二ヶ月に一度やってくる健康販売員
休日の昼頃、家で体を休めているとチャイムの音が聞こえてきた。玄関に行ってみると、そこに立っていたのは馴染みの健康販売員の男だった。
二月に一度の割合でやってくるその販売員はニコニコとしながらいつもご利用ありがとうございますと言って手を伸ばしてくる。私は差し出されたその手に自分がいままで付けていた腕時計のような機械を手渡す。
販売員は慣れた手付きでその機械を手提げ鞄の中にある読み取り機に読み取らせる。
「出退勤によるストレスの数値は……食事のバランスは……残業による睡眠不足は……休みの質は……」
毎度のことではあるがこの時間は自分の私生活を覗かれているような気分になってなんだか気恥ずかしい。やがて販売員は顔を上げると、それでは今回のお薬をお出ししますねと言って鞄から薬瓶と料金表を取り出した。
その二つを受け取った私は顔をしかめる。そしてダメだろうなと思いながらも文句を口にする。
「毎度のことながら高すぎるな。もう少し安くはならないのか?」
「グレードを下げたお薬をお出しすることはもちろん可能です。ですがそれですと疲れが取れず、健康状態が悪化して様々な病気に……最悪の場合ですと命に関わることも……」
「わかった、わかった。この薬を買うよ」
深刻な顔をして言う販売員の言葉を私は途中で遮る。そしてお買い上げありがとうございますと頭を下げる販売員に金を渡すと、健康状態を測る腕時計型の機械と薬瓶を受け取って彼をさっさと家から追い出した。
再び静かになった部屋の中で私は機械を腕に巻き、どっかりと椅子に腰を下ろした。そして二ヶ月分の稼ぎのほとんどが吹き飛ぶような値段の薬が入った瓶を見てため息を吐く。
たしかにあの販売員の勧めるこの薬を飲み始めてから健康状態はみるみる内に良くなり、どんなに無茶な働き方をしても体を壊すことはなくなった。
しかし、と私は心の中にある疑問を一人で呟いた。
「これを買うために働いてるのか、働くためにこれを買ってるのか、まるで分からないな」