原罪の温室
死んだ真菌の雪が、クリチバを灰色の経帷子のように覆っていた。呼吸は安全だが、カビたパンとオゾンの臭いがする。
街が祝杯を挙げている間――広場で踊るグールたちや、合成血液で乾杯する吸血鬼たちをよそに――俺はオシアン判事の執務室で、古いホログラム地図を分析していた。
「植物園だ」
リッチは骨の指で、地図上のドーム型ガラス構造を指差した。
「亀裂が開く前は観光名所だった。その後、君の父親の裏庭になった。ここ二十年、誰も足を踏み入れていない」
「なぜだ?」
俺は手の包帯を調整しながら聞いた。
「魔物がいるのか?」
「もっと悪い。実験植物相だ」
オシアンが身震いした(少なくとも、骨がカタカタと鳴った)。
「君の父上は、亀裂からの放射線を濾過できる植物を作ろうとした。結果は……攻撃的なものになった。あそこの植物は光合成をしない。『殺戮』合成をするのだ」
「秘密の研究所を隠すには絶好の場所だな」
俺は地図を閉じて言った。
「郵便配達人を食おうとする植木があれば、誰も詮索しようとは思わない」
「大鎌を持っていくといい、ドクター。それと、芝生には入らないことだ」
植物園への旅は短かった。人狼ベトのオパラが正門で俺たちを降ろした。
有名なアール・ヌーヴォー様式のガラス構造はまだ立っており、朝の青白い日差しの下で輝いている。だが、何かがおかしかった。
ガラスは透明ではなかった。内側から汚れており、赤い結露で覆われている。そして周囲の植物は……。
幾何学的対称性で有名だったフランス式庭園は、今や紫色の蔓と、露出した心臓のように脈打つ花々のカオスと化していた。
「綺麗な場所ですね」
ルナがバトンを握りしめて車を降りた。
「『あの花に触ったら死ぬ』的な意味で綺麗ですけど」
「《出血薔薇》だ」
俺は深紅の花壇を指差して識別した。
「棘が強力な抗凝固剤を注入する。かすり傷一つで、十分で血が枯れるぞ。土壌がその血を吸って根の肥やしにする。閉鎖循環サイクルだ」
「あたいはバンに残るよ」
グリッスルが、樹皮に目玉がついているような木を疑わしげに見ながら言った。
「植物に肉はないからね。サラダと戦うのは御免だ」
「火力が必要なんだ、グリッスル」
俺は主張した。
「こいつらのセルロースはマナで強化されてる。ヴァレリア、火炎放射器を準備しろ。炎は万能の剪定バサミだ」
俺たちは庭園に入った。
砂利道は清潔だった。植物たちは道を尊重しているようで、俺たちが通ると、追い詰められた動物のようにわずかに後退した。
アーサー(寄生体)が落ち着きをなくしていた。
【 親和性フェロモン検知 】
【 環境適合性:高。自然突然変異のリスクあり 】
『我慢しろ』
俺は自分自身に呟いた。
『今ここで根を張るなよ』
メイン温室のドアに到着した。
鍵はかかっていなかった。ガラスの扉は開いており、招き入れているようだ。中の空気は熱く、湿っていて、子宮の臭いがした。
中に入った。
内部はジャングルだった。巨大なシダ植物が三十メートル上のガラス天井をこすっている。
だが普通のシダではない。葉は革のような質感で、幹は軟骨でできていた。
「アーサー……」
ヴァレリアが懐中電灯を上に向けた。
「あれは……果実か?」
見上げた。高い枝に、スイカほどの大きさの半透明の袋がぶら下がっている。琥珀色の液体で満たされていた。
それぞれの袋の中に、胎児がいた。
人間の胎児ではない。キメラの胎児だ。コウモリの翼とエラを持つもの。鱗と人間の皮膚を持つもの。
「植物性子宮か」
俺は吐き気を催しながらも魅入られた。
「親父は植物を育てていただけじゃない。生物学的身体の外での妊娠方法を確立しようとしていたんだ。木で魔物を栽培していたんだよ」
突然、何かが裂ける音がした。
頭上の「果実」の一つが開いた。羊水が粘着質の雨のように降り注ぐ。
中の生物――猿とトカゲの混合種――が、湿った音を立てて床に落ちた。
目はない。円形の口に歯がびっしりと並んでいる。それは金切り声を上げ、ルナに向かって突進した。
「危ない!」
ルナがバトンを回し、音波パルスを放つ。
生物は吹き飛ばされ、軟骨の幹に激突した。だがすぐに体勢を立て直し、シューッと音を立てる。
その時、背後の植物が動いた。
太い蔓が天井から降りてきた。先端はハエトリグサのような罠になっている。
バクッ。
植物は生まれたばかりのキメラを丸飲みにした。
咀嚼音と消化音が温室に響き渡る。
「生態系が自己調整している」
俺は観察した。
「植物が失敗作を食う。無駄なものは何もない」
「ドクター!」
グリッスルが叫んだ。
「奥にドアがあるよ! あの巨大な肝臓みたいな木の下だ!」
俺たちは走った。足首を掴もうとする根を避け、ヴァレリアが短い火炎放射で攻撃的な蔓を追い払う。
温室の最奥部に到達した。
周囲の有機的な汚らわしさとは対照的に、清潔で輝くステンレス製のドアがあった。
ノブはない。針が露出したパネルがあるだけだ。
「DNAスキャナーだ」
俺は言った。
「またか」
「血が必要ですか?」
ルナが聞いた。
「ただの血じゃダメだ」
俺は手袋を外した。
「骨髄が必要だ」
俺は針に手を近づけた。
【 ユーザー認証:アーサー・ヴェラス(息子) 】
【 継承プロトコル:起動 】
針が指を貫き、深く穿つ。痛むが、痛みは二の次だ。
ドアがシューッと音を立てて開いた。
中から吐き出された空気は無菌的で冷たく、古いテクノロジーの臭いがした。
アルファ研究所に入った。
オペラ座のクリプトとは違い、ここは無傷だった。白い照明が自動的に点灯する。コンピュータが唸りを上げ、数十年の眠りから覚醒する。
壁には冷凍睡眠タンクが並んでいた。
だが部屋を支配していたのは、中央のシリンダーだった。
高さ五メートルのガラス管。青く輝く液体で満たされている。
そしてその中に浮遊しているのは……。
俺たちは全員、足を止めた。
ヴァレリアが火炎放射器を取り落とした。グリッスルが一歩後退する。
俺はガラスまで歩み寄り、冷たい表面に触れた。
タンクの中に、魔物はいなかった。
そこにあったのは……「宇宙」の欠片だった。
星々を内包したかのような闇の塊。それは絶えず形を変えている。ある時は鉤爪に、ある時は顔に、ある時は不可能な幾何学立体に。
美しく、そして恐ろしかった。
「何ですか、これ?」
ルナが囁いた。
タンクの基部の金属プレートを読む。
検体ゼロ(スペシメン・ゼロ)
起源:外部世界(ツングースカ事象)
ステータス:生存。飢餓状態。
備考:寄生体コードのオリジナルソース
「奴らの一体だ」
俺の声が震えた。
「《エーテルを喰らうもの》。少なくとも、その断片だ」
俺の中の寄生体がパニックを起こした。奴はこれを食べたがらない。逃げたがっている。
【 存亡の危機。アルファ捕食者を検知。推奨:タンクの即時破壊 】
『ダメだ』
俺は頭の中の声に言った。
『壊せば、こいつが解き放たれる』
メインコンソールへ歩いた。画面上で動画ファイルが点滅している。
メッセージ再生:エリオ・ヴェラス - 遺言
ボタンを押した。
親父のホログラム映像が現れた。老けて、疲れており、無精髭を生やしている。彼はカメラを直視して話していた。
『アーサー。これを見ているということは、お前は共生に耐え抜いたということだな。すまない。私は良い父親ではなかった。絶望した科学者だった』
彼は咳き込み、口元の血を拭った。
『タンクの中にいるのが敵だ。奴が巣に信号を送る前に、その一部を捕獲した。我々は奴の生物学を研究し、寄生体を作った。お前の寄生体も……ここから作られたのだ』
彼は映像の中で背後のタンクを指差した。
『だが、発見が遅すぎた。デバウアー(捕食者)たちはマナのためだけに来るのではない。呼ばれて来るのだ。地球上にビーコン(信号機)がある。亀裂を引き寄せた信号が』
映像が揺れた。
『信号は技術的なものではない。生物学的なものだ。地球上の誰かが、デバウアーの「王」のDNAを持っている。オリジナルの裏切り者だ。
ソヴレニティはこれを知らない。教会も知らない。
ビーコンは……《亀裂のバチカン》に隠されている。ブラジリア大聖堂だ』
映像がノイズに切り替わった。
俺たちは沈黙した。
ブラジリア。権力の中枢。パラディンと政府の巣窟。
そしてどうやら、世界の終わりが始まった場所。
「ブラジリア……」
ヴァレリアが溜息をついた。
「やっぱりあそこか。魔物が来る前から、あそこは蛇の巣だったからね」
「次の目的地が決まったな」
俺はコンピュータのデータをヴァレリアのドライブにコピーしながら言った。
「そして新しい任務だ。ただ逃げるだけじゃない。ビーコンを止めに行く」
突然、研究所の赤色灯が回転し始めた。
【 セキュリティ警報。外部境界突破。巨大熱源反応を検知 】
「黄昏部隊かい?」
グリッスルが包丁を構えて聞いた。
俺は監視モニターを見た。
兵士ではなかった。
植物園の上空が暗くなっていた。嵐の雲が形成されているが、稲妻は黄金色だった。
光でできた翼を持つ人影が、空から降下してくる。
「いや」
俺は背筋に悪寒を感じながら答えた。
「もっと悪い」
「大天使ミカエル。ソヴレニティ聖騎士団の団長だ」
ルナが頭上のガラス天井を見上げた。
「天使? 私たち、天使と戦うんですか?」
「あれは天使じゃない、ルナ」
俺はメスを抜いた。金属が信仰を斬れないことは知っていたが。
「あれはメサイア・コンプレックスを持ったランクSの怪物だ。原子を斬る剣を持ってる」
俺はエーテル・デバウアーのタンクを見た。
「どうやら、囚人を武器として使うしかなさそうだな」




