第十八話 大神殿
険しい表情の、その白髪の老人は、ジェサーレとセダを順番に見て言う。
「お前さんたち、大神殿に何の用じゃ」と。
このような物言いをするのだから、やはりテペ族は大神殿を隠しておきたいのだろう。
そこまでして秘密にしておきたい大神殿とは、果たしてどんな場所なのだろうとジェサーレはますます興味を抱く。
きっと、テペ族にとってはとても大事な場所なのだと、セダは思う。
そしてジャナンは、眠そうに眼をこすっているだけだった。
セダが正直に話すことが良いのかどうか考えている間に、ジェサーレはニコニコしながら、返事をしてしまう。
「はい。月の魔女ヌライを封印している杭を確認したいんです」
「ほう、杭を」
「はい、杭です」
「大神殿に杭があると?」
「隠者の里のケレムさんが、ケスティルメの大神殿にあると言っていたので、間違いなく杭があると思います」
「なかったらどうする?」
「見つけられるまで歩いて探します」
「ふむ。まあ良い。……儂の名前はバイラムじゃ。テペ族の長をしておる。杭があるかどうかは知らんが、お前さんたちを大神殿に案内しよう。ついてこい」
そう言ってバイラムは集落の奥にすたすたと歩いていく。
ジェサーレとセダがぐずぐずしていると、立ち止まって振り返ったが、それは短い時間で、二人と一匹は走ってバイラムを追いかけた。
そうして、集落から出て歩くことしばし。
木霊の森ほど木々は大きくもないし、本数も多くはない。明るく爽やかな木立が続いている。
しかし、もう朝ではないというのに、うっすらと霧が立ち込めていて、見通しは少し悪かった。
「バイラムさん」
「なんじゃ」
「この林っていつも霧があるんですか?」
「……お前さん、そんなことも知らんのか。まあいい。大神殿に着いたら説明してやろう」
大神殿に着いたのは、それから少し経った頃だった。
薄い霧の中、灰色の石を積み重ねて作ったであろう、屋根のない大きな建物がそびえている。つまり、丸い柱と壁しかない。その上、壁も気紛れのように一部にしか作られていなかった。
入口と思われる壁の間からは、大きな石のテーブルのようなものが、すぐ近くに見えた。
バイラムはその石のテーブルに腰掛け、ジェサーレとセダもそれを真似する。
そして、ジェサーレもセダも座ってから気が付いたが、辺りにはごー、ごーと大きな風の音が規則的に聞こえていて、それはまるでイビキのようだと思った。
「さて、若者たちよ。……若者たちというにも若すぎるな。少年少女よ。この大神殿はまどろみの賢者によってずっとずっと昔に建てられた、と伝わっておる。マリクがこの大陸を統一するよりもさらに昔の話じゃな。その後、まどろみの賢者はマリクとジャナンに協力し、悪しき霧フェナリクの封印にこの大神殿を利用したそうじゃ。フェナリクは、さっき坊主が言っていた月の魔女ヌライのことだと言われておるな。それ以来、この辺りには霧がよく出るようになり、それとともに、テペ族がこの大神殿を守るようになった。と、言うのがテペ族に伝わる大神殿に関する言い伝えじゃ。杭という言葉は一言も出てこない。ジェサーレが言った杭というのは、恐らく魔女の封印に利用されている何かを示す暗号なんじゃろう」
ジェサーレもセダもジャナンも、お行儀よくバイラムの話を聞き、ジェサーレに至っては、まどろみの賢者という人物がマリクに協力していたことを知って、鼻の穴を広げて興奮してさえいる。
そこから、バイラムの口調が少し明るくなった。
「さて、ここでなぞなぞじゃ」
「なぞなぞ?」
唐突ななぞなぞに、二人と一匹は同時に首を傾げてしまう。
「うむ。まどろみの賢者が村に残した言い伝えにはもう一つある。言い伝えというよりも頼まれていることなんじゃが、それは、月の魔女ヌライに関係があることでケスティルメの大神殿を訪ねてきた者にはなぞなぞを出すように、というものじゃ」
「へえー、面白い人だったんだね」
「ちょっと変わった人ね」
「わふん」
「こほん。あー、では、なぞなぞを出すぞ。準備は良いか? とても大きな木なのに、持ち主があまり気付かない木はなーんだ。……さあ、あそこの模様のある床の上まで移動して、答えが分かったらそこで大声で伝えておくれ。ちなみにこの問題もわざわざ移動するのも、まどろみの賢者が残した言い伝えの通りじゃ」
「はーい」
「はい」
バイラムが指を差した先には、丸い模様が彫られた石の床があり、二人と一匹はひとまずそこに移動する。
移動の間にも、なぞなぞのことを考えていたのだが、指定された石の床に到着するまでの僅かな時間では、思い付かなかった。
ジェサーレとセダとジャナンは、ほぼ同時に振り返ってバイラムを見る。
すると突然、辺りから霧が立ち込めてきた。
それはとてもとても濃くて真っ白な霧で、あっという間にバイラムも神殿も、何もかもが見えなくなってしまった。




