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フラグは建てるものでは無い

※これは、投稿予定及び没ネタ小説集の『予測回避可能な事は回避したい』を加筆修正したものになります。


  祖父母と共に王城に呼び出され、応接室で顔を合わせたサントリナ王国の国王と形式的な挨拶後の第一声に己の耳を疑った。

「孫がエチェベリア家唯一の跡取りで有る事は、陛下もご存じの筈。一体誰が、孫を第一王子殿下の婚約者に推したのですか?」

 祖父の声に嫌悪が混じる。祖母も顔にも声にも出していないが、不機嫌なのは雰囲気で解った。

 ちなみに自分は現在十三歳。デビュタントも成人もしていない。対して第一王子は現在十八歳と微妙に年が離れている。

「済まぬ。他の候補に全て断られてしまったのだ」

 国王も『我儘』と理解はしている模様。心底、済まなそうな顔をしているが祖父の口撃の手は緩まない。

「それは当然かと。頭の中身に何も詰まっていない第一王子の婚約者に名乗り出る愚か者がいる筈もないでしょうな。名乗り出るとしたら媚びを売るしか能がない間抜けか、王太子が未だに決まっていない意味を正しく理解していない愚物のどちらかでしょう」

 祖父の発言は、言い過ぎではないかと思わなくもないが、肝心の王から反論はない。 

 難色を示した祖父を見て、苦虫を嚙み潰したような顔をして固まっている。一応自覚は有ったらしい。

「だが、他に候補がおらぬ」

「何を仰るのですか? 当家は『侯爵家』ですぞ。当家と同格以上の家は他にもありましょう」

 祖父の発言は、確かにその通りだ。訝しむ祖父に対して、王の表情は険しくだらだらと脂汗を掻いている。

 その様を見て不吉な予感を感じた。

「陛下。まさかでございますが、断られたのですか?」

 同じ事を思ったらしい祖母がここに来て初めて口を開いた。

 そして祖母の言葉は図星だったらしい。王は肩を落として肯定した。

「その通りだ。打診は其方らで最後である」

「伯爵家にも打診して、我らが最後なのですか?」

「うむ。近隣諸国や友好国に至っては『正妃の優秀な王子(第二王子か第三王子)ならば受ける』と回答付きだ」

「ある意味当然ですな」

 祖父母と三人で頷く。納得の回答だ。側室の無能(馬鹿な王子)に娘を差し出す愚かな親がいるのか。いるのなら、是非とも会ってみたい。

「陛下。発言しても宜しいでしょうか?」

「む? 何だ?」

 今まで黙って話しを聞いていたが、とある事が話題に上らないので発言の許可を取って訊ねる。

「私の記憶に間違いがなければ、第一王子殿下は『男爵家庶子の令嬢』を侍らせていた筈です。そこに王命による婚約者を無理矢理捻じ込めば殿下からの反発は必至でしょう」

 テンプレのような展開だが、馬鹿王子は庶子の令嬢と仲が良い。幸いなのは他の高位貴族令息が毒牙に掛かっていない事か。

 代わりに子爵男爵の令息が毒牙に掛かっているけどね。

「それは、確かにそうだが……」

 王が言い淀む。『予測は出来ていたが他人から改めて言われるとやっぱりそうかな?』みたいな顔をしている。

 よし、このまま押し切ろう。

「件の男爵令嬢を一度遠くから見ましたが、貴族令嬢と言うよりも『悪女の如き』振る舞いに加え、殿下の目のないところでは『品のない問題行動』を起こしています」

「……例えば、何が有る?」

「貴族の令嬢は婚姻するまで『貞操を守る』事が淑女の第一条件とされているのはご存じですね?」

「その言い分だと、息子と一線超えているのか?」

「相手が殿下か他の令息かは不明ですが『娼館』に出入りしている目撃情報が多数。他には殿下から贈られた気に入らない宝飾品を闇市に売り払っていますね」

 王の眉根が寄った。相手が誰であれ、貰った品を売り払う行為は送り主に失礼だもんね。

「その他には」

「待て。もういい」

 何を想像したのか、王から『待て』が掛かった。脂汗を流し視線を彷徨わせるこの反応から察するに調べていなかったか。

 問題児の事を調べないとか、ある意味無関心だな。ここまで無関心を示して置いて、よくもまぁ、婚約話を持って来たな。修正役を他の令嬢に押し付けるとか、何を考えているんだか。王子もやらかしているんだからサクッと断罪して幽閉する成りなんなりすればいいのに。

 幽閉する決定打がないとかそんな落ちもなさそう――いや有るか。調べていないんだったら、あり得る。

 王子の追い落としには証拠がいる。でも、このお人好し王の事だから馬鹿でも庇ってそう。

 どんなに馬鹿でも、他の令嬢を陥れようとする女を侍らす男には問題しかない。令嬢を庇うどころか男爵令嬢の嘘を信じる始末だし。

「陛下。件の男爵令嬢がケリア公爵令嬢に虐めの濡れ衣を着せようとしていたのですが、調べなくても大丈夫でしょうか?」

「え!?」

 陥れられそうになった令嬢の素性を思い出して王に尋ねる。王は素っ頓狂な声を上げて驚いた。声を上げていないが祖父母も驚いている。

 ケリア家は他国の王女が降嫁した家。降嫁した王女の国は大国と言って良い程に大きい。

 そんな家の令嬢が陥れられそうになっている。しかも、王子は嘘を信じて令嬢に苦情を言っている。

 外交問題に発展しないか?

 あの国と縁を切られたらヤバいんだけど。

 男爵令嬢が齎す今後の問題を思ってか、王は文字通りに頭を抱えた。次に顔を上げた時、王は苦渋に満ちた顔をしていた。

「外交問題に発展する可能性が有るのならば、儂も腹を括らねばならないか」

「初めから陛下が腹を括った行動を取ったのならばここまで発展しなかったと思いますぞ」

「ぬぐっ」

 決意表明するも、祖父の突っ込みに反論出来ない王。本当に頼りないな。

 その後、どうやって王子を引きずり下ろすか議論する事になったが、これと言った妙案が出て来ない。

 揃って呼び出して断罪しても、今の王家の権力では大多数の貴族に信じて貰えない可能性が高い。

 そもそも、男爵令嬢が何をしているのか調査結果もない。

 発言許可を取ってから『男爵令嬢がやらかしている仮定で良ければ』とラノベで良くある『ざまぁ系』の展開の一つを提案してみた。これだったら大勢の貴族の目の前で行われるから『その場にいた貴族を目撃者として巻き込む』事が出来る。

 現場に居合わせた貴族は雀が囀るように、見た事を噂のように撒くだろう。数少ない娯楽として噂話に尾ひれを付けて楽しむの様が目に浮かぶ。

 でも、誰か一人恥をかく事になるんだよね。提案者だから引き受けても良いけどって、流れになったら祖父が王に交渉を始めた。

 言い出しっぺだから結局自分になるのか。良いけど。で、交渉の結果、祖父が提示した対価を受け取る代わりに引き受ける事になった。

 あっさりと交渉で負けているが、それで良いのか国王。擁護する気もないが。

 もう少し詳細を話し合い今日はお開きとなった。

 男爵令嬢の調査結果次第で予定が変わる事から、話し合いはもう一度行うがそれは調査終了後。

 機嫌の良い祖父母を見て、内心思う。『馬鹿な王族は害悪だ』と。

 王族の性格は乳母や教育係などの環境次第で変わるんだろうけど、こればっかりは本人の性質な気がする。

 帰りの馬車、老害とどちらが悪質か考えながら時間を潰すのだった。



 そして、一ヶ月後の夜会。

 事前に入念な打ち合わせと準備を行い、夜会で『第一王子の婚約について』と王が大々的に発表したところ、案の定、当の王子から反発の声が上がった。

 今夜は仕組んだ茶番劇。役者は王と王子に男爵令嬢。自分は置物。立っているだけで良いので気楽だ。

「父上! 俺はマリー以外の女性と婚約したくは有りません!」

「貴様、父とは言え王に反抗する気か!」

 王の一喝に馬鹿王子がビビって震え上がった。

「ひぃ、あ、えっと、マ、マリーとは『真実の愛』で結ばれているんです! だから、例え王命であっても嫌です!」

 真っ青な顔で、今時有り得ない言い訳を口にする。

 一時期一世を風靡した『浮気男と寝取り女の転落物語』にも出て来た『浮気男の言い訳』をリアルに言う阿呆がいた。

 当然、会場にいる殆どの貴族は『こいつ何言ってんの?』と言った顔をしている。

 数段上にいる壇上の上、王の左右にいる正妃と側妃は揃って扇子で顔を隠している。同じ壇上にいるので、視線を向ければ両者は対照的な表情が見える。

 正妃は高笑いせんばかりの良い笑顔。側妃は怒りと羞恥で顔を真っ赤にしている。

 王は口元に手を当てて考える振りをしているように見えるが、実際は『口元を完全に隠して』にやりと笑っていた。

「ほう。真実の愛か。それは『想像出来ない程苦難な状況に陥っても』貫けると、この場で誓える程のものなのか?」

「はい、誓えます」

 王子は自分の要望が通るかも知れないと、期待に目を輝かせて即答した。

 一方、ここまで完全に空気だった令嬢が何かに気づいて顔を強張らせた。

 だが遅い。賽は投げられているんだよ。

 漸く王の目的が何であるか察した貴族は顔を顰めた。自分の事を冷笑していた貴族や令嬢も『やべぇ』と気付く。見逃しはしないからな。覚えていろよ。

 王の視線が王子から令嬢に移る。王に見据えられて令嬢の肩が跳ねた。

「ふむ。お前が誓えても隣の令嬢『も』同じ事が誓えるか分からぬな」

 そこで令嬢に話しを振って『お前も誓えるか』と聞かないところを見るに遊んでいる。今日の夜会に最も難色を示していたのに、随分とノリノリだな。

「なっ!? マリーを疑うのですか!?」

「当たり前だろう。お前と違って即答もせずに黙っているのだからな!」

 王の発言で何となく魂胆が見えて来た。

 王子を拒むか、受け入れるかしても、待っているのは地獄。だって王の『想像出来ない程苦難な状況に陥っても』の発言から、死んだ方がマシの目に合う事間違いなし。

 王子を拒み、王子の不正の片棒を担いだとして処罰されるか。

 王子を受け入れ、日々の食事にも困る生活をするか。

 どちらにせよ、逃げられはしないだろう。

 何も言わずに俯く令嬢を心配そうに見詰める王子。

「マリー。俺といられれば幸せと言ってくれただろう」

 随分と馬鹿な台詞だ。結婚生活を甘く見ているとしか思えない。

 てかさ、『俺と』のところ、それは『王子の金』って意味だよ。贅沢をさせてくれるからお前と一緒にいて幸せって意味なんだが、何故気づかない?

「わ、私、は……」

 やや俯き程度に顔を上げた令嬢は口をパクパクさせている。どう答えても転落の人生が待っていると気付いている模様。

「どうした? 『真実の愛』とやらで結ばれているのだろう? 答えられぬのか?」

 この王様演技が上手いな。俳優かよ。

 王子の視線が自分に向いていないからって、にやけそうになるが一瞬で厳つい顔をする。顔芸人か。

 そんな風に内心突っ込んでいたが、令嬢はどうにかなりそうな算段を付けたのか、ヤケクソ気味に『誓う』と宣言した。

 当然の事ながら、王子は大喜び。側妃は絶望の表情を浮かべ、正妃は笑いを噛み殺している。

 王に至ってはご満悦と言った表情だ。馬鹿の切り捨てが出来て嬉しいんだね。

 王子の喜びは束の間と言うか糠喜びか。

 王は『話しが変わるが』と、笑顔のままで王子に国庫から無断で私費の支払い分を抜き取った事を『横領罪である』と糾弾し始める。他にも『やらかし』が有ったのか、王が愚王子に『やらかしがどう言う犯罪なのか』を懇切丁寧に教えている。興味がないから聞き流そう。

 喜びから一転、王子は焦った顔をし言い訳を始める。だが、王の手のものが調べた調査結果だ。『知らなかった』、『そんなつもりはない』などの言い訳は通じん。唆した令嬢は算段が消えた事を知り、絶望に染まった顔をしている。

 突然起こった断罪劇に会場は騒然となる。側妃をチラリと見やれば、達観したのか能面のような無表情になっていた。実家に影響が出ないと良いね。

 側妃の今後について思いをして馳せて居たら、王子の断罪が終わり、今度は令嬢の断罪が始まった。

 ぶっちゃけると、令嬢の犯罪の方が問題だった。

 禁止麻薬の所持、使用、密売から始まり、闇市にて禁輸品の所持、販売、購入、王子から得た情報を男爵家を通して他国に売る。

 重いのはこの辺りだ。令嬢の犯罪には男爵夫妻(後妻)も関わっており、こちらは拘束されている。

 他にも、自作自演で他の高位貴族令嬢を陥れ、娼館へ『攫われた女性の奴隷販売斡旋』に、挙句の果てに窃盗まで行っていたのだ。王子と一線は超えていなかったらしいが。

 王子から得た情報は国家機密ではないとは言え、『王族から得た情報』を他国に売る行為はこの国にでは国家反逆罪に相当し――当然、処刑ものだ。

 まあ、禁止麻薬の所持、使用、密売の三つの犯罪で、最低でも三回は高いところに登る罪状が出来上がる。

 そこに禁輸品や国家反逆罪、他の令嬢(他国の王族筋)を陥れ、国際法で禁止されている犯罪奴隷以外の販売斡旋。最も軽いのが窃盗と言う事態。

 令嬢の犯罪については流石に知らなかったのか、王子は信じられないものを見たと被害者のような顔をしている。何故お前が被害者面をしているのか。

 証拠も併せて提示されてるので逃げ場はなく、二人は拘束された。拘束の際に暴れなかったのは『逃げると罪が重くなる』と理解しているからか。

 王は締めの言葉として、二人に処罰を言い渡す。

 王子は身分剥奪の上で幽閉塔行き。残りの生涯を塔で過ごす事になるだろうが、ほとぼりが冷めた頃に毒杯が送られるだろう。表向きは病死だな。

 重罪オンパレードの令嬢は身分剥奪、取り調べを受けた後に処刑。男爵夫妻も令嬢の犯罪に関わっているので同じ処罰内容だ。

 これに伴い男爵家は取り潰しになるが、禁止麻薬や密輸品をどこで手に入れたのか未だ不明らしく、調査は続く。

 この調査の煽りを受けて他にも幾つかの家に処罰が行きそうだな。

 王子と令嬢が連行されて行く。気力を失った側妃も中座する。

 王が仕切り直しと手を叩いた。会場にいた全員の視線が王に集まる。

「さてソフィア嬢。我が国の犯罪者の炙り出しに協力してくれたのだ。其方に褒賞を与えたい」

 王の物言いに殆どの貴族が『今日の夜会が仕組まれたもの』と知ったのか、納得顔をしている。婚約話は嘘です。宰相も知りません。

 しかし、褒賞か。今回の茶番に付き合う事で家として、『ソフィアが爵位を継ぐ事を認める』と言う報酬を事前に貰っているのだが、大盤振る舞いだな。

 打ち合わせにはなかったが……丁度良い。許可を取ろう。

 恥を忍んで馬鹿断罪に協力したのだ。この程度は良い筈。

「褒美と言うのなら『許可』を頂きたく思います」

「許可?」

 王だけでなく、会場にいた貴族も怪訝な顔になった。

「はい。いかに茶番とは言え『私が婚約を拒まれているのを見て冷笑していた方』が幾人か見えました」

 そう言って会場を見回せば、視線が合わぬように目を逸らしたり、顔を青くしている貴族や令嬢がちらほらと見える。

 自分が会場を見回すと同時に、王も会場に視線を向けたので仕出かした貴族の顔を見ただろう。

 自分の言いたい事を理解した王に尋ねられる。

「ふむ。仕返しがしたいと言うのか?」

「その通りでございます」

「我が許可がなくとも、良いのではないか?」

 違う。良くないのだよ。

「いいえ。陛下からの許可を頂けるか否かで大分変ります」

 王『公認』でやるのと、『非公認』でやるのでは大分変わる。

 意味が分かったのか顔色が変わった貴族が幾人か見える。本日夜会に出席してない祖父母には仮の話しで事前に説明済み。良い笑顔だったよ。

 意味が分かった貴族その一である宰相が待ったの声を上げた。そう言えば今日の茶番の説明していなかったな。

「エチェベリア嬢。流石にそれは……」

「? 別に構わぬ、だろ、う? あっ」

 宰相の待ったに王が首を傾げるも、途中で小さく声を上げ、意味を理解したらしい。

 惜しい。でも、『別に構わぬ』と言っているからこれで言質を取れないかな。

 だって、国王公認でやる仕返しだよ。流石に公爵家でも文句は言い難いだろう。仕返しを受けた家の連中の文句は自動的に許可した王に行く。この国の王って微妙に力が弱いから王に行く事間違いなし。

 うん、素晴らしいな。

 けれど、王よりも先に意味に気づいた宰相に止められてしまい、後日改めて聞くと言う事になった。

 自分が内心で舌打ちしたのは言うまでもない。



 それから一ヶ月間、社交界では王子と男爵令嬢の話題で一色だった。

 会場にいた貴族は娯楽小説のような場面に遭遇したと話題に尾ひれを付けて楽しんでいた。他人の不幸は蜜の味って訳だ。

 しかし、自分の事は一切話題に上らなかった。『褒賞として王様公認で虐めたい』と言ったのが原因だ。後悔はない。

 男爵家の調査を進める過程で、関係のない家も処罰を受けたそうだが、気にしない。寧ろ虐めたかったよ。

 祖父母も虐めに加担したかったらしく、悔しそうな顔をしていた。

 そうそう。報酬は『高価な物品』に無断で変えられた。宝飾品よりも虐めの許可が欲しかった。

 流石に自分が暴れるのは不味いと判断したのか、あるいは、どこぞの家の力を削ぐ為に自分を利用したのかは不明だ。慰謝料がたんまりと来たので後者だろう。これは宰相と王家を『抜け目がない』と称えるべきか。

 慰謝料で思い出したが、側妃は実家に帰ったらしい。馬鹿な子を産んだ母として居続けるのは精神的に来るものが有ったんだろうね。そして、実家は外務大臣の家。

 今回の騒動で『禁輸品が出回っていたのに調査を怠った』と、職務怠慢について調査を受け、役職取り上げの上で爵位降格となった。結果を見るに一枚噛んでいたな。

 叩くと埃塗れだった男爵家の証言のお蔭で、国内貴族の約三割が何かしらの処罰を受ける結果となった。こんなに膿が溜まっていたのかよと思わなくもないが、没落した家が十を超えるので、あえて溜めていたのかもしれない。

 男爵一家の処刑は同日に行われた。夜会から二か月以上も経っての執行だ。溜まっていた埃の量は考えたくもない。

 件の令嬢の毒牙に掛かっていた令息達は『家のものを無断で持ち出し売り払い、貢物を買う資金にしていた』事が発覚し、全員勘当された。各々の家が質屋から買い戻し、買戻しに使用した額はそのまま『令息達の借金』に化ける事になった。

 令息達は罪人用の強制労働所で借金の返済が終わるまで働く事になった。送り先は重罪人が送られる場所な上に、国内で最も過酷とされている労働所だ。五年と経たないうちに儚くなりそう。

 すっかり忘れていたが、ケリア家は王が直々に頭を下げて謝罪し、慰謝料も払った。ついでに宝物庫に入っていた宝飾品も一つ下賜した。

 外交問題が金銭と物品一つで解決出来るなら安いと言ったところか。

 


 更に数ヶ月後の今日は、ソフィア・エチェベリアのデビュタントの日だ。十四歳の誕生日は半月前に迎えた。王家からも誕生日プレゼントが届いた。

 デビュタントのドレスは祖母が色とデザインを決めた。しかし、王家からのプレゼントに宝飾品が混じっていた。使わないと問題が発生しそうなので、急遽、ドレスの色を変更された。

 デビュタントは誕生日のあとに王城で行われる舞踏会に参加する事だけ。

 決められた日にデビュタントする令嬢令息を集めて行う訳でもない。ドレスも決められたものを着用しなくていい。この世界のドレスはコルセットを着用しないので実に快適だ。内臓を潰す勢いで絞め上げるコルセットは絶滅してしまえばいいのに、腰を細く見せられるからとコルセットドレスを着ている令嬢や夫人が一定数いる。

 日が沈む少し前に祖父母と共に馬車に乗り、王城に向かう。

 今日のデビュタントは祖父と一曲踊ったあと、祖母と三人で挨拶回りだ。婚約者はいないが『女侯爵の配偶者』と言う地位を狙うハイエナは沢山いた。主に下位貴族だ。同格の侯爵家やウチより上の公爵家からの打診も在ったが、どの家も馬鹿掃除(ボンクラ排除)が目的と分かる奴に会わされたので全て断った。

 到着した王城のダンスホールがざわついている。

 何だろうと首を傾げて――そう言えば、他国の王族と婚約している令嬢のデビュタントも今日だったなと思い出す。

 我ながら運がない。呪いの加護を解く研究をする必要が有るな。

 今後の予定よりも、まずは祖父と一曲踊らねばならない。

 壇上にいる王と王妃に挨拶後、ホールの中央で祖父と一曲踊る。心なしか祖父は嬉しそうだった。

 何故にと思うが、女の自分がエチェベリア家の後継者に指名される状況を思い出し、内心げんなりする。



 祖父母には息子が二人いた。頭の出来は同程度。更に双子だったので二十の誕生日を迎えた時点で優秀な方を後継者に指名する予定だった。

 兄弟内で競わせた方が優秀になると判断した結果だ。競い合わせたが、互いの足を引っ張る事を覚えなかった事もあり、優秀な双子と言われて育った。

 だが、思惑が大きくズレたのは、十六歳を迎えた双子の兄弟の婚約者決めの時。二人は運悪く同じ令嬢を好いた。

 二人同時に求婚し、令嬢が選んだのは弟。兄は当然怒り狂った。

 双子だが、二卵性双生児だったのか外見や性格は全く似なかった。

 顔の造作は、兄はきつめ、弟は優しげ。

 性格は、兄が苛烈で、弟は穏やか。

 女性がどちらを好むかと訊かれれば――やはり弟だろう。事実、婚活で弟が選ばれた。

 弟と令嬢は一年後に婚姻、更に一年半後に子供が産まれた。この時産まれた子供が自分だ。

 一方兄は、何度か他の令嬢との見合いを行ったが上手く行かず、酒に溺れる日々を送るようになった。弟が結婚する頃には体が壊れ始めた。

 そして自分が産まれてから一年後。侯爵家の後継者が決まる数か月前、兄はとんでもない暴挙に出た。

 弟一家が乗る馬車に細工をして――人為的に事故を引き起こした。自分は助かったが、父と母はこの事故で死んだ。

 祖父母は悲しみ、兄に対して処罰を下し、罪人用の強制労働所に放り込んだ。

 後継者がいなくなった侯爵家は、次の後継者として生き残りの自分を育てる事にした。

 馬車の事故が原因で既に菊理としての自我に目覚めていた為、三歳児の頃から始まった『後継者教育』に耐え切れた。ソフィアのままだったら多分耐え切れなかっただろう。

 罪人となった兄の性格の大本はこの二人の血としか思えない程に、苛烈で厳しかった。

 失敗出来ないというプレッシャーも有ったんだろう。過去の経験から考えると『王太子妃教育並』の厳しさだ。

 褒めない。泣いたら鞭打ち。出来るまで食事休憩なし。出来たとしても『この程度で喜ぶな』と怒鳴り散らす。

 第三者が見たら間違いなく虐待と言うだろう。乳母や執事にまで苦言を呈される程だったし、『エチェベリア侯爵夫妻は孫を虐待している』と噂が流れた事もあった。流れた噂は祖母が婦人会に出て消していたらしいが、完全には消えなかった。

 菊理だからこそ乗り越えられたとも言える状況。お前の為だと言われても信じる事は出来ない。

 何度か『ソフィアだったらどうなっていただろう』と考えた。

 両親は殺され、祖父母からは虐待じみた教育を受ける。絶対に性格が歪むだろうな。

 自分は『人でなし』と言う自覚が有り、過去に王太子妃教育を受けた経験が有るからどうにかなったと思っているが、実際はどうなんだろうな。

 ここまで語って判るだろうか。

 育ての親と仲良くないのよね。

 言われた事を正確にこなす人形でいれば、この夫婦は気分良くするから大人しくしている。この世界の平均寿命は五十歳。この夫婦は揃って五十二歳。平均寿命は超えているのでいつ天寿を全うしてもおかしくはないのだが……この分だともう五年は長生きしそう。

 


 そんな事を考えている内に機嫌の良い祖父とのダンスを踊り終える。次は挨拶回りだ。愛想笑いが出来なくて初めの内は散々怒鳴り散らされたが、次第に『顔に感情が出ない』と思われて今度は感情を表に出す事を禁じられた。実に矛盾した教育だ。

 次期女侯爵として挨拶して回り、挨拶ついでに『一曲踊ってくれ』と頼まれて踊る。相手は年上ばかりだが、上は十五歳以上(売残りの未婚)、下は三歳以上(婚約者獲得失敗)年の離れた男と踊った。十人以上と踊る羽目になって疲れた。

 挨拶回りが終わり、祖父母も機嫌良く喋り倒して喉が渇いたのか、テーブルに置いてあったドリンクに手を伸ばしている。

 かく言う自分も踊り疲れて喉が渇いたので、冷たい水が入ったグラスを手に取る。テーブルに置いてあるドリンクの殆どがアルコール度数の高い酒ばかり。成人していないので水しか選べない。どのテーブルも置いてあるドリンクの種類は同じだ。ジュースの類はない。

 水をチビチビと飲み、会場の中央を見る。キラキラとした令息がどこぞの令嬢とダンスを踊っている。数多の令嬢が嫉妬に満ちた目で、ダンスを踊る二人を羨ましそうに見ている。

 ウチの第二王子は十六歳でデビュタント済み。第三王子は今年で十歳。共に婚約者はいないが、今日の舞踏会に出席していない。

 では、あれは誰だろうと、考えて思考を放棄。どうせどこかの令嬢とくっつく野郎の事なんざ考えても意味はない。

 水を飲んでいた間に祖父母は知り合いとの話しに盛り上がっている。

 水を飲み干し、気配遮断を使ってこっそりと離れる。向かう先は料理が乗ったテーブル。給仕はいない。この国では自分で取るのがマナーだ。

 祖父母がこちらに気付いていない事を確認。酒が回っているのか顔が赤い。今の内だな。

 大皿一枚に料理を載せて行くが、空腹感が薄れる程度に食べるのが丁度良い。このあともダンスを踊るかも知れないのだ。腹が重くて踊れないとなると祖父母がキレる。

 一口大の肉料理を四種、デザート四種を取り、テーブルから少し離れて食べる。

 王城の料理だ。美味しい。この世界の料理はそれなりに美味しい。

 しかし、料理デザート共に四口で終わった。

 物足りないが我慢。空の皿を回収用のテーブルに置く。口元をテーブル備え付けのナプキンで拭いて、掌サイズの小さい手鏡で確認。よし、オッケー。祖父母がいる辺りにまで戻る。念の為、魔法を使って祖父母の思考と記憶を読んで確認。離れて料理を食べていた事はバレていない。口紅していなくて助かった。

 気配遮断を解除し、今飲み終わりましたと言った風を装って会場を見る。

 先程のキラキラとした令息に令嬢が群がっている。にしてもこの令息、令嬢のあしらいが上手いな。あしらいが上手くないと苦労するとは、モテる男は大変だな。

 祖父母を再び見る。祖父は会話が終わったのか、グラスをテーブルに置いている。祖母は未だに盛り上がっている。会場の端に置かれている椅子に座って知り合いの夫人と話し込んでいる。長くなりそうだが、チャンスだ。祖父に化粧室に行くと一言言って会場を出る。流石に不審がられなかった。これがテラスだと『この程度で人酔いを起こすのか』とお小言を貰いそうなので、息抜きがしたい時には化粧室に行くと言う事にしている。

 会場を出て辿り着いた化粧室で用を足し、鏡を見る。今日の化粧は薄いが崩れてはいない。料理を食べた痕跡もない。

 諸々の確認後に会場に戻ると、祖母と祖父が合流していた。機嫌が良いな。

 一言言って戻れば、疲れたから帰ろうと言う流れになった。自分に否はない。パーティーは好きではないので早めに帰れるのなら同意する。

 会場の時計を見れば、もう直ぐ終了の時間だ。

 先に帰ると主催者に挨拶し、馬車に乗り込む。馬車の中では一切の会話をしないのが決まりだ。窓から外を見る以外に出来る事はない。

 行儀良く座ったまま、車窓から外を眺める。暗くなった道を照らす幾つもの街灯が立っている。この街灯はランプではなく、日が沈むと自動で灯るのだ。原理は不明だが、王都が出来て数百年以上稼働し続けている代物。

 誰もが『生まれた時には既に在った当たり前のもの』と認識しているが、菊理の記憶を所持している自分からすると『違和感満載な代物』なのだ。

 この世界に魔法が有るかどうかは不明だが、存在していたのは確かだ。調べる方法が今のところないんだけどね。

 その証拠が先の街灯である。観察していて気づいたのだが、この街灯から微弱な魔力を感じる。

 この王都には街灯と同じく魔力で動く代物が大量に有るのだが、誰もが皆『生まれた時には既に在った当たり前のもの』だから、原理不明で動いていても、存在している事に違和感を覚えないのだ。故障しているところを見た事がないのも要因の一つだ。

 魔法の有無よりも、老化が十数年後に止まるこっちの対策も考えないと。

 魔法を使って誤魔化すとしても、期限が三十年延びるだけ。

 本当に、どうしよう。

 

 

 デビュタント以降も未来に不安を抱える日々を送っていたが、自分の寿命云々よりも祖父母をどうするかの方が重要になって行った。

 ぶっちゃけると、しつこく見合いが強行される日々になった。良さそうな令息に当たっても、祖父母を見て『この妖怪(ジジババ)がいる限り駄目だな』と去ってしまうのだ。

 引き留められない自分が悪いと、キレて怒鳴り散らす祖父母だが、この二人を見ると何とも言えない。

 個人的に言うと、結婚願望はない。それにまだ十四歳だ。嫁き遅れと言われる年齢は二十五歳で、大体二十歳前後で結婚する。それを考えると十年は余裕が有る。

 有るんだけど、やはり父が十七歳で結婚したからか『早く婿を決めろ』と急かして来る。

 でもね、婿が決まらない元凶がアンタらだよ。いい加減気づいて欲しいわ。

 口にすると鞭を振り回してキレる様子が容易に想定出来るので言わないが。

 今日も嘆息しながら、自主学習に励むのだった。



 二年後。十六歳になった。

 今の内に引き継げる事を引き継ぎたいと申し出て侯爵としての業務に励んで一年と少しが経過した頃、ついに祖父が天寿を迎え、半年後に祖父を追うように祖母も逝った。

 前日までギックリ腰一つ起こさず元気だったのに、急にぽっくり逝くから吃驚した。

 二人の葬儀が終わり、喪が明け爵位を受け継ぐと……『妖怪がいなくなった!』と言わんばかりに、一度去った令息が我先にと婚約を申し込んで来た。

 現金な奴らだ。先代夫婦がいなくなるまで待つとは。

 とは言え、これは想定出来た事。元々祖父母がいなくなるまで待ちそうな奴らが多かったのは知っていたし、事前準備も喪服中に済ませていた。

 何の準備かって? 領地に帰る準備だよ。

 祖父母は伯父と父のどちらかに領地経営をさせる気でいたが、伯父の暴挙で予定が色々と狂った。そこへ自分の跡継ぎ教育を施さなければならなくなり、領地は代官に任せっきりだった。三歳から十六歳になるまでの十三年間、祖父母は一度も領地に戻っていないし、自分も領地に足を踏み入れた事はない。

 この世界に所謂『学校』と呼べるものはない。祖父母も王城で役職に就いていた訳ではない。

 では何故領地に戻らなかったと言うと……やはり華やかな王都で贅沢暮らしがしたかったのだろうな。揃って領地に行きたがらなかったし。

 領地について気になって何度か質問したが『代官に任せていれば良い』と返答しか帰って来ず、『そんな事を気にするのならば勉強しろ』と怒鳴られた。

『目下はどうでも良い。大切なのは自分達の貴族としての生活』と言わんばかりの態度を見て、祖父母に対して失望した。

 何事も土台を大切にするものだ。平民の生活が困窮して反乱を起こされたらたまったもんではないし、領地から去られたら困るのは自分達だ。それを何故理解しないのか。

 経験と理解力の差か。

 こっそりため息を吐いたのは言うまでもない。

 今更感溢れるが、領地に向かうのには他にも理由が有る。

 最大の理由は『財政の見直し』だ。

 祖父母は派手に金を使う人間だった。借金こそはないが、このペースだといつか財政難になると確信出来る程に。

 引き継ぎ業務を前倒しして帳簿を見た時の、粉飾箇所を見つけた時の恐怖は忘れられない。

 しかもこの粉飾が何十年も続いていたのだ。

 本当に借金がないのか、財政は大丈夫なのか。本気で心配した。

 王に領地に帰る話しは祖母の葬儀の際にしている。

 爵位の引継ぎは祖父の葬儀後に済ませている。

 老齢の執事とやり残しはないと確認し合い、早々に王都を出た。



 領地までは馬車で片道八日掛かる。気軽に行き来が可能な距離ではないのは知っていたが、この状況になる前に一度は行って置きたかった。

 移動の暇時間は、執事と今後の予定についての話し合いで潰した。この執事は先々代の侯爵夫妻の代からエチェベリア家に仕えている人物で、当然領地にも行った事は有る。先々代からの帳簿の粉飾も知っていた数少ない人物だ。恐らく、口にすると濡れ衣を着せられるから黙っていたのだろう。

 そこで自分が色々と調べて『領地と財政再建』の計画を立てると積極的に意見を述べてくれた。

 ウチの領地は特産品がある訳でもないが、農作物は種類を問わずに育てているし、酪農も行われている。海に面していないので塩は作れないが、代わりに砂糖の原材料や香辛料の栽培を行っている。

 鉱山や観光名所はない。畑と牧草地に小さな町が幾つか。

 これで良く持ったな。

 多分だが、伯父の暴挙がなくても財政難で遠くない未来で詰んだだろう。そうとしか思えない。

 それは執事も同意見だったらしく、自分が領地を気に掛けた事を非常に喜んでいた。

 馬車で話しを詰めていたが、漸く到着した領館で代官から話しを聞くと、現実は想像を超えていた。

 実際に見て思ったが侯爵家の領地とは思えない程に、色々と手付かずだった。特産品がなくても、道の整備ぐらいはやれよ。

 道は整備が行き届いていないのが丸分かり。畑は痩せて収穫量が減る一方。酪農も、今でこそ落ち着いているけど、病気が蔓延して数が激減。町は寂れて閉店した店舗が多数。領民が住む家はボロボロで、行商も月に一回しか来ない。

 止めは高い税金。納められず、出稼ぎする振りして逃げ出す領民が出現する始末。

 代官の話しを聞いている内に、祖父母を殴りたくなった。

 孫の代で潰れても、自分達の代で潰れなければ良いと思っていたのかあの妖怪夫婦。

 嘆息しつつ、領地の立て直しは代官と改めて改革の話しを詰めるところから始まった。



 そして二年後。

 どうにか領地再建は成功した。

 やり過ぎた……と言うよりもはっちゃけた感は否めないが、問題が解決したのだから良しとしよう。

 真面目過ぎても良くないのは経験済みだしね。



 館の書庫を読み漁っていて偶々魔法に関する書物を見付けたのだ。執事に聞けば、魔法ではなく『魔術』と呼ばれるものは存在するらしい。使い手はどこの国でも百人以下だが。貴族ならば知っていて当然の常識らしい。執事より『祖父母は魔術が使えない』と教えられた事から察するにあえて教えなかったな。

 そんな事よりも、魔術だろうが魔法に近いものが存在するのなら領地再建は短期間で可能となる。

 過去魔法を使用した農耕地再生は結構な数を熟した。大地だけでなく植物に干渉する魔法も使える。農作物の成長促進も可能だぜ。

 まぁ、やり過ぎて命を狙われたり拉致対象にされた事も有るが、今は忘れよう。

 国に自己申告する必要もないので、再建をサクッと行おう。

 馬に乗って領地を駆けまわり、痩せた農耕地を通常にまで回復させる魔法をかけて回る。本当は農作物の成長促進を促す魔法もかけたかったが、ウチの領地の畑だけ植物が急成長していると、絶対に騒動の火種になるから止めた。

 日中の作業の邪魔をする訳にも行かないから、夜間に走り回って行った。侯爵家の領地なだけあってそれなりに広く、この作業だけで半年もかかった。

 ついでに肥料――になりそうなもの――も広めた。再び土地が痩せないようにする為だと言えば受け入れられた。収穫率が安定するのなら受け入れてくれるみたい。

 香辛料の種類が意外と豊富だったので特産品に出来ないか検討した。カレー粉みたいなミックス香辛料が有ると便利だからね。

 次に酪農として飼育されている牛、山羊、羊が病気にかかっていないかチェック。鶏もいたよ。鶏肉と鶏卵ゲットだ。

 最後に寂れた町の復興だが、閉まっている店舗を増やすには人手がいる。行商から引き抜く訳には行かないので困った。

 どうするか悩んだ末に、執事や代官に『露店』について尋ねる。珍しくこの世界にはなかったらしく、逆に説明する羽目になった。

 露店と言うか『フリーマーケット』みたいな感じだ。

 出店する際に一定額を納めて貰う。場所代だ。出店範囲が広くなるにつれ場所代の料金が上がる。

 売上金の一部を納めて貰い、町の復興資金にして貰うかは各町の長と相談で決める。どこも同じにしないと町で貧富の差が出るし、人口の移動も起きるからこればっかりはしょうがない。

 そうそう。たまにあるラノベ系で『学校がない世界に学校を作る』何てシーンが有ったりもするが、流石に学校は作らなかった。

 いかに文盲が多くてもね、書物を読む機会がない地域で文字が読める事で得られる得はない。孤児院で読み書き計算を教えるのならともかく、流石に農村に学校を作っても税金の無駄だ。領民も『文字が読めても銅貨一枚の価値がない』と反発しかねない。

 学校の代わりに診療所を作った。年齢別に住民の数を見て知ったが、子供の数が少なく出生率も低かった。人口数の維持は領地経営の課題の一つ。領民が減れば税収入も減るからね。

 そんな訳で作ったが、金がないから利用出来ないと反発を受けないように『税金を納めている世帯に限り、十歳までは無料診療』とした。出産費用も出すと言ったら喜ばれた。

 しかし、十歳以降が心配だと言う声に応じ、町や他の領地で『販売しない』事を条件に医者(頭を下げて教授料を払い引き受けて貰った)に野山で取れる薬草で製作可能な『即席薬』の作り方を領民に広めて貰った。

 簡単に言うと『誰もが知っていて簡単に対応出来る』民間療法を広めた。薬師の仕事が減りかねない所業だが、『一種類の薬草を刻む、煎じるで服用出来るもの』を選出した。

 例えるなら、『少量の木の皮を一日干して刻んで煎じると咳止めになる』、『切り傷に薬草の葉を折って出て来た汁を付け止血する』と言った感じだ。

 二種以上の薬草を混ぜて使用する場合は薬師に頼んで、一種類の薬草でどうにかなるものは自分でやってと言った具合に分けた。

 素人が混ぜて作った薬が出回っては困るし、間違った療法が広まってはもっと困る。選出には時間がかかった。付き合ってくれた医者の爺さんありがとう。

 

 

 領地で迎えた二度目の誕生日。今日で十八歳になる。

 代官と執事も高齢で後釜育成に励んでいる。一緒になって後釜候補一堂に結構な量の仕事を振りまくったので、仕事は出来るようにはなっただろう。

 婚約を打診して来た連中も流石に領地にまでは来なかった。代わりに王が視察でやって来て、騒動になった。

 特に診療所と露店の規定は王都でも真似出来るか検討していた。

 素人の思い付きだが、それで国が良くなるのなら利用しても良いよ。特に診療所。平民向けの診療所は少ないからね。

 一番受けが良かったのは特産品と化した『塩入ミックス香辛料』である。配合調査に時間はかかったが『肉用と魚用』の二つを売り出したら――結構売れた。特に肉用が売れた。肉の臭みが一振りで消えると大受けだった。

 この塩入ミックス香辛料を真似て売る際には基本の配合を守る事も徹底させた。お蔭でバリエーションも増えたし、配合教授料としての収入も得た。

 個人的にはもう幾つか開発と販売がしたかったが、手が回るか分からないので香辛料のみにした。化粧品で大事にまで発展したあの思い出は忘れん。

 前触れなくやって来た王は、領地の視察で満足したのか、満面の笑みを浮かべて王都に帰って行った。

 議会で萎まないと良いが。

 けど、王から魔法についての幾つかの情報も得られた。

 事前に教えて欲しかったと言われたが、一般常識レベルの情報をくれなかった祖父母が悪い。

 やはり執事が言っていた通り、使い手は貴重らしい。なるべく隠せとも言われた。

 使い手と知って即、二つ年上の第二王子との婚約話が出たが当然断った。ここを王国領にしたいんだろうけどそうは問屋が卸さんよ。



 王が嵐のようにやって来て去ってから半年間、得られた魔法の情報について考えていたら、今後は縁もゆかりもない人物がやって来た。

 国から見ると縁は有るが、ソフィア・エチェベリアとしての個人的な縁はない。

 先触れなしでやって来た、その初対面の金髪灰眼の人物は――他国の王太子だ。しかも、ケリア家に降嫁した王女の甥に当たる。

 そんな要人に『用が有りお忍びで来ました(意訳)』と言われて額面通りに信じられる訳ないだろう?

 面と向かって言える筈もなく、応接室で対峙する。

 馬に乗って移動する予定だった事もあり、乗馬用の衣服のままでの対応だ。この格好のままで各町長と会合もしているので気にはならない。

 向こうの連れは怪訝そうな顔をしたが『先触れが有れば着替えましたよ(意訳)』と言えば何も言わずに黙った。事実だからな。 

 先触れの有無の重要性を自分以上に理解している王族相手にやや無礼かと思ったが、歓迎している訳でもないのでこのままで対応だ。王家を通さないでやって来た時点で何かある。警戒して損はないだろう。

 用件を訊ねると領地再建について根掘り葉掘り聞かれたが、王が視察にやって来た際とほぼ似たような内容の質問だった。

 王に返した回答をそのまま返した。

 だがこの王子の相槌が『そうでしたか』、『参考になります』、『初耳です』と言った感じのものが多かった。

 王と少し議論する羽目になった『無料診療の年齢上限』についても余り喰い付いて来なかった。

 逆に喰い付行きが良かったのは、農耕地再生の部分だけ。肥料については完全にスルー。

 無意識に『食糧供給意図的に増加=兵糧準備』と考えてしまうのは、考え過ぎか。ここ最近の、転生した先の世界で戦争が起きる事が多いからか?

 魔法を使って再生させたのだが、土壌改善肥料を広めた事を強調して魔法を使った事は伏せた。

 これは王にも言われた事だ。下手に魔法で解決したと教えるな、と。

 そう言われたものの受け答えに限度がある。

 余りのしつこさに『飢饉でも起きたか』と尋ねれば、僅かに眇められた目が怪しい光を帯びた。

「起きてはいないが、別の問題が発生している」

 暈した言い方だな。

 ストレートに言わない当たり『利用したい何か』を探っているようにも見える。

 この王子の祖国は大国――ククミス王国。自給自足が出来ているし、飢饉が起きても直ぐに飢餓に陥るような国ではない。獣害被害が起きている訳でもなさそうだし、本当に何しに来たのか?

 どこかに戦争でも仕掛ける気か? でも、平和が何百年も続いているこの大陸でそんなものを起こせば孤立する。最後に起きた戦争も、侵略した国が孤立して最終的に首が回らなくなって滅び、戦争は終結した。実に自業自得な結末である。

 その後も何度か突いたが、答えは得られなかった。

 突然やって来た王子は、風のように去って行った。

 本当に、何しにやって来たんだろう。

 一度、ククミス王国について調べてみよう。何かヒントが見つかるかもしれない。

 


 調べて分かった事で重要そうなのは次の通り。


・侵略で国土を拡大させた国。

・領土だけでなく、技術を始めとしたありとあらゆるものを奪って築かれた帝国の末裔。

・現在王国となっているが、帝国時代の『必要ならば奪う』気質が抜けきっていない。

・周辺国との関係はここ数年緊迫している。

・抱えている属国で反乱が起きており、食糧供給にやや不安有り。



 反乱が起きているのか。知りたくはなかったな。しかも、反乱が起きている属国はこの国の食糧供給の要で、大陸有数の穀倉地帯。

 この大国に農耕地がないと言う訳ではないが、農地にするには適さない土地が多い。居住地以外の領土は放牧に利用されているが、一度草がなくなると、次の成長が極端に遅い。その為、国土の荒地化が進んでいる。

 農耕地再生に喰い付きが良かった理由が判った。

 土地を改善して農耕地を増やしたかったのか。

 肥料に付いて喰い付きが悪かったのは、推測でしかないが『既に試した』のだろう。農耕地に適さない、瘦せ切った土地に肥料を撒いて地質が改善されるまでに、どの程度の長い年月がかかるのか、想像も付かない。

 手付かずの荒野を開拓して農耕地にするのに、一体どの程度時間がかかるかを想像すれば道程の険しさが解るだろうか。

 ウチの領地も滅茶苦茶に荒れてたからね。それを魔法と言う反則技で改善してしまったが。

 ……はっちゃけた代償かと思わなくもないが、備えはして置こう。

 備えとして王に早馬で手紙を出し、自分も王都の屋敷に向かう。

 二年間領地に引き籠りだったから屋敷の確認として行くが表向きの理由。

 裏の理由は、王の呼び出しに対応する為。場合によっては、国を出なくてはならないかもしれない。

 執事や代官と入念に打ち合わせと準備をして、早馬から一日遅れで王都に向かった。

 


 二年振りに王都に戻ったが、感慨深くは――なかった。

 屋敷の状態をチェックした翌日、王城から迎えの馬車がやって来た。

 嫌な予感が当たったらしい。

 急な呼び出しだから堅苦しくないものにすると、伝言を貰ったが額面通りに受け取れる筈もない。

 念の為ドレスを着ていて正解だった。薄化粧をして迎えの馬車に乗り込んだ。



 そして。

 約半年ぶりに会う国王は、何だかやつれていた。過労にしてはやつれ方が気になるところだが、取り合えず話しを聞こう。

 で、聞いた話しは……実に嫌な内容だった。

「其方からの手紙を読むと、この状況にも納得出来るな」

「そうですね」

 あの王子、実力行使に出たのだ。

 王の手に在る招待状に視線を向け、内容通りの招待でない事は容易に想像出来る。

「第二王子の婚約者選定パーティー。大国の王族筋で未だに婚約者がいないって有り得るでしょうか?」

「それは儂も気になって調べたが、恐ろしい事にかの国の王子達に婚約者がいないのは事実だった」

「……候補者同士で足の引っ張り合いでも起きたのでしょうか?」

「それは有り得そうだのう」

「もしくは、王家との縁が欲しい貴族令嬢の親達が犯罪紛いな事をしたか」

「それは我が国でも一度起きたな。王太子妃の選定で侯爵家以上の家が挙ってやらかし。結果として、とある伯爵家から選出された」

 女同士の陰湿なバトルや家ぐるみの犯罪行為を思って王と一緒にため息を吐く。

 貴族の嫌がらせは実に陰湿だ。家の権力を使ってまで行われる。最悪、犯罪行為まで平然とやって『証拠隠滅』を図る。

 女の頭脳犯がどれだけ面倒か、身を以って体験もしたな。犯罪行為だから全部御前裁判にまで持って行って家を潰したけど。

 この面倒臭いのが王族の婚約者候補間で起きると……普通に犯罪紛いな事が起きる。

 王族に嫁ぐ場合、嫁の実家が嫁いだ王族の後ろ盾となる。何か遭った時の対処なども考えて、王族の婚約者は有力者が好ましいとなる。大国ともなれば有力者は多いだろう。この有力者間での競い合いが起きると、最悪領地経済に打撃が入る。

 特定の貴族からの輸出入品に高い関税を課したり、高い通行料を取ったりと、財力を削りにかかる。これを下位の貴族にやると脅して従わせる奴もいる。

 貴族って面倒だなと思った瞬間だ。

 許可を取って王から招待状を受け取り内容を見る。

 時候の挨拶から始まる、典型的な『何処に出しても当たり障りのない』書き出しの手紙。先日エチェベリア領に向かった事、領地再建を果たした実績の有るソフィア・エチェベリア女侯爵を弟の婚約者候補に加えたい、領地再建の経験を弟に聞かせて欲しい、来月候補者の貴族令嬢を離宮に招待して三日間行われる第二王子の婚約者選定パーティーに是非出席して欲しいなどの内容が書かれてある。

 状況が状況なだけに、気軽に参加したくもない。参加したら最後、この国に戻って来れなさそうな気がしてならない!

 事前に打診すらもされていないのに、参加しろとは。『企みが存在します』と言っているようなもの。

 行きたくないけど、王が項垂れて『済まぬ』と口にしたので外交圧力がかかっていると容易に想像出来る。これは強制的に向かわされるだろう。

 財政再建を果たした直後にあれこれ買うのは、正直言って気が引ける。

 そこは王も考えてくれたらしく、必要なものは国で揃えてくれるそうだ。数年前の一件で協力してくれたからと言っていたが、これは建前だろう。

 本音は『差し出せ』と外交圧力がかかっているからだろうな。

 可能ならケリア家からあの王子について幾つかの情報を得たかったが、王から接触を断られた。

 何でもあの王子帰国間際にケリア家にも寄ったそうだ。

 それを聞き、息を掛けられたのなら情報の取得は無理と諦めが付いた。

「何故王子の成長結果が、腹黒か莫迦の二択になるのでしょうか?」

「うむ。しかも腹黒でないと跡継ぎとして使いものにならんと来た」

 救いようがないのぅ、などと王はほざいているが『お前も王子だった時期があっただろ!?』と突っ込みたい。

 王との会談はここでお開きとなった。

 準備を何もしていないのだ。急ピッチで準備を進める間、領地の執事と代官に手紙を送った。

 打ち合わせはしたが、最悪の事態を想定し、王と宰相に相談して許可を取ったと、手紙に書いた。返信は待たない。最後に送る手紙は『ゴーサインを出すか否か』のシンプルなものになる事まで書いた。意味が分からない二人ではないだろう。

 二十日程かけて色々と準備をして出発となった。



 さて、ここ世この世界の交通について話しをしよう。

 王城や領地まで馬車で移動していたが、馬車は国内移動用。

 国外への移動は主に陸上車と呼ばれる『列車』に近いものを使用する。馬車との違いは動力源が魔力である事と、各国共通の専用路(線路に似ている)を通る。飛行機並みに早いので、何処の国に向かうとしても一日以内には到着する。

 国内で使用されないのは、この専用路も魔法の産物らしく現代技術では作れないから。あとは土地の確保が難しいからだろうね。

 実際に陸上車を見るとモノレールに似ている。線路に似た専用路もモノレールのものに似ている。蒸気機関車なら現代技術でも作れそうだが、ロンドンの前例を知る身としては大気汚染が気になるのでなくても良いかも。

 陸上車の内部は完全な個室。利用者は主に王侯貴族や豪商ばかり。だからか、サービスがやたらと良かった。ドリンクに軽食、昼食までもが出て来る。利用料金が高いのはこのサービス維持が目的なんだろうね。大人には酒が提供されるんだもん。今回は王が金を出してくれたので具体的な料金は知らん。

 今回向かうククミス王国は、陸上車に乗っておよそ六時間前後の時間が掛かる場所に在る。

 昼前に乗り込み、サービスの昼食――想像以上に豪華だった――を食べ、更に数時間揺られ、軽食を摘まみ、日が沈み切った頃に到着した。

 今日は近場の宿に泊まって休息を取り、明日王城に向かう。

 先方にも予定は連絡した。そして、その連絡を現在後悔している。

 陸上車から降りたら、城から迎えの馬車が着ていた。宿で休みたかったが断れず、ほぼ強制的に馬車の乗り込む事になった。予約していた宿は向こうが勝手にキャンセルしていた。出迎えに、王子がいないだけマシな状態である。

 揺れる馬車の中、独りため息を吐きながら今後取る手段について考える。

 

 その一 問答無用で逃亡

 その二 パーティのどさくさに紛れて逃亡

 その三 適当な理由を付けて帰国


 選択肢が全て『逃げる』一択だが気にしない。

 このククミス王国では、現在進行形で反乱が起きているのだ。何時城にまで戦火が迫るか分からない。

 故に、逃亡準備はしておいて損はない。 

 そして、この予想は当たった。

 


 城に到着すると、国賓扱いで部屋に案内された。

 案内された貴賓室で旅装から正装に着替えて、招待者の王家一家に挨拶。

 本来ならこの挨拶は明日に行う予定だったんだけどね。それを知っているのか、予定を変えて済まないと王子から謝罪を受けた。

 謝罪するなら予定を変えるんじゃねえ。

 そう言いたかったが我慢した。

 挨拶のあとは、貴賓室に戻って夕食を貰う。貴賓室で食べました。入浴後。侍女を全員下がらせ、やっと独りになれたよ。

「はぁ~」

 長時間の移動と緊張で眠気が強い。このまま眠ってしまいたいが、実際に歩いた城内で得た情報の整理をしなくてはならない。

 第二王子の婚約者選定のパーティーが予定されていると聞いていたが、城内ではパーティーが行われる気配がない。

 その証拠に案内された部屋が離宮ではなく貴賓室だった。招待状には『離宮で行う』と明記されていたにも拘らず。離宮に宿泊部屋がないなんて事はないだろう。

 更に付け加えると自分以外に令嬢が見当たらない。候補者を離宮に招いて行うのに、城内ですれ違った下働きらしきもの達が忙しそうではない。大量の招待客がやって来る、パーティーを行う際に、最も忙しく動き回るもの達が少ない。見えないようにやれと言われて隠れているのならまだしも、城内にそんな空気はない。

 おかしくないか、これ?

 挙句、貴賓室に通された際に『ここで合っているのか。明日移動するのか』と尋ねると『合っている。移動はない』と不思議そうな返答が有った。

 思うに。

 これ、王家ぐるみの企みだな、と。

 逃亡準備は済んでいるけど、今後の展開によっては無駄になりそう。

 答えは翌日の午後に判明した。と言うか、ククミス国王夫妻から呼び出され、お茶をしながら『騙して済まない』と謝罪された。

 やっぱりかよ。

 案内された部屋が城内の貴賓室でおかしいと思っていたし、最終的な結論として『企みが在る』と警戒していた。

 最悪、王子が直接何かして来るのではないかと身構えもしていたが、これは杞憂だった。

 呼び出した国王夫妻は今回の招待の裏話を語った。

 深刻な内容だったが、自分が想像した通りの内容でも在った。

『属国の反乱が元で起きている食料不足。今は国の備蓄分を開放しているが、これが一年以上続くと国政に影響が出る』と言うもの。他国に救援要請はしたくても出来ない。だって反乱が起きている弱みを他国に教えなくてはならないのだ。外交で弱みを見せる馬鹿はいないだろう。

 では、自分は良いのかと思わなくはないが、これに関しては『帰さなくてもいいよね?』と承認を得ているのだろうな。

 つまり、あの国王は自分を売ったのだ。

 思わず渋い顔をしてしまったが、そこは勘弁してくれ。ある意味、騙された被害者なんだからさ。

「エチェベリア侯爵。君は自分の状況に関して驚かないのか?」

「実力行使には驚きはしましたが、収集した情報と王太子殿下からの質問内容を照らし合わせ『そうなる可能性』は考えておりました。もっとも、我が国の陛下が屈服するとは思いませんでしたが」

 ククミス王も強硬手段を取った事は悪いと思っているんだろう。無関係な他国の侯爵を、国の都合で無理矢理奪い取るも同然の事を仕出かしたのだ。真実が広まれば非難は避けられない。

 属国の反乱も『不満が溜まらないように気をかければ』起きなかった可能性が高い。不満の内容も『高い関税と安い買取価格』だし。関税を下げて買取価格を少し上げれば、不満は反乱と言う形で噴出しない。少なくとも、話し合いの場を設ければ事前に抑えられた筈。場を設けずに一方的に通達だけしかして来なかった国の落ち度としか思えない。解決策を他国に求めて強行する当たり、帝国時代の『必要ならば奪う』気質が骨身に染みている。

 反乱について聞けば、武力で鎮圧を図っているらしい。しかし、反乱の背後で手を貸している国が存在するのか鎮圧は進んでいない。手を貸している国も中々尻尾を掴ませないので調査は難航している。手を貸しそうな国の候補は上がっているが、数が多過ぎた。抱えている属国全てが絡んでいるのではないかと疑う声も挙がっている。

 ここまで聞いて思った。め・ん・ど・く・せ・ぇっ。

 反乱も含めて属国管理が出来ていない国の落ち度。敵を作りまくってそのまま放置も頂けない。大国を名乗るのなら自力でどうにかしろよ。

 帰国したいが、ククミス王国が分裂して起きる事を考えると……帰れない。逃亡準備が無駄になったと感じた瞬間だ。下手をしたら大陸間の戦争に発展する。

 大国であるククミス王国は大陸中央に存在する、交通要所の要となっている国。訪問に使用した陸上車発祥も、他国と交渉してレールを大陸中に伸ばしたのもこの国。陸上車のお蔭で、観光業で発展した国も有る。この国が音頭を取って纏めた国際案件は数知れず。

 他にも色々と有るが、ククミス王国が分裂したら大陸中を巻き込んだ一大戦争となるのは確実。

 無関係だから知らんと言って帰れば、戦争が起きて祖国が巻き込まれる可能性大。

 かと言って手伝えば、今度は自分が狙われる。ゆっくりと眠れない程に暗殺者がやって来るかも知れないと思うと、ぞっとする。

 考える時間を貰い、国王夫妻と一旦別れる。部屋に戻り、着替えずに人払いをしてから、紙に書き出しながら一人考える。

 取り合えず、領地にいる代官と執事に手紙を送る。状況の説明を加えてのゴーサインの手紙に二人は驚くだろうが、文句は国王に言ってくれ。

 さて、自分が手を貸した場合の祖国とククミス王国のメリットデメリットを思い付く限り書き出そう。


 

 祖国のメリット

・跡継ぎのいないエチェベリア領がそのまま国有地と成る。

・大国との縁が出来る。

・戦争が回避出来れば被害はない。

 

 デメリット

・エチェベリア家断絶。



 ククミス王国メリット

・農耕地が増える。

・時間が掛かるが食糧供給の安定が目指せる。


 デメリット

・護衛対象が増える。

・農耕地で働く人材確保。



 書き出している途中で気付いた。

「……あれ? 反乱が鎮圧出来ないと戦争不可避か?」

 農耕地が増えても、耕す人間が居なければ作物は生まれない。種を蒔けば芽は出るが、種を蒔く人間と水やりなどの世話をする人間がいなくては途中で枯れる。人材確保はどうやって行う気なのか。ちょっと気になった。ククミス王が気付いていないとは思えない。どうする気なんだろう。

 反乱は半年以上続いている。鎮圧の兆しがないと言う事は、反乱が代理戦争となっている可能性が有る。反乱の首謀者は失敗した時の事を考えているのだろうか。反乱を起こした属国の末路は、国土の併合。民の扱いはますます悪くなる。

 ……ん? そう言えば、首謀者は誰なんだろう?

 反乱を起こすからには、属国内でも上位の人間だろう。

 でもさ、反乱防止の為に王族か王族筋が人質として差し出されるよね? 反乱を起こした奴は『人質が処刑される』とか考えていないのか?

 そもそも、人質の処刑は行なわれたのか? 半年経っても行われていないとしたら、それはどうして行われないのか?

 ぐるぐると思考が回り、いやーな真実が見えて来た気がする。

 件の属国に婿入り・嫁入りしたククミス王の弟か妹か姉はいなかっただろうか?

 仮の話し。国の食糧供給の要で大陸有数の穀倉地帯に位置する属国に婿入りしたククミス王の弟が、未だに宗主国の王位を狙っているとしたら、どうなる?

 煽るよね? 反乱とかも起こすよね? だって簡単に国にダメージを与えられるんだもの。目的が独立か宗主国の王位簒奪かは不明だけど。

 仮定の話しでここまで推測可能。大国の王があっさりと謝罪した事からも――王弟か否かは不明だが――この仮定が正しいように思える。見事なお家騒動だけどね。他国を巻き込むなよ。

 言いたい文句が溜まって来たのでちょっと休憩しよう。息抜きを挟まないとストレスが爆発しそう。

 部屋に茶器がないのでドアを開けて廊下に顔を出し、待機中の侍女にお茶をお願いする。

 短時間で手際良く淹れられたお茶が届いた。

 だが、

「……」

「……」

 届いたお茶は二名分で、笑顔の王太子がおまけでいる。着替えずにいて良かったが、要らないおまけだな、おい。

 互いに無言。湯気が立ち昇る、お茶の良い香りが漂う。やたらと香りの強いお茶だ。

 休憩したいのに、出来ないとはこれいかに? お茶に薬とか入っていないよね? 確認したいが出来ない。目の前の王子はお茶に手を付けず笑顔のまま。何も入っていないのなら先に飲めよと言いたい。

 もしや、これは先に飲めと言う催促か?

 意を決して、カップに手を伸ばした瞬間、

「えっ?」

 視界がぐらりと傾いだ。そのまま体が傾いで、椅子から崩れ落ちる。ギリギリ受け身が間に合い、辛うじて顔面強打は免れた。代わりに腕が痛い。気を抜くとうつ伏せ状態で気を失いそう。腕の痛みが目覚まし代わりになっている。

「漸く効果が出ましたか」

 効果? 王太子の言葉で、何故無言の時間が続いた疑問の回答が浮かぶ。

「……お茶の香り?」

「ええ。我がククミス王家は耐性を着けているので効き目は有りませんが、耐性のない方がこの香りを嗅ぐと麻痺を起こします」

 視界に王太子の足元が入る。椅子から立ち上がった王太子が目の前にやって来たのか。王太子は自分の目の前で片膝を着き、動けない自分の両脇に手を差し込んで抱え起こす。体を横半回転させられると、王太子の顔がやたらと近い場所に在り、灰色の瞳と目が合う。

 大変嫌な予感がする!?

 前にも似たシチュエーションなかったか!?

 暴れようにも四肢は麻痺して動かない。声を上げようにも、舌が痺れ始めて呂律が回らない。異常状態解除の魔法を使えばこの場は切り抜けられるだろうが、使って見せたら逃がしてくれるとは思えない。転移魔法で逃亡してもややこしい事になる。

 ……詰んだわー。

「しかし、耐性がないにも拘らず、ここまで時間が掛かるとは……正直、驚きましたね」

 目を弓にして笑っている。賞賛されているんだけど、嬉しくねぇ。

 そのまま抱き上げられた。所謂お姫様抱っこと言う奴だが、このあとを考えると……喜べぬ。

「出来れば効果が出る前に、お茶も一口飲んで頂きたかったですね」

 王太子の言い分に冷やりとしたものを感じる。言い分を信じるのなら、お茶にも何か入っていたのだろう。顔面神経まで麻痺していないからか、顔が少し引き攣る。すると、自分の反応に気付いた王太子は何かを思い付いたようにニヤリと笑みを変えた。

 自分を抱えたまま椅子に座り、未だに湯気が立ち昇るお茶が注がれたカップに手を伸ばした。

 声が出ない。声が出ればと思ってしまう。魔法は無詠唱で使えるけど、この場では使用しないで切り抜けるのが望ましい。だからこそ、声が出ればと思ってしまう。でも、この腹黒の事だから人払いをしていそうだな。

 王太子はカップの取っ手を摘まみ、何かの言葉を口にする。

「熱は去り、ただ残るは水。それは温く、湛える水なり」

 王太子が言葉を発すると同時に魔力を感じた。同時に、立ち昇っていたお茶の湯気がピタリと止まる。

 自然ではあり合えない現象。魔力を感じたと言う事は――まさかと思う。

「私は液体の温度に干渉する程度の魔術しか使えませんよ」

 王太子の言葉に驚きが隠せない。

 こいつも、魔法が使えたのか。

「ですが、貴女はもっと色々な魔術が使えるようですね」

 一抹の羨望が混じった瞳が向けられ、領地再建に魔法を使った事がバレていた事を知る。情報の出所は国王だな。他に知っている奴はいないし。

「魔術が使える人間は少ないですが、使える人間の殆どは私と同程度の技量しか持たない」

 魔法に関する情報は殆ど得られなかった。

 この世界では魔術と呼ばれ、使用者が少ない程度。情報はこの二点しかなく、使用者の技量に関する情報を知るのは初めてだった。

「だが、極稀に異様に高い技量を持った突然変異の子供が誕生する。その子供は、皆例外なく『前世の記憶』と呼ばれるものを持っていた」

 待て。

 こいつの解説を聞き、嫌な図式が脳裏に浮かぶ。それを裏付けるように、王太子の独白じみた解説は続く。

「高い魔術技量を持つものは『転生者』と呼ばれ、例外なく王族保護対象となる」

 図式の正解を知り、内心でやっぱりかと呟く。

 そして、この流れだと……逃がしてくれないよね。

 

 

 このあと、お茶を強制的に飲まされたのは言うまでもない。お茶に入っていた――と言うよりも、カップの飲み口の内側に塗られていたのは『感覚を鋭敏化させる』薬だった。

 何の為に塗られていたかは言うまでもない。

 逃したくない相手に既成事実を作ってしまうのは強引だけど、そこまでして引き留める理由が有るんだろうね。

 ほんっと、迷惑極まりない。

 そして、恨むぞ国王。よくも売り飛ばしてくれたな。

 


 王太子の発言で分かるだろうが、強引に引き留めに掛かった理由は一応在った。内容は碌でもないと言う訳ではないが、個人的には納得は出来ないものだった。

 簡単に言うと、ククミス王国を中心とした一定範囲の国々において、『魔法が使える人間はククミス王国が保護管理する』暗黙の了解が存在した。恐らくだが、人材の争奪戦に伴う、後ろ暗い事(例えば、誘拐や家族の拉致)も含めた『色々な事』が起きるのを未然に防ぐ為のものだったのだろう。対象者も『大国で良い生活が出来る』と分かれば、何かに気づいてもどうでも良くなる筈。

 この暗黙の了解は各国の王に口伝でしか教えられないもので、知る人間は少ない。

 今回の場合は、国王が出国前に教えてくれれば『そう言う決まりが存在するのか』と多少は納得したかもしれない。蓋を開けると完全な詐欺(?)だったが。

 いや、思考を切り替えて最も頭を悩ませる問題について考えよう。

 成長(老化)が止まるまで――大体二十代半ばで止まる――あと数年程度。

 時間を三十年延ばす方法は有るが、あれは可能ならば使いたくない。

 本当の意味で『緊急時用』の、『なんとしても誤魔化さなくてはならない時』に使用するもの。常用はしたくない。

 今回は適当なところで養子を取るか、代官か執事の息子どちらかに爵位を引き継がせて、家を出ようと考えていた。家を出てから具体的にどうするかは決めておらず、何時も通りに尋ね人を探す以外に選択肢はない。

 けれど、魔法が存在しない世界での遭遇率は非常に低い。この世界に魔法はほぼ存在しないも同然なので、探して見付かるかと言われると可能性は限りなくゼロに近いだろう。

 最後に残った選択肢もない。独りで旅に出る事も叶わない。ないない尽くしの状態だ。

 転生魔法を使うのなら、事前に準備を行いたいが、ここで魔法を使うのは難しそうだ。

 ではどうするか?

 答えは、選びたくない選択肢を選ぶしかないだろう。

 


 この翌日。

 離宮の一室に移動となったが、王太子との婚姻だけは拒んだ。意外な事に、ククミス国王夫妻も『仕方がないよね』みたいな顔をして受け入れてくれた。

 ……代わりに離宮から出られなくなったが、許容範囲内だ。

 王太子が来ない時間帯に、人払いをして宝物庫から『とあるもの』が残っていないか探す。

 材料確保と作製工程が面倒で、必要になったらその都度作るのでは時間が掛かると判断して大量に作り、とある術を開発してからは使わなくなった代物。宝物庫の内部は時間が流れていないのか、長期保存可能な食糧や医薬品を入れっぱなしにしても、次の世界に転生しても使用可能だった事が在る。

 この事実を思い出して探し、探す時間が短く中々確保出来なかった事も在り、見付けたのは離宮に押し込まれてから二ヶ月後の事。時間掛かり過ぎとセルフで突っ込んだ。

 見つけ出したら――あとは決行するだけだ。



 当然、売り飛ばされた諸悪の根源も忘れずに処分。二年半程度の時間を要したが、予定ではもう少し掛かると見込んでいたので、早めに終わって良かった。

 現地に直接出向いて何かをした訳ではない。地脈に干渉して、反乱の地で『不作が続く』ように仕向けただけだ。これだけで反乱が続かずにあっと言う間に逆に制圧されるのだから、反乱の原因は首謀者に在ると見た。

 だって、反乱を起こした属国で、値崩れしていた食料が一気高騰。生活が苦しくなり、原因は『反乱に在る』と王家が公式見解を出すと、民は掌を返して反乱の首謀者を逆に糾弾し、宗主国に御機嫌取りとして差し出す始末。

 反乱の流れもほぼ想像通りだった。

 首謀者の正体は、王家継承権を持つ現ククミス国王の従兄。国王と年も近く、継承権を持つ男子がこの二人しかいなかった為、幼少期から一緒に育ったらしい。先代国王も、次期国王はこの二人のどちらかにすると決めていた。

 二人の運命が分かれたのは立太子直前。

 徐々に明確になった地頭の差で、立太子出来ないと悟った従兄が強硬手段に出た。しかし、目論見は事前に感知されており、継承権剥奪の上で属国の王女の王配と言う形で婚姻し、追い出された。

 これに不満を抱いた従兄は時間を掛けて味方(と言う名の手駒)を増やし、遂に反乱を引き起こしたと言う訳だ。

 本当に、迷惑な話しだな!

 首謀者と側近一同は、公開で斬首刑。王配だった女王も『独立出来るかも』と協力していたので同じ末路を辿り、属国王家は潰えた。因みにこの二人に子供は何故かいなかったのも、潰えた要因だ。

 今回の反乱で正式に属国から格下げし、王国領と扱われる事になった。多分だが向こう十数年は高い税金を取られるだろう。

 反乱が終わった事を確認してから、地脈干渉を止めたのでニ~三年あれば元に戻るだろう。多分。

 さて、自分の扱いだ。

 色々と終ったが国に帰れる訳もなく、離宮での引き籠り生活が続く事が決まった。妊娠していないのがせめてもの救いだ。

 ため息しか出ない状況に、頭を抱えて――ついに決行する事を決めた。



 決行当日の就寝前。

 遺書を書き終え、傍に置いたガラスのコップ注がれている無色透明な液体を見る。

 水ではない。

 遠い昔、転生魔法を開発する前に実際に使っていた、試行錯誤の末に開発した特殊な毒。これはその余りだ。鑑定魔法で調べた結果『まだ使える』と判明したので今回使用する事にした。

 これは昔読んだ、何かの小説に登場した『睡眠薬と猛毒を一緒にした薬品』を再現した。度数の強い酒と割らないと効果は出ないので、完全再現とはならなかったが。

 睡眠薬の成分を抽出して加工したので、所持していても怪しまれる事はなかった。王太子に度数の強い酒を少量所望しても『寝酒』程度にしか思われなかった。

「……」

 無意識に嘆息が零れる。

 何故服毒自殺をせねばならないのか。そう思うと己の体質を、転生の旅の原因を、呪いたくなる。

 何時ものように、魔法具を使った転生術式が使えない事を残念に思う。逃亡しようにも離宮に半ば幽閉状態にされては脱出がし難い。強行突破は出来なくはないが、連れ戻された時の言い訳が難しい。

 どうするか悩んだ末に、『自死』を選んだ。

「……ままならないなぁ」

 何処の世界に転生しても、人生は記憶を取り戻す前から『最初の部分』で躓いていた。

 諦めよう。どれ程望んでも二度と叶わない。何度そう言い聞かせた事か。

 頭を振って思考を追い出し、部屋の明かりを消す。

 やると決めたらさっさとやってしまうのが良い。

 グラスの中身を一息に呷る。空のグラスを机の上に置き、ベッドに向かう。

「――っ」

 空っぽの胃に酒を流し込んだからか。酔いが回り、足がふらつく。どうにかベッドに辿り着き、そのまま潜り込む。

 二度と目を覚まさないと言うのに、酒精のお蔭か心は落ち着いていた。

 朝になったら騒動になるだろう。迷惑を掛ける気もしなくはないが、無理矢理連れ込まれたこっちの身にもなって欲しい。表向きはどこぞの誰かが差し向けた暗殺者の手に掛かった事になるだろうし、そう言う扱いにしてくれと遺書にも書いた。

 目蓋を閉じれば、眠気は直ぐにやって来た。そのまま眠りに落ちる。

 心残りは有るが仕方がない。領地の皆が上手くやってくれている事を祈るだけ。



 さようなら。

 心の中で最期に呟く言葉をそれだけ。

 身勝手に終わりを選ぶが、許して欲しいとは言わない。

 どんな理由であれ、自死は選択肢に入れるべきではないと理解しているから。

 理解しているのに、次の世界に旅立つ為の手段に自死が含まれているのはやはり異常なのだろう。

 意識が完全に落ちる。

 その間際に思う。

 叶うのなら、次の人生はもう少し長生きして、スローライフとか送りたいな。

 

ここまでお読み頂きありがとうございます。


いざ投稿しようかと思ったら、五万五千字を超えていたので二つに分けて投稿する事にしました。流石にこの文字数の短編は長過ぎますね。

後編も連投します。お付き合いいただけるとありがたいです。

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[一言] 私の中に王子へのヘイトが止まらない
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