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『この世界は優しすぎる』  作者: SM
第1章:転生、そして優しすぎる世界
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第3話「勇者、仕事を探す」

城の部屋に戻った遼は、重い腰を上げて立ち上がった。

手に握る剣は、まるで自分の意思を持つかのように、微かな振動を伴って囁いている。


『事件を起こせ。真の敵を探すのだ』


「だから……事件なんてないって言ってるだろ!」


遼は、剣に向かって叫びながら部屋の中を歩き回った。

窓の外には、優しい風がそよぎ、城下町の穏やかな日常が広がっている。


だが、その日常があまりに完璧すぎて、逆に胸がざわつくのだ。


「なんでこんなにみんな、親切なんだ? みんな優しすぎて……逆に怪しい!」


彼はそう思いながら、部屋の隅に置かれた荷物の山を見つめた。

勇者としての仕事を探すため、まずは情報を集めなければならない。


「よし、外に出てみるか……」


 


◆ ◆ ◆


 


城下町は相変わらずの賑わいだった。

遼は、大きな剣を背負いながら、街を歩く。


通りの人々は、声をかけてくる。


「勇者様!今日はどちらへ?」


「勇者様のご健康を祈っております!」


「この剣、とても美しいですね!」


遼は、そのたびに愛想笑いを返すのに疲れてきた。


(仕事を探すって言っても、事件がないんだよ……)


 


そんな時、路地の奥から声が聞こえた。


「おい、見ろよ。あれが勇者か?」


「本物らしいぜ。でも、なんか普通すぎね?」


遼は思わず足を止め、影の中から覗く男たちを見た。

その男たちは悪そうな顔つきをしていたが、声はどこか温かみがあった。


「事件か……何か起こしてくれよ、勇者さんよ」


遼はその言葉に反応して、思わず声をかけた。


「なあ、君たち、何か事件とか困ったこととかないのか?」


男たちは顔を見合わせ、笑った。


「事件? そんなの、ねぇよ。ただの噂話なら山ほどあるぜ」


「この町は平和すぎて、みんなが優しいからな」


遼は苦笑した。


(やっぱりか……)


 


◆ ◆ ◆


 


遼は、次に市場へ向かった。

野菜を売る老婦人が声をかけてきた。


「勇者様、今日もお疲れ様です。新鮮なトマトをどうぞ!」


遼はトマトを受け取り、重さを測る。


「ありがとう。でも事件は?」


老婦人は首を振った。


「事件? そんなもの、私たちには無縁の話よ。みんな仲良く暮らしてるから」


遼はため息をついた。


(なんだよ、事件ないじゃんか……)


 


◆ ◆ ◆


 


城の広場に戻ると、子どもたちが遼に近づいてきた。


「勇者様、あそぼう!」


遼は子どもたちとボール遊びを始めた。

剣は相変わらず手の中でひんやりと光っている。


だがその時、剣が強く震え、声が響いた。


『勇者よ、仕事をしろ』


遼は、思わず剣を投げ出そうかと思った。


「わかったよ! 何か仕事って何だよ!」


 


◆ ◆ ◆


 


夜、城の屋上で遼はひとり呟いた。


「真の敵って……本当にいるのか?」


彼は空を見上げ、星空の中に小さな赤い光を見つけた。

それは剣の刃先と同じ色だった。


「事件を起こせ、だって? 俺に何を望んでるんだ……」


優しい世界で孤独を感じながら、遼の心は徐々に揺らぎ始めていた。


 


——第1章 第3話【終】



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