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図星をさされて、アーシィは息を短く吸い込んだ。急にどきどきと強く打ち付け始める心臓の上に手を添えて、呼吸を整える。
「やりたくないよ……何だか暗殺みたいじゃないか。父さんも、絶対にこの道には入ってくるなって言ってたんだ」
──マスター……大丈夫よ。これは生きていない人を生かすための行為だもの
「生きていない人?」
──そう。不老不死は生きてないのと同じことだから
「今は……生きていない人……」
動いて、走って、笑っていても、生きてはいない。
そう考えるとアーシィは重たくなっていた心が少しばかり軽くなるのを覚えた。
「ぼく、やるよ。あの子を驚かせてしまうのは不本意だけど、遠くない将来のために」
──私がしてもいいけど……
「ううん。あの魔女にお願いしたのは、ぼくだから。ぼくがやらなきゃ」
──エストのために。
彼が心の中だけで言ったつもりだった最後のセリフは彼女にしっかりと聞こえてしまっていたようで、感極まった風情の少女が抱きついてきて、アーシィはすっかり挙動不審になってしまった。
* * *
「いらっしゃいませー!」
ランチの時間は二人は現れなかったが、それがありがたいほどにヨーダの店は繁盛していた。どのメニューも匂いだけでも美味いのが分かるハイクオリティっぷりと、なかなかに安めな料金設定、それにヨーダの手が早くて待たせる時間が少ないこともあり、知る人ぞ知る名店といったところだ。
本日のランチの賄いはバジルチーズトーストとコーヒーのセット。アーシィはバジルが強すぎると難色を示していたが、エストは気に入ったようでアーシィが残した分まで手を伸ばしていた。
──今日のメニューもとっても美味しいね、マスター
「マスター。エストがすごく美味しいと褒めてます」
「そうだろう、そうだろう。さすがに今回は通訳してもらわなくてもあの笑顔で分かるよ」
「そうですね」
くす、と笑って空いた皿を回収に行くアーシィの、まだ成長途中の背中を見送って、ヨーダは少し首を傾げた。それを遠目に見ていたエストは、わずかばかりの違和感を覚えて、コーヒーカップで自分の顔を隠しながらヨーダを気付かれない程度に観察していた。三時のお茶の時間が過ぎて、一旦宿に戻るまでの間ずっと。
* * *
「ヨーダさんに気付かれそうだ? なんでそう思うんだい、エスト?」
──今日、あの人、マスターのことを見て、何度か首を傾げてた。思い出したいことがあるみたいに
「……もし気付いたら、ヨーダさん、イオに言うかな……」
──そうしたら、仕込むのやりづらくなる?
「それはね。自分が狙われていると思うんじゃないかな。あいつはエリシャちゃんの仇だから」
──マスター、イオを殺したいの?
「……捕まえたかった。でも、そうしたらあの娘さんは独りになってしまう。そう考えると、簡単には捕まえられないね。ただ、リーヤさんには居場所を……」
エストは何も言わなかった。ただ黙って俯いて、少し震えていた。
「……エスト?」
異変に気付いて、すぐそばまで行って顔を覗き込む。すると彼女の両の目には涙が浮かんでゆらゆらとにじみ、今にもこぼれ落ちそうだった。
「エスト。エスト……大丈夫だよ。あれはエストのせいじゃない。エストだってケガをしたじゃないか」
「……ぅ。っく」
言葉じゃなければ、その唇から声は出るのだと。泣く子をあやしながらアーシィはそんなことを考えていた。




