第3話 彼女は色仕掛けにハマったのか?
【最初は三井取締役が野心を捨てきれず、息子の三井俊太を使って高坂を誘惑しようと仕向けたんだけど、まさか息子の方が彼女に夢中になってしまうとはね。自分の息子が「尽くし系」に変身するなんて思わなかっただろうけど……あはは】
【今、息子を全力で応援しているのも、息子が人心を掴んでいると信じているからかもしれない。】
【息子を取られただけでなく、相手のためにお金まで数えてあげる羽目になっているのか!】
山のごとく、息子の後ろに堂々と立っていた三井取締役が、突然体を震わせ、古川が幽幽とした目で彼を見つめているのに気づいた。
三井取締役は一瞬、誇らしげに胸を張り、腹を引っ込めた。
どうやらこの件で古川が劣勢に立たされているようだ。見ろよ、わが大事な息子にここまで突っ込まれたじゃないか。
これを機に、高坂を自分の側に引き寄せられるかもしれない!
これなら誰も、息子をただの「バカなボンボン」や「お坊ちゃん」とは言えなくなるだろう!
「おい、古川!お前はこの女のために高坂さんを侮辱するつもりか?!」
古川が何も反応せず、ただ視線が少し変わるばかりなのを見て、三井俊太は我慢ならず怒りの声を上げた。
「忘れるなよ、対立会社の副社長に会ったのは奈々子だけなんだ!証拠の写真も動画もある!」
一方、すっかり事の成り行きを傍観していた古川は、急いで咳払いをし、真剣な雰囲気に切り替え、奈々子に向き直った。
「なぜ彼に会っていたんだ?」
前回、奈々子にこのことを問いただした際、彼女はヒステリックになってまともに答えなかった。
今回は、仮に奈々子がまた非協力的であっても、何らかの方法で真実を探り出せるだろうと古川は感じていた。
奈々子は目を瞬かせ、事態が厄介になってきたと感じた。
まさか古川が本気でこの件を徹底的に調査するとは思っていなかったのだ。
品行の面では、古川は本当に悪くない。彼は誰ひとり不当に扱わないように尽力している。
しかし、奈々子が望んでいるのはそれではない!彼女が望んでいるのは、離婚なのだ!
返事をしようとしたが、ふと視線を上げると、古川の顔が視界に入った。
剣のように鋭い眉、涼しげな目、そして彫りの深い端正な顔立ち。
それはどんなアイドルや俳優にも劣らない美貌であり、彼が真剣にこちらを見つめている瞬間には、思わず惹き込まれそうになる迫力があった。
まだ20億円の話が出る前であれば、古川の顔はきっと魅力的に見えたはずだ。少なくとも、奈々子は一瞬騙されかけたのだから。
だが今、その美しい顔には深刻な表情が張り付いており、どこか遊びを許さない厳粛な雰囲気が漂っていた。
まるで心の奥を見透かされるようなその視線に驚き、奈々子の心臓が一瞬震え、思わず口から言葉が滑り出た。
「マネージャーからの仕事。」
言い終わった瞬間、奈々子は壁を殴りたくなるほど後悔した。
これは色仕掛けにハマったのか?!
どうして正直に答えてしまったんだ?これじゃあ事態がさらにややこしくなるじゃないか!
反応する間もなく、三井俊太が嘲笑しながら言った。
「そんなバカげた言い逃れがあるかよ。お前のマネージャーが頭でもおかしくならない限り、対立会社から仕事を引き受けるわけないだろう?」
古川グループの下にはエンターテインメント会社があり、その会社には奈々子専用のスタジオもある。古川グループに雇われているマネージャーが対立会社の仕事を取るなんて、あり得ない話だ。
意図的にそうしない限りは。
三井俊太は、奈々子がもう何も言えないように、すぐに彼女のマネージャーへ連絡を取るように指示を出した。
電話がすぐに繋がり、事情を説明すると、マネージャーは即座に言った。
「何ですって?そんな手配はしていませんよ!奈々子さん、私をそんなふうに疑わないでください!私のような小物はそんな責任はとても負えません。」
立場から考えるのもマネージャーが、社長の奥さんを陥れるなんて考えにくい。彼女の声に緊張感が漂っていたものの、誰も気づかず、みんなこの件が事実だと信じ込んでいた。
高坂は、唇の端をひそかに上げてほくそ笑んだ。
三井俊太は得意げに、「嘘をつくなら、すぐにバレるようなことは言わないことだな。」と嘲笑し、口の動きで奈々子に向かって「バカめ」と言った。
奈々子はこれで本当に不愉快になってきた。
最初は単なる罠だと思っていたが、こんな小物のマネージャーまで巻き込まれているとは驚きだ。
思った以上に裏で大掛かりな仕掛けがあり、彼女のマネージャーにも問題があるようだった。
古川もこれに気づき、影で奈々子のマネージャーを調べるように指示しようと考えていたが、その時、奈々子の心の声が聞こえてきた。
【さて、いくらでこの人を買収して私を陥れさせたのかしら?】
彼女は知りたいと思えば、どんな情報でも見えてしまうのか?
【えっ、何!?】
【私の潔白がたった二万円の価値だっていうの?】
【信じられない、絶対にあり得ない!】
【きっと十万を見落としたんだわ!】
古川朔は混乱し、頭の中は疑問符でいっぱいになった。…二万円?
【うう、本当に二万円だったのね……あれ?待って、ああ?!そういうことか……】
どういうことだ?
少しの間、奈々子は感嘆の声を続けるだけだった。
冷静な性格の古川も、奈々子のせいでイライラし始めた。
早く言えよ。言ってくれなきゃ、どうやって君の潔白を証明するんだ?
幸いにも、奈々子はひそかに状況を理解し始めた。
【なるほど、金なんていらなかったのね。マネージャーは高坂の義理の姉なのよ。つまり、家族同士で一致団結していたわけね。】
【それにしても、高坂はこんな早くから私の周りに駒を仕込んでいたなんて!しかも二人は初対面のフリまでしてたなんて、やるわね!】
古川:なぜ相手を褒めるんだ!
真実を知った古川は、内心少し驚きを隠せなかった。
高坂はそんなに早い段階から、陰でこれほどの準備を進めていたとは!
その時、部下が「もうマネージャーとの電話を切ってもよいでしょうか?」と慎重に尋ねてきた。話すべきことは話し終わったからだ。
古川は声色を変え、電話の向こう側に言った。「説明が一致しないなら、私は証拠をきちんと集めさせます。あなたが自分の言ったことを裏付ける物的証拠を持っていなければ、あなたの人脈関係を徹底的に洗い出します。」
その瞬間、その場にいる全員が驚いて古川を見つめた。
一同:ここまでしてまだ詰めるのか?愛が深すぎない?
奈々子:ちょっ!古川朔、どうしてこんなに真面目なの?
誰も気づかなかったが、高坂の慌てた様子と、電話の向こうでの息を呑む音が微かに聞こえた。
「どういう意味だ?」三井俊太は不満げに言った。
古川は冷静に答えた。
「説明が一致しない以上、警察でも片方の話だけを信じたりしないだろう。奈々子の人脈は単純で、以前から敵対会社と関係があったとは考えにくいが、マネージャーについては分からない。」
「古川先生…、私が敵対会社と関係を持つなんてあり得ません。」マネージャーが焦りながら答えた。
確かに直接の関係はないかもしれないが、調べれば高坂との関係が発覚するだろう。
その関係を隠していること自体が疑念を招き、今回の件に関与していることが明らかになるかもしれない。
古川は冷たい声で「待て」と言い放つと、マネージャーに反論の機会を与えずに電話を切った。
次の瞬間、冷ややかな視線を高坂に向けた。すでに動揺していた高坂は、驚いて一歩後退する。
すると、三井俊太がすぐに前に出て彼女をかばい、怒りながら言った。
「どうやら今日はどうしてもこの女を守るつもりらしいな。今じゃまるで、高坂に彼女の代わりに罪をかぶせようとしているみたいだ!」
「だが残念だったな。高坂は一度も敵対会社の人間と接触していない!その2日間、彼女は会社か自宅にいたんだ!」
高坂も少し気持ちを落ち着け、哀しげに古川を見つめながらも、毅然とした口調で答えた。
「社長が私を信じられないなら、私はどんな調査も受けます。」
通常の調査手続きでは、高坂の最近の行動や所有するすべての電子機器の調査が必要になるはずだ。
先ほどの三井俊太の発言から、高坂が直接相手に会っていないのは確実だが、こう自信満々に言うところを見ると、電子機器にも一切の証拠を残していないのだろうか?
古川は眉をひそめながら考え込んでいた。
【なるほど、どうりでこんなに自信があるわけだ。こんな風に仕組んでいたとは!】
古川は耳を立てた。もう考える必要はないようだ。
【まさか、ここまで完璧に計画していたなんて。】
古川:感心してないで、さっさと言えよ!
【12日の朝に送信されたメールだが、彼女のパソコンを調べても、削除した記録すら見つからないだろう。】
古川の心が緊張した。そんなことがあるのか?
【なぜなら、実は三井俊太という間抜けのパソコンを使って送信したからだ。三井俊太は彼女を完全に信頼していて、彼女が自由に使えるよう、オフィスで彼女を警戒することもなく、パソコンのパスワードまで彼女の誕生日にしている。】
【だからたとえ疑われても、彼女のパソコンからは何も見つけられないだろう。】
【仮に敵対会社が裏切って情報を漏らしても、調査されるのは三井俊太だけだ。】
古川の表情は一変し、険しい目で高坂から三井俊太へと視線を移した。
【だが、ひとつだけ隙を残している。どうやら自分の会社での地位に自信がありすぎたようだ。】
古川朔は集中して続きを待ったが、奈々子はそれ以上考えを進めなかった。
【まぁ、これ以上話せない秘密を知っていても意味がないし、最終的にマネージャーに少し問題が見つかったとしても、高坂にとっては大したことじゃない。このくだらない茶番を早く終わらせてほしい。】
古川朔は冷ややかに心の中でため息をついた。まさしく茶番だ!
「技術部を呼べ。高坂の電子機器を調べる。」




