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Ormundo/オルムンド  作者: 黒綺硝子
第一章 焼けた黒曜石
8/8

八譚 黒曜の炎

 厳しかったスコールが過ぎ去っても、宿舎の部屋の一角で身を屈めて怯えている娘がいた。

 それはミュリエルだった。


「はぁ...もう過ぎたかなぁ...はぁ...ついてない...」


 何かとメーレルを心待ちにしていたのも束の間の事だったが、急遽吹き荒れたスコールに誰もいない宿舎で不安になりながら屈み込んでいた。


「今週はずっとこうなのかなぁ...」


 どんどん悪い予想が膨らんでいく彼女だが、それでも今日中に彼が帰ってくるかを心配していた。


「メーレル...遅いのよあんた...」


 嫌々に悪態をついて頬を膨らませるミュリエルだったが、つんけんしている内に宿舎の中に誰かが入ってきた音が聞こえた。


「あぁ...人!ひとー!!」


 物音がすると勢いよく部屋を飛び出し、玄関へ駆け出して行く。

 そこには数人の役人がおり、驚いた様子で現れたミュリエルを見つめる。


「ほんっと!今日一日中ついてなくてねー!洗い物も忘れてたから濡れてるし、廊下も誰かが汚しやがったし、それで私が雑巾掛けしてやって、そんで...」


 猛スピードで言葉の弾幕を浴びせるミュリエルに役人の一人が怒った。


「うるさーい!うるさい!うるさいんじゃ!」


 それに対してミュリエルはしょんぼりする...


「重要な連絡がある。姫君からお前へ必ず届けろと言われた通達だ...」


「えぇ!?それって...?」


 ミュリエルが手紙を新たに渡される。


「え〜っと...」


 慣れない手つきで丁寧に手紙を開ける。


 ——報告。


 メーレル・トラウグストゥス御一行がシュメイル外壁門に到着。

 帰路にてスコールに見舞われた後、野生のグリフィンと遭遇し、撃退をした模様。

 しかし出発した騎手一名が死亡、また斥候の内一名が行方不明となった。

 メーレル・トラウグストゥス、エイレム・メイサ両者の帰還については、親族や関係者等に通達するようミロリーネ姫から御命令されている。


 ——郵便長ロール・トリビアン


 その内容の危機感に彼女は絶句した...


「嘘......め、メーレル!!!!」


 手紙を読んだミュリエルは役人達を押し除け、メーレルが居るとされる外壁門へと向かった。

 外は晴れ晴れしく虹が掛かっている...


 ◇◇◇


 ——シュメイル外壁門にて。


 晴れ晴れしくなった青空に反して、帰還した二人の表情は霧が掛かっている様だった。


「おめー...怪我は無いか?」


 外壁門近くの療養所で、この地方では珍しい獣人族のジャニーが話しかけてきた。

 狼の様な外見をしているとあの遺跡で遭遇した猛獣の群れを思い出す...


「あんたは?」


「俺はジャニーだ!おめー...強がらなくてもいいぜぇ〜?あんなグリフィンなんて俺が背負っているこの大剣でぶった斬ってやるのによ!」


 そう言うと久々の高笑いを聞いた。

 メーレルは素直に思った。


 ——ミュリエルとミロリーネに会いたい。


「おい、大丈夫そうかメーレル...」


 隣のベッドで寝そべってるエイレムがメーレルに喋りかけてくる。


「ああ、災難だったな俺達...アリアン...」


 そこでアリアンの事が思い浮かぶ...


「もうやめろって!いくら考えたって俺達にはあれが限界だったんだよ...!」


 エイレムが投げやりに反発する。

 メーレルも心の奥底では理解していた。

 きっとアリアンは生きているはずだ...と。


「分かった...エイレム...」


 その会話を聞いたジャニーが言う。


「おめーらが遺跡で探索した内容は調査機構や軍関係の人間は皆知ってる!俺は昨日読んだんだが、馬鹿デカい蜘蛛に遭遇したんだってな!?うっひょ〜!!」


 やはり、命を懸けた甲斐はあったという...


「休ませろジャニー...俺はお前なんかよりも待ち遠しい奴が居るんだよこの野郎」


 メーレルは冷たく追っ払う。


「全く...素っ気ね!じゃあまたな!ジャニーって名前を覚えといてくれよな〜!!」


「おう!」


 そうしてジャニーは去っていく。

 暫く一人でいると、療養所の玄関が勢いよく開かれる!

 皆が驚く中、その先にいたのはミュリエルであった!


「ミュリエル...」


 息を呑み込んで彼女を見ると、拭っても拭いきれない涙が溢れ出してきた。


「メーレル...メーレル!!!!!」


 ミュリエルは一直線にメーレルの元へ飛び込み、彼に抱きついた。


「もーう!行く時に何も言わないんだからー!」


 二人は涙を出しながらもお互いに泣いている。

 そんな瞬間を見たエイレムは思った。


(こいつら...やっぱ“恋”じゃねえかこの野郎...!)


 エイレムはそう感じてメーレルに声を掛ける。


「ありがとう...メーレル...」


 吊り橋を渡った者同士の挨拶だった。


「おう...エイレム...ありがとう...」


 ミュリエルはエイレムの方を向いて言った。


「貴方がエイレム・メイサ?メーレルのお友達?」


 それにエイレムは返す。


「俺は彼の儚い一人の友人だよ...」


 そう言うとベッドから立ち上がった。


「俺はもう動ける!」


 金剛剣を持ち、鞄を背負って去ろうとする。


「...待て!」


 メーレルが言うも止まらない。

 エイレムは一度だけ足を止めて言った。


「メーレル...また必ず会おう...」


 そう言うと彼は療養所を出ていってしまった。


「最後に...何も挨拶出来なかったな...」


 メーレルは最後に悔しく思う。

 そんな背中に...ミュリエルはそっと毛布を被せた...


「メーレル。おかえりなさい...」


「ああ、ただいま...」


 ミュリエルの支えで立ち上がったメーレルは、宿舎へと向かおうとする。


 ——その時。


「姫君がお越しだ!道を開けんか!」


 そう言うと辺りが慌ただしくなる。

 なんとミロリーネが迎えに来てくれたのだ!


「まさか...ミロリーネ様!!!!!」


「ミロリーネ!?俺の為に...」


 複数の使用人と執事を連れて入ってきたのは、他でも無いミロリーネであった!


「ミロリーネ様〜!!わーーい!!」


「あら...メーレル...ミュリエル!!」


 ミロリーネはメーレルに近付く。

 メーレルはミロリーネの姿を見て涙し、ミロリーネはメーレルを見て涙した。

 とうとうこの三人が出揃ったのだ!


「ミロリーネ様...メーレル...うぅぅ...うぇぇぇん!」


 ミュリエルが大声で嬉し泣きすると、メーレルとミロリーネは顔を見合わせて貰い泣きした。


「メーレル...おかえりなさい...」


「ただいま...ミロリーネ...」


 ミロリーネの隣にいた執事も涙する...


「メーレル殿...ケリーと申しまする...大変...大変よく頑張られましたぞ...!」


 その言葉を聞いて涙ぐんだメーレルは拙く返した。


「ああ...ありがとう...みんなありがとう...」


 扉の先に誰かがいる...

 こっそりジャニーも観ていた!

 彼も強靭な見た目に見合わぬ涙を浮かべていた...


「うう...温かい愛だぜメーレル...」


 ◇◇◇


 静まり返った宿舎。

 メーレルは久しぶりの一室で寝ていた。


「おやすみなさい...」


 寝静まった彼にミュリエルはそっと毛布を掛ける。

 その夜は驚くほど平穏で静かだった。

 ミュリエルは満面の笑みを浮かべ部屋を出た。


「メーレル...やっと帰ってきてくれた...」


 宿舎の廊下から眺める満月は、驚くほど綺麗な蒼の輝きを放っていて美しかった..


 ◇◇◇


 シュメイル城では不穏な気配があった。

 城内の図書館でファイアレムが本を漁っている。


「見つけなければ...世界を変えなければ...」


 彼は変わらず『力』を求め続ける。


 ——あの過去のように...


 皇后がいた時代、幼きファイアレムはそんな母に深く愛されて生きてきた。

 しかし教舎では周囲に虐められ、酷い扱いを受けていた彼はいつの間にか母以外の人間を信用出来なくなってしまっていた。

 母以外には...ファイアレムは“ペルソナ”のような親しみやすい性格で振る舞っていた。

 しかし、そんな過去にも限界が来たのだ。


「母上...!!」


 彼が丁度青年になった年のある日、ファイアレムの母は病気で亡くなった。

 その傍で泣いていたファイアレムは、そんな母を泣かずに淡々と見つめていた姉を許せなかった...

 その時、ミロリーネの中でも何か言い表せない哀しさがあった...だがファイアレムにそんな心を汲み取れる余裕は無かったのだ。


「母上...母上...」


 それから毎晩母との想い出を思い出しては、赤子のように泣きじゃくっていた。

 モンカステラ家に母は必要なかったのか?

 何故、誰も本気で悲しまないのか?

 彼は内心ずっとそうだった...


「ファイアレム。お前は弱いから虐められる...だから強くなりなさい...学だけが人生ではありません...どれだけ周りに見下されようとも、いつかお前の強さがきっと何者かに正しく見られるでしょう...その時まで耐えなさい...」


 ある日、ファイアレムが母に言われた事を思い出す。

 母の遺言を一つ一つ思い出し、図書館を巡る。


「母上...私は弱い...!!」


 ファイアレムが本棚に頭を打ちつける!

 すると、本が落ちてきた...


「何だこれは...?」


 表記がないボロボロに廃れた本。

 彼はそのページを捲って見る事に...


「...これは、龍血!?」


 その本では古代の龍が齎した最悪とも言える力について語られていた。

 母の言った御伽話と同じ...あの“龍血”である!


「この力...なんとも麗しい...」


 代々モンカステラ王家に流れる血が、原初の先祖が神から授かった血と融合する事で『黒曜の炎』と呼ばれる恐ろしい炎を操り、いずれ世界を操作出来る力を得るという話が語られていた...


「何とも理想的だ...“世界を操る”だと...!?戦争、政治、罪、全てを裁くことが出来る...!これは...これが本当だとするなら私は...いや...」


 彼は本を落として唸る...


「いや...俺は...!この世の不条理を突破出来る...!」


 しかし重要なのは『先祖の血』の在り方であった。

 ファイアレムはその事について考える...


「先祖の血...我が王家で口にする事すら禁じられている“ヴェイラー・デズモンド”なる男が原初の祖先を殺し、何処かへ封じていたような...」


 それに気付いたのは早かった...!


「遺跡...!父上が命じていた斥候兵共が探索といい嗅ぎ回っていた話を聞いたことがある...!その調査はとうに打ち切られたが、ヴェイラーの秘密の在り方について何か手掛かりを掴んだとの情報が...!」


 しかしファイアレムの中で躊躇いが起きる...!


「もし...もし力を手に入れたとして...俺自身が別の何かへ変化してしまったとしたら...!それはもう後戻りは出来なくなってしまうではないか...!」


 だが彼の好奇心と支配欲が猶予を見せなかった。

 彼の狂った本能が言う...『その血の在り方を探せ』と言っている...


「母上が語られた話は御伽話では無かった...もし俺が先にヴェイラーの秘密を暴けば...!」


 ファイアレムは一心不乱になる。


「ふん...母上が申していた過去の言葉...俺がこの世の不条理を制す時が来るのだ...!!」


 もう政治も権威も必要ない。

 ファイアレムには力があれば良い。

 強大で絶対的な不可抗力が...


 ——図書館の扉が開いた。


「誰だ...」


「私で御座います義兄上...」


 そこにはジェウェルが入ってきた。

 ファイアレムは本を投げ捨てる。


「お前は私に協力する気はないか?」


 彼は腕を組んでジェウェルに問う。


「ええ...どんな事でも尽力致しましょう...」


「“どんな事でも”?“尽力”?ふん...」


 ファイアレムはこっそり部屋から持ち出した『まち針』を手に取り、その針について本の内容と対照してジェウェルに語る。


「やっと理解した...もう何も手に入れる必要はない...」


 ファイアレムが笑みを浮かべる。


「戦争も罪も全てを裁く...!冠を被る事では得られない真の力...その龍血の在り方を探さなければならない。このまち針は、我が血に龍血を融合させる為の装置に過ぎなかったようだ」


「前にも話されていましたね義兄上。その力が存在するという確証は、メーレルという名の傭兵が探索したというあの遺跡に隠されていると?」


「聴こえていたのかジェウェル...なら話が早い。盗み聞きとは人が悪いな...」


 それに無言でジェウェルは深く頭を下げる。

 ファイアレムは遺跡について語った。


「あの遺跡についての情報は事前に知れ渡っている範疇で入手出来た...斥候兵の雑魚共では到底対処出来ない強大な“蜘蛛”がいるんだよ...ふふ...お前はその蜘蛛が何か分かるかい?」


「ええ...私も古代文献を読み漁った時期がありますて、それはまあ大層悍ましい話でした義兄上。人々の恐怖を具現化した存在であると...」


 それにファイアレムは鼻で笑う。


「何を?そんな迷信は真実でも何でもない。私は本質を言っている。古代人共が信じた神格化など目的に関係がないどうでも良いことだ。重要なのはその巨大蜘蛛をあの遺跡から排斥しなければならない。ああ...私の目的の邪魔にしかならんからな...」


「古代遺跡に血の在り方があるなら、その蜘蛛はたちまち邪魔になる事間違いありません。では...私にその蜘蛛を排除させるという事ですか?」


 本棚に背を付けたファイアレムは話す。


「怯えてるのか...?兵長ともあろう者が...」


 それにジェウェルは大笑いする。


「ふはははは!滅相も御座いません義兄上。貴方が求める物は必ず手中に収めさせて見せます。権威など当てにならないとお考えになられるのであれば、私もその力に身を捧げるつもりではおりますから...」


 ジェウェルはもはや彼に命を懸ける気である。

 それも母方の従兄弟であるなら納得だ。

 彼らは強い結び付きなのであった...


「血の在り方についての情報を手に入れろ...!そしてその龍血を手に入れるのはこの私自身だ...いいな?」


「勿論で御座います...必ずや義兄上の元に...」


 恐ろしい事態は既に始まっていた。

 世界の運命をも歪ませる事態だった...


 ——もう誰も“龍”を止められない...


 ◇◇◇


 朝になった。


 ミュリエルとメーレルは二人で一つの手紙について熱く語り合っている...!


「魔物退治!行こうよ魔物退治!」


「お前が行く訳じゃないだろうが!」


 シュメイル平原に現れたとされる魔物が旅人や行商人を襲撃しているという通告だった。


 ——『魔物』とは単的に言えばこの世界に根付いている概念ではない。

 魔物は異世界から何らかの原因でこのオルムンドの世界に転送され、魂由来の魔法を扱うのが特徴的な別世界の生物の総称である。

 魔物が息づく世界は『ネフェリスクォルテ』と呼ばれる恐ろしい空間だ。

 過去にこの世界の支配者である『星霜の魔女・アギレラ』が魔物の軍勢と共にオルムンド中央の『世界の都・オーラリス』を襲撃したという伝説がある。


「全くそんな物騒な奴倒せないぜ〜...」


 そう言ってベッドに寝転がるメーレル。


「この仕事成功させたら、すっごい大金が手に入るって噂があるのよ〜!?」


「そ、そうなのか!?大金だって...!?」


 メーレルは遺跡探索で勝ち取った大量の硬貨が入った麻袋を嬉しそうに抱き抱える。

 ミュリエルもまた、その様子を同じ気持ちでメーレルを見ていた。


「魔物...というがどんな魔物なんだ?」


「どうやら“マンティコア”という恐ろしい魔物が出現したみたいよ!!すっごいデッカくて空を飛ぶし、蠍の尻尾まで付いてるんだから!!」


 ミュリエルが語るマンティコアを想像して、メーレルはふとグリフィンに襲われた事を思い出す...


「酷い戦いだった...エイレムが消毒してくれなければどうなっていた事か...」


 あの嵐の中、生き残ったのは奇跡に近い。

 しかし、嵐に置き去ったものもある。


「アリアン...」


 メーレルはアリアンを思い出し、再び病のように振り返す感傷に浸る事となった...

 だが暫くすると部屋に役人が入ってきたのだ。


「ああ、そこの傭兵よ!大変な事になった!」


 メーレルはぐったりとした姿勢から飛び上がる。


「貴様の帰り道...あの森の道路が一体の獰猛なグリフィンによって塞がれているのだ!スコールが止んだ今でも尚、ところ構わず出没するとは...」


 面倒な事が起きたようだ。

 道路で出現したグリフィンとは、恐らくメーレル達を襲撃したあのグリフィンで間違いない。

 詳しい生態など素人に知る由も無いが、どうやら国家を挙げて討伐に出るらしい。


「専門家すら手を引けと...ただ王宮の方々は挙兵をして今にも臨戦体制を敷いているのだ!」


 メーレルはごちゃごちゃな話に文句を言う。


「はぁ、それがなんなんだ?俺に何が出来る?あの嵐の中俺に出来たのは、エイレムと共に逃げ帰るだけだった。結局、友人を一人置き去りにしたんだぞ!」


 それに役人が依然と反論する!


「心外!国家の命令に背くな!貴様は自身の身分を弁えて申しておるのだろうな!?」


「いいか?俺は行く気はない。あの遺跡を探索したってなんの価値もないぜ。実際に俺はあの場所へ行ってそう感じたんだ。あの古臭い場所には“何も感じられなかったんだよ”」


 しかし、暫くしてメーレルにある事が思い浮かんだ。

 そう、友人のアリアンの話である。


「置いていった...俺だけ無事に帰った...」


 役人は呆れた様子でメーレルに伺う。


「その友人は、お前を待っておるだろう」


「ああ」


 メーレルはもう後戻りをしないと決めた。

 だが、あの森林には未だ置き去った存在がある。


「もう一度行くよ...」


 それは苦渋の決断だった。

 誰の眼にも鮮明に映る...


「そんな事...なんでよメーレル!」


 ミュリエルが制止しようとするも、役人が遮るように言い放った。


「お前は邪魔だ!国王の命令でもあるぞ!そこらのギルドの依頼と勘違いしておらんだろうな!?」


 ——彼女の瞳にボロボロ溢れ出す。


「嫌よ...ほんとに嫌...もう行かないでほしい」


 ミュリエルは手でその眼を覆い尽くした。

 それでもメーレルは彼女を裏切るしかない。


「ミュリエル...本当にごめん!」


 彼は立ち上がると、部屋を飛び出す!


「メーレル!!!」


 ——背後からは彼女の叫び声。


 罪悪感だ。

 劣等感だ。

 それでも彼を救う。

 彼は、ただの“傭兵”じゃなくなっていたから。


 ◇◇◇


 王位継承が一件落着したと思われた王宮では、議会も落ち着きを見せ、久々の平穏が訪れた。

 しかし、そんな王宮に激震とも言えるような事態が起こり出した。


「ミロリーネ様!」


「姫君!」


 大量の役人が図書館に押し寄せる。

 それは、まさに訃報だった。


「何かしら...」


 ミロリーネが疲弊したように問う。


「姫君...今朝、国王が...父上が亡くなられました...」


「な...なんですって...」


 ミロリーネがその知らせを聞いた時。

 シュメイルの平穏が、忽ち不穏へと豹変した。

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