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木霊の国のジェサーレ  作者: 津多 時ロウ
第二部 第二章 デブラーチェニスの大灯台

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第六話 港町と灯台の町

 マリクとジャナンは、木霊(こだま)の大陸の北の、にょっきり突き出た場所にあるデブラーチェニスの町に来ていました。

 ジャナンの友達の、灯火(ともしび)の魔女に会いに来たのです。

 ここには山よりも高い大きな大きな、そして真っ白な灯台があって、灯火の魔女はその中に住んでいるのです。

 ところが、マリクがいくらその灯台を調べても、入り口も窓も見つかりません。


「その灯台はね、あることをすると入れるのよ」

「どうすればいいんだい?」

「私と一緒に旅をしているんだから、それくらい自分で見つけなさい」


 意地悪く微笑(ほほえ)むジャナンに、マリクはむきになって入り方を見つけようとしました。

 そして、夕方。

 マリクはついに灯台の中に入ることに成功し、ジャナンと二人で灯火の魔女と会うことができたのでした。

〔英雄王マリクの冒険・第六章より〕



「セダちゃんにジェサーレ君、本当にありがとう。君たちのお陰で以前の活気を取り戻せそうだよ」

「いえ、とんでもないです。私はただ辞典に載ってることをお話しただけですから」

「良かったね、セミフさん」

「わふん」


 うっすらと霧が立ち込める出発の朝、乗合馬車に乗る二人と一匹にセミフがお礼を言うと、セダはまるで大人のように返し、ジェサーレは無邪気に返事をする。

 犬のジャナンは雰囲気が分かるらしく、嬉しそうに尻尾を振ってセミフに(こた)えた。

 そうして、セミフはその姿が見えなくなるまで手を振り、二人と一匹もそんなセミフの姿をずっと見ていた。


「ねえ、ジェサーレ」

「なあに?」

「結局、あの溶鉱炉(ようこうろ)が杭だったの?」

「うん。ケレムさんの家で見たものと同じ模様が光っていたから、間違いないよ。ああいう丸いのって魔法陣(まほうじん)ていうんだよね」

「私、見えないから分からないのよ。ジェサーレばっかり見えてずるいわ」

「わふわふ」


 そのようにセダとジャナンにじっと見られれば、ジェサーレは逃げ出したい気分になる。話題を変えようと一生懸命に視線をさまよわせると、アイナの町でいつも()いでいたニオイが鼻に入ってきた。


「う、海が近づいてきたよ。もうすぐ海だよ」

「本当に!? 私、海を見たことがないから、とっても楽しみなんだ!」


 デブラーチェニスは海に面した灯台の町だが、今、二人と一匹が近づいているのはデブラーチェニスではなく、デニズヨルという大きな町だった。その正確な大きさは、この町を治めるバルクチュ家でも把握していないだろうと思われるほどである。

 ともかく東西に長いのだ。

 木霊(こだま)の大陸とデニズヨルの町を南北に分ける幅の狭い海――イキレンキ海峡(かいきょう)沿いに、ずっと港と商店や住居などの建物が続いていて、セダとジャナンは興奮した様子で歩き回っている。乗合馬車から降りたときからずっと。

 港町で生まれ育ったジェサーレはと言えば、町並みにはあまり興味がないようだったが、アイナで見たことがない大きな船を見ては、やはり目を輝かせて見入っているようだった。


「ねえ、ジェサーレ。海って川みたいね」


 セダが声を掛けた。


「セダ、違うよ」


 ジェサーレがびっくりしたような顔で答えた。


「どう違うっていうの? これが海なんでしょう?」

「これも海なんだけど、ここは特別に狭くて、海峡って呼ばれている地形なんだ。普通の海は、もっともっと、向こうなんかまるっきり見えないほど広いんだよ」

「わふん」


 答えるジェサーレは得意気(とくいげ)で、いつの間にか隣にいたジャナンまで、何故か得意気な表情でセダを見ていた。

 見られたセダは、不思議なことに恥ずかしい気持ちになり、「早く渡し船に乗りましょう」と急いだ。本当はもっと色々なものを見たかったはずなのに。

 けれど、ジェサーレも、もしかしたらジャナンも、早く目的地のデブラーチェニスに行かなければならないと内心(ないしん)では思っていたから、これは丁度良かった。

 そうして二人と一匹は海峡を行き来する定期船に乗り、まずは町の東エリアまで移動した。普通の大きな川であれば、乗客を向こう岸まで運ぶ船が一般的だが、デニズヨルでは町があまりにも長いために、東西を行き来する渡し船もたくさんあるのだ。

 東エリアに到着したら、北の向こう岸へ行く船にすぐに乗り換える。

 船は二つとも満員に近かったが、二人と一匹はとてもお行儀よく、そしてどこまでも続く町並みに目を輝かせながら、移動時間を楽しく過ごすことができた。

 デニズヨルの北東エリアに到着すると、今度はいつも通り目的地までの乗合馬車を探すことになるが、大きな町だけあって、色々な場所に矢印付きの看板が立てられていた。

 それをセミフに教えてもらった通りに、ロウソクのようなマークが書かれている看板だけ辿(たど)っていくと、迷わずにデブラーチェニス行きの馬車に乗り込むことができたのだった。

 こうして無事にデブラーチェニスに辿り着くことができた二人と一匹だったが、到着した頃には既に夕方になっていた。


「わあ、大きいね」

「本当に大きいわね。だけど、山より大きいと言われているほどでもないと思う」

「わふん」


 確かにセダの言う通りで、大灯台はアイナの町の灯台に比べれば五倍以上は高く見えるが、それでも山より高いと言われるほどは高くない。


「本当だね。どうしてだろうね」

「わふん」

「昔の話だから、大袈裟(おおげさ)に伝わっただけなのかも知れないわね」

「セダ、そんなことよりも僕はもうお腹がペコペコだよ。早く宿屋を見つけようよ」

「わふん、わふん」

「そうね。大灯台のことは明日にしましょう。私もお腹がペコペコだわ」


 大灯台がある小さなデブラーチェニスの町では、すぐに宿屋が見つかった。

 食事が終わった頃にはもうとっぷりと日が暮れていて、ジェサーレとセダと、そして犬のジャナンは窓から顔を覗かせて、夜に仄白(ほのじろ)く輝く大灯台を見る。

 夜霧の中で海に向かって真っすぐに伸びる光はとても幻想的で、二人と一匹は欠伸(あくび)が出るまでずっとずっと(なが)めていた。


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