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母さん、空は黒い

一 静かなる炎

1967年初頭、アメリカ本土で反戦運動が激化する中、カリブ海の小国サン・マグヌスでも確かな動揺の波が広がっていた。出征から一年、すでに第3歩兵連隊の戦死者は89名に達していた。若者たちの死は「名誉」として讃えられ続けたが、国民の心は違っていた。


転機となったのは、リカルド・アリステギの手紙だった。


「僕が帰る頃、母さんが僕の顔を覚えていてくれたら、それだけでいいです。」


この一文は、彼の死とともに新聞社に届けられ、匿名の記者の手により密かに複写され、大学や市場、港町の掲示板に貼られ、反戦ビラの冒頭に引用されるようになった。


手書きのコピー、タイプライターの複写、果てはラジオの地下放送での朗読。リカルドは、象徴となった。




二 ビラの雨

「リカルドのような息子を持つ母に、政府はどれほどの価値を返すのか」


「戦場で死ぬより、この国で黙る方が怖い」


「自由を守る? 若者の命で守る自由とは誰のものか」


こうした言葉が印刷された反戦ビラが、教会、学校、港湾、炭鉱の食堂、農村の公民館にまで撒かれた。警察は「破壊活動防止法」に基づいて摘発を強化するが、配布者は素早く、逃げ道を熟知していた。


反戦の声は学生に限らなかった。一部の帰還兵が沈黙を破り、非公式に戦場の惨状を証言し始めた。


「我々は正義のためじゃない。死ぬ順番を待つために、あそこにいた。」




三 大統領と空白

政権は緊急声明を発表し、「戦死者を侮辱する者たちに国家の名誉は与えられない」と断じたが、その言葉は空々しく響いた。


マリアーノ大統領はかつてのように演説を繰り返した。


「国の名誉は、兵士の勇気と忠誠の上に築かれる。我々は自由のために戦っている。」


だが、その演説は、人々の心に届かなくなっていた。

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