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冷戦の波、揺らぐ大地

1952年秋、朝鮮戦争の只中で行われたサン・マグヌス大統領選挙は、戦時特有の緊張感と愛国心に包まれていた。出征兵士の家族、軍需産業、そして米国との関係強化を望む保守層の強い支持を受け、シルビオ・デルガドは再選を果たす。国内では「勝利の男」「祖国の盾の指揮官」として称えられ、彼の再選は既定路線とみなされた。


1953年7月の休戦協定締結後、帰還兵たちの社会復帰が国家的課題となった。政府は「戦争英雄再統合法(Acto heroico de integración)」を可決し、就職支援、住宅供与、医療支援を制度化。デルガド大統領は帰還兵向けの演説でこう述べた。


「君たちは祖国の誇りである。我々は、君たちを戦場に送った責任を、今度は平和の中で果たす。」


だが、現実は甘くなかった。労働市場は狭く、都市のインフラは老朽化し、恩給制度は賄賂と汚職にまみれていた。 精神的なトラウマに苦しむ兵士たちは「戦争の亡霊」として社会の隅に追いやられることもあった。




二 冷戦下の従属と繁栄

1954年、アメリカ政府はサン・マグヌスを「カリブ海安全保障圏」の一部に明確に位置付けた。CIAの職員が政府中枢に助言役として出入りし、米軍顧問団は常駐。国内の無線通信網や港湾整備もアメリカ資本に依存して進められ、ドル建て経済への依存度は40%を超えるに至った。


この従属は、外貨獲得と引き換えに「外交的自主性の放棄」と批判されるようになる。学生運動や知識層の中から、次第に「民族的再独立」を求める声が上がりはじめた。




三 キューバの陰影

1955年、キューバでのバティスタ独裁政権に対する反政府運動が激化し、サン・マグヌス国内にも波紋を広げた。革命思想を携えた若者たちが亡命者や左派系労働運動と接触し、地下出版や秘密会合を行うようになる。


国防省はこれを「共産主義者の陰謀」と断定し、特別治安法のもとで摘発を強化。大学に情報部が送り込まれ、逮捕者が相次いだ。だが、それは政府への不信感をかえって煽り、「第二の革命」を口にする者さえ現れる。




四 静かな裂け目

1956年の春、エルネスト・ルイス元中尉が新聞に寄稿した一文が注目を集める。


「我々は戦争で学んだ。自由は、銃を持って得るものではない。だが、銃に従うことによっても決して守れない。」


この言葉は政府の検閲で掲載紙から即座に削除されたが、地下で複製され、都市部の若者たちに密かに読まれていった。


サン・マグヌスは、表向きは「繁栄」と「安定」の中にいた。だが、その土台は、外資への従属、軍の肥大化、民衆の沈黙、そして見えない不満の堆積に支えられていた。


そして──それがいつか、音を立てて崩れる日の予兆は、すでにそこかしこに潜んでいた。

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