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『この世界は優しすぎる』  作者: SM
第1章:転生、そして優しすぎる世界
6/22

第6話「黒い霧の夜」

夜の牧場に、再び黒い霧が立ち込めていた。

遼は寝巻きのまま剣を掴み、外へ飛び出す。


「な、なんだこれ……!」


剣は小さく震えながら、冷たい声を発した。


『——真の敵が、近くにいる』


その言葉に、遼は背筋が寒くなった。


しかし、その一方で……。


「お、おぉおおおぉ!?!?」


「キャアァァァァ!!」


霧の中から、モンスターたちの悲鳴のような鳴き声が次々と上がった。


「ポンポンビースト、どこだー!? クリスタルフェアリーも!!」


遼は牧場を走り回る。

霧のせいで視界が悪く、そこかしこでモンスターが転んだり、ぶつかったりしている。


 


◆ ◆ ◆


 


「勇者様ー! 大変ですー!!」


リオが悲鳴を上げながら走ってきた。


「モンスターたちが暴れちゃって! みんな混乱してるんですー!!」


「わかってる! 俺も今、がんばってる!」


だが、遼は剣を抜いて構えるものの、相手は黒い霧に怯えたモンスターたちばかりだ。


「……斬れるか、こんなもん!!」


ポンポンビーストが泣きながら遼の脚にすり寄ってきた。


「ひぃぃん……」


「……大丈夫だ。お前らは俺が守る!」


遼は剣をしまい、モンスターたちをひとりずつ抱きかかえ、霧の外へと運び出していく。


 


◆ ◆ ◆


 


「残りは……ゴロゴロゴーレムか……」


巨大なゴーレムが、霧の中でうずくまっていた。

身体の周囲に、黒い靄のようなものが絡みついている。


遼が駆け寄ろうとしたその瞬間、剣がビリリと震えた。


『それは「影の呪い」だ。触れるな』


「でも放っとけるかよ!!」


遼はゴーレムの背中に飛びつくと、剣を逆手に構え、靄を払うように振るった。


すると、剣が淡い光を放ち、黒い靄がジュゥッと音を立てて消えていく。


「……やった……のか……?」


ゴーレムはゆっくりと首を動かし、遼の方に向けて、重たい声で呟いた。


「……ありがとう……勇者……」


「っ!?」


遼は思わず固まった。


「お前、しゃべれるのか……?」


ゴーレムはそれ以上何も言わず、その場に静かに横たわった。


 


◆ ◆ ◆


 


夜が明けるころ、霧は完全に晴れ、モンスターたちは元の場所へ戻っていた。


「勇者様、本当にありがとうございました……!」


リオが駆け寄ってきて、深々と頭を下げた。


「いや……俺、何もしてないよ。ただ、斬っただけだし……」


「そんなことありません! あの黒い霧を払えるのは、勇者様しかいないんです!」


モンスターたちも一斉に遼の周りに集まり、ポンポンビーストが頭を擦り付けてくる。


「ひぃぃん……ぴょぴょぴょ」


「お、おう……」


遼はぐったりしながら、苦笑いを浮かべた。


(……優しい世界、ってだけじゃなかったんだな……)


剣が、静かに囁く。


『この黒い霧は序章に過ぎない。勇者よ、備えよ』


遼は、モンスターたちに囲まれながら小さく呟いた。


「備えるって……まず俺の体力を回復させてくれよ……」


 


——第1章 第6話【終】

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