水晶のナルシシズム
《鏡の谷》はガラスでできているわけではなかった。過去の破滅的な魔法災害によって、砂漠の砂が純粋な黒曜石へと溶融された、地質学的な傷跡だ。
地面は黒く、反射していた。峡谷の壁は巨大なプリズムだ。空が地面に映り込み、何もない虚空の只中を、青い深淵に浮かびながら走っているような眩暈のする錯覚を引き起こしていた。
「トラックを止めろ」
俺は肉体的なものではない吐き気を感じて命じた。
「エンジンはもう止まってるよ」
ヴァレリアが死んだダッシュボードを叩いて答えた。
「電子回路が焼けた。マナの屈折率が高すぎるんだ。ここからは歩きだよ」
俺たちは車を降りた。完全なる静寂。
黒曜石の地面に足を踏み入れた瞬間、俺の反射像がこちらを見上げた。
だが、そいつは俺の動きを模倣しなかった。
俺が見下ろしている間、地面の中の「アーサー」は正面を見据え、微笑んでいた。血や油のシミ一つない、完璧な白衣を着ている。
「地面を見るな」
俺は警告した。
「地平線を見ろ」
「手遅れよ」
ルナが囁いた。
彼女は凍りつき、右手の水晶柱を見つめていた。
柱の中には、ルナのバージョン違いが閉じ込められていた。だが、今の戦士としてのルナではない。数年前の「アイドル」としてのルナだ。ピンクのスパンコールのドレス、濃いメイク、凍りついたプラスチックのような笑顔。
『最後の音、外してたわよ』
水晶のルナが話した。声は空気を震わせず、ルナの精神を震わせた。
『誰もあんたの叫び声なんて聞きたくないの、ハニー。みんなが見たいのは、あんたが笑って、黙ってるところなのよ』
「黙るのはあんたよ……」
ルナが震える手でソニック・バトンを握りしめ、呟いた。
『あんたはただの舞台装置。壊れて兵隊ごっこをしてるだけの人形よ』
隣では、グリッスルが水たまりに向かって唸っていた。
反射像からはオークではなく、よだれを垂らし、知性のない虚ろな目をした人型のイノシシが現れた。社会が彼女に貼ったレッテル通りの獣だ。
『ニク……コロス……クウ……』
反射像が呻く。
そしてヴァレリア……彼女は機械を見つめていた。錆びたスクラップで作られ、崩れかけ、歯車が噛み合わなくなった彼女自身のバージョンだ。
『お前は何も直せない』
スクラップのヴァレリアが言った。
『お前が触れるものはすべて壊れる。トラックは故障する。そしてお前のせいで、あいつらは死ぬんだ』
「アーサーさん!」
ルナが耳を塞いで膝をつき、叫んだ。
「止めて! 精神攻撃です!」
彼女のもとへ駆け寄ろうとしたが、何かが道を塞いだ。
見えない壁だ。
そして、そいつ(・・・)が地面から抜け出してきた。
俺の鏡像。
怪物ではなかった。エリオ・ヴェラス。親父だ。
いや、親父の年齢になった俺か。もし俺がソヴレニティの清潔なラボに留まっていたら、なっていたであろう姿。
「科学者アーサー」は眼鏡の位置を直した。水晶のクリップボードを持っている。
「興味深い」
彼は俺の声で、だが俺の魂を持たずに言った。
「被験者は道徳的退行の兆候を示している。自分のことを英雄だと思っているのか、アーサー? 君はただの汚れたメスだ。君は中身を見るために物を切り開くのが好きなだけだ。友人を救いたいわけじゃない。解剖したいだけだろう」
【 精神侵入警報 】
【 ストレス・コルチゾール値:危険域 】
【 寄生体提案:ターゲットの捕食 】
「黙れ」
俺は本物のメスを抜いて唸った。
「お前は神経症に基づいた固体光の投影だ。実在しない」
「僕こそが唯一の実在する部分さ」
鏡像は冷ややかに笑った。
「残りの君は、怪物の宿主に過ぎない。メスを置きたまえ、アーサー。科学に主導権を譲るんだ。パパの仕事を終わらせようじゃないか」
彼が指を鳴らした。
周囲に未来のビジョンが浮かぶ。
手術台で死んでいるルナ。ホルマリン漬けにされたグリッスル。分解されたヴァレリア。
そして、何も感じずにそれらすべてをノートに記録している俺。
俺の最大の恐怖だ。死ぬことではない。人間性を失い、俺が戦っている冷徹さそのものになってしまうこと。
「見えるかい?」
鏡像が歩み寄ってきた。
「これが君だ。機能的なソシオパスさ」
彼が俺の胸に触れた。その手は絶対零度のように冷たい。心臓が止まりそうになるのを感じた。
横を見る。
ルナは縮こまって泣いており、水晶のアイドルが彼女を嘲笑っている。
グリッスルは包丁を手放し、自分がただの獣であることを受け入れようとしている。
もし何もしなければ、俺たちは五分以内に魔法的鬱病で死ぬだろう。
鑑別診断が必要だ。
反射像と現実を隔てるものは何か?
反射像は完璧だ。現実は欠陥だらけだ。
俺は水晶のアーサーを見た。彼は無垢だ。左右対称だ。
俺は自分の手を見た。傷跡。油で汚れた爪。メスを握る指にできたタコ。
そして、皮膚の下で脈打つ寄生体。
汚れ。エラー。共生。
「間違ってるな」
俺は鏡像の手首を掴んで言った。
「何をする? 放せ! 僕は完璧なんだ!」
「その通りだ」
俺は笑った。瞳が怪物の赤くカオスな光を帯びる。
「完璧とは停滞だ。生命とは混沌だ。生命とは変異だ。そして俺は……」
寄生体が俺の腕を黒く棘のある鎧で覆う。
「……俺はお前を打ち切り(キャンセル)にするエラーだ」
俺は水晶のアーサーを引き寄せ、頭突きを見舞った。
エレガントな一撃ではない。野蛮な一撃だ。額とガラスの衝突。
パリーン!
科学者の完璧な顔にヒビが入った。
彼は叫んだ――ガラスが砕けるような音だ。
「ルナ!」
額から血を流しながら俺は叫んだ。
「お前は人形じゃない! お前はセイレーンだ! ガラスを割れ! 爆発するまで叫んでやれ!」
ルナが顔を上げた。ひび割れた俺の鏡像が後ずさるのを見る。
恐怖が怒りに変わる。
彼女が立ち上がった。
「私……は……口パク(リップシンク)なんて……しないッ!」
彼女はバトンを回し、原初の叫び(プライマル・スクリーム)を放った。歌ではない。歪んだ、汚れた鬨の声だ。
水晶のアイドルは耳を塞ごうとしたが、現実の周波数が彼女を粉砕した。
パリン!
完璧な人形がダイヤモンドの粉となって爆散した。
「グリッスル!」
俺は呼んだ。
「お前は獣じゃない! シェフだ! シェフは肉を支配するんだ!」
グリッスルは人型イノシシを見た。彼女は地面から包丁を拾い上げた。
「あたいは……ウェルダンが好みでね」
彼女は踏み込み、完璧な技術の一撃で反射像を両断した。
ヴァレリアは他が勝つのを見て、スクラップの自分を蹴り飛ばした。
「あたしは大事なものを直すんだよ!」
彼女は叫び、機械の胸に至近距離からショットガンをぶっ放した。
ドッペルゲンガーたちは光と煙になって消滅した。
残るは俺のだけだ。顔の割れた科学者アーサーは、地面の鏡へ逃げ込もうとしていた。
「ダメだ! 論理が! 秩序が!」
彼は呻いた。
俺は彼の胸を踏みつけ、地面に固定した。
「空が割れたとき、秩序なんて終わったんだよ、ドクター。今の俺たちは、即興で生きてるんだ」
俺はメスを彼の水晶の「心臓」に突き立てた。
彼は千の破片となって砕け散り、輝く塵となって風に舞った。
谷に静寂が戻った。だが今、黒曜石の地面はもはや歪んだ反射像を映し出してはいなかった。映っているのは、汚れて、疲れて、勝利した四人の姿だけだ。
俺は座り込み、荒い息をついた。寄生体は感情的な「食事」に満足し、鎧を解除した。
ルナが歩み寄ってきて、手を差し伸べた。
「大丈夫ですか、ドクター? 岩に頭突きしましたけど」
「ショック療法さ」
俺は額のたんこぶに触れた。
「そっちは? ポップスターとしてのキャリアは殺せたか?」
「埋葬しました」
彼女は笑った。本当の、少し歪んだ、疲れた笑顔だ。
「どっちにしろ、パンクロックの方が好きですから」
ヴァレリアがトラックをいじった。水晶の亡霊が消えると同時に、エンジンが息を吹き返し唸りを上げた。
「干渉が消えたよ。道は開いた」
俺たちはトラックに乗り込んだ。
車両が谷から加速して出る間、俺は最後にもう一度鏡を見た。
親父の姿はなかった。怪物の姿もなかった。
見えたのはアーサー・ヴェラスだけだ。神(あるいはブラジリアにいる何か)を殺しに行く男の姿だ。
「あとどれくらいだい?」
グリッスルが包丁を研ぎながら聞いた。
俺は地平線を見た。セラードの紫色の空が、遠くにある人工的な黄金の輝きへと変わっていく。
雲に届くほどの光のドーム。
「もうすぐだ」
俺は指差した。
「ブラジリア。《光の首都》」
ドームは目が痛くなるほどの純粋さで輝いていた。
だが俺は真実を知っている。
強すぎる光は、カーペットの血痕を隠すためにあるのだ。
「マスクを準備しろ」
俺は告げた。
「中の空気は、息ができないほど神聖だろうからな」




