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木霊の国のジェサーレ  作者: 津多 時ロウ
第二部 第六章 ボシ平原の草の海

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第二十話 焦り

「ねえ、ジャナン」

「どうしたの、マリク」

「どうして僕は上手に魔法が使えないのだろうね」

「さあ? 勉強しなかったからじゃない?」


 マリクと鏡花(きょうか)の魔女ジャナンは、木霊(こだま)の森へ向かう途中で、ボシ平原の何も無い場所に立ち寄りました。マリクの魔法の練習をするためです。

 マリクが王様になって各地に学校を作るまでは、日常的な魔法でも使える人は少ししかいませんでした。

 ジャナンの旅に同行しているからと言って、マリクが魔法を教わった事はなかったし、あまり教わろうとも思っていなかったのです。

 だけど、ジャナンの魔法をたくさん見るうち、マリクも魔法を使いたくてうずうずしてきたのです。

 ボシ平原の中にあるアトパズルの町に立ち寄ったときに、マリクは思い切ってジャナンに魔法を教えて欲しいとお願いしました。

 そうして、周りに誰もいないボシ平原で、魔法の練習をしようということになったのでした。

 最初にジャナンが教えた魔法はフォトスフェイラ。

 光の球を放つ魔法で、剣を扱うマリクの役に立つだろうとジャナンは思ったのです。

 ところが、マリクは今の今まで魔法を全く教わってこなかったものですから、いくら魔女のジャナンに教わるといっても、すぐに使えるようにはなりませんでした。

 たくさん、たくさん呪文を唱えましたが、ちっとも光は放たれません。

 ところが、辺りが暗くなり、ジャナンがそろそろ町に戻ることを提案しようとしたそのときでした。

 マリクの右手から放たれた光が地面に吸い込まれ、辺りの草がまるでお星様のようにキラキラと輝き出したのです。


「ねえ、ジャナン! 成功したよ! とても綺麗な魔法だね!」

「おめでとう。でも、これはフォトスフェイラじゃないわね」

〔英雄王マリクの冒険・第七章より〕



   *  *  *



 古代樹(こだいじゅ)とケスティルメの大神殿での杭の確認が終われば、もう木霊の森に用はない。

 ジェサーレとセダと犬のジャナンは、バイラムへの挨拶もそこそこに、早々に次の目的地へと出発することにした。木霊の森の入り口にあるオルマヌアーズの町に向かって、西へ西へとどんどん進む。

 テペ族の集落とイェシリアダン族の集落が、実はそれほど遠くないことも分かった。

 どうにか森が暗くなる前に、イェシリアダン族の集落に立ち寄った際には、族長のカシムに手厚くもてなされたものだったが、それでもやはり、翌日の早朝には出発し、森を足早に進んでいく。

 ジェサーレもセダも、特に話し合うこともなく、自然とこうなっていた。

 だから、急いでいる理由は分からないし、もしかしたら本人たちにも分かっていないのかもしれない。

 そうして、行きは七日間ほどかかった道のりを、帰りは五日間でオルマヌアーズまで辿(たど)り着いたのである。


「えーと、次は」

「ここから北西にあるウチアーチの町よ」

「セダ、ありがとう。ウチアーチまでの乗合馬車があるか探してみよう」


 オルマヌアーズでは流石に一泊したが、ジェサーレもセダも、なぜか落ち着かず、ついでに犬のジャナンも落ち着きがなかった。もっともジャナンの場合は、いつも通りに一生懸命に尻尾を振って、愛嬌(あいきょう)を振りまいているだけなのだが。

 けれど本人たちにその自覚がなく、帰りも宿泊した西の森人(もりびと)亭の(あるじ)も指摘しないのだから、その状態は結局、その後もしばらく続くことになった。

 具体的には、ウチアーチの町を出発するまで、二人は焦っていたし、もやもやともしていた。


「セダ、本当に大丈夫?」

「大丈夫よ」

「だって、オルマヌアーズを出てからずっと顔色が悪いよ」

「だ、大丈夫だから。ほら、服も着替えたし問題ないはずよ」


 セダはウチアーチの町で買った服に着替えていた。

 いつも着ていた絹の半袖のワンピースと丈夫そうな革エプロンはジェサーレのリュックサックにしまわれていて、今は麻の半袖シャツと麻のズボンを履いている。

 大事にしていた魔法辞典はどこにあるかといえば、ジェサーレの大きなリュックサックの中ではなく、オルマヌアーズで買った、セダの小さなリュックサックにしまっている。

 どうしてセダは着替えたのだろうか。

 それについては、ジェサーレは見当がついていた。だけど、いつもはキリっとしている眉毛が、最近ずっと自信なく下がっている理由は分からなかった。


「ねえ」

「なによ」


 乗合馬車の揺れる荷台で、膝を抱えて隣同士。

 景色は既に珍しいものでもなくなっていて、途中で降りる場所を見つけるためと、ぼんやりとすること、それから天気を確認すること以外で眺める用事もない。

 そういうことだから、イェシリアダン族に捕らえられたとき以外は、まったく勝ち気に振舞っていたセダがやけに大人しいことが、ジェサーレには気になってしまっていた。


「セダって、アトパズルの兵士に追いかけられてて、それで逃げてるんだよね?」

「どうしてそれを……、じゃなかった。そんなこと……あるわけないじゃない」

「嘘をつかなくたっていいのに。僕、分かってるんだ。ルスの集落に向かうときに襲ってきた兵士と、集落を襲ってきた兵士たちが、アトパズルの兵士だってことを」

「なんであなたが知ってるのよ」

「だって、大灯台のときに説明してくれたじゃない。アトパズルを治めているソルマ家の兵士は、若草色の服を着ているって。ルスを襲ってきた兵士も、ルスに到着するまでに襲ってきた兵士も、鎧の下に若草色の服を着てたもの。だから、セダは(おび)えているんだね」

「……そうよ。悪い?」

「全然悪くないと思うよ。だって、セダが何か悪いことをするわけがないもの。きっとジャナンだってそう思ってるよ」

「わふん!」

「ほらね」

「ジャナンが……ね。でも」


 セダは元気に尻尾を振るジャナンと少しだけ目を合わせたが、すぐに自分の膝に顔をうずめ、この会話を終わらせた。

 ジェサーレはどうしていいのか分からず、やはりそれ以上口を開くことはなかった。


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