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キチン質のトロイの木馬

ブラジリアは都市ではなかった。水槽アクアリウムだった。


高原の上から、俺たちは首都を見下ろしていた。巨大な黄金色の光のドーム――半透明で、神聖なエネルギーで唸りを上げている――が、プラノ・ピロット(都市計画区域)全体を覆っている。その中には、白い摩天楼、緑豊かな公園、そして磁気ラインの上を滑るように飛ぶ車が見えた。


まるで2000年代のSF小説が描くユートピアだ。


ドームの外側は、全く別の現実だった。

「衛星都市」群は融合し、キャンバス布とスクラップと絶望でできた一つの巨大なスラム街と化しており、豪華客船の船底に張り付くフジツボのように、光の障壁の基部にへばりついていた。


「胸糞悪いわね」


双眼鏡を覗きながら、ヴァレリアが吐き捨てた。


「あいつらはエアコンの中で暮らして、残りの国民は錆を吸ってろってわけかい」


「生物学的カースト制度だ」


俺は(巡礼者の死体から盗んで化学洗浄した)シャツの襟を直しながら分析した。


「マナの適合者は中で暮らす。非適合者は外で人間の盾になる」


「どうやって入るんですか?」


ルナが聞いた。


「あのバリアに触れたら、私たちなんて神聖なバーベキューになっちゃいますよ」


俺はスラムを貫き、バリアにある巨大なゲートへと続く幹線道路、エイショ・モニュメンタル(記念枢軸)を指差した。


ソヴレニティの装甲トラックの車列が、検問待ちの列を作っている。冷凍コンテナを積んでいるようだ。


「俺たちが殺したアルマジロにあった焼き印を覚えてるか? 有刺鉄線の十字架だ」


「ああ、家畜ストックの印だね」


グリッスルが答えた。


「その通り。あのトラックは物資を運んでるんだ。希少な魔物、鉱石、遺物。ブラジリアは何も生産しない。すべてを消費するだけの都市だ」


俺は自分たちのトラックの荷台へと歩いた。


侵入インベージョンはしない。配達デリバリーをするんだ」


二時間後、俺たちのトラックは変貌していた。


ヴァレリアがオオアルマジロの甲羅のプレートを車体の側面に溶接し、元のロゴを隠していた。黒いスプレー塗料で、バーコードと「バイオハザード レベル5」のシンボルを描き殴る。


計画は大胆かつ間抜けなものだ。南部から重要なサンプルを持ち帰った、ヘリックス・ファーマの特殊回収チームになりすます。


「アーサーさん、これ無理がありますよ」


ルナが不安そうに言った。彼女は親父のラボで見つけた、サイズが大きすぎる白衣を着て、度なしの眼鏡をかけている。


「IDを求められますって!」


「IDならある」


俺はポケットに触れた。親父のIDカードだ。ヴァレリアが改造し、写真は俺のものだが、肩書きは親父のままになっている。『上級研究主任』。


「お前たちは……演技しろ」


グリッスルは荷台の後部で(偽の)鎖に繋がれ、捕獲された「南部の変異オーク」の標本を演じている。ヴァレリアは死んだ巡礼者兵士の鎧を着て、傭兵の護衛になりすました。


俺たちは検問の列に入った。


前方では、磨き上げられた白い鎧を着てエネルギーの槍を持った衛兵たちが、食料トラックを検査している。彼らは外部の運転手たちをゴミのように扱い、目も合わせようとしない。


「傲慢さだ」


俺は囁いた。


「それが鍵だ。奴らはテロリストが正面玄関をノックするなんて思っちゃいない。下水道に隠れてると思ってる」


俺たちの番が来た。


近衛隊のパラディンが運転席の窓に近づいてきた。ヘルメットは被っていない。若く清潔な顔立ちで、目は淡い青色の光(マナの祝福)を帯びていた。


「書類と積荷目録を」


退屈そうな声で彼が求めた。


運転席のヴァレリアは何も言わなかった。ただ助手席の俺を指差すだけだ。


俺はパワーウィンドウを下ろした。


衛兵を見なかった。(電源の入っていない)タブレットを見つめ続け、重要なデータを読んでいるふりをする。


「……あの、もし?」


衛兵が苛立って繰り返した。


俺は溜息をついた。まるで彼に邪魔されたかのように。ゆっくりと顔を向ける。


「兵士よ、君は採取されたばかりの《ティタナトゥス》の心臓の熱揮発性について理解しているかね?」


「は……はい?」


「私はクリチバの遺跡からクラスSの生物学的物質を輸送しているんだ。このトラックが暑さの中で停止している一分ごとに、サンプルは0.5%ずつ劣化していく。もしこの積荷を失うことになれば、大天使ミカエル様に報告させてもらうぞ。すべては……」


俺は彼の胸の名札を見た。


「……ペレイラ兵士が、紙切れを読むのに手間取ったせいだとな」


俺はホログラムIDを提示した。


エリオ・ヴェラス(アーサー・ヴェラス) - アクセスレベル:オメガ


アクセスレベルを見て、衛兵の顔色が変わった。


だが彼は訓練を受けていた。


「サー、プロトコルにより生体署名バイオ・シグネチャのスキャンが必要です」


「やれ。だが急げよ」


衛兵はピストル型の体温計のようなデバイスを取り出し、俺の額に向けた。


これだ。真実の瞬間。


スキャナーは汚染を探す。寄生体を探すのだ。


俺は一瞬だけ目を閉じた。


【 隠蔽プロトコル:深層冬眠ディープ・ハイバネーション


寄生体が動きを止めた。俺の心臓を止めた。マナの流れを止めた。


五秒間、俺は医学的に死んだ。


スキャナーがビープ音を鳴らした。


【 測定結果:人間。バイタルサイン:低下(極度の疲労) 】


衛兵が結果を見た。


「血圧が非常に低いようですが」


「世界の終わりの真ん中を三週間運転し通しなんだよ、兵士。君なら死んでるさ。ゲートを開けろ」


寄生体が痛みを伴う衝撃と共に心臓を「再起動」させた。俺は苦痛の表情を不機嫌さで誤魔化した。


衛兵が一歩下がり、検問所へ合図を送った。


「ゲート4開放! ヘリックスの優先輸送車両だ!」


黄金の光の壁が唸りを上げて開き、安全なトンネルを作り出した。


ヴァレリアがギアをローに入れた。トラックがゆっくりと前進する。


俺たちはバリアを通過した。


電気の滝を通り抜けるような感覚だった。腕の毛が逆立つ。寄生体が不快感にシューッと音を立てたが、検知はされなかった。


そして、俺たちは中に入った。


衝撃は即座にやってきた。


都市の空調は完璧だった。常に22℃に保たれ、ジャスミンの香りがする。


道路は滑らかな黒いアスファルトで、穴一つない。


歩道には人々がいた。普通の人々だ。


アイスクリームを食べる子供たち。透明な携帯電話で話すビジネスマン。骸骨でも怪物でもない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)犬を散歩させるカップル。


彼らはカラフルで清潔な服を着ている。武器は見当たらない。


誰も空を恐れて見上げたりしない。彼らはまるで、外の世界が終わってなどいないかのように暮らしていた。


「……気味が悪いです」


窓の外を見ながらルナが囁いた。


「この人たち、知らないんですか?」


「知っているさ」


俺は政府庁舎のファサードにある巨大スクリーンを指差した。


スクリーンには、国境で魔物と戦う「英雄」たちの編集された映像が流れている。字幕にはこうあった。『我らが勇敢なる守護者たち、文明より野蛮を遠ざける』


「危険があることは知っている」


俺は続けた。


「だが自分たちは安全だと思ってる。ソヴレニティは慈悲深いと思ってるんだ」


「どこへ行くんだい?」


道路清掃ロボットを轢かないように慎重に運転しながら、ヴァレリアが聞いた。


俺はデータドライブを取り出した。


「ヘリックスのラボは北病院地区にあった。だが親父が言及していた『ビーコン』は……**カテドラル・メトロポリターナ(ブラジリア大聖堂)**にある」


地平線を指差す。


双曲面構造とステンドグラスを持つ大聖堂が、景観を支配していた。だが、もはやただのコンクリートとガラスではなかった。


大聖堂の頂点から《固体光》の塔が伸び、ドームを突き抜けて宇宙まで昇っている。


バリアを維持している柱だ。そして親父によれば、エイリアンを呼び寄せている柱でもある。


「警備はイカれてるほど厳しいだろうね」


グリッスルが装甲の隙間から覗き見て言った。


「ああ。だが今日はツイてる」


俺は大通りに掲げられた垂れ幕を指差した。


『昇天の大ミサ - 皇帝教皇聖下ご臨席』


「パーティーだ」


俺は笑った。


「ソヴレニティはパーティーがお好きだからな。群衆がいるところには、陽動ディストラクションの隙がある」


「商業地区の地下駐車場に停めるぞ」


俺は指示した。


「ルナ、俺たちのために私服を調達してくれ。金持ちで軽薄な連中が着るような服だ。グリッスル……悪いがアンタはトラック待機だ。VIPエリアにオークは入れない」


「いいよ」


グリッスルは包丁を研いだ。


「誰かが駐車違反切符を切ろうとしたら、切符帳ごと切ってやるさ。手首も一緒にな」


トラックが地下ガレージに入った。


エンジンを切る。駐車場の静寂を破るのは、電気自動車の駆動音だけだ。


俺たちは地獄の門をくぐったはずだった。だが判明したのは、地獄にはショッピングモールがあり、芝生が綺麗に刈り揃えられているという事実だった。


さあ、悪魔を見つけなければ。そいつはおそらく大聖堂に住んでいる。


「ユートピアへようこそ」


俺は銃の安全装置を外して言った。


「この綺麗なカーペットを汚すのに、どれくらい時間がかかるか見物だな」



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