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──まさか初日から来るなんて思ってないじゃないか! どうしよう? 忘れ物でもしてれば自然な感じで取りに戻れたけど……
──落ち着いてマスター。さっきイオは『今夜も』って言ってたじゃない。あの店の常連なんだわ。またチャンスはいくらでもあるはずよ。今夜はもう帰った方が良いわ
──そっか……そうだね。宿で作戦を立てよう
昼ごはんの前までは寝ていられる。そんなのんきな計画性の下で二人は遅くまで話し合った。
問題はどうやって薬を飲ませるかだ。
──運ぶ時に入れられないの? あの薬、無味無臭なんでしょ
──ヨーダに見とがめられそうだな。よく練習しておかないと。ああ、薬の扱いは父さんがうまいんだ。教えてもらっておけば良かった
魔女からは薬の入った中サイズの瓶と、適量を持ち運ぶための小瓶を数個、受け取っていた。アーシィは左手の平に盆を乗せ、右手に水を入れた小瓶を握り込んで盆の上で栓を開ける。それを何度か繰り返した後で、迷って、濡れた盆の上に小瓶を置いた。
──料理にかけるのと、グラスに入れるのと、どちらも出来るようになっておきたいな。メニューによっては
──メニューによって?
──そう。例えば香辛料でやや辛い……今日出て行った中ではカレーとかスパイシーチキンとか。そういうのなら水をたくさん飲むだろうからさ
──コップ使う?
差し出されたタンブラーを礼を言って受け取ったアーシィは水差しを傾けてグラスの八分目くらいまで水を入れると、空になってテーブルの上に転がっている小瓶にも同じように水を入れた。キュキュと栓をする音が静かな室内によく響く。心話でひんぱんにやり取りしているのに、静かなことはよく分かる。頭の中が不思議な気分だった。その気分を拭おうと、あえて声を出す。
「それにしても、あの子とイオの関係って何なんだろう」
──親子じゃないの?
「パパって呼んでたし、ぼくも最初はそう思ったけど」
──違う?
「前にぼくを殺そうとした時の母さんとのやり取りを考えると、女の人に免疫なさそうだった。その後で作った子どもだとしたら大きすぎる。あれから五年しか経ってないのに」
──人間の年って分からないけど、見た目だとあの子は何歳くらいなの?
「七、八歳くらいかな。小学校低学年」
──謎ばっかりね……ふあ
「エスト、そろそろ眠い?」
──ん。そろそろ……マスターは?
「うん。ぼくもそろそろ。そういえばこの薬も、飲んだら一旦、眠ったようになるって言ってたね、魔女」
──そうね。十分くらいで目を覚まして、後はもう普通の人と同じになってるってことだったわね
「ぼく緊張するな……普通の人が飲んだら、命を落とす薬なんて、使ったことない」
──マスターのお父さんはあったんでしょう?
「まあね。父さんは薬殺のスキルが高かったんだ」
──本当は、したくないのね。マスター?




