第4話「善人だらけの街」
朝の城下町は、まるでおとぎ話の世界のように輝いていた。
太陽が昇り、鳥たちのさえずりが響く中、遼は今日も剣を背負って町へ繰り出す。
「おはようございます、勇者様!」
「おはようございます! 昨日も頑張ってくださって、ありがとうございます!」
歩くたびに町の人たちが頭を下げ、手を振り、笑顔で挨拶してくる。
遼は、深いため息をついた。
「おはよう……またかよ……」
◆ ◆ ◆
「ねえ、勇者様」
声をかけてきたのは、エリナだ。
「何か手伝えることはありませんか? 昨日は子どもたちと遊んでくださって、ありがとうございます」
「いや、俺、別にたいしたことしてないし……」
「そんなことないですよ! 勇者様はみんなの希望なんです!」
エリナは満面の笑みで言う。
すると突然、近くの小さな子どもが転んでしまった。
「いたいっ!」
子どもの泣き声が響く。
「大丈夫かい?」
遼はすぐに駆け寄り、手を差し伸べた。
子どもはおどおどしながらも、勇者様の手を握った。
「勇者様は優しいなあ」
町の人たちも集まってきて、口々に励ます。
「もう大丈夫!」
「ほら、痛くない!」
遼は顔を赤らめつつも、自然と笑みがこぼれた。
(……これが、普通の「優しさ」ってやつか?)
◆ ◆ ◆
午後になると、遼は商店街を歩いていた。
すると、店主の老婆が近づいてきて、小さな包みを手渡した。
「これは、勇者様へのお礼です。私の作った焼き菓子です。どうぞ召し上がれ」
「ありがとう……でも、そんなに気を使わなくていいよ」
「いいんです。勇者様は、みんなのために頑張ってるんですから」
遼は恐縮しつつ、包みを開けてひとつ食べた。
「あまっ!」
「喜んでいただけて嬉しいです!」
するとまた別の店主がやってきて、
「勇者様、私の店の新作パンもどうぞ!」
「え、そんなに……」
「みんなで勇者様を支えたいんです!」
遼は、次々と差し出される食べ物の山に押しつぶされそうになった。
(なんだ、この優しさ地獄……)
◆ ◆ ◆
夜、遼は城の自室で倒れ込んだ。
「今日も一日、俺は何してたんだ……」
剣がまた囁く。
『勇者よ、使命は重い。怠けるな』
遼はふと剣を見て、苦笑した。
「お前は……まったく、休ませてくれないな」
その時、窓の外で星空が輝き、柔らかな風が吹き込んだ。
遼は窓を開け、深呼吸した。
(この世界は確かに優しい。
だけど、この優しさは本当に無垢なのか?
それとも……何か、隠されているのか?)
剣は、ひとことだけ囁いた。
『真実は、勇者の足元に眠る』
遼は剣を握りしめ、静かに目を閉じた。
——第1章 第4話【終】