっていた、ヘリックスの制御コアを引き抜くためだ。


肋骨の間で、冷たく湿ったデバイスを指が捉えた。力任せに引き抜く。


配線が千切れる。


ミゲルの目の赤い光が消えた。


彼は崩れ落ち、ただの高価な鎧を着た不具の男に戻った。


静寂が戻り、リアクターから漏れる音だけが響く。


俺はキャットウォークの端へ歩いた。燃料を失ったリアクターは減速していた。宇宙へ伸びる光のビームは細く、弱くなっている。


信号シグナルが落ちていく」


俺は手の油と血を拭いながら言った。


「地球からの送信は止まった」


ヴァレリアがルナに支えられながら足を引きずって来た。


「勝ったのかい?」


俺はリアクターを見た。確かに止まりつつある。だが、その内部で何かが鼓動を始めた。


機械的なビートではない。生物学的な鼓動だ。


ゆっくりとした、深い鼓動。俺の骨を振動させる。


俺の中の寄生体が、絶対的な恐怖に縮こまった。


【 警告:リアクターは機械ではなかった。牢獄プリズンだ 】

【 警告:エネルギーを切断したことで、檻の鍵が開いた 】


リアクターの外殻が内側からひび割れ始めた。


星の光と無限の飢えでできた鉤爪が、金属の殻を突き破る。


俺は信号を切ったんじゃない。


信号を発していた「モノ」を起こしてしまったんだ。


「勝ってない」


俺は後ずさりながら囁いた。


「俺たちは今、王を解放しちまった」


部屋の天井が揺れた。塵が落ちてくる。


遥か上、大聖堂のパーティーは終わりだ。地面が割れようとしている。


「走れ」


俺は掠れた声で言った。


「地上へ走れ。グリッスルのトラックだ。今すぐ!」


あの殻から出てこようとしているのは、解剖できるような魔物じゃない。


あれは、すべての終わりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ