第十二話 生きる砂浜(2)
「どうしてダメなんだ? ……ああ、夜に言ってた杭とかなんとかのことか? そもそも杭ってなんなんだ?」
そうしてジェサーレはセダにも分かるよう、昨晩のことも交えて説明した。隠れ里の魔法使いケレムから杭の確認を頼まれていること、杭は悪い魔女ヌライを封印するためにいくつも存在していること、ゲチジの中には杭の魔法陣とそれ以外の魔法陣があること、それから英雄王マリクの冒険が大好きなこと。
「そういえばあの話には名前だけ出てくるな。言われてみれば、生きる砂浜っていうのはゲチジのことなのかも知れない。だからゲチジが壊れるとまずいんだな。よし、分かった。で、あの話にはゲチジの直し方は書いてあるのか?」
ロクマーンはすっかりとジェサーレの話を信じて、ゲチジを直さなければ危険だと思った。もちろん、我が子同然に可愛がっているゲチジをどうにか直してあげたいという気持ちもある。
だけど、頼みの綱のジェサーレの返事は弱い。
「いえ、それが書いてなくって」
「あ、ジェサーレ。杭とは別の魔法陣も見えるって言ってたわよね。それってどんな形なのかしら?」
「そう言えばそんなことも言ってたな。俺にも見せてくれ」
二人にお願いされたジェサーレは、ゲチジを見ながら手近な棒で地面に魔法陣を描いていく。
大きな丸とその中に小さな丸を三つ。
大きな丸も小さな丸も、いくつも飛び出したり凹んだりしているところがある。しかもその丸は、少し歪んでいたり、欠けたりしていた。
「あ!」
それを見たセダは閃いた。
腰のエプロンから魔法辞典を取り出して、ペラペラと、とても速くページをめくり始める。
「あった!」
セダが指さしたページには、ジェサーレが地面に描いたものとよく似た挿絵が二つか三つ、あるではないか。
「ほう、これはそっくりだな」
「うん、そっくりだね。これは、何の魔法なの?」
ロクマーンもジェサーレも、しげしげとそれを見る。
「この魔法の名前はジョダニ・コクラね。人形が動くだけの魔法よ」
「人形が動く。なるほどね。そうすると、ジェサーレが描いたように、ゲチジのものが壊れてしまった、ということか」
セダの説明に、ロクマーンはすぐに納得したようにうなずいた。ジェサーレは分かっているのかどうかは分からないが、ロクマーンから遅れて真面目な顔でうなずいている。
「あ、でもこれってどうやって直すんだろう」
「なんだ、もしかしてセダも直し方までは分からないのか」
「そうですね。この中でゲチジ君の魔法陣が見えるのはジェサーレだけですから。だというのに、それを直すだなんてどうすればいいのかしら」
「僕、多分、直せるよ」
「え?」
今までの旅でそんな素振りを見せたこともないのに、ジェサーレが突然直せるというものだから、セダはびっくりしてしまった。一方、何も知らないロクマーンは「ジェサーレは凄いな」などと口に出して喜んでいた。
「ど、どうやって?」
「だってほら、馬車に乗ってたときに、魔力で線を描けたから。それに、なんとなくだけど、ゲチジ君の魔法陣も触れるような気がするんだ」
「本当なの?」
「うん。とりあえずやってみようよ。でも、ゲチジ君のギザギザしてる魔法陣は、いくつかあるみたいだから、分からなくなったら教えてね」
「うん、分かった。そのときは地面に描いてね」
そうしてジェサーレはゲチジを眺め、まずは大きな胴体の魔法陣からと決めて、しゃがみこんで魔法陣に触り出した。
「やっぱり動かせる。これは……魔法辞典に描いてあるのと同じかな」
「あはははは、なんかくすぐったい」
ロクマーンとセダが緊張しながら見守る中、ゲチジは笑い、ジェサーレは楽しそうに指を動かし、じきに「できた」と呟いた。
あれほど大泣きをしていたジェレンは、砂浜の方でジャナンと元気に遊んでいて、緊張しているのはロクマーンとセダだけのようでもある。
「次は……腕かな。うーん、中の丸がちょっと違うな。……セダ、これなんだけど」
「どれどれ。これは多分……こうね」
そうしたやり取りが何回かあった後、ついにジェサーレは指を動かすのをやめた。
「終わったー」
立ち上がって両手を高く上げ、うーんと伸びをする。
そしてロクマーンにこう告げた。
「最後はまた砂を盛って体を作って、最後にロクマーンさんが魔力を流して下さい」
「ああ、分かった」
「私も手伝うわね」
体が崩れていた程度で、ゲチジの砂の体はほとんど出来ていた。
だから、体作りはすぐに終わって、ロクマーンがゲチジの頭に手を置いて魔力を流し始める。
セダの目には、砂色の肌がどんどん日焼けした肌になり、昨日のゲチジに戻っていくように見えていた。
ところがジェサーレの目には、全く違ったものも見えていた。
魔法陣である。
ロクマーンが魔力を流し始めると、ゲチジを構成するジョダニ・コクラの魔法陣も、そして杭の魔法陣も、全てが外に出てゲチジを覆いながら光り輝き、魔力の伝達が終了すると、それら全てが体の中に吸い込まれていったのだ。
ジェサーレは素直にそれを綺麗だと思った。
同時に、自分でマゴスだと言ったロクマーンにはこの魔法陣が見えないのだから、セダがマギサになったとしても、もしかしたらこれが見えないこともあるかも知れないと、少し寂しい気持ちにもなったのだった。
それでも、目の前にはすっかり元に戻った笑顔のゲチジがいて、ロクマーンもセダもとても嬉しそうだったから、ジェサーレはすぐにその寂しさを忘れてしまった。
* * *
「なんだお前さん、結婚もしてないのに子供をたくさん欲しいって言ってるのかい?
それはまた随分と難しいことじゃないか。
だが、今日の儂はぐっすり昼寝ができたからたいそう機嫌がいい。
本物の子供は無理だが、子供の人形だったら用意してやってもいいぞ」
〔旅の途中でグンドウムに立ち寄った、ある魔法使いの気紛れ〕




