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木霊の国のジェサーレ  作者: 津多 時ロウ
第二部 第一章 クルムズパスの赤竜の舌

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第五話 赤竜の舌

「魔力はぐるぐると8の字を描くように心臓、お腹、頭を回っているの。魔法を使うときは、まずは口から魔力が出て、次に指先や杖から魔力が出るんだって。それで、最初に出た魔力と後に出た魔力が混ざり合って魔法になるから、そういうのをイメージしながら呪文を唱えると魔法がすんなり出る、と魔法辞典に書いてあるわ」

「その辞典にはそんなことまで書いてあるのかい? 凄いな」


 目を丸くしたセミフにそのように褒められれば、セダはとても嬉しそうに鼻の穴を広げる。


「そうすると……」


 セミフは顎に右手を当てて何やら考えているようだ。その目はジェサーレとジャナンのモコモコとした髪の毛を見ているような気もするが、恐らく、髪の毛のことは考えていないだろう。

 見られているかも知れないジェサーレは、ぎゅっと力強く目を(つむ)り、口を真一文字にしているから、教わったばかりの魔力の流れをイメージしているに違いない。


「あ、そういうことか」


 突如、セミフはパンっと手を叩き合わせ、大きな声を出した。

 ジェサーレはビクッと体を震わせ、目を輝かせるセミフを見る。


「ああ、ジェサーレ君、ごめんね」

「い、いえ。それで、なにか分かったんですか?」

「ああ、なんとなくだけどね。すまないけど、君とそれからセダちゃん、また(かま)の中を観察してもらっていいかな?」

「あ、はい」


 セダもジェサーレも素直に返事をして、窯の中が見える位置に移動する。

 セミフは閃いたことをすぐに試したいためか、幾分か早足で制御盤(せいぎょばん)まで移動し、先ほどよりも力を込めて手のひらを付けたように見えた。

 その顔は、つい先ほどまで(うつむ)いていたとは思えないほどに、いきいきとしている。


「それじゃ、魔力を流してみるよ」


 そう二人と一匹に声を掛けると、窯はみるみるうちに赤く輝いた。

 けれど、その輝きは先ほどのものよりもほんの少し明るいだけである。


「二人ともどうだい?」

「いまいちに見えます」

「ダメ……だと思います。最初よりは少し温度が高かったように見えましたが」

「そうか。君たちがそういうのであれば、まだダメなのかも知れないな。うーん……よし。とりあえず今日はもう遅くなってしまったから、明日にしよう。また明日も手伝ってくれるかい?」


 ジェサーレとセダは目を合わせた後、セミフににっこりと微笑みながら「はい」と返事をした。



   *  *  *



 ぐっすりと寝て翌日の朝、二人と一匹は再びクルムズパスの中心にある、大きな煙突の溶鉱炉(ようこうろ)を訪れた。

 溶鉱炉では大勢の人間が朝から忙しく働いていたが、二人と一匹は入り口で待ち受けていたセミフの案内ですんなりと入ることができた。

 中も昨日と変わってたくさんの人が働いており、棒のようなものを使い、窯の中から溶けた金属を掻き出している人の姿も見える。


「君たちのお陰で、今朝は少しましになったけど、まだ先代のようにはいかなくてね、何が悪いんだと思う?」


 ジェサーレは腕組みをし、ジャナンも難しい顔をしているが特に返事はない。

 答えたのはやはりセダで「制御盤に魔力を流すときって、どんな感じになるの?」と、やはり思い当たるところがあるように聞き返した。


「うまく表現できないんだけど、こう、手のひらから制御盤に向かって魔力をぶつけるようなイメージかな」

「そこじゃないでしょうか」

「え?」

「その〝ぶつける〟というイメージを、変えてみたらいいんじゃないでしょうか」

「ふむふむ、なるほど」

「制御盤と窯の構造が分からないので確かなことは言えませんが、焚火(たきび)で火をつけるときも、ジェサーレみたいにいきなり大きな炎を出してしまうと、うまくいかないんですよね」


 そのセダの発言に、ジェサーレはビックリしたような顔をする。


「え!? 僕が当番のときの、ダメだったの?」

「そうよ。タルカンさんとデミルさんは何も言わなかったけど、せっかく拾った枯葉や枯れ枝がすぐに燃え尽きてしまうんだもの。よくないわ」

「そ、そうだったんだ」

「でも、魔力のコントロールを覚えれば、それも解決するかもしれない。だからあなたもセミフさんみたいに真面目にやりなさい」

「ふぁーい」

「あははは。セダちゃんはジェサーレ君のお姉ちゃんみたいだね」

「え、お姉ちゃんだったの!?」

「ちょっとジェサーレ、例え話よ。本気にしないで」


 それからセミフはもう一度笑った後、再び制御盤の前に移動して、真剣な表情になる。


「窯に鉄鉱石(てっこうせき)を入れてくれ」


 セミフが合図をすると、手押し車を押す屈強な男たちが面倒くさそうに窯の前に列を作った。

 そして、手押し車に満載された黒光りする石を、次々と窯に投入していくのである。

 そのうちに、先頭の一人が窯の中を覗き込んで、頭の上に腕で大きく丸を作ると、セミフも頭の上に丸を作り、その行列は解散となった。

 そうしてセミフが制御盤に手のひらを付けると、窯の中は段々と明るくなっていき、二人と一匹の目には、今までよりもずっと白く輝いているように見えた。

 建物の中も先ほどよりも随分と暑くなっている。

 そうしているうちに鉄鉱石が溶けて、二つの穴から火を纏いながらどろどろと流れ出てきた。

 それをみた職人たちの間からどよめきが起こる。

 だが、ジェサーレは窯ではなく、大きなエントツを眺めていた。


「あ」


 小さな声を出したジェサーレの目に映るのは、つい先日、ケレムの家で見たあの不思議な丸い紋様――魔法陣だった。

 それこそが杭であることの証であり、二人と一匹が探さなければならないものだったのだ。

 しかし、呆然と見上げるジェサーレに、セダが興奮しながら話しかける。


「ねえ、見て! 凄いわよ、真っ赤な鉄がどんどん流れ出てくるの!」

「わふん!」


 彼女とジャナンに促されるまま、ジェサーレは窯から流れ出る赤い鉄を見ては、ああ、これがクルムズパスの赤竜の舌だったんだと、目を潤ませながら思った。



   *  *  *



「ねえマリク。新しい剣の調子はどうなのかしら」

「お陰様で素晴らしいよ。教えてくれた君と、あのセミフという鍛冶屋の青年には感謝しなければ。ただ」

「ただ?」

「たまに違和感を覚えることがあるんだよね。まるで嫉妬(しっと)してヤケを起こしているような、そんな感覚があるんだ」

〔英雄王マリクの冒険・第六章より〕


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