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家に帰り着いてみると、本日は仕事が休みな母親が慌てた様子で玄関のアーシィに走り寄ってきた。アーシィも言おうとしていた言葉を先に言われる。
「大変よ!」
こちらも充分に大変だったのだが、聞けばアンジェの子どもが生まれたという。それは大変だということになって、アーシィは急いでリビングに置いてあるケージに駆け寄った。
そこにはまだ毛の生え揃っていない小さな生き物が二匹、お母さんになったアンジェのお腹のそばに寄り添っていた。
(こんなに小さいのに生きているんだ。それに、毛さえ生えればアンジェにそっくり)
「かわいいなあ」
「一週間もすればふさふさになるらしいわよ。そしたらもう目の中に入れても痛くないくらいにかわいいでしょうね」
「今も充分かわいいけど、そっか楽しみだね」
「もう二匹ともあげる先が決まってるから、今のうちに楽しんでおきなさいね」
「えー、いつ?」
「半月後よ」
「早いね。ああ、でもそうだよね。もらう人も小さくてかわいいところをよく見たいだろうから」
「よく分かってるじゃないの。ーーあら? 今日はそんなに暑くないのに、汗びっしょりね。もうお風呂入っちゃいなさい」
「…………!」
大きく口を開いて固まったアーシィを見て、母親が首を傾げた。どうしたのと問われてアーシィは両手を胸の高さまで上げるが、その目は横へ泳いでいき、何か言いかけた口元はぴたりと閉じてしまった。今度はアーシィが首を大きく傾げている。何やらしっくりこない様子だ。「何でもない」とだけ漸く言ってから、ふらふらと風呂場へ向かっていった。
アーシィは自信をなくしていたのだ。自分が見たものを言ってしまって良いものかどうか、わからなくて迷うばかりだ。
もう、どんなものだったか上手に説明できない。見つめられていると思ったのは、錯覚だったかもしれない。いや、そもそも本当に自分はあれを見ただろうか。幻覚?
「会ってみたいなんてよく言うよ。いざとなったら身動きも取れなかったくせにーー」
たっぷりのお湯に浸かると、思い悩んでいたことがお湯に溶け出していったような気がした。