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一晩でずいぶん成長した。
それがランナを見たアーシィの印象だった。
角ならあるとヨーダがランナの握っている物体を受け取って、魔女へ差し出し頭を下げる。次いでイオが、更にランナがそれにならった。
トーンはその角を手に取ると、それで自分の肩をトントンと叩いて目線をエストへ向ける。
「エスト。アンタはどうなの。あの子に薬をあげたいと思うわけ?」
「私? 私は……」
原料の元々の持ち主だった幻獣の返答を、その場にいる魔女以外の全員が固唾を飲んで見守っていた。彼女は首を左右に振るとアーシィの後ろに隠れた。
「分からないわ。マスターの意見に従う」
「僕の!? そんな急に」
「おい待てよ。なんだって関係のない奴にランナの命運を握らせる。魔女さんよ、そいつらはなにもんだ」
魔女は横髪を後ろへ払いのけると、イオを斜め下に見下ろすような表情で言った。
「この角の元の持ち主の幻獣と、その主の人間よーー関係なら大ありだと思うけど?」
「お前ら!? ああ、いや……そういやぼうずのほうは面影が残ってるな。名前なんか忘れちまったが……お前が頼りか。そうか……」
イオはランナを椅子に座らせると大きな体を畳んで額と両手のひらを床につける。そしてアーシィに切羽詰まった様子で言った。
「頼む、薬をくれ! 何でもする! だから頼む!!」
「何でもなんて、僕には……待った。何でもする? 本当に?」
「ああ。動かざる地にかけて誓う。何でも言ってくれ」
「そうしたら、リーヤさんが追ってきたら逃げないで、大人しく捕まってほしい」
「はあ。誰が来るんだって? 捕まるってのは……お前らの町での件のことか。ああ。ああ……いいさ。ランナのためだ。牢屋にだって入る。その間、ランナの世話はヨーダに任す」
そんな生優しい話じゃない。彼は捕まれば裁判の結果によっては死刑だ。そう言いたかったアーシィはあえて言葉を飲み込んだ。ここから先はリーヤを交えて当人同士で話し合ってもらおうと決めて魔女へ顔を向ける。魔女はさして興味のなさそうな表情でアーシィを見つめていた。
「どう。決まった?」
「はい。ランナに薬をお願いします。もちろん、人間用の薬を」
「オーケー。やるわ」
魔女はヨーダに許可を取ってからカウンターの中へ入るとサイフォンの道具を一式借りた。フィルターをセットした漏斗に角を立ててから手を振ると角が粉々に砕けて漏斗の中に綺麗に収まる。次いでカップに入れた水道水をフラスコに注ぎ入れるが、何やら呪文らしきものを唱えながら親指と人差し指で輪を作ってその中を通していく。物珍しげに見物していたアーシィは邪魔になるかもと思ってずっと我慢していたが、フラスコが火にかけられるとここからは待ち時間だろうと判断して口を開いた。
「その下に入れた水は、魔法がかかってるんですか?」
「あれは水を浄化する魔法よ。別にここの水が汚いってわけじゃないけど、薬にするには浄水が欲しいのよね」
「角のほうの準備はもう出来上がったんですか」
「ほとんど、ってところよ。後は粉が湯に浸かった後に一手間加えるから、ここに準備しなきゃ」




