第6話 ゴシップシステムの読心術
奈々子は三日前に転生してきた。
残業で過労死し、目を開けたらすでにここにいた。
転生した相手もまた奈々子という名前の女性だが、気弱な性格で、両親が不幸にも交通事故で亡くなり、臨終の際、親戚から虐められないよう、彼女を旧友の古川家に託した。
古川家は奈々子を気の毒に思い、彼女を引き取り、実の娘のように育てた。
しかし、奈々子の前身は不幸に見舞われたために繊細になり、誰とも付き合わず、口も利かない孤独な生活を送っていた。
だが、前身の奈々子は古川に一目惚れしており、大学を卒業したら古川家にいる理由がなくなってしまうことを恐れて、彼を手に入れることを画策した。
彼を酔わせて一夜を共にしたところを人に見られてしまい、古川は彼女を疎ましく思いながらも、「結婚しないと自殺する」と彼女に脅されることになった。
今回の事件で彼女は冤罪をかけられて傷つき、数日間も部屋に閉じこもり、やがて心労で亡くなってしまった。
それがきっかけで、奈々子がここに転生してきたのだ。
奈々子は、いきなり恨みの深い悪女になるなんて御免だ。
古川はイケメンでお金持ちだけど、心が通じ合わないなら必要ない。
飾りのような妻にもなんてなりたくない。
前世で男性に触れることすらなかった彼女は、今世ではとにかく自分を最優先にする!
しかも、今回の転生には、他人の秘密がわかるシステムもついてきたのだ!
「ゴシップシステム」
他人の秘密を全て引き出すことができるチート能力で、奈々子の好奇心を大いに満たしてくれる。
よくよく考えてみると、実際のところ、古川の性格からして自分が変なことをしなければ、裕福な生活が保障されている。
お金も時間もあり、夫は家に帰ってこない、これもまた一種の理想的な生活だろう。
そのうち他のイケメンと恋に落ちたとしても、夫としての義務を果たさない古川が悪いってことになる。
ところが、思いのほか離婚のチャンスが早く来た。
今回の罠が、なんと「離婚」の裁定を導き出したのだ!
なんてラッキーな!これですぐに離婚できるじゃない!
だが、今は……。
警察署から出てきた時はすでに夜で、古川は奈々子を連れて車に乗り、家に帰るところだった。
車内は不気味なくらい静か。
奈々子はやや落胆した様子で窓に寄りかかった。
自分がヒステリックに振舞わなかったせいで、離婚できず、二十億という大金を逃してしまった。
これは前世で宝くじに当たることを夢見ていた自分でも到底望めなかった金額だ!!!
古川は奈々子の脳内で「二十億!二十億!」と何度も繰り返し響くのを聞いていた。
そんなにお金に困っているのだろうか?
古川はスマホを取り出し、ほどなくして奈々子のスマホに通知が届いた。
奈々子は何気なく開いた。
「入金五千万!」
奈々子は息を呑み、目を見開き、機械のようにゆっくりと古川の方を振り向いた。
「まさか……間違って振り込んだのか!?」
古川は彼女を見つめていて、彼女がこちらを見返すと、長い睫毛がほんの少し下がり、目元に影を落とし、どこか誠実そうに見えた。
そして彼は慎重に口を開いた。
「ごめん、前に君を疑ってしまって。本当にすまない、これはそのお詫びだ。」
古川は申し訳ない気持ちだったが、どう補償すればいいのかもわからない。
実際、奈々子とはそれほど親しくなく、共に過ごす時間も少なすぎて、彼女の好みすら知らない。
ずっとお金について思いを巡らせている様子だったので、とりあえずお金を振り込むことにしたのだった。
「ふーん。」奈々子は表向き、心を痛めて何もかも気にしなくなったかのように冷静を装っている。
しかし、実際には:
【うわぁ!五千万!やばすぎ!携帯に五千万の入金通知って、そんな金額の制限あったの!?】
【落ち着いて!二十億を逃したこの奈々子にとって、五千万なんて大したことないさ、ふふ!】
【たかが冤罪かけられただけで五千万の賠償金がもらえるなんて、古川朔、あなた意外といい人だわ!】
【今後もどんどん冤罪かけてほしい。全然気にしないから!】
古川は呆れた。
奈々子の内心がこんなふうだったとは、表と裏がありすぎだろう。
やはり人を表面で判断してはいけないと、今日ようやく奈々子という人間を本当に知ることができた。
古川が彼女をチラッと見ると、奈々子は口元の笑みを抑えきれず、大きな瞳を輝かせて、その美しい顔立ちは一層生き生きとして見えた。
青黒い髪が肩にかかり、窓の外を流れるネオンの光が彼女の白い肌に跳ね返り、まるで夜の精霊が彼女に宿ったかのようだった。
古川は彼女を好きではないが、奈々子の驚異的な美貌を改めて認めざるを得なかった。
以前には彼女の顔に常に陰りがあったせいで気づかなかったが、今の彼女は明るく生気に満ちていた。
奈々子が急に変わったのは、どうしてだろう?
古川はそのあまりの変化に、どうしても不思議さを感じてしまう。
彼女は、なぜか多くの物事について、その原因を把握しているようだ。
直接触れていないことですら、まるで見通したかのように知っている。
おそらく、この特異な力が突然現れたことが、彼女を変えたのだろう。
多くのことを知りすぎたことで、すべてが見通せるようになり、だからこそ、何もかも達観して生きられるようになったのではないか。
古川はそう考え、自分を納得させるしかなかった。
しかし今回の事件を思い返すと、古川はどうしても気になってしまい、思わず尋ねた。
「どうして、もっと必死に無実を主張しなかったんだ?」
奈々子は少し考え、瞬時にひらめいて答える。
「どうせあなたは私と離婚したがっていたんでしょ。今回はただの口実に過ぎないわ。真実なんて関係ないんじゃない?」
古川は眉をひそめ、不機嫌そうに言った。
「真実は重要だ!それに……俺は口実を探して君と離婚しようとしたことは一度もない。」
彼らの結婚生活は、最初から散々なものでしかなかったが、彼も別にこのまま続けたいわけではなかった。それでも
奈々子は少し驚き、心の中で応える。【前夫よ、あなたはいい人だわ!】
古川は顔を真っ青にした。
まだ離婚してないんだぞ!「前夫」なんて呼ばないでくれ!
それとも、彼女は離婚するのが当然と思っているのだろうか。
古川が思い巡らす間もなく、奈々子の心の声がまた聞こえてきた。
【でも、無理に引き留めても意味がないでしょ?どうして無駄に時間を使うの?何しろ、あなたの初恋はもうすぐ帰国するんだから。私は早めに席を空けた方がいいと思うわ。】
【前に高坂が言ってたじゃない。あの人との別れには理由があったし、あなたたちの間には誤解があるって。どう見ても復縁する気満々の流れよね。私はその場に居合わせたくないわ。】
【その時に愛の三角関係なんか見せられて婚内不倫だなんてことになったら、見るに堪えないわ。私はあなたのためを思って言っているのよ。】
古川は息を詰めた。
あの人とはすでに終わっていて、自分はすでに先に進んでいる。妻がいるにもかかわらず元恋人と関係を引きずるなんて、そんな人間ではない。
だからこそ彼は、高坂の言葉には何も聞かなかった。
奈々子の心の声が聞こえるってことを言いたくなければ、彼女に反論したいところだ。
少し意地になった古川は、奈々子が表向きに答える前に、すかさず言った。
「余計なことは考えるな。君がきちんと日常を過ごしてくれさえすれば、君とは離婚しない!」
古川は心の中で、彼が決して彼女の思うような男ではないことを必ず奈々子に証明してみせると。
奈々子はちらっと古川を見て、そっけなく返す。「ふーん。」
しかし内心では、反対の思いが激しく湧いていた。
【初恋と甘々関係になったときには、この言葉をしっかり叩きつけてやるから!】
古川は深呼吸した。彼女は自分の言葉を信じてくれていないのか?!
【……あ、違うか。】
古川:今のは信じたってことか?
【「前夫」はこの調子でいいのよ。私がしばらく大人しくしていれば、そのうち初恋のために離婚を提案しに来てくれるはずよ。きっと私に悪いと思って、もっと慰謝料をくれるかもしれないし。】
古川の顔色がさらに悪くなった。
【この期間は前夫のところに貯金しておく感じね。考えただけで楽しくなってきた。私ってすごい財テクの才能あるわね!離婚さえすれば、それが全部自分の独立資金になるんだから。そしたら家も、イケメンも……ふふふ。】
古川は息を詰めた。
何回イケメン言うんだ?!それとも、すでに他の候補がいるから、彼との離婚に前向きなんだろうか?
冷静になれ、今回は自分の誤解が招いたことなのだから、奈々子をこんな風に疑ってはいけない。
【年下の男も悪くないかも……とにかく、腹筋とかがあれば最高だね】
古川朔:……俺……腹筋持ってるが……
【あとは古川から離婚を切り出されるのを待つだけね。】
古川は見えないところで拳を握り締めた。
彼は奈々子が本当に離婚を望んでいるのか、それとも今回の件で傷つき、やけになっているだけなのか、まるで見当がつかない。
もし本当に離婚したいなら、彼女が直接切り出せばいいだけのことなのに。
彼女が自ら離婚を言い出さないのは、やはり離婚したくないからだろう。
絶対に「もっと慰謝料を貯めたい」からではないはず!!!
車はゆっくりと屋敷に入った。
中庭には見慣れない車が停まっていて、客が来ているようだ。
二人が玄関に入った途端、リビングの方から声が聞こえてきた。
「お父様、お母様。こちらが智子と私が養子に迎えようとしている翔太です。」
古川はすぐに理解した。姉と義兄が来ていたのだ。
まだ養子の話について飲み込めないうちに、横にいた悠然としていた奈々子が突然足早になったのが感じられた。
【やった、またおもしろい話が聞けそう。やっぱり金持ちの生活はドラマみたいで面白いわ。ちょっと離婚が惜しくなってきたかも。】
奈々子は目を輝かせ、三歩を二歩に縮めるように急ぎ足で進む。
古川朔:……これが彼女が離婚を切り出さない理由では絶対にないだろう!
それにしても、また何の話題だ?
ちょっと待て、俺も一緒に!