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4 私たちの生徒会活動はこれからだ

 この学校は生徒に個人用タブレットPCが貸与されている。連絡事や配布物、学校行事系の動画配信。各生徒の専攻科目に基づく時間割配信。あとは活発ではない部活動や委員会活動の連絡関係だ。私ことソーシャルゲーマー渡辺にとって格好のゲーム機でもある。

 そんな私のタブレットにメッセージ着信があった。差出人は斎生徒会長。他の生徒会役員にも送付されている。内容はこの間まとめた部費の報告書。共同作業で仕上げた報告書の電子ファイル回覧である。先月までは報告書ファイルの添付と『ご確認お願いします』の簡素な一文のみ添えられたメールだったが──。

『九月度部活動費用の報告書を回覧します。内容のご確認お願いします』

 という定型文の後に数行を空け、

『追伸 渡辺副会長。この間は手伝ってもらえてありがとうございました。とても助かりました。ブックカフェもまた一緒に行こうね。あの小説の話もっとしたいし』

 という私的な一文が添えられていた。公私混同と非難は必至の一文だ。事前の打ち合わせ通りながらいきなり『行こうね』という口語はいかにも挑発的とほくそ笑む。これが小説の添削なら文体揺れを指摘されている。早速返信を書く。

『お疲れさまです。報告書ありがとうございます。これからもどんどん呼んでください。斎生徒会長……いえ、栞先輩と共同作業するの楽しいです。ブックカフェも是非また行きましょう!』

 と返信を書いて送信した。正常にメッセージが送信されるのを見届け、素人には黙っていて欲しいような顔でタブレット画面を消灯させた。空気を読めという話だが空気を徹底的に無視した時の爽快感は、風呂上がりに飲む冷えた炭酸水に勝る。やった。やりきった。やりつくした。爽やかな高揚は尾を引くように暫く続くが、「やりすぎたかなあ」という後悔もないでもない。だが暫くするとそれは霧散した。私にとって【高揚>>>(越えられない壁)>>>後悔】が証明された。重ねてとなるが、不等号ばかり活用し、もしこの一幕が小説であり、晴れて出版を迎え、世間的認知度が高まっちゃったりした時、例えば朗読劇に使用される運びとなった暁には、読みずらくて申し訳ないとこの場でお詫びする。

 ともかく一石は投じた。生徒会という水溜まりでどのような波紋を広げていくのか──サービス終了する間際のソシャゲの雰囲気は分かるが、こればかりは分かりかねる。こう見えて神経の太い私はともかく、斎生徒会長は今頃にタブレットを抱え悶死している可能性大。もしこれが小説で群像形式ならば斎生徒会長側の微笑ましいシーンが描かれている。

 今は授業の合間の休み時間。進学校なので休憩時間も自習している生徒が多い。まあ私にとって休憩時間はソシャゲのスタミナ消費時間なのでタブレット画面を点灯させると、数通のメッセージ着信を知らせる通知に気付く。まさかね、という気持ちでメッセージを確認すると、他の生徒会役員たちからの返信だった。役員は私と斎生徒会長の他に四人。学年ごとに二人選出される。普段は斎生徒会長から確認を促すメッセージに、確認しましたと返すだけの人々なのだが……。

 一年生の男子学生の役員からはこうあった。

『報告書作成ご苦労様です。次回から俺も参加します』

 という簡素なメッセージだ。2秒で読め誤解もない。どんな人か覚えていないが堅実だった。俺という一人称から粗雑さも感じるが、話は通しやすそうだ。

 次は二年生の男子生徒からだ。

『報告書を確認しました。数字の問題に異論はありませんが、まとめ方について意見を申し上げたいので、早急に次回生徒会会合開催の検討をしていただきたい』

 折り目の正しさを表しつつ「勝手に話を進めるな」という意思表示。言うまでもなくこの応答は計算通り。勝手にやられると、勝手にやるなと反目したくなるのが人という生物。だが私も含め役員たちは、これまで勝手にやってきた斎生徒会長に甘えていた。故に表だっての反抗は不可能。そういう感情のロジックを利用している。波紋、広がってる。そう確信しつつある。このメッセージの送り主は口は悪そうだが性格も悪そうだ。だがそれは上等。学生らしさにはある種の摩擦も必要だろうと私は結論づける。

 お次は二年生の女子学生からだ。各学年より男女一人ずつ選抜されている。シンプルにこうあった。

『個人チャットでやれば?』

「ごもっともです」

 私はタブレットに向け頭を下げた。私と斎生徒会長の私的なやりとりに対する言及となる。マイク機能はオフしてるので相手に届かないが指摘はもっともで受け入れるしかない。ソシャゲでゲームバランスを崩壊させるようなキャラクター性能が見つかった場合は弱化調整を受け入れるしかないのに似ている。私たちはゲームをやっている。故にバランス崩壊を肯定してはならない。

 しかしと私は唸る。こういう一切空気を読まない相手は苦手だ。私は自覚的に空気を読まない振る舞いをするが、この相手は違う。空気を読まないことに対して無自覚だ。そういう相手との対話はやりにくいが覚悟を決めねばならない。それもまた学生らしさだ。

 気を取り直して次のメッセージに取り組む。最後は三年生の男子役員からだ。

『ハハハ。何だかとても楽しそうだね。次からは僕も仲間に入れてほしいなあ。あ、報告書作成お疲れさまでした。次は僕も手伝うから遠慮なく言ってね。これを機会に改めて顔合わせしようか?』

 そんなメッセージだった。なんだこの優男は。男性にしては線の細さを喚起させる文章だが、『ハハハ』とか『あ』という口語を混ぜてくるあたり抜け目のなさを感じる。そうやって私を油断させ、こいつはいったい何を企んでいる?

「企んでいるのは私だっての」

 すぐに反省する。すぐに反省するのが長所だ。ある種の企みを含み役員たちにメッセージ攻勢を仕掛けたのは私と斎生徒会長だ。いずれにせよ波紋は大きく広がった。それに対してさらなる波紋で対抗していくのが私と斎生徒会長。そう。波紋は波紋でしか破れない。つい気持ちが高揚し自席から立ち上がった。

「いよおっし。いっちょやってみっか!」

 つい声に出し、休憩時間ながら自習する真面目なクラスメイト達による衆人環視を浴びてしまう。やめろ。「やっぱり変わり者だった」「馬脚を表したな」なんていう目で私を見ないでくれ。誤魔化すべくこう続けた。

「……ソシャゲのイベントをね」

 すると生徒たちは「このソシャゲ狂いめ」「課金厨が」みたいな顔をして視線を外していく。ああ、これで私はクラスメイトからのソシャゲの人という云われを免れない。だが仕方あるまい。それもまた学生らしさと割り切るしかない。

 肩をすくめると役員全員に向けた斎生徒会長のリプライがあった。まずは報告書確認についての謝意。協力する旨の申し出に対する感謝。報告書への子細な指摘に対しての確認。そして私との私的なやりとりの謝罪を述べた上で、次回生徒会役員会議についても言及した。

『──というわけで、さっそく本日の放課後に役員会議を開催したいと考えます。急ではありますがご参集お願いいたします』

 というメッセージと共に、役員会議の開始時間及び終了時間の予定も添付されている。【承諾】と【辞退】のボタンもある。その予定の参加者の部分に、役員たちの名と共に【承諾】の記載が表示されていく。4人全員が秒で承諾していく様に私は柄にもなく感動している。単発で高レアを引いたときのソシャゲに劣らない。承諾ボタンを押しつつ、つい先日に斎生徒会長と打ち合わせした時のことを思い出す。

「──私と斎生徒会長がいちゃいちゃすればいいんです」

 そう言うと斎生徒会長は小首をかしげた。

「いちゃいちゃ。この小説の主人公と生徒会長みたいに?」

「端的にそういうことです。この小説の世界では他のメンバー達も男女の垣根を越えていちゃいちゃしてるので気にしませんが、現実でそういうことをされると鼻につくものです」

「まあそうだよね。あ、なるほど。理解した」

「ええ」

 と二人で頷きあう。斎生徒会長は上品な人柄だが察しは早い。私たちがいちゃいちゃし他の役員たちに反発心を抱かせること。私たちが好き勝手やれば、「何おまえ達は生徒会を私物化していちゃいちゃしてるんだ」と横槍を入れたくなる。相手も人であるから、そんな風に直接的に真意をぶつけてはこない。オブラートに包んだ形で指摘するはずだ。つまりは役員たちを自発的に動かせる。恐らく「学生らしいことをしたいから協力して。まずは生徒会活動から」なんて訴えても進学校にありがちなドライな連中の心には届かない。自分に置換すれば瞭然。ならば逆転の発想だ。学生らしいことを見せつけることで、心の奥底の小さな炎を燃え広がらせると結論づけた。まあそもそも始まりの炎を持たない相手には通用しないが、そういう相手は候補として除外するしかない。斎生徒会長卒業まで間がない。出来ることを出来る相手とやっていく必要がある。

「まあいちゃいちゃすることが学生らしいかの判断は留保します。あれは小説の世界だからいい。リアルでそれが美しく、コミカルで、時に涙すら誘う小説のように素晴らしいものとなるかは不明ですが……」

「いや。そんなことないよ。きっと素晴らしいものになる。仮にそれが他の役員の子たちに通用しなくても、私と悠さんにとって、学生らしく素晴らしいものになる」

 私が保証する。やや被せ気味にそう断言された。じっと目と目が合い、しばらく無言の時が流れ、やがて私はひとつの返答を探し出す。

「はい。信じます」

 それが正しいか誤りかはやってみないと分からない。今ここで正否判断は不可能だ。とるべきアクションは信じるか信じないか。ならば答えは決まっている。何かを信じることから学生らしさは始まる。柄にもなくシリアスな顔をした私の姿が、栞先輩の瞳の中でそう決意していた。



 そして時間は経過して放課後。

 私は生徒会室の定位置で今日の付議事項を確認している。栞先輩の定位置はコの字に並んだ机のお誕生席。副会長の定位置は、会長席から右手側直近の席。ちなみに栞先輩まだ誰も来室していない。従来ならソシャゲのスタミナ消費で潰していた時間。だが今回以降はそうはいかない。

 そこうしていると生徒会室の引き戸をノックする音。ゴンゴン、という無骨な音だ。はいと答えると、引き戸の向こうから、まるで岩山のように大柄な男子生徒が現れて私は絶句した。生徒会室の扉をくぐるように入室してくる。150センチそこそこの私の目線はこの大男の胸板よりまだ低いのではないか。巌の如き大男だった。男子制服は標準的な学ランだが、胸元の生徒証のデザインで学年が識別される。イメージカラーは赤。一年生だ。質実剛健なメールの主。

「よろしく。どこに座ればいい?」

「特に決まってないのでどこでも。まだ誰も着てないので今暫くお待ちを」

「心得た」

 平静を装っているが隣に座られたら一大事だぞと恐々としたが、同学年の大男が座ったのは、私の右隣の数えて三席目だった。

 この学校の生徒会役員の任期は特に決まっていない。栞先輩が三年連続で生徒会長を務めているのが好例だ。生徒会長である栞先輩はともかく、全員で取り組むほど業務量はない。結果名前だけの役員が、そのまま名前だけ貸し続け卒業していくのが大半らしい。この大男とも、名前だけは長い付き合いになる可能性があったが、名前だけでは済まない可能性も浮上しつつある。この大男が危ないという意ではなく、私が人間関係を育てないからだ。生徒会をやっていく上で人間関係も進化していく。無論私が、赤の他人の大男と恋仲になるとか、そういうことのみを示すわけではない。それも可能性だが、基本的に自己完結主義なので、人間関係を形成しないのだ。あくまで個人と個人で関わっていく。

 だがそれは学生らしさと反発する思想だ。故に迎合していく必要はあるし、何よりあの小説でも人間関係が形成され変化し成長していく様が、醍醐味のひとつだった。細大リスペクトしていきたい。そのための一歩として、大男とも意志疎通をしていく必要がある。腕組みをして武道家のように瞑想する大男に話しかけた。

「改めて自己紹介しておくね。私は渡辺悠。同じ一年生同士、揉めないように関わっていこう」

「そうだな。俺は……」

 と無難に自己紹介をして意志疎通量を稼いでいく。この大男と私が、この学校の生徒会に在籍する時間は決まっている。その間に一定の意志疎通量を稼げば『学生らしい』と判断が出来るだろう。ただしボーダーラインは双方と周囲の状況により変わる。見極めが必要だ。リソース量は決まっているので、学生らしさを実現するため最小限を分配していく方針だ。効率厨・渡辺の本領発揮となる。

「ほぼ仕事はないから名前だけ使わせて欲しい。そのように担任に言われ、なるがままに生徒会役員に在籍した。仕事がないなら結構だが、仕事があるなら協力する」

「そうだよね。私も似たようなこと言われた口。ひょんなことから栞先輩……斎生徒会長が一人で仕事してるの知っちゃって、知ったら無視できなかったよ」

「同意だ。担任の口車はともかく役員の話を受けたのは俺だ。責任は果たす」

 話を合わせつつ似た境遇である関係性を強調していく。性別を越え一定の信頼を獲得できる相手と認識されればやりやすいし、嘘も言っていない。まあ栞先輩もこの大男を選ぶよりは、私を選ぶ方がやりやすかろうという、彼女の言い分の補強にもなった。いや信じてるけど。学生らしさは信じることからだ。

 再びノックの音。カンカンという鋭い音。開かれた引き戸の先には、中肉中背。まるでステンレスの板金のようにノリのきいた学生服を着た、シャープな顔立ちにメガネをかけた男子生徒がいた。その男は入室しつつ、油断なく私たちを一瞥する。値踏みされてるし、値踏みしてるぞとアピールもしている。この場面が小説なら傍点つきで表記されるやつだ。

「君が渡辺副会長か……よろしく。僕は二年生の」

 と自己紹介と挨拶をする。態度は慇懃だが礼節は弁えているらしい。その二年生男子役員も席の指定の有無を聞いてきた。皆気にすることは一緒で、その男は私の真っ正面。つまりは栞先輩の定位置から左手側の直近に陣取り不遜に微笑んだ。私は直感した。「君が生徒会長の右腕を名乗るなら僕は左手となろう。どちらが優れているかはおのず証明されるだろう。その時が『真の側近』が決する時だ」そう突きつけられる感じがして首の後ろがチリチリした。この男は明らかに栞先輩がまず私を選び生徒会を動かしたことに劣等を抱き、嫉妬を燃やし、復讐の機会を狙っている。そのためにここにやってきた。

 まあ、そうと分かるよう伝えてくるのは良心的だ。逆説的に競い合いでありゲームであると明示している。そういう関係を構築したいなら望むところ。

 そう自己解釈していると三度ノックの音。軽い音だ。おそらく女性。いささか緊張しつつ返事をすると、静かに引き戸が開いていく。現れたのは中肉中背の女子生徒。二年生。女子の制服もオーソドックスなブレザータイプだが、前のボタンは解放し、袖捲りしている。茶色の髪の毛で一見するとギャル風だが、彼女の場合はファッションというかコンセプトであるという印象だ。端的に栞先輩とは真逆のタイプの美人だ。ナチュラルメイクの栞先輩。ばっちりメイクのこの二年生女子。耳元や首元にはアクセサリーを装備。指先も色がついている。常時ノーメイクで無装備。何も装備しない方が強い忍の者たる私とは対照的だ。メッセージから察した通り。積極的に関わりたい相手ではないが、端正な顔立ちをした同性に対する私の劣等感も多分に含む。それはさておいてまずは意志疎通だ。席について質問される前に、「席は決まってないんで」と伝えると、あろうことかその女子生徒は栞先輩の定位置に座ろうとした。これには二年の男子生徒も瞠目した。彼にとっても話のちゃぶ台が返されるからだ。

「そこは生徒会長の席になりますので。あ、私は副会長の渡辺です。以後お見知り置きを」

「へえ、アンタがね。私は二年の……」

 まずは自己紹介し足止めをするが、締めくくりにその二年生女子生徒はとんでもないことを切り出した。

「ちなみにアタシは来年の生徒会長に立候補するつもり。ここが進学校だからって濁った目で勉強だけしてる奴が多すぎるからね。どこで行動起こすか伺ってたけど、今日がその日だってアンタらのメッセージで見極めた。私は革命をやるつもり。そのためには生徒会長やるのが手っ取り早い」

 なるほどそういう手合いかと合点する。その目的意識は素晴らしいが、今はまだその席に座らせるわけにはいかない。今はまだ革命家気取りの自覚があるのか、私の対角線上。つまり一年男子の大男の向かいに足を組み座り、スマホをいじっている。その姿を眺め、何でこんなに変わり者ばかりかと私は内心で首をひねるが、同じ変わり者の思考なら読める。私はこう聞いた。

「……もしかしてその、濁った目で勉強だけしてる奴らのため革命をする理由って『それじゃあつまらないから』って理由ですかね?」

「へえ。よく分かるじゃん。見直したよ」

 変わり者の思考とは概ねそのようなものだ。そう合点していると、またしてもノックの音が響く。私はその音を聞き直感した。

 ──これは栞先輩の音だ!

 事実上初対面の三人との意志疎通により精神が疲弊していた。慣れ親しんだ栞先輩との対話を心身が欲しているのを自覚した私は、引き戸に向かい扉を開いた。半分ぐらい開いたところで栞先輩の姿が現れたが、勢い全開にしたところで私は硬直してしまった。

「やあ。君が渡辺さんかい。話には聞いてるよ。仕事は堅実で話が面白いってね。あまりに楽しそうにしてるから僕もつい混ぜてほしくなってね。今日からよろしく。楽しくやろう」

 そう爽やかな笑顔で右手を差し出してきたのは、栗色の髪の毛にいかにも優男という風貌の男子生徒だった。それは別にいいが、隣に斎生徒会長を伴っていることと、加えて「話は聞いている」という対象が栞先輩しか現状で思い当たらず、そんな風にリアルで口を利く間柄なのかと穿った目で見てしまう気持ちが制御不能……静まれ、静まれ私の感情!

 そんな私をよそに栞先輩が隣の男をたしなめた。

「いきなり後輩の女子生徒と握手しようとしないで。誰もがあなたのように男女分け隔て無く接するわけではないのだから」

 その男子生徒は困ったように笑ったが、自分の感情の起伏に困っているのは私だし、あまつさえ私の隣に座ろうとして、狼狽えた私を見かねた栞先輩に再度たしなめられ、一つ席を開けて座ってくれた。栞先輩。この男はいったい何者ですか。あなた『学生らしいことがしたい』と仰っていましたが、既に学生らしいことを謳歌していたのではないですか? お似合いの彼氏と学生生活を過ごす。これ以上ない『学生らしさ』じゃないですか?

 いやそれは本当にマジで勘弁してください。そうではないですよね。そうだったら怒りますからねとアイコンタクトを試みるが、とりあえず視線に気付いた栞先輩から謎のウィンクを賜る結果となった。それはそれで希少価値があるが、それが内包するメッセージ性を汲み取れる材料はない。これまで栞先輩はどういう時にウィンクをしてきたか……それがヒントつまり伏線となる。必死に記憶を遡ったがそんな事例はなかった。

 取り急ぎ今の私に出来るのは、思考停止することだけだった。

 他の役員たちの目もある今はメッセージを解読できないと腹をくくり、私は議事進行を務めることとした。栞先輩が定位置に座り、小さく咳払いをして私は切り出す。

「それでは九月度の生徒会役員会議を始めます。議題はまず、『どんな活動をやっていくか』ということなんですが……」

 私たちの生徒会活動はこれからだ。そんな気持ちを込めて。

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