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絶望に打ちひしがれていると、ヨーダが今日はもう帰っていいと言うので言葉に甘えてその日は宿に戻った。気持ちが疲れていた二人はお休みのあいさつを交わす程度で特に何も話さず床に就いた。二人してなかなか寝付けなかったが、夜明けに目が覚めたので少しは眠ったのだなとアーシィは思った。
──イオは、魔女に薬を作ってもらえるのかな
──分からないわ。次に投与するのは不老不死の効果を省いた薬でないといけないし、うまく作れるのかしら?
ヨーダの店に着くまでの間に、ようやくランナのことを話題にできるまで気持ちが回復した二人だ。厄介そうな病気の気配。エストの角はまだ数本イオの元にあるはずだから材料はある。後は魔女がどうするかだ。まだ暇な時間を狙って入ったヨーダの店の扉を開けるとアーシィは軽く会釈した。
「どうした。今日はずいぶん早いな」
「マスター。教えていただけませんか。昨夜の二人のこと」
「ああ……それでか。──うん。そうだな。良いだろ。二人ともそこに掛けなさい」
まだ一人も客がいない店内で二人はカウンターに腰掛ける。アイスのカフェオレとミルクをそれぞれの前に置いてから、自分の前にはブラックコーヒーを用意してヨーダが口を開いた。
「ランナはイオが唯一愛した女の忘れ形見でな。あの子が一人前になるまで自分が育てるって彼女の母親に約束したんだ」
「ランナのお母さんはどうして?」
「──母親が死んだ理由? あの子がかかっている病は遺伝性のものなんだ。それだけ言えば分かるだろ」
「あの病気は、治らないんですか」
「一時期、治っていた。魔女が作っている、万能薬とも言われる特別な薬を飲ませてな。あの咳が止まっていたのが証拠だ」
「薬の効力が切れた、とか──」
「あの薬を飲ませてからもう五年だ。それはないだろ」
それがあるのだと、言いたいけど言えない二人は無言で目を見交わした。
「ともあれイオはもう一度ランナに同じ薬を与えようとしている。今日から奴は魔女探しに専心中さ」
「彼女の居場所は知らないんですか? 前回、薬を作ってもらった時はどうやって」
「さあ。詳しくは知らないが、露店を出してたらしいぞ」
──ねえ、マスター。もしも魔女が不老不死の効果がない普通の万能薬を作れたら、イオにあげる?
──難しいな。イオのためじゃなくて、ランナのために渡してあげたい。けど
──けど?
──けれど、イオは罪を重ねすぎてる。リーヤさんに教えたらイオはすぐに捕まるだろう。何年も牢屋に入れられるか、それとも死刑か。
──リーヤさんはどんな人? エリシャの代わりに、ランナを……って考えたりしそう?
──怖いこと言わないでよ……。そうだね、リーヤさんはシングルマザーで、エリシャちゃんだけが家族で、命そのものだったから。仇打ちに、と考えてもおかしくないよ。
──それでも、教える?
──そうだね……そしてリーヤさんには、エリシャちゃんのためになるほうの道を選んでほしい。
そこまで心話を交わすと、二人は強い眼差しを重ね合ってから、ほぼ同時にぐいーっとグラスをあおった。空になったそれをやはり同時にカウンターに置いて、ヨーダに礼を告げる。カウンターの向こう側で腕を組んでいたヨーダは、その腕は解かないままで鋭い目を向けて言った。
「礼には及ばないよ、アーシィ君。──それで? 君はここに何をしに来たんだい。タイミングが良すぎるね」
「……マスター。いつから?」
「残念ながら、ついさっきさ。せっかく本名を名乗ってくれてたのに、もっと早く気付くべきだった。それで? ランナの再発は、幻獣ショップの女の子の意趣返しか」
「まさか! ぼくらはただ……!」
「ただ?」
「……エストにかかっている呪いを解こうとしただけです」
「何のことかさっぱりわからないな。詳しく聞かせてくれるかい。お代わりを出そう」




