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第1話 なんと!ついに離婚できる!

「サインしろ。離婚に同意すれば、法的責任を追及しない。その上、二十億円やる、お前のスタジオも独立させて譲る。おまけに、あの物件も……」


低く落ち着いているが冷たい声が響いた。

奈々子は思わず口元を手で覆い、笑いを堪えた。


【こんな大金!大儲けだわ!】


彼女の美しいアーモンド形の目はきらきらと輝き、片目には「200,00」、もう片目には「0,000」と書かれているかのようだ。


奈々子は頭を下げ、離婚協議書のゼロを一つ一つ数え始めた。


デスクの向かいに座る高身長の男は、端正な眉を少し寄せながら、漆黒の目で冷たく彼女を見つめている。

奈々子が口元を隠し、身体を震わせている様子を冷ややかに見つめ、心の冷たさがさらに増した。


今更、古川朔は彼女を許すつもりはない。


奈々子という女は哀れであり、同時に憎らしい。奈々子の両親は古川家とは親しい間柄だったが、彼女が未成年の頃に亡くなってしまい、古川家が彼女を引き取った。だが、彼女は恩を仇で返し、策を弄して古川の妻となった。


それだけでなく、奈々子は古川を頻繁に付きまとい、彼の生活をめちゃくちゃにした。


最近では会社の機密を敵対企業に漏洩し、大事なプロジェクトを失わせ、会社全体に多大な損害を与えた。

株主会への説明のためにも、離婚は必要不可欠だ。


「俺はお前に十分な情けをかけた。この辺りで引き際をわきまえろ。」


彼女の両親との縁がなければ、古川が奈々子にこんな大金を渡すはずがない。


奈々子が自殺騒ぎを起こして離婚を拒むと予想していたが、彼女はただ震える手でペンを手に取った。


それを見た古川は少しほっとした。

さすがにこの女も今回の事態を理解しているようだ。

やっと離婚ができるのか。


【やった!ついに離婚だ!】


なんだ?この声は奈々子のものか?


彼女が歓喜している声をほとんど聞いたことのない古川は、突然聞こえたその声に戸惑い、視線を上げて奈々子を見詰めた。そこには険しい表情でサインしようとしている彼女がいたが、これは怒りなのか……それとも喜びなのか?


いや、待てよ。奈々子は何も口に出していない。


【最高だわ!二十億円だなんて。これでどれだけ家を買って、どれだけイケメンを囲えるか……さすが社長、太っ腹だわ!】


何だと?!


古川は眉をぴくりと動かした。

確かに奈々子は何も口に出していないのに、彼は彼女の声を聞いている。

一体どういうことだ?


古川は慎重で冷静な性格ゆえ、そばにいる秘書の高坂麗に視線を送った。高坂は今、奈々子の手元にある離婚協議書にじっと見て、古川の視線に気づくと、どこか“同情”の色を浮かべ、二人の結末を惜しむような表情をしていた。


高坂の異常な表情を気にかける余裕がなく、古川は気づいた。


どうやらその声は自分にしか聞こえていないようだ!


「奈々子様、本当に残念です。この度の損害は計り知れません。離婚後は新しい生活を大切に過ごし、もうこんなことはなさらないように……」


高坂は口角を下げ、奈々子に説教するが、心の中では奈々子の激しい抗議を待ち構えている。


奈々子はすぐにカッとなって怒り出すタイプだから、少し刺激すれば爆発するだろう。そうすれば、豊富な補償金も渡さずに、彼女を身一つで追い出せるかもしれないと。


高坂は奈々子を軽蔑する表情を浮かべ、奈々子が古川社長のような素晴らしい男性から一切の優遇を受けるに値しないと思っていた。


だが、奈々子はただ高坂を一瞥しただけで、まるで急いでいるかのように、素早くサインをした。


【腹立たしいわね。まぁ、濡れ衣を着せられたとはいえ、無事に離婚できて、こんなに多くの補償がもらえるんだから、もう首謀者にこだわるのはやめておこう。】


奈々子から投げ出された離婚協議書を受け取った古川は、動きを止め、その深い目には嵐のような感情が渦巻いていた。


何だって?濡れ衣?首謀者?


古川は、突然聞こえてきた声の驚きからまだ抜け出せずにいたが、新たな情報に打ちのめされた。


奈々子は、自分の冷淡さに不満を感じてわざと問題を起こし、自分の注意を引こうとして大惨事を引き起こしたのではなかったのか?


当時、彼のオフィスに入ったのは奈々子だけだった。

奈々子が対立企業の副社長と密かに会っているところも目撃され、証拠は十分だと言える。


対峙した際には彼女は認めずに大騒ぎをし、最後にはこう叫んだのだ——「信じてくれないなら、それでいいわよ!私がやったことにして!仮に私がやったとしても、あなたに何ができるっていうの!」


古川は奈々子が暴かれたことで逆上していると思っていたが、今思えば、まるで開き直ったかのような様子だったのかもしれない。


「古川社長、サインをお願いします。」


横にいた高坂が、古川がなかなかペンを持たないことに焦り、普段の穏やかな声が少し調子を変えていた。


その声に、古川はふと高坂が少し出過ぎた行動をしているのではと意識した。

そして、先ほど奈々子の「首謀者」という言葉が脳裏をよぎり、心にわずかなわだかまりが生じた。


高坂は古川の大学の同級生で、長年の知己であり、非常に信頼していた。彼女が、会社を裏切ることをするはずがないだろう?


しかし今、高坂は急ぎ足でペンを差し出している。


それは、高坂は古川が冷酷に見えるものの、実は家族や身内に対しては非常に情に厚く、だからこそ奈々子にここまで付き合わされてきたことを知っていたからだ。


これまで何度も離婚寸前まで行ったが、奈々子の泣き落としや駄々で全て水の泡になったことを考えれば、今回ようやく奈々子にサインをさせたのに、ここで古川が問題を起こしては困る。


【おっと、待ちきれないのか?高坂も内心では焦ってるんじゃないか、せっかくの苦労が無駄になるかもと。】


古川の眼差しが変わった。

ペンを取った彼はその手首を返し、黒いサインペンをデスクの上に押し付けた。

その動作に、奈々子と高坂の両方が驚きの表情を浮かべた。


深い瞳を奈々子に向けた古川の視線は冷ややかで、彼女の呆然とした顔を映していた。


最後に一度だけ聞くが、本当にこれは君がやったことなのか?」


古川は慎重な性格であり、万一耳にしたことが真実であるならば、ただの濡れ衣ではなく、会社に計り知れないリスクを残す可能性もあるため、確かめる必要があった。


高坂の顔色が一瞬変わったが、それでも慌てる様子は見せなかった。どうせ奈々子には証明する手段がないからだ。


奈々子は、古川の圧力を感じる視線に少し不安を覚えた。


【何の意味があるの?この時点でまだ聞くなんて、まさか二十億をくれないつもりなの?それとも後悔しているの?どんな話でも、サインが終わってからにしてもらえない?】


古川の心の奥が一瞬詰まったが、ただじっと奈々子を見つめ、どうしても答えを引き出そうとしているかのようだった。


奈々子は目をキョロキョロとさせながら、心の中で吐き出さずにはいられなかった。


【私がやったわけないじゃん。みんなの目は節穴だ!】


【高坂は、私がオフィスを出入りした後にも入ってたのに、外にいた秘書室の人たちは彼女を自動的に無視した。誰が怪しいかって話になると、監視カメラの映像も確認せずに、私を容疑者として引っ張り出して吊し上げたんだから。】


【これぞまさに「潜在意識の盲点」ね。】


その言葉に、古川は驚愕した!


当時、彼のオフィスに出入りしていたのが奈々子だけではなかったのか?!


人証と物証が揃っていたからこそ、奈々子を疑い、そのままカメラ映像の確認を怠ってしまった。

そもそも、奈々子ならそういう愚かなことをやりかねないと思っていたために……


古川は口を開こうとしたが、奈々子が突然冷たい声で言い放った。


「何も言うことはないわ。早くサインして。」


古川の表情は徐々に冷たくなった。奈々子が真相を知っていながら黙っている理由が理解できなかった。


彼女は自分の言葉を信じてもらえないことを恐れているのだろうか?

そう考えた古川は、急に立ち上がった。


隣の高坂は驚きの表情で古川を見ていたが、彼の一瞥に思わず身震いした。

高坂が反応する前に、古川は長い足を踏み出し、部屋を出ようとした。

何もわかっていない奈々子に古川は低い声で言った。


「ついてこい!」


「え……何するの?」

奈々子は全く理解できないままだった。


古川はドアを開け、外で働く秘書たちに向かって言った。「11日の夜の監視映像を確認してくれ!妻が納得できないそうだ。その夜、彼女だけが出入りしていたかどうか、見せてやろう!」


それを聞いた高坂は顔色を変えた。「古川社長!」


奈々子:???

【えええ!?いつ私が納得してないなんて言った?私の顔には「納得してます」って書いてあるはずでしょ!】



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