第8話
「ねぇリュオン。リュオンはなぜこんな大怪我をしたの?」
ミシェルは包帯を完全に片付けてから聞いてみた。答えてくれないかもしれないと思いながらも聞いてみたのだ。
「突然、背後から襲われて切り付けられたんだ。俺が見たのはにやつく黒い影だったから誰がやったのかはわからない」
あの日、リュオンは竜王の命によりこの地へ来るために空を飛んでいた。そんなリュオンの元へ何処からともなく突然、何者かが現れ背後から切り付け何処かへと飛んで行ってしまった。
落下するリュオンが見たものはニヤリと薄気味悪く笑う黒い影だった。
今の身体だったらもう少し傷も浅かったかもしれないが、時の呪いによって子供の身体だったため予想以上に深くなった。
「でも、よかったわ。こうやってリュオンがちゃんと生きてるんだもん。あの時は本当にハラハラドキドキで大変だったのよ」
ミシェルはリュオンがここまで回復してくれてよかったと笑う。
「ミシェルとノエが俺を見つけてくれなかったら、俺はあのまま死んでただろう。ありがとう」
リュオンはノエを撫でながら何度目かのお礼を口にする。
「傷の話をするとずっとリュオンが謝ってそうだから、もう聞くのはやめるわ。でも完治するまでは治療するからね」
ミシェルはお礼を言われるたびにくすぐったくてしょうがなかった。他人からこんなにもお礼を言われたことがなかったから余計なのかもしれないが。
「城へ戻ったら約束通りお礼はする。きっとミシェルは興奮してしまうと思うけどな」
リュオンは城へ行った時のミシェルを想像して小さく笑う。
「そうなの?じゃぁ、楽しみにしてるわ」
そんなリュオンを見て、城へ行くのが楽しみだった。
ミシェル自体、あまり遠くへは行ったことがないのだ。一番近い村でさえも、よくしてくれたお婆さんが亡くなってからは近寄っていないので3年以上は行っていないことになる。
自分が持ってる不思議な力の関係でミシェルは他人と関わらないようにしているのだ。
ミシェルがもう少し幼い頃に、怪我をした村の女の子を治療した時に化け物扱いされ、石を投げられ、村から追い出された。その時からミシェルは村人に忌み嫌われているのだ。だから村へは行かない。
母と過ごしたこの場所から離れないようにしているのだ。
「勿論、ノエも来るだろ?」
リュオンは寝ているノエを撫でて聞いてみる。鳴く代わりにパタパタと尻尾を揺らすノエ。
「ノエも連れて行ってもいいの?」
ミシェルはノエも連れて行ってもらえると思っていなかったのでつい聞いてしまった。
「俺はミシェルもノエも連れて行く気だったよ。だって、ノエはミシェルの家族だろ?置いて行けるわけないじゃないか」
リュオンはずっとノエはミシェルの家族だと思っていたので、ミシェルを城へ連れていくときはノエも一緒に連れていく気でいた。
「ありがとうリュオン。嬉しいわ」
ミシェルはあまりの嬉しさにリュオンに飛び付いた。
「おっ、わっ、ちょ、み、ミシェル」
あまりにも突然のことでリュオンはミシェルを受け止めきれずにそのまま後ろに倒れゴツンっと頭を打った。
「いてて」
「ご、ごめんさい。私ったらつい嬉しくて…」
リュオンの上から退き、隣に座って謝る。
「いや、大丈夫。ミシェルがそれだけノエを大切にしてるってことだから」
なー、ノエとリュオンは言いながらノエを撫でる。
「なぁん」
そんなリュオンに返事をするようにノエが鳴いた。ミシェルはそんな2人の様子を見てふふふと笑っていた。
3人の周りにはゆったりとした優しい時間が流れていたのである。
リュオンの傷が完治するまでミシェルは力を使いながらずっと治療し続けたのだった。