第7話「勇者、村の仕事を手伝う」
朝、遼は牧場の小屋でぐったり寝ていた。
黒い霧の騒ぎの疲れがまだ残っている。
「……筋肉痛がやばい……勇者の仕事って重労働なのか?」
そこへリオが元気いっぱいに駆け込んできた。
「勇者様ー! 大変ですー!」
「今度は何だよ……」
「村の人たちが、勇者様にもぜひ手伝ってほしいって! 畑仕事や荷物運び、それから……結婚式の司会も!」
「……最後のは俺の仕事じゃないだろ……」
◆ ◆ ◆
まずは畑仕事からだった。
「勇者様! この畑の土を全部耕してください!」
老農夫が、キラキラした目で頼んでくる。
「全部って……広っ……!」
「勇者様なら、一振りで耕せるって聞いてますから!」
「誰がそんなデマを……」
結局、遼は剣で土を軽く掘り返しながら、地道に作業した。
剣がぼそっと呟く。
『勇者よ、その剣は畝を作るためのものではない』
「わかってるよ! 俺だって好きでやってるわけじゃ……」
剣の光で、なんとなく畑が綺麗に耕されたのは不思議だった。
老農夫は感激していた。
「やはり勇者様は神の子じゃ!」
◆ ◆ ◆
次は荷物運びだった。
「勇者様、この樽を倉庫までお願いします!」
「お、おう……」
ずらりと並ぶ大樽。
遼が渋々担ぎ上げると、剣が震えて囁いた。
『勇者よ、その剣は運搬用ではない』
「知ってるっつーの!」
しかし、剣の力を少し借りると、軽々と運べてしまった。
村の人たちは大喜びで拍手を送った。
◆ ◆ ◆
そして最後に、結婚式の司会。
「勇者様! お二人の門出を見守ってください!」
花婿と花嫁に挟まれ、遼は困惑した。
「え、俺が司会? 勇者ってそういう役割もあるの?」
「勇者様の言葉がご加護になりますから!」
「は、はぁ……」
剣がぼそっと呟く。
『勇者よ、その剣は誓いの指輪ではない』
「そんなの俺だって知ってる!」
花嫁が涙ぐみ、花婿が真剣に頷く中、遼は剣を高く掲げて言った。
「えー……末永くお幸せに! 以上!」
すると剣がひときわ輝き、場がなぜか感動の渦に包まれた。
「さすが勇者様ー!」
「素晴らしいお言葉ですー!」
(……俺、なんもしてないんだけどな……)
◆ ◆ ◆
夜、牧場の丘の上で、遼は寝転がって空を見上げた。
(なんだかんだで、この世界の人たちは……本当に優しいな)
剣が、低く囁いた。
『勇者よ、見誤るな。その優しさが、お前を殺す』
遼は苦笑した。
「お前は本当、空気読まないな……」
剣の刃先が、星明りの中で赤く瞬いた。
——第1章 第7話【終】