沈黙のプロトコル
魔物の頭蓋冠を切り開く骨切りノコギリの音は、奇妙なほど歯医者が奥歯を削る音に似ている。甲高い回転音、そして焦げたカルシウムの臭い。
だが俺にとって、それは「進歩」の響きだ。
「もうすぐだ」
俺はワイバーンの頭部をしっかりと固定し、吐き気をこらえてノコギリを操作するルナに声をかけた。
「あと二センチで前頭葉が露出する。硬膜に気をつけろ。髄膜の袋を破れば、証拠がただのスープになっちまう」
「ドクター、人が来ます」
ルナが唐突にノコギリを止めた。突然の静寂が、耳に痛いほど響く。
「止めていいとは言っていないぞ、ルナ」
「いえ、本当なんです。偉い人たちです。高い香水の匂いをさせて、血溜まりを避けて歩くタイプの人たちです」
俺は顔を上げた。
三台の黒塗りのSUV――装甲仕様で、金色の装飾が施された車列――が、警察の規制線をまるで紙吹雪か何かのように突破してくるところだった。車両は半月を描くように、魔物の死骸を取り囲んで停止した。
ドアには見間違えようのない紋章。剣が突き刺さった王冠。
ギルド『ソヴレニティ(至高主権)』。エリート中のエリート。この街の支配者たちだ。
「クソッ」
俺は汚れた手袋を外し、新しいものを装着しながら溜息をついた。
「ノコギリをしまえ、ルナ。タブレットも隠すんだ」
中央の車のドアが開いた。そこから現れたのは、フルプレートの戦士ではなく、仕立ての良い紺色のイタリア製スーツを着た男だった。彼は細いフレームの眼鏡の位置を直し、泥と毒を無視してこちらへ歩いてくる。清掃魔術師を雇える人間に特有の傲慢さだ。
ジン司令官。『ソヴレニティ』の作戦本部長。
左右対称の顔立ちと完璧な肌は、「若返りのポーション」漬けであることを雄弁に物語っていた。
「死骸から離れたまえ」
ジンの声は大きくはなかったが、全員に聞こえるよう微量な発声マナが込められていた。
「このドロップ(収穫物)に関する管轄権は、我々『ソヴレニティ』が引き継ぐことになった」
ルナが俺の背中に縮こまる。
「あの人、怖いですドクター。背中に巨大なヒルみたいな霊が張り付いてます」
「静かに」
俺は一歩前に出て、頭蓋骨に入れた切開痕が彼に見えないように立ちはだかった。
「こいつは驚いた、司令官。何か手違いがあるようだ。衛生清掃課はすでにプロトコル44を開始している。生物学的解体処理の最中だ。市の条例によれば、一度メスが肉に触れれば、その魔物は『所有物』ではなく『廃棄物』扱いになるはずだが?」
ジンは俺の二メートル手前で足を止めた。彼は俺を頭の先からつま先まで、臓物で汚れた作業着をあからさまな軽蔑の目で見下ろした。
「アーサー・ヴェラス」
彼は俺の名前を、まるで病名か何かのように口にした。
「“ドクター”。やはり君か。欠陥品のワイバーンの腸を弄り回して喜ぶような病的フェチの持ち主は、君くらいのものだからな」
「欠陥品だと?」
俺は片眉を上げた。
「つまりソヴレニティは、この魔物が正常な戦闘状態になかったと認めるわけか? 《サニー・ナイト》が高価な皮の60%を焼き払わなきゃならなかった理由も、それで説明がつく。何を隠そうとしたんだ、ジン?」
官僚主義者の目が細められた。
「口を慎めよ、ゴミ拾い風情が。国家安全保障上の問題により、死体を没収する。このワイバーンには、新型の魔法疫病を媒介している疑いがある」
嘘だ。
俺の中の寄生体が振動した。ジンの心拍の揺らぎを感じ取ったのだ。こいつは嘘をついている。だが、よく訓練された嘘だ。
「もし疫病なら」
俺は腕を組み、言い返した。
「それこそ俺の管轄だ。俺は上級病理学者だぞ。適切な除染なしに今こいつを持ち出して、パウリスタ大通りに胞子でも撒き散らしてみろ。その罰金で、あんたのギルドごと破産することになるぞ」
ジンが笑った。冷たく、企業的な笑みだ。
「我々には専属の専門家がいる。青空の下で屠殺ごっこをするような連中とは違うんでね」
彼が指を鳴らした。
支援トラックから二人の「ポーター」――貨物用外骨格を装着したランクCの大男たち――が降りてきた。彼らはルナを突き飛ばし(彼女は憤慨したような悲鳴を上げた)、ワイバーンの死骸に牽引用のフックを打ち込み始めた。
「ちょっと、勝手なことしないでください!」
ルナが抗議した。
「まだ様式7Bの記入も終わってないんですよ!」
「その書類は無効だ」
ジンは絹のハンカチを取り出して鼻を覆い、俺に近づいてきた。
「アーサー、いい子だから自分の巣へ帰りたまえ。もし報告書に『戦闘による死亡』以外のことを記録したと知れたら……そうだな、霊安室では事故がつきものだ。ホルマリンは引火しやすいからな」
彼は勝利を確信し、俺に背を向けた。
ソヴレニティの班がワイバーンを吊り上げる。巨大な死体は次元輸送コンテナへと引きずり込まれ、すべての証拠と共に消えていった。
あるいは、そう見えただけか。
トラックが去り、警察のランプが通常に戻る中、ルナが悔しそうに石を蹴飛ばした。
「あっっったま来る! ボーナスも、肉も、手柄も全部持ってかれた! ドクター、あたしたちタダ働きですよ! それにあいつ……オーラが腐ってました!」
俺は作業用の上着を脱ぎ捨て、下に着ていた私服を露わにした。表情は至って冷静だ。
「タダ働きじゃないさ、ルナ」
「どうしてですか? ワイバーン丸ごと持ってかれたじゃないですか!」
俺はジャケットの内ポケットに手を入れ、小さな気密ガラス瓶を取り出した。
青みがかった保存液の中、クルミほどの大きさの灰色の組織片が揺蕩っている。
ルナが目を丸くした。
「それ……いつの間に?」
「彼が三流悪役の演説をしている間にな。初歩的な手品だ」
俺は瓶をしまった。
「脳下垂体の一部だ。ホルモン調整と……『成長促進』を司る部位だな」
「うげっ。ジンの目の前で脳みそを盗んだんですか?」
「厳密には、生物学的危険サンプルを回収しただけだ」
俺は笑った。もっとも、目は笑っていなかったが。
「ジンは数字と利益しか見ない人間にありがちなミスを犯した。生物学において、死因を特定するのに死体丸ごとは必要ないってことを忘れてたんだ。たった一個の細胞が、物語のすべてを語ってくれる」
俺はDSLの古びた凹んだバンへと歩き出した。
「行くぞ、ルナ。腹が減った」
「あぁ、もう……」
ルナが青ざめた顔で道の真ん中に立ち尽くす。
「回収のあとにドクターが言う『腹が減った』で、ピザだった試しがないんだから」
俺はバンのドアを開け、機材を後ろに放り込んだ。
「この腺を使って、最高の料理を作ってくれる場所を知ってるんだ。どんな錬金術を使ってあの怪物を造ったのか、知る必要がある。そして、その材料を知る唯一の方法は……」
「……味わうこと、ですよね」
ルナは敗北を認めたように助手席に乗り込んだ。
「『マダム・グリストル』の店に行くのは嫌なんですよ。あそこの料理、逆にこっちを噛んでくるんですから」
エンジンをかける。ラジオからは、ハンターたちが世界を救うという内容のありきたりなポップソングが流れていた。俺はダッシュボードを叩いてそれを切った。
ギルド『ソヴレニティ』は犯罪現場をきれいに掃除したつもりだろう。だが、彼らは最も重要なことを見落としている。
病理学者が、空腹だってことだ。
「次の停車駅は、『食の裏社会』だ」
俺はアクセルを踏み込んだ。




