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遠き戦地、近き悲鳴

1950年6月、朝鮮半島で戦火が上がった報は、遠くサン・マグヌスにも衝撃を与えた。共産主義の拡大を阻止せよというトルーマン大統領の声明ののち、シルビオ・デルガド大統領はアメリカとの連帯を誓い、国際社会への貢献を掲げて、第66歩兵連隊の派兵を決断する。


約1500名。多くは若い農夫、炭鉱労働者、貧困から抜け出すために兵役を選んだ青年たちだった。


出港の日、首都サン・エステバンの港では軍楽隊が行進し、白と青の国旗が翻るなか、大統領が兵士一人一人と握手を交わした。家族たちは涙を流しながら見送る。新聞は「祖国の誇り」と見出しを飾り、戦地に赴く兵士たちを英雄として讃えた。


だが、戦況はすぐに変わった。


夏を迎える頃、北朝鮮軍と中国義勇軍の攻勢により、国連軍は釜山を除く朝鮮半島のほぼ全域から押し返されていた。連日報じられる劣勢のニュース。戦死者の名がサン・マグヌスの新聞に載るたび、兵士の家族たちは胸を裂かれた。


「うちのアントニオは、ただの炭鉱の子だ!戦争に行かせるべきじゃなかった!」


兵士の母親たちは集まり、議会前で嘆願書を掲げた。集会は次第に拡大し、教会の司祭や労働組合の指導者たちも加わっていく。


サン・マグヌス軍総司令官、エメリコ・ピント陸軍大将は演説のためにテレビ中継の前に立った。


「私も子を持つ親である。だが──我々の兵士は、逃げ出すためにそこにいるのではない。祖国の名を背負い、自由のために戦っているのだ。第66歩兵連隊だけが撤退すれば、それは同盟国を裏切ることになる。我々の兵士を信じ、支えてほしい。いまこそ国民の団結が試されている。」


その言葉は、一部に共鳴を呼んだが、多くの家族の胸を癒すものではなかった。


戦地では、無数の丘と田園が、サン・マグヌスから来た若者たちの命を飲み込んでいく。遠く故国の言葉を交わしながら、血の泥に倒れる兵士たちの存在が、島国の内政に静かな亀裂をもたらしていく。


サン・マグヌスという小国が超大国の戦争にどこまで付き合うべきか──その問いは、やがてこの島を激しく揺さぶることになる。

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