第5話「モンスター牧場と勇者の苦悩」
城の朝は静かだった。
遼は窓を開けて深呼吸すると、剣を背負いながら城下町の外れにある「モンスター牧場」へ向かった。
「勇者様、ようこそ!」
牧場の入口で元気な声が響く。
現れたのは小柄な少年、名前はリオ。
彼はモンスターの調教師兼牧場の管理者だという。
「今日はモンスターたちの様子を見て回ってくれって、城主様に頼まれてね」
遼は「モンスター牧場」という言葉に少しだけ心が躍った。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
◆ ◆ ◆
牧場の中には、色とりどりのモンスターたちがのんびり過ごしていた。
丸くてふわふわの「ポンポンビースト」や、羽根が透き通った「クリスタルフェアリー」、丸太のように大きな「ゴロゴロゴーレム」など。
「見てよ、このポンポンビースト! かわいいだろ?」
リオはモンスターの一匹に手を伸ばした。
そのモンスターはぷにぷにの体を震わせ、楽しそうに鳴いた。
遼はモンスターたちに囲まれ、少しずつ笑顔を取り戻し始めた。
「モンスターもこの世界の一部なんだな……」
◆ ◆ ◆
だが、牧場の奥には別の場所があった。
そこには、鎖につながれた怪しい影があった。
遼が近づくと、剣がひんやりと震えた。
『注意せよ。真の敵の手が及ぶ場所だ』
リオが言った。
「ここは“影の厩舎”って呼ばれてる。怪我をしたり、暴れたモンスターを隔離しているんだ」
遼は眉をひそめた。
「影の厩舎……?」
「うん。でも正直言うと、誰も近づきたがらない場所なんだよ」
◆ ◆ ◆
夜になり、遼は牧場の小屋で寝ていた。
すると、突然モンスターの鳴き声が響き渡った。
「うわっ! 何だ今の!」
飛び起きて外に出ると、影の厩舎の方向から黒い霧が立ち昇っていた。
剣が激しく震え、声が聞こえた。
『始まった。真の敵の動きだ』
遼は決意を込めて剣を握った。
「よし……やるしかないか」
◆ ◆ ◆
翌朝、遼はリオに尋ねた。
「影の厩舎のこと、詳しく教えてくれ」
リオは困った顔で話し始めた。
「昔、この町に巨大な魔物が襲ってきて、みんなで協力して倒したんだ。でも、その時の傷がまだ癒えてなくてね……」
遼は真剣な表情で頷いた。
「なるほど……真の敵は、まだ影で動いているってことか」
◆ ◆ ◆
遼は牧場を後にして城へ戻った。
心の中で、少しだけ希望が湧いた。
(この世界にも、ちゃんと敵がいるんだな)
剣は静かに光り、彼を勇気づけているようだった。
——第1章 第5話【終】